図鑑
ウェルシュ・コーギー・ペンブローク
可愛い顔して気が強く、
短足だけどよく走るミニ・アスリート
英名
Welsh Corgi Pembroke
原産国名
Welsh Corgi(Pembroke)
FCIグルーピング
1G 牧羊犬・牧畜犬
FCI-No.
39
サイズ
原産国
特徴
歴史
イギリスを構成する連合王国の一つ、ウェールズのペンブロークシャー地方にすんでいたウェルシュ・コーギー・ペンブローク(コーギー)。コーギーにはもう一種、同じくウェールズのカーディガンシャーの丘陵地帯にいたウェルシュ・コーギー・カーディガンがいる。ペンブロークは、カーディガンと比べて尾や耳先に特徴がある。カーディガンには尾があり、耳が大きめ、体格も大きめである。いま日本で見かけるコーギーはほとんど断尾されているので、しっぽ付きがカーディガン、しっぽなしがペンブロークと見分けることができる。
もともとカーディガンがいて、そのあとにペンブロークが犬種として誕生したのだが、1107年頃にはもうペンブロークがいたとされ、割と古い犬種である。ただ19世紀中頃以前は、ペンブロークとカーディガンが両者交配されていたこともあり、相似点も多い。
もっと遡ると、ペンブロークの直系の祖先犬は、フランスとベルギーの大西洋に面したフランドル地方の織物職人がウェールズに移住した際に一緒に連れてきた犬という説と、ヴァイキング(スカンジナビア半島に住んでいた、海を遠征した人々)が活躍していた頃に、スウェーデン周辺の犬が渡ってきたという説がある。スウェーデンには、コーギーによく似たスウェーディッシュ・ヴァルハウンドという、胴長短足で立ち耳のキャトルドッグがいる。
ペンブロークは、古くはイングランド王のヘンリー2世(1133〜1189)、現代においては英国王室のエリザベス女王に愛されている犬として有名。ただし、原産国イギリス以外のヨーロッパではあまりコーギーは知られていない。日本では、1990年代後半にTVのCMをきっかけに流行したため、コーギーの認知度は高い。
外見
胴長短足と大きな立ち耳、日本ではまだ断尾されている犬が多いため、無尾に近いごく短い尾が特徴。「地低く、力強く、たくましい体つき」がよしとされる。昨今、日本では一時の流行の乱繁殖の影響か、柴犬っぽく足が長めで、華奢そうな犬がいるが、本来のコーギーは、骨太で、頭もがっちりと大きく、丸太のような頑健な体つきである。
体高は約25〜30cm。体重は、オス10〜12kg、メス10〜11kg。体高が低いため、リビングで一緒に暮らしても圧迫感がなくあまり邪魔にならないが、でもそれは足が短いだけで、これで足が長かったら、中型犬のボリュームの犬である。頭骨の大きさだけでいったら、中型犬の甲斐犬や紀州犬よりも大きい印象だ。体重も、抱っこするには重い。
被毛は、4〜5cmくらいの直毛。柔らかすぎず、硬すぎない毛で、ウェービーでもないのが望ましい。でもたまにウェーブがかった個体もいるし、ライオン丸のような長毛のモフモフの犬もいる。こうした被毛の犬は、犬種スタンダードからは外れるが、家庭犬として愛するなら何の問題もない。
コーギーは、日本犬やシベリアン・ハスキーなどと同じ北方スピッツ系の犬なので、保温性に優れたアンダーコート(下毛)に覆われている。そのため毛はよく抜ける。とくに春と秋の換毛期には、部屋の隅が白くなるほど抜ける。でも近年の、冷暖房完備の居心地のよい部屋で暮らしているコーギーは、暖かい被毛を蓄えて防寒する必要がないため、年中抜けることも多い。部屋に抜け毛が散らばるのを最小限に食い止めるためには、週3回ほどのブラッシングで死に毛を取り除いてあげるとよい。皮膚の血行促進や汚れの除去に役立ち、誰が体に触れても怒らないようにする社会化のよい練習にもなる。
