図鑑
シー・ズー
日本でポピュラーな小型愛玩犬。
ちょっぴり気分屋な明るいごきげんさん
英名
Shih Tzu
原産国名
獅子狗 (シー・ツェ・クウ)
FCIグルーピング
9G 愛玩犬
FCI-No.
208
サイズ
原産国
特徴
歴史
チベット原産のラサ・アプソと、中国原産のペキニーズが掛け合わされてできた犬種。ただし、ペキニーズも祖先はラサ・アプソ。先祖返り交配のような掛け合わせだ。約2000年の歴史があるとされる非常に古い犬種のラサ・アプソは、アジアの多くの犬に影響を及ぼしたといえる。
チベットの僧院で可愛がられていたラサ・アプソは、時の中国の王様にたびたびプレゼントされていた。そして外界から隔絶された中国の宮廷で寵愛を受けていたペキニーズと、交配が進められていった。これらの犬は「毛のぼさぼさとしたペキニーズ」、あるいは「顔の平らなラサ・アプソ」と言われた。そしてだんだん別の犬種として区別され、ペキニーズのことは「チャイニーズ・ライオン・ドッグ」、シー・ズーのことは「ラサ・ライオン・ドッグ」と呼ばれるようになった。
シー・ズーは、中国語では獅子狗 (シー・ツェ・クウ)という名前。「狗」は中国語で「いぬ」という意味だ。ちなみにペキニーズの名は「北京犬」が由来だが、古代中国ではシー・ズー同様に「獅子犬」と呼ばれたり、「太陽犬」「袖犬」と呼ばれていた。「獅子狗」と「獅子犬」……中国でも当時は混同していた気がする。
原産国でもこの調子なので、国際舞台でも混乱は続いていたようである。シー・ズーは、犬種スタンダードによると1934年にラサ・アプソから分離・独立されたとある。その1934年に北京でケネルクラブが結成されて、第1回のインターナショナルドッグショーが開催され、そのときにラサ・アプソと分離されてショーデビューした。でも、そのくせこの2つの犬はそろって出陳し、一緒に審査されていた。別々の犬種と言いつつも、まだスタンダードがきちんと整理されていなかったのだろう。
ヨーロッパには1930年代に輸出され、西洋人がシー・ズーに出会うこととなる。1930年にアイルランド、1932年にノルウェーに渡った。1933年にイギリス人がラサ・アプソとシー・ズーをショーに出陳。この犬たちは別々の犬だとはっきり認識されることとなり、似たような「ライオン・ドッグ」のついた名前ではまぎらわしいので、頭部が細くマズルが長い方をラサ・アプソ、頭部に丸みがありマズルの短い方をシー・ズーと呼ぶことにした。体格や長い被毛はラサ・アプソ譲り、丸顔でつぶれたマズルはペニキーズ譲りというと分かりやすい。
アメリカン・ケネル・クラブでは、初めてのシー・ズーが1969年(昭和44年)に登録された。歴史は浅い。日本には、アメリカより早く昭和30年代末には紹介されていた。西洋のものに憧れた高度経済成長期の頃の日本3大お座敷犬といえば、マルチーズ、ポメラニアン、ヨーキーだが、シー・ズーはそれを追随する形で、日本でポピュラーな愛玩犬となった。
2006〜2012年度のJKC登録頭数ではつねに7位。トップ1がミニチュア・ダックスフントからトイ・プードルに変わっていく間も、シー・ズーは淡々と7位をキープ。1999年、2000年度は、ダックスフントに次いで、シー・ズーは堂々の2位にランクしている。ダックスやチワワや、それ以前のコーギーやゴールデン・レトリーバーのように爆発的な人気と衰退を見せる犬種と違い、コンスタントにずっとトップ10以内にいるというのがシー・ズーの魅力の底力だ。
外見
日本で普通に家庭犬として飼育されている犬は、ペットクリップといって、いわゆる「ゆるふわ」なショートカットにされていることが多いが、犬種スタンダードの姿は、長いまっすぐな全身ロングヘアー。前髪(鼻の上の被毛)は上向きに生えており、これが菊の花のような顔をつくりだす。ちなみにシー・ズーは「クリサンスマム・ドッグ」とも西欧で呼ばれた。「クリサンスマム」とはキク科の花のこと。この外貌からそう愛称を付けられたのか、あるいは陽気で明るい花のような性格からかはよくわからないが、とにかく菊のように愛らしい犬だ。
