図鑑
プードル
日本のトップ・アイドル。
サイズが大きくても小さくても、中味は同じ才色兼備な犬
英名
Poodle
原産国名
Caniche(カニシュ)
FCIグルーピング
9G 愛玩犬
FCI-No.
172
サイズ
原産国
特徴
歴史
プードル・タイプの巻き毛の犬は古代から知られていて、ここからいろいろな種類のガンドッグや牧羊犬に派生していったという説がある。巻き毛の犬はヨーロッパの各地にいたので、原産地の特定が難しいといわれるほどだ。
プードルの原型(スタンダード・プードル)は、とても古くからいた
スパニッシュ・ウォーター・ドッグ などの南欧のウォーター・ドッグの血が入っているとも言われる。ポルトガルの
ポーチュギーズ・ウォーター・ドッグ と、スタンダード・プードルの体高はほぼ同じで、サイズ感といい、くりくり巻き毛といい、近縁種であることを伺わせる。ウォーター・ドッグ(水中作業犬)は、水辺での回収作業を容易にするために、被毛の一部分を刈り取る習慣があった。それがいまの魅惑的なプードル・カットのはじまりである。
また、プードルはとくにフランスで人気が高かったことからフレンチ・プードルという呼び方もされた。でもドイツから移入された水辺の猟を得意とする犬の血も入れられたという。原産国はフランスとなってはいるものの、広い意味では「ヨーロッパ大陸原産の犬」といっていいのかもしれない。
そしてカモ猟などに使われた鳥猟犬スタンダード・プードルをベースに、16世紀以降、フランスの貴婦人たちのコンパニオンとして小型化・愛玩犬化されたのが、ミディアム・プードル、ミニチュア・プードル、トイ・プードルの3種だ。
つまりサイズによって、全部で4種類のプードルがいるわけだが、犬種としては同じ1つの犬種である。サイズを除いた、性質や頭脳、運動活発度(小型のものほど機敏ですばしこいという体格差はある)、やる気などは共通なのだ。またカラダのバランスも同じ。目や毛の色、毛の質も同じだし、クリップ(カット)のスタイルも同一である。なお,本ページの右上の犬種サイズの絵は、スタンダード・プードルのものを表示してある。
ご存知のように、日本ではなんといってもトイ・プードルの人気が高い。JKCのWebサイトで、原稿執筆時点(2014年10月)で確認できる
公開データ によると、それまでずっと犬籍登録頭数(その年、子犬が産まれて血統書を発行した数)トップを維持していた
ダックスフント 人気を抑えてプードルが2008年にトップに躍り出て、それ以来その人気ぶりは2013年までずっと続いて1位をキープしたままだ。
もちろん流行前からもトイ・プードルはいたのだが、以前はプードルといえば、ホワイトとブラックがメインだった。そして昔ながらのプードルといえば「コンチネンタル・クリップ」と呼ばれる、頭から胸にかけてぽわぽわの毛、マズルとお尻と四肢には短くバリカンを入れ、足首やしっぽの先、おしりの上に丸いポンポンを残すスタイルが本流だった。しかし2000年代に入った頃に、レッドやアプリコットといった茶系のプードルをぬいぐるみのクマのようにカットする「テディ・ベア・カット」が日本で発案されて、その愛らしさに日本中の女性がノックアウトされ、一気に人気者になったのである。
今ではショー会場くらいでしか、コンチネンタル・クリップの犬にお目にかかれない。ごくたまに本家本元のスタイルの白いスタンダード・プードルに出会ったりすると、新鮮な感動すら覚える。
2013年のプードルの登録頭数は8万7438頭。その内訳は、トイ8万6413頭・ミニチュア89頭・ミディアム111頭・スタンダード825頭。このように圧倒的に日本ではトイ・プードルの頭数が多い。そして日本ではミニチュア・プードルとミディアム・プードルは少なく、なかなか会えるものではない。