毛色は、レッド(赤っぽい茶色)、セーブル(黄褐色か、明るい茶色に黒い毛先が混じったもの)、フォーン(薄い茶色)、ブラック&タン。それらが頭部や背中の色で、顎、前胸、四肢は白斑があってもなくてもよい。ブラック&タンに胸や四肢、おなかが白いとトライカラーになる。日本では、背中が茶色か黒で、お腹や足先、胸、首は、白の犬がほとんどだが、犬種スタンダードによると、白斑はあってもなくてもよいとのこと。ショードッグでは、首まわりに一周白いマフラーをしているものが華美なのでよく登場しているが、白いマフラーがとくに優れているという規定はない。ただ、後頭部の下の首の上側に、ダイヤ型なり、なんらかの形の白斑が入ることが多く、それは「妖精のサドル(鞍)」とか「妖精の腰かけ」と言われる。昔、コーギーは妖精と暮らしていて、その部分に妖精を乗せていたという可愛い逸話があるのだ。
日本やアメリカでは、今も慣習的に断尾されることがほとんどだが、ヨーロッパの多くの国では、動物福祉の観点から断耳、断尾はすでに禁止となっている。むろんコーギーも、原産国イギリスではすでに断尾は禁止だ。「生まれつき無尾のコーギーもいる」と記述のある本もあるが、日本で複数のブリーダーに尋ねたところ、彼らが言うには「ほぼ間違いなく産まれてくる子犬はしっぽ付き」とのことだ。生まれたてのコーギーのパピーの尾は、人間の小指ほどの太さと長さで、しっぽの先はキツネのように白い。断尾しなければ、しっぽの先の白い、日本犬やキツネのように後方上向きに立てた差し尾の形になる。
そもそもコーギーの断尾の習慣は、牛などの家畜のかかとに噛みついて群れを誘導する仕事中にしっぽを踏まれないため、あるいは18世紀のイギリスでは断尾された犬は使役犬扱いとなり税金を免除されるという法律があったために、仕事内容に関係なくとりあえず断尾して税金逃れをしていたという歴史があったから。その税免除の法律が廃止になったあとも断尾する慣習はテリアはじめ多くの犬種に残っている。牛を追うこともない家庭犬に断尾は無用、あるいは仮にいまも現役で牛追いをしていたとしても、化膿を防ぐ抗生物質やさまざまな治療法がある時代だから、もしもしっぽを踏まれても治療は可能な世の中である。しっぽを切る理由はもはや見当たらない。
たしかにおしりぷりぷりのコーギーの後ろ姿は愛らしい。今までの慣習で見慣れている、という思いも理解できる。でもしっぽを切ると子犬はやっぱり痛がるし、血が出るし、しっぽと背骨はつながっているので脊椎神経に影響を及ぼし、将来的に後肢麻痺などの疾病の原因となる可能性もある。ならば、そこまでして切る必要があるのか、と考え直す時期にきているのではないだろうか。コーギーを、正しく心から愛するコーギー・ファンシャー(愛好家)の英断によって、近い将来、日本でも断尾をしない犬が増えることを期待する。
毛色
なりやすい病気
遺伝性
変性性脊髄症
フォン・ウィルブランド病
若年性白内障
股関節形成不全
先天性
その他
魅力的なところ
短足胴長のフォルムが可愛い。素朴な、昔日本の家によくいた「犬らしい犬」の姿に愛着が湧く。
活動的で利発で頑健。トレーニングもゲームのうち。ジョギングの伴走も嬉々としてこなす。
生来の見張り役。大胆で、つねに目を光らせているので優秀な番犬になる。
自立心があるので分離不安症になりにくい。臆病や神経質でもなく、おおらか。
おめかしに手間やお金がかからない。自宅で洗える。
大変なところ
運動量や知的な刺激が足りないと無駄吠えや噛み癖などの問題行動を起こしやすい。
体高が低いので誤解されがちだが、実は中型犬級の重さとパワー。引っ張る力は割と強い。
声が太く鋭敏な性格のため、番犬の任務を遂行するあまり、集合住宅で吠え声が問題となりやすい。
気が強く自立心旺盛なため、優しすぎる飼い主の言うことは聞かないこともある。
ワガママに育てて自分勝手になり、噛み癖がつくと、アゴの力も強いのでケガする。
抜け毛の多さに辟易している飼い主は多い。
背骨が長いために、脊椎の病気になりやすい。また致命的な遺伝性疾患もある。
まとめ
小型犬かと勘違いはNG。大型犬並みの体力、気力、知力がある犬