シー・ズーを飼うのなら、ぜひ一度はショー会場に出向き、本来の美しい毛並みを見てみよう。普段知っているシー・ズーとは違う姿に驚くかもしれない。宮廷で愛されていた歴史を感じることができる。
ショードッグは、長い目の周りの毛を、おでこの上で結ぶスタイルをしていることが多い。四肢の毛も、しっぽの毛も長い。このようなスタイルを保つのなら、毎月のカット代はかからない。しかし、この豊かなロングヘアーをからませずに美しく保つのは、素人には至難の業。スタンダード的にはトリミング犬種ではないが、ほとんどの家庭でトリマーに依頼している。1〜2か月ごとに短めのペットクリップにしてもらい、手入れの手間を軽減させる。そのため毎月のようにトリミング費用がかかる犬と考えておいた方がよい。ペットクリップのシャンプーカット代は、東京だと7000〜8000円くらいだ。
ペットクリップにしたところで、毎日のブラッシングは欠かせない。シー・ズーと暮らすということは、一生、毎日のブラッシングとコーミングが続くということ。子犬を譲り受ける際に、忘れずにブラシと櫛を購入し、また手入れ方法をブリーダーやショップの人に細かく習っておく必要がある。
体高は、上限26.7cm。体重は4.5〜8.1kg。けっこうサイズにばらつきがある。犬種スタンダードでは「決してサイズのみで判断してはならない。最も重要なのはタイプとブリードの特徴を備えていることだ」とある。よって、近所の人が飼っている小さなシー・ズーに惚れ込み、シー・ズーを購入しても、思いもよらず大きく成長することも。8kgというと、ミニチュア・シュナウザーくらい。または小ぶりな柴くらい。長時間の抱っこ移動は少々しんどいボリュームである。小さめのシー・ズーを希望するなら(あるいは反対に大きめのしっかりしたシー・ズーを希望するなら)、シー・ズーを専門としている研究熱心なブリーダーに相談しよう。両親犬や親戚犬を見せてもらえると、成長の過程をある程度想像することができる。
頭部は幅広く、丸く、両目の間は広い。ショードッグの場合は、顎ひげとウィスカー(マズルの両側と下あごの長い毛)を伸ばす。両目と鼻は一直線上ではなく、鼻の上が下眼瞼と同じライン上か、もしくはそれより下。下向きの鼻はNG。鼻孔は大きく開いている。つまり上向きで、鼻の穴が大きい、子ブタのような鼻がよいらしい。
マズルは十分幅広く、スクエアで、短いけれど、シワはない。鼻の先端からストップ(マズルの付け根のくぼみ)までの長さはおよそ2.5cm。つまりパグや狆やペキニーズほど鼻ペちゃな平面顔ではない。
噛み合わせは、わずかにアンダーショット(下あごが出ている咬み合わせ)かレベルバイト(上あごの切歯と下あごの切歯の端同士が口を閉じたときにぴったり合う咬み合わせ。切歯は、犬歯と犬歯の間の、いわゆる前歯)。
ボディはしっかりしており、ほかの小型愛玩犬に比べると、骨太で頑丈。胸は幅が広く深い。体高よりも体長の方が長く、ちょっぴり胴長の体型。
しっぽは、豊富な長い飾り毛に覆われ、付け根も高いので、背にかかっている。その飾り毛に覆われたしっぽをゆらゆら揺らしながら歩く姿は、金魚のようでとても可愛い。
シー・ズーは、犬種スタンダードであらゆる色が認められているという珍しい犬種である。よく見かけるのは、ブラック&ホワイトやブラウン&ホワイトのような2色だが、ホワイト&ブラウン斑やホワイト&ブラック斑といったパーティ・カラー(白地に1色または2色の明確な斑がある毛色)でもよく、そのほかの色でもなんでもOK。クリームや赤褐色、ブラックなどの単色でもよい。
毛色
なりやすい病気
遺伝性
先天性
その他
肛門異形成
肛門周囲の疾患
臍ヘルニア
アレルギー性皮膚炎
難産
椎間板疾患ハンセンI型
くも膜嚢腫
まつげの異常
魅力的なところ
はずむような動きと気立てのよい性格で、愛嬌たっぷり。人なつこい。
精神的にも肉体的にも安定型。気持ちも体も丈夫。
神経質さや臆病さはあまりないので、ビギナーでも扱いやすい。
普通のしつけは、普通に覚える。
社交性がある。社会化に問題がなければ家族以外の人、よその犬でも平気。