しかし、カリフォルニア大学の動物生理・行動学の教授であり獣医師のベンジャミン・L・ハート氏とリネット・A・ハート女史の共著である「生涯の友を得る愛犬選び」(1992年2月発行)によると「プードルはAKC(アメリカン・ケネル・クラブ)で最も登録頭数の多い犬種に入ります。なかでもミニチュア・プードルは、スタンダード・プードルやトイ・プードルを抜いて、最も高い人気を得ています」とある。アメリカでは日本と違い、ミニチュアが歩いている率が高いらしい。
ちなみにAKCでのプードルは、トイ・ミニチュア・スタンダードの3サイズに分かれている。ミニチュア・プードルのAKCの犬種標準は、体高約25〜38cmだ。
外見
現在、FCI(国際畜犬連盟)で公認されているプードルは4サイズ。小さい順に並べてみよう。体高はスタンダード(犬種標準)に明記されているが、体重の規定はないのでだいたいの参考値を付記する。
・トイ・プードル :体高28cm以下(体重3〜5kg)
・ミニチュア・プードル :体高28〜35cm(体重5〜8kg)
・ミディアム・プードル :体高35〜45cm(体重8〜15kg)
・スタンダード・プードル :体高45〜60cm(体重15〜30kg)
スタンダード・プードルはずいぶん個体差が大きい。15kgといえば頑張ればなんとかキャリーバッグ移動が不可能ではないサイズだが、30kgとなると立派な大型犬だ。プードルは、大きなサイズになるにつれ、オスの方が大きいという、オス/メスの性差が出てくるように感じられる。
またどの犬種でもオスの方が一般的に毛ぶきが良いことが多いが、毛量が豊富だと、一回りも二回りもよけいに大きく見えたりする。仮に30kgの毛ぶきのいいオスのプードルがいたら、ゆうに35kgクラスの大きな犬に見えるはずだ。でもそのかわりシャンプーして体を濡らすと、思ったよりもずいぶん小さくなることも。見た目のボリュームに比べ、ボディは意外と小ぶりで華奢である。そういう意味では、見た目の大きさのイメージに比べ、引っ張る力はそう強くはない。
さて、犬種標準(犬種スタンダード)でのトイ・プードルは体高28cm以下だが、近年の日本では流行犬の宿命で乱繁殖された結果、トイ・プードルのサイズが大型化して、ワンサイズ上のミニチュア・プードル(体高28〜35cm)との差が分からなくなっている個体もよく見られる。肥満体型でなくて5kgを超えるトイ・プードルもたくさんいる。日本でのミニチュア・プードルとミディアム・プードルはごく少数派なので、街で見かけるちょっと大きいサイズは、単に大きくなってしまったトイ・プードルであることが多い(だけど骨格が大きいのに、ごはんを減らして5kg以下にしようとしないでほしい。個人が自分の愛犬を可愛がるのに、サイズは関係ない)。
ちなみに「ティーカップ・プードル」という犬種やサイズはない。プードルは、トイ、ミニチュア、ミディアム、スタンダードの4タイプだけである。健康面が危惧されるにもかかわらず、トイより小さいという謳い文句で、矮小化されたプードルが法外な値段で売買されるケースがあるので注意が必要だ。しかも犬種として固定されていないので、高い値段を払っても、結局トイと変わらないサイズに大きく成長したり、また矮小化が原因で虚弱で、早死にする例も聞く。物珍しい犬を欲しがるより、なるべく長生きできる、心と体の健康な子を選ぼう。健康がいちばんだ。
また、サイズが小さければ小さいほど珍重してしまうという風潮は、動物福祉後進国と言わざるを得ない、動物虐待にもつながる悪習である。本当のプードル・ファンシャーなら、そういう虚弱で不幸な犬を欲しがることはない。
さて外貌の話しに戻そう。体形は、トイ・プードル含みミニチュアもミディアムも、スタンダード・プードルをそのまま縮小コピーしたような形が正しい。ボディバランス、マズルの長さ、目の形(アーモンド形)も然り(ただしトイ・プードルの後頭部の隆起にかぎり、それほど目立たなくても許される)。昨今の日本のトイ・プードルは「ドワーフィズム」(矮小発育症)を呈している個体がいて、マズルも短く、足も短め、体も目の形も全体的に丸みを帯びた形をしていることもあるが、それはプードルとしてはスタンダード外とされる。
