ひとくちに「よいフード」といっても、何を持って「よい」というのかがまずは問題である。良い原材料を使っているとか、加工の方法が良いとか、あるいは栄養バランスの良さや、品質管理の良さ、そしてなにより手頃な価格で買えるからよいなど、いろんな評価の物差しがある。
仮にこれらの条件がすべて揃い、商品的には「よいフード」だったとしても、はたしてそれが自分の愛犬の体に合った「よいフード」かどうか、という問題が次にくる。せっかく選んだよいフードも愛犬の好みに合わず食べなかったりすると意味がなく、しっかりたっぷり食べたとしても、出てくるものが緩かったり、おならばかり出てくるようでは愛犬によいフードとはいえない。お腹の具合だけでなく、場合によっては皮膚が痒くなったり、体臭がきつくなったり、なにかしら体に変化がでてくる可能性だってある。
おそらくは、できればそのすべての点において「よいフード」というものを多くの飼い主は求めているのではないだろうか。しかし「よいフード」選びは一筋縄では行かず、結局なにが「よいフード」なのか分からずに、気がついたらフードジプシーになっているなんてこともしばしばある。
かといって、愛犬は毎日お腹を空かせているわけで、それでも何か選んで与えないといけないのが少々悩ましい。
よいフードってどんなフード?
満足の行く「よいフード」を見つけるために、まずは一つ一つの要素を見て行こう。原材料のよさ
フードの良さを気にするとき、真っ先に気になるのがフードに使われている原材料の質だといっても過言ではない。そのフードにどんな原材料が使われているのかは、フードのパッケージの裏に表示してある「原材料名」というところを見れば書いてある。例えば、「原材料名:トウモロコシ、チキン、大豆、動物性油脂、チキンエキス、ミネラル類、ビタミン類、酸化防止剤」と表示されている場合には、そのドッグフードを作るために一番多く使われている原材料はトウモロコシで、犬が大好きな肉であるチキンはトウモロコシよりも使われている量が少ない。さらには3番目に多い原材料が大豆ということで、この大豆の量によってはフードのタンパク質の大部分は植物性タンパク質ということが予想される。
残念ながら、こういった植物性タンパク質は犬の体の中で消化がよいとはいえるものではなく、体の代謝をなめらかにするには役不足といっていい。人間と一緒に暮らしてきた1万年という犬の歴史の中で、どれほどの犬がトウモロコシや大豆を食べてきたというのだろうか? トウモロコシが広く栽培されるようになったのは、いまいる多くの犬種を生み出したヨーロッパでは19世紀になってのことで、大豆にいたっては、トウモロコシよりも世界進出が遅かった。犬の体の歴史に比べると、これらはやはりあまり馴染みのない原材料だといってもいいだろう。
では犬の体にお馴染みの原材料は何かというと、やはり肉類である。肉類は植物性タンパク質よりはるかに消化されやすく、そしてすみやかに犬の体が必要とする物質へと変換されてゆく。犬は猫とは異なり、確かに多くの炭水化物を消化できる体を持っているが、炭水化物は単にエネルギー源となるだけで、体のさまざまな代謝のことを考えると良質のタンパク質である肉の類を十分量摂ることは絶対に欠かせない。その供給源として最もすぐれているのが赤身肉である。
しかしこれが同じ動物性タンパク質でも、内臓などの「副産物」や「ミートミール」になると少し事情が異なってくる。消化性が赤身肉よりも若干劣るだけならまだよいのだが、レバーや腎臓といった解毒器官は、これらに含まれる化学性物質や加工されるまでの質の維持などが懸念され、ミートミールでは家畜名が書かれていても、フードの原産国によってはミートミールの原料に用いられる動物が健康であるとは限らない。3)しかもミートミールはもっぱら家畜飼料やペットフード用に作られるだけで、人用の食品加工原料になることはない。
また、穀類や肉類などといった分類名での表示も許されているのが現状で、このような分類名では漠然としすぎてあまり意味をなさない。穀類には米や大麦・小麦、トウモロコシなどさまざまなものがあり、単に“穀類”という名称からは、何が混ぜられているのかは分からない。肉類という表示も同様で、鶏や牛、豚など複数の家畜の肉が混ぜられていることになる。もしも愛犬が何かしらのアレルギーを持っている場合、このような表示のフードはまず避けるのが無難である。
そしてもしも肉がふんだんに使われているフードならば、加工後は当然肉の匂いが十分強く香り、犬は好んで食べる傾向にある。穀類を多く使ったフードでは、肉の匂いを強めるためにエキスやフレーバーをキブル(粒)に吹きかけることを行うので、今一度原材料の表示を確認したい。
動物性油脂もまたよく用いられる原材料の一つで、鶏脂や豚脂など家畜由来の脂肪をフードに混ぜると犬の食いつきは断然よくなるうえ、カロリーの調整ができるので、比較的好んで混ぜられる。
原材料表の後ろの方になると、たくさんのカタカナで書かれた知らない物質名がずらりと並ぶ。もしもカッコ書きでその物質の添加目的が書かれているならば、まだ親切なほう。増粘安定剤や保存料、pH調整剤、着色料などそれを見れば犬の体に必要のないものであることが一目で分かる。
このように見てゆくと、原材料表示のトップにはまず何かしらの肉が来て、肉の次にはできれば米や小麦などのトウモロコシと大豆以外の穀物が炭水化物源として来てくれると、フードは犬の体により合ったものであることがわかる。
栄養バランス