独立心があるので、留守番ができないような分離不安症状にはなりにくい。
おおらかで細かいことは気にしないし、華奢ではないので、子供の相手もできる。
活動的で元気。お散歩のお伴も得意。
大変なところ
毎日の毛の手入れが苦にならない人向き。
ペットクリップにするなら毎月のようにトリミング代がかかる。さらにブラシは毎日。
完璧にブラッシングしていれば少しはよいが、それなりに抜け毛がある。
毛が脂っぽいので体臭があるかも。臭いに神経質な飼い主には不向き。
小型犬によくある甲高い声ではないが、呼び鈴に反応する犬はいる。
頑固で気分屋なところがあるので、甘やかすと我が強い犬になりやすい。
練習不足だと、体に触らせない犬になりやすく、飼い主やトリマーを咬むこともある。
運動を怠ると、ストレスがたまるし、肥満になりやすい。
まとめ
明るく気立てのいい人気のある犬。でも衝動買いは禁止
日本人に人気の小型愛玩犬の中で、華奢すぎず、デカすぎず、キャンキャン甲高い声でなく、神経過敏や臆病ではないので、初心者でも比較的しつけがしやすい。よその犬に喧嘩っ早いわけでもないから、お出かけ中の気苦労も少ない。性格も大らかで、明るく、割と温厚。金魚のようにしっぽをゆらゆら揺らしながらごきげんで歩くシー・ズーは、見た目も性格も可愛い犬。日本で目立った流行はなくとも、コンスタントにずっとトップ10入りする安定した人気がある。
日本ではペットショップで販売されていることが多い犬で、そのため登録頭数が多いが、かたや残念ながら衝動買いされて放棄される数も少なくない。街やショップで見かけることの多い大衆に知られた犬種でありながら、意外とその性格や飼い方の約束事は知られていない気がする。本当の魅力や大変さを理解したうえで真の人気犬種となれば、捨てられてしまうシー・ズーも減る。毛の手入れは少々大変だが、朗らかで丈夫な可愛い犬なのだから、ちゃんと予習をしてから迎えよう。
初心者や子供、高齢者のお相手にもなれる数少ない犬種
小型愛玩犬の中では珍しく骨太で頑丈だから、子供が抱っこしようとして落として骨折させる心配も少ない。小型愛玩犬の中では、子供を咬む特性も低い方。公園でも活発によく一緒に駆けてくれるので、元気な小学生の相棒にもふさわしい。ただし、やはり交通事故などは心配なので、親が一緒に監視することは大事。犬の扱い方について、親子でパピー教室などに通っておくと安心だ。
活発な犬ではあるが、ネズミ狩りの名手であるテリアの仲間や、パピヨンやトイ・プードルのような猟犬由来の犬ではないので、彼らに比べれば運動欲求量は高くはない。そこそこの大きさがあるから、リードを付けるときなどに捕まえやすいので、高齢者の手を煩わせる心配も少ない。
ただし、とにかく毛の手入れはけっこう手間がかかることは心しておく。毎月トリミング・サロンに連れて行く交通手段や経費も必要。毛の手入れが苦にならない面倒見のよいお年寄りならば大丈夫だと思う。朗らかで、文句の少ない、ころころとまとわりつく可愛い孫のような存在になってくれるだろう。ただし、ついつい甘やかしてしまい、人間の食卓からおかずをあげてしまうケースも聞く。シー・ズーは肥満になりやすい傾向にあるので、太らせないように、心を鬼にして栄養管理をきちんと行うことが必要だ。
毛の手入れは毎日。それが一生続く
短めのペットクリップにしていても、オーバーコートもアンダーコートも厚い犬なので、からみやすく、毛玉になりやすい。毎日ピンブラシとコームでとかしてあげることが必要。ウンチやオシッコが毛についていないかもよくチェック。
しかもシー・ズーは、脂っぽい毛と皮膚なので、よけいにからみやすいし、汚れがつきやすい。体臭もある方。体臭が気になるからとあまり頻繁に洗うと、皮膚が乾燥してバリア機能が失われて皮膚炎を起こしやすくなる。洗いすぎもよくないが、シャンプーはこまめに2〜3週間おきくらいにした方が清潔さを保てるだろう。
ただ自宅で洗うときは、濡らす前によくブラッシングして、からまないようにしておくことを忘れずに。また毛量もあるのでドライヤーは丁寧に行う。