本来の健全なプードルが目指している姿とはどういうものか、一度ドッグショーを見学してみると勉強になる。たくさんのプードルが出陳されていて、個性の違いも分かるし、見事な毛ぶきなども堪能できる。プードルに限った話ではないが、そういう「スタンダードを知る、学ぶ」ということも、犬と共に暮らそうというのであれば大事なことだと思う。
被毛の質も、大きさに関係なく同じ。比較的硬めで、豊富な毛量のカーリーコート(巻き毛)またはコーデッド・コート(縄状毛)が密生している。巻き毛は抜け毛が少ないので、飼い主側にアレルギーがある場合は好まれるし、室内の掃除も簡単。しかし、巻き毛種は人間の頭髪と同様に被毛が伸び続けるので、月に1回のトリミングが必要だ。
いちばん小さいトイ・プードルで、シャンプーカットはだいたい7000〜8000円くらいする。おめかしにはお金のかかる犬種であるということを理解しよう。スタンダード・プードルだと体が大きい分、2万円を超えることもあるようだ。ミニチュアやミディアム・プードルだとその間の金額くらいか。
また巻き毛はもつれやすいので、毛玉ができやすい。だからトリミングサロンに月1回行くだけでなく、毎日のコーミング(櫛入れ)をする必要がある。そうしないとすぐ毛玉になってしまうそうだ。また毛玉だらけになると美しくないばかりか、トリミング代も超過料金をとられることになる。体のサイズが大きくなればなるほど、ブラッシングする面積は広くなるので、それだけ時間がかかる。プードルと暮らすには、毛の手入れをすることが好きという人に限る。ファンシャー曰く「テレビを見ながらでもいいので、毎日30〜60分ほど櫛入れすることを日課にできる人でないといけない」とのこと。
さらにいうと、プードルは猟犬ベースで始まっている犬なので、とても活動的で遊び好きである。散歩に行く時間もたっぷりとってあげる必要があるし、また道や公園を歩いたり、ドッグランで走ったりすれば毛にホコリや小枝などが絡んでくる。「毛が汚れて大変だから、散歩には行きたくない」という人もいるが、それではプードルにとって「飼い殺し」の人生(犬生)。トイといってもプードルは抱っこ犬ではない。プードルの幸せを想像できない人は飼い主になる資格はない。
ところで、プードルには毛の手入れが不可欠と購入時に確認しなかったのか、それとも生きたぬいぐるみは毛が伸びないとでも思っていたのか、毛の手入れをしてもらえず、放置され、捨てられたトイ・プードルの姿を写真で何度か見たことがある。手入れをされないと、毛玉が毛玉を呼び、フェルト状に毛が全身にかたまり、分厚いコートを着ているようになり、その毛の中にオシッコもウンチも入っていて、見るも無惨な痛ましい姿となっていた。相当に異臭も放っていたに違いない。
プードルのような巻き毛種は、
柴 や
ゴールデン・レトリーバー などの短毛種や長毛種とは異なり、人間の髪の毛と同じように延々と毛が伸び続ける。しかもそれが頭部だけでなく全身が毛でくるまれているのである。何の手入れもしないままで、犬種図鑑やテレビで見るようなプードルの姿が維持できるわけはない。お金がかかるし、毎日のコーミング(櫛入れ)が必ず必要ということを、くれぐれも肝に銘じてほしい。
毛色は全サイズ共通で、ブラック、ホワイト、シルバー、シルバー・ベージュ、ブルー、グレー、ブラウン、アプリコット、レッド、クリームなど。同色内の濃淡はOKだが、きれいな単色毛(全身1色)であることが理想。パーティ・カラーのなどの単色以外の毛色はスタンダード外となる。
鼻の色はブラック。アプリコットやブラウン系の被毛色の場合は、レバー色の鼻でも許される。
マズルは長く真っ直ぐ。眼の下にわずかな彫りをもち、力強い。マズルとスカルは同じ長さである。ドワーフ型(矮小型)に見られる短く詰まった鼻先はよくない。
目の形は、ちょっとウルトラマンのようなアーモンド形が正しい。愛らしいぬいぐるみのような丸いつぶらな瞳はNG。両目は適度に離れて付いている。
毛色
なりやすい病気
遺伝性
股関節形成不全
若年性白内障
進行性網膜萎縮