フードに含まれる肉の量がどれくらいであれ、肉に含まれるミネラルであるリンに見合った量のカルシウム量がフードに含まれていなければ、体はバランスを崩すことになる。犬のカルシウム源の候補になる最も自然なものは骨(あるいは骨粉)なのだけど、百歩譲って化学合成されたカルシウム化合物でも、入ってないよりはマシだろう。リンとカルシウムがフードにどのくらい含まれているか、せめて成分表示がなされていると少し安心だ。目安としては、カルシウムはリンの1.2ー1.4倍くらいとされる。
小麦や米なら、精白された小麦粉や白米・醸造米などではなく、食物繊維とビタミン・ミネラルを含んだままの全粒や玄米を使うことで、その栄養価はグッと高くなる。その他のビタミン・ミネラルと食物繊維の供給源としては野菜もいいが、少量でも野菜を上回る栄養素を持ち合わせていることが多いハーブも捨てがたい。ハーブには整腸やマイルドな利尿促進作用などがあり、単なる栄養供給源としてだけでなくその作用をもあわせて健康の助けとなる。
実は食物繊維は犬でも大事なフード要素といえ、これが少なすぎると腸の動きは悪くなり、しかし多すぎるとウンチが緩くなったりあるいは量が膨大になる。目安としては1.5-4%の範囲がよいとされるので、これも成分表示で確認のうえ、あとは愛犬の体との相性をみたい。
加工方法とパッケージ
ドッグフードの加工方法にはいろいろな方法があり、もっともポピュラーなのがドライフードを作る方法だろう。原材料をすべて一つのミキサー機に入れ、ほぼ均等に混ぜ合わせて圧力をかけながら蒸気で押し出し、おなじみのキブル(粒)はできあがる。圧力と蒸気によりキブルの温度は140℃にまで上がり、それによって米や小麦などの炭水化物は消化しやすいα構造(α化)となり、粒に含まれる水分も10ー12%と低くなって空気に触れてもすぐに腐敗することを防いでいる。しかし焼き上げる温度によっては、せっかくの素材が傷んでしまうこともある。ドライフードの次にポピュラーなのが、ウェットフード。ウェットフードはいずれも肉の比率が高いことが多く、犬の食いつきもよく、人気が高い。缶詰加工やアルミパック、そしてレトルトパックとがあり、どれをとってもフードに含まれる水分が多いことから、長期保存のためには原材料に付着している細菌を完全に死滅させることが必要で、みな圧力をかけながら100℃以上の温度で殺菌をする。もちろん、これもまた熱に弱い栄養素は壊れてしまう。
ドライもウェットも、どちらも加熱加工がされることに違いはなく、加熱加工による原材料へのダメージはある意味避けがたいことともいえる。どちらも開封後はできるだけ早く使い切るのがベストで、若干価格は高くなっても、できれば小さな袋あるいは缶などに入っているものを選ぶのがよいだろう。メーカーによっては、ドライフードのパッケージに酸素を通しにくいアルミ素材を用い、フードに混ぜる抗酸化剤にはローズマリーエキスなど自然なものを用いているところもある。ローズマリーエキスは化学合成の抗酸化剤よりも抗酸化効果は弱いが、小さな袋であれば使い切るまでその効果は十分発揮してくれる。
愛犬のルーツも、フード決めに重要な情報
今となっては「犬にはドッグフード」と誰もが当たり前のように思っているが、ドッグフードが初めて作られたのが100年ちょっと前、ドッグフードが一般に普及してたかだか40年くらいのものである。それ以前の犬達は、人の側で、人の食事のおこぼれをもらって生きてきた。人の食事内容は、地域や文化で大きく異なり、当然ながら犬だってその影響を受け、どの犬もが同じものを食べてきたわけではない。ある地域の犬は肉を多く食べてきていたり、ある地域の犬は炭水化物がより多く与えられてきていた過去を持ち、またある地域では犬は魚を与えられ食べて生きてきた。
犬が原産国を離れ、いろんな犬種が世界各国に渡っていった今、犬種が育った地域の食文化は遠い過去のものとして、どうしても見落としがちである。目の前にいる愛犬のルーツがどこにあるか、歴史的背景を踏まえつつ、愛犬の毎日の食事を選ぶことができれば、より愛犬の体に合ったよいものに行き着くこともできるだろう。
なによりも愛犬が喜んで食べ、いいウンチが出て、目ヤニや体臭が少ないならば、まずはよしとしたい。
1)愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H20/H20HO083.html
2)
農水省 表示に関するQ&A:
http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/petfood/p_qa/hyouji.html
Q.11 原材料名の記載について、順番はありますか。
A.11 公正取引委員会及び消費者庁の認定を受けた「ペットフードの表示に関する公正競争規約・施行規則」では、原材料名の表示は、使用量の多い順に記載すると定められています。ペットフード安全法では、原材料名の記載順序は特に規定していませんが、消費者に対する適切な情報提供の観点からは、原則、多い順に記載することが望ましいと考えます。
3)
American Association of Feed Control Officials (AAFCO)
Meat Meal / Meat and Bone Meal: Meat Meal or Meat & Bone Meal is the rendered product from mammal tissues, with or without bone, exclusive of any added blood, hair, hoof, horn, hide trimmings, manure, stomach and rumen contents except in such amounts as may occur unavoidably in good processing practices.