幼いときは、まだ伸びきってない子犬の毛なので、長毛のポメラニアンより手入れが簡単に見えるかもしれないが、生後4か月頃になると上毛が伸び、下毛の毛量も増えてきて、からみやすい毛になる。毛玉だらけになってから焦ってとかそうとすると犬も痛がり、怒る。ましてやシー・ズーはもともと頑固で気位高く、独立心のあるしっかり者なので、そんな無礼は許せない。そうなるとブラッシングをしようとする飼い主やトリマーの手をガウッと威嚇することもある。
「トリマーを咬むので店に断られ、連れて行けない。飼い主が櫛入れしようと思っても唸られる」という悲しい悪循環に陥ってしまい、飼い主としてはきれいな姿にさせたい気持ちはあるのに、できなくなってしまっている家庭もある。すでにそうした頑なに拒む犬になっているときは、ちょっと家庭犬のドッグトレーナーに相談してみよう。改善方法や矯正方法をアドバイスしてくれる。いまから子犬を迎える人は、心が素直で警戒心の薄い子犬のときから、ブラシに慣れさせ、グルーミングは気持ちのよい楽しい時間だと毎日短時間ずつでいいので繰り返し教えておこう。
ペットショップにいるときはまだ子犬の毛だし、外へ散歩にも行かないから汚れてもいない。毛の手入れがどれだけ大切かを説明してくれない店やただの繁殖業者は、その時点で疑ってかかった方がよい。きちんとシー・ズーの適正飼養を説明する上で、毛の手入れについては、避けては通れない最低限の説明義務である。
比較的丈夫な犬だが、皮膚や目の病気は多い
遺伝性疾患は股関節形成不全くらいだが、かかりやすい病気としては門脈シャントや肛門周囲の病気、目の病気、アレルギー性の皮膚炎などがある。また日本の夏は湿度があるせいか、皮膚が蒸れて皮膚炎になったり、マラセチア症とそれに起因する続発性脂漏症を起こしやすい。また外耳炎も多い犬種である。
毎日のグルーミングの際に、異常がないかをこまめにチェックするのを日課にしよう。
また肥満にもなりやすい。肥満になると、人間と同じく、さまざまな病気の元凶となる。可愛いまなざしについうっかり食べ物を与えたくなる気持ちは分かるが、長生きしてもらうために、栄養管理と運動管理をきちんとしよう。
シー・ズーも犬。カート外出だけでは、運動や脳の刺激にならない
「元は宮廷の犬だから、運動量は少なく、散歩は行かなくてもいい」という、書籍やペットショップにありがちな適当なセールストークを鵜呑みにしてはいけない。シー・ズーは、ころころとよくはしゃぐ、おきゃんな犬。犬種スタンダードにも「活動的で敏活」とある。よって、まずは「散歩に行かなくていい」という認識はさっさと捨てよう。
また、カート(乳母車)に乗せて、散歩している姿をよく見かけるが、自分の足で歩かなければ筋肉はつかない。歩かない犬は、虚弱体質になる怖れもある。さらに、犬は嗅覚によっていろいろな社会の情報をキャッチする動物なので、地面や草のニオイを嗅いだり、ほかの犬に挨拶したりすることによって、脳に刺激が加わったり、社会性を養っていく。運動不足や刺激不足は、ストレスが溜まり、無駄吠えや要求が高まるなどの問題行動に発展する原因にもなる。
短頭種で熱中症になりやすい犬なので、暑い季節や時間に、アスファルトの路面の上を歩かせるわけにはいかないのでやむなくカートで目的地まで移動したり、駅前やイベント会場など人混みで小型犬が踏まれたりしないためにカートを利用するのは悪くはないが、「毛が汚れるから」「多頭飼育でリードで散歩では言うことを聞かなくて大変だから」などの理由なら、犬の幸せを完全に無視していることになる。
毛が汚れるのがイヤなら、シー・ズーではなくパグなどのスムースヘアーの犬種を選ぶ方がよい。散歩中のコントロールができないのなら、ドッグトレーナーに相談し、普通の散歩ができるように、犬も飼い主も勉強をし直そう。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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