レッグペルテス症
膝蓋骨脱臼(パテラ)
停留睾丸
遺伝性てんかん症
動脈管開存症
フォン・ウィルブランド病
カラーミュータント脱毛症
角膜ジストロフィー
糖尿病
アトピー性皮膚炎
先天性
その他
胃捻転
アジソン病
脂腺炎
慢性肝炎
クッシング症候群
まつげの異常
眼瞼内反
結膜炎
緑内障
尿結石
甲状腺機能低下症
僧帽弁閉鎖不全
骨肉腫
外耳炎
椎間板疾患ハンセンI型
魅力的なところ
とにかくフワフワ巻き毛が愛らしい。
人なつこさは全犬種中トップ。
活動的で、動作がきびきびしていている。
非常にトレーニング性能が高い。服従性も高い。
遊び好きで好奇心が強く、芸を喜んで覚える。
小型でも大型でもドッグスポーツやドッグダンスの相棒に最適。
見た目によらずアウトドア派。登山やキャンプも得意。
トイレのしつけもよく覚える。
社交的で、他犬への攻撃性も低い。
甘えん坊で飼い主大好き。飼い主冥利に尽きる。
スタンダード・プードルは立派で美しい。
スタンダード・プードルはトイ・プードルに比べ、比較的落ち着きがあり、扱いやすい。
スタンダード・プードルは子どもの良き伴侶になる。
スタンダード・プードルは番犬気質がある。
抜け毛が少ないので、アレルギー体質の人でも比較的飼いやすい。室内掃除も楽。
遺伝性疾患などは多いが、他犬種と比べると長命な犬種。
大変なところ
元はガンドッグ。運動量や知的な刺激が足りないと無駄吠えなどの問題行動を起こしやすい。
とくにトイは無駄吠えしやすい。
スタンダード・プードルは警戒咆哮するので集合住宅では要検討。
依存心が強く、分離不安(留守番ができない)になる個体もいる。
かまってもらえないとストレスが溜まり、悪戯や自傷行為に走りやすく、よく吠える。
毎月トリミング代が必要。サイズが大きくなればなるほど値段も高い。
毛玉ができやすい。体の表面積が広いだけに毎日のコーミングは大変。
犬種改良の歴史が長く、遺伝性疾患が多い。
近年の日本の繁殖では、トイだけでなく、スタンダードでも繊細で神経質な個体が増えている。
トイ・プードルは、日本ではスタンダード外の個体が増えている。
トイ・プードルは、ほかのサイズに比べて、子どもを咬んだり、反抗しやすい。
まとめ
衝動買いは危険。健康面・性質面のチェックが必要
日本では、トイ・プードルが流行犬種になったために無計画な繁殖が増えて、遺伝性疾患の増加や、臆病で神経質など性質面の荒廃が問題となっている。遺伝性疾患を淘汰する努力と、飼いやすい安定した性格になるよう繁殖管理しているブリーダーから子犬を入手した方が、結果的には犬も飼い主も幸せで、医療費なども減る。また、おおらかな性格だと社会化トレーニングも順調に進みやすい。母犬や親戚犬と会い、性格の良さや遺伝性疾患の有無を確認するとよい。「可愛い〜っ」と一目惚れでうっかり衝動買いすると、あとで苦労するので、とくにプードル(トイ・プードル)は、子犬を買う前のプロセスを大事にしよう。
ミニチュア、ミディアム、スタンダードは、トイのように乱繁殖されていないのでそこまで問題が表面化していないが、そもそも日本国内での遺伝子プールが小さいため、性質面で繊細で神経質な血統も出ている。また、そもそもプードルは犬種改良の歴史が長いため、「病気のデパート」と言われるほど遺伝性疾患の多い犬である。ブリーダー探しの情報収集はしっかり行おう。
ちなみに本記事に掲げた「なりやすい病気」には、プードル全般に関係する病名をあげているが、スタンダード・プードルやトイ・プードルなど大きさによって発症する疾患傾向が若干異なる。いずれにせよプードルは病気が多い犬種であることは否めないので、日頃からよく自分の犬を観察し、病気の早期発見・早期治療に努めよう。
賢く活発な犬。それだけ欲求も高い。日本はトイ・プードルの「飼い殺し」が目立つ
プードルは、ドッグダンスやアジリティなどのドッグスポーツで活躍したり、小学校や老人ホームへ出向き動物介在教育・療法の助手になったりするなど、可愛いうえにとても賢い。容姿端麗なうえにトレーニング性能が高く、機敏で活動的という、文武両道というか、天は二物を与えたようなとても才能にあふれた犬。昔だったら、サーカス犬として人気者になったり、スタンダード・プードルなどは戦地での伝令犬や警備犬としても働いた多才な犬である。
それだけに、運動と共に知的好奇心を満たす刺激が必要。そうしないとストレスが溜まり、無駄吠え、破壊行動、誤飲、自傷行為、噛み癖などの問題行動を起こしてしまうことになる。一緒にゲームを楽しむ感覚でトレーニング教室に定期的に通ったり、アジリティなど飼い主との共同作業をする悦びを与えてあげられる人向き。そうすれば最良のコンパニオンになる。プードルは、その期待に応えてくれる素質と実力が十分ある。
しかし残念ながら現状の日本では、とくにトイ・プードルは小さいからと甘く見積もられ、犬らしい魅力を伸ばしてあげられていない飼い主が多い。いつも抱っこし、かばい、「蝶よ、花よ」と育てているケースが多く見られるが、果たしてその愛情は、正しく犬に作用しているだろうか。そういう家のトイ・プードルは、よその犬や人に吠えたりせず、明るく友好的な子だろうか。ドッグランで飼い主に呼ばれたら「は〜い」としっぽを振って飛んで帰ってくる、呼び戻しのできる子に育っているだろうか。そうでないとしたら、それは、飼い主がよかれと思って与えている愛情と、犬が本当に求めているものがすれ違っている可能性がある。
トイ・プードルは、日本人が思っている以上に、明瞭な頭脳と作業意欲のある犬だ。それにもかかわらず、ただ犬をファッションの一部のように欲しがる人や、「みんなが飼っているから」と流行に便乗して飼いたくなる人だと、トイ・プードルを幸せにはしてあげられない。キラキラの首輪やヒラヒラの洋服を買い与える前に、やるべきことは正しい運動と正しい教育。
毎日長時間の留守番をさせられたり、イタズラするからとケージに閉じ込められたり、小型犬だからと散歩に行かなかったり、行ってもただ近所をくるりと回るだけのつまらないものでは、ずばり「飼い殺し」。ドレスを着せられて、お城の中に幽閉されているお姫様のようなものである。
トイ・プードルは確かに愛らしい姿をしているけれど、決してお姫様ではなく、心は草や土の上を走るのが大好きなワイルドなただの犬であることを忘れないでほしい。「お姫様」扱いされることは、犬からしてみればいい迷惑で、ストレスが溜まることこのうえない。悪気はなかったとしても、「飼い殺し」は虐待の一種だということに、そろそろ日本人も気がつくべきである。
トイ・プードルに限らないが、満たされない毎日では犬の精神は不安定になり、またストレス起因の病気にもなりやすくなる。健康上もよろしくないので、愛しているならなおのこと、擬人化した愛情表現で犬を苦しめていないか、考え直してほしい。
小型でも大型でもトレーニング必須
犬を勝手気ままに自由にさせてばかりで、飼い主の言うことを無視する、呼んでも帰ってこない、人間に対して唸る/噛むような不良犬に育ててしまうのも、プードルの飼い主としては失格である。プードルは、そんなにトレーニングが難しい犬ではない。ただ単に、ポイントを押さえて教えていないだけである。あるいは、飼い主との正しい関係ができていないだけであろう。そうした小さな反抗心を放置しておくと、ますます状況がひどくなる可能性がある。トイだから咬まれてもたいしたことはない、と思ってはいけない。どんな犬でも、いかなるときも、人間を咬んではいけない。そう肝に命じて、本当の、幸せでいい関係を作り上げてほしい。
上記のような困った行動を愛犬がとるのなら、早めにドッグ・トレーナーに相談してみることをお勧めする。何が間違っているのか、どういう接し方が正しいのか、ちょっとしたコツを飼い主が理解して改めれば、プードルは賢いので、あっさり理解してくれることが多い。ドッグ・トレーナーに依頼することはそんなに怖いことではない。勇気を出して連絡をとってみてほしい。
実はいま日本で最もトレーナーに相談件数が多いのは、トイ・プードルといっても過言ではない。それは飼育頭数の多さもあるが、うっかり欲しがって、手に負えなくなっている家庭が多いのである。でもプードルは聡明な犬だから、教えるポイントさえ飼い主が理解すれば、プードルは瞬く間に状況を改善してくれるはずだ。
もうひとつ。いくら可愛い容姿の犬であっても、トイ・プードルで小さくても、犬は犬である。犬として人間社会で生きていくためのルールやマナーは守ること。公園や観光地などで、ノーリードで歩く姿を見かけたりするが、いくら可愛いプードルでも、ノーリードにされるのを不快に思う人はいる。悪いのは犬ではなく、飼い主。可愛い犬なら何をしてもいいと勘違いしないようにしよう。
正しく育てないと無駄吠えが近所トラブルに
プードルの頭脳と作業意欲を満たしてあげること、そして分離不安にならないよう依存心を高めない接し方をすること。これらができないと無駄吠えの問題行動が起きやすく、吠える声が、近所からの苦情になるケースが多い。正しい飼養とトレーニングで無駄吠えは改善できる犬なので、きちんと実行し、自分で改善できない場合はトレーナーに相談しよう。脳などの特別な病気でもないかぎり、プードルは必ず改善が望める犬である。
ただスタンダード・プードルは、番犬に必要な特性(テリトリーを守ろうとする性質、敵が来たら吠えて威嚇する性質)を備えている。つまり優雅な姿をしつつも立派な番犬として役立つのだが、集合住宅や住宅密集地などでいちいち過敏に吠えてほしくない住環境にお住まいの方は検討を要する。
毛の手入れが好きな人、毎月トリミングに連れて行くのが楽しみという人に
ふわふわの美しい姿をキープするには、日々の手入れと月1回のトリミング代が必要。毎日、テレビを見ながらでもいいのでコーミング(櫛入れ)をして、その日のもつれを明日に持ち越さないようにすることが大事。とくに脇の下など毛がこすれてすぐ毛玉になる部分や、汚れやすい口の周りは念入りに。全身が巻き毛に覆われているので櫛を入れる面積が広く、人間の頭髪ケアよりもはるかに大変だ。しかもトイよりも体のサイズが大きいミニチュア〜スタンダードは、相応の時間がかかる。
毛の手入れが面倒な人、毎月のトリミング代や毎日のブラッシングの時間を捻出するのが厳しい人は辞退したほうがいい。スタンダード・プードルだと、地域差はあるがトリミング代は1回約2〜3万円ほどかかる。この美しい犬と暮らすには、経済力も必要だ。
プードルは、ぬいぐるみではない
本来は人なつこく順応性のある犬なので、子供の良い友達になれるが、血統によっては神経質で過敏な犬もいるので、入手先の検討が不可欠。とくにトイは、スタンダード・プードルよりも子どもを咬む行動や反抗的な態度をとる特性がある。トイ・プードルは、ミニチュア、ミディアム、スタンダードほどに家庭向きではないと文献にもあるので、見かけのサイズだけで選ばないようにしよう。
反対に、子どもが犬をケガさせるケースもある。トイだけでなくミニチュアなども骨が華奢なので、子供が抱っこして落下させると骨折や脱臼させてしまう危険性がある。ぬいぐるみ感覚で、プードルを子供に買い与えるのは言語道断だ。
また大人の女性であっても、アクセサリー感覚でプードルを購入するのはやめてほしい。見た目の愛らしさ先行で犬を選ぶのはよくない。犬をファッションの一部のように欲しがる人には、プードルを幸せにはしてあげられない。キラキラの首輪や犬洋服を買い与える前に、やるべきことは正しい運動と教育である。
プードルはいろいろ病気の多い犬種ではあるが、他犬種に比べると長命な個体が多いといわれる。この先十数年の間、一緒に暮らす命として迎える前にきちんと熟考したい。経済的なこと(毎月かかるトリミング代ほか)も含め、進学や引っ越しや転勤や結婚などのイベントがこの先どうなるかシミュレーションし、5年先、10年先、15年先の自分が何をしているのかも考えて迎えてほしい。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
掲載されている内容/データに間違いを見つけたら?