ちょこちょこした短い足で歩く姿はとても可愛く、体高も小型犬並なので勘違いされがちだが、頭の大きさや胴体のボリュームを冷静にみれば、この犬がけっこう大きな犬であることが分かる。どう考えても、抱っこ犬になる器ではない。それだけ力も強いし、運動欲求量は高い。まして、中味はもともと頑健な牧畜犬。大型犬のロットワイラーやジャイアント・シュナウザーと同じ仕事をしていたわけで、性質もその系統である。優秀な番犬であり、無職は嫌い。朗らかで陽気な犬だが、一方で勇敢で気が強く、自己判断のできる犬で頑固だから、しつけやコントロールは一筋縄ではいかない。
日本で流行したとき、あの愛嬌ある短足ぶりで一世を風靡したものの、そのあといつのまにか人気が減退したのは、しつけのできていないコーギーが暴れん坊犬になって、人を咬んだり、無駄吠えが問題となったりしたからである。そして、いまなお捨てられてしまうコーギーが多いのは、コーギーを飼えるだけの知識や技量もないのに、うっかりチャーミングな短足犬に手をだしてしまう人がいるからである。許し難い現状だ。
牛に負けない気力とタフさがある。運動はたっぷり必要
牧畜犬だったので、性質の強さだけでなく、体力もある犬である。足が短いからと、散歩量が少なくて済むと誤解しないでほしい。大型犬のガンドッグである
ワイマラナー と同居しているコーギーは、毎日ほぼ同じ量の散歩をこなしているし、キャンプや登山に同伴しても疲れ知らずで歩き続ける。椎間板ヘルニアなど骨関節の病気がなければ、コーギーは大型犬と同じくらいの運動量が必要だと認識してほしい。体力的にも、性格的にも、コーギーより上をいくタフな飼い主さんが、彼らの親分にふさわしい。
運動量が足りないと、欲求不満が募り、無駄吠えなどの問題行動を起こすことになる。ちなみに獣医さんに聞いた話では、「都会のコーギーは無駄吠えや咬みつきなどの相談が多いが、北海道や東北などに住んでいるコーギーで問題犬は少ない。広い原っぱや森が近くにあり、存分に走り回っているからだろうか」とのこと。もしも、無駄吠えやワガママなどで困っていることがあれば、まず運動量が足りているか、そこからもう一度検討してみよう。
足は短いが、中型犬レベル。抱っこは厳しい
短足のため体高は低いけれど、体重的には中型犬。抱っこするには重い。動物病院に行くときや帰省や旅行の際に公共交通機関を利用するときは、ケージやキャリーバッグに入れて移動しないといけないが、コーギーの体重に容器の重さが加算されるとかなり重たく、よほど力持ちの人でないと厳しい。マンションの廊下などを一時的に短い距離を抱いて移動するのは頑張ればできなくないが、通院やレジャーには自家用車があった方がよいだろう。
太い声が、集合住宅で問題となりやすい
もともと家畜が盗まれないように番をすることも大事な任務だったコーギー。番犬として最高の犬だが、都会の住宅密集地や集合住宅では、その鋭敏な番犬気質が仇となることが多い。しかも、吠え声が太いので、うるさい。ドアの呼び鈴などにも過剰に反応して、厳しく敵を撃退しようとする。ピンポン音に吠えないようにトレーニングすることもできなくはないが、基本的に、番犬としての任務を遂行したがる仕事好きの性格なので、「番犬をするな」とコーギーに教えるのは難しい。人間にとっては「無駄吠え」でも、コーギーにとっては「意味のある吠え」なのである。よってご近所との関係上、吠え声が困る場合は、コーギーのような優秀な番犬気質の犬は選ばないのが賢明だ。「うるさいから」と、声帯を切られてしまうコーギーが実際にいるが、そのような動物福祉に反する行為をするくらいなら、飼わない方がいいので、迎える前によく検討してほしい。反対に大型犬を飼う技量やスペースはないけれど、空き巣の侵入などを教えてくれる優秀な番犬が欲しいという家庭では、コーギーや柴犬は、コンパクトながら仕事熱心な働きぶりを見せてくれる。
抜け毛は多い。部屋の掃除は大変
短毛種であるが、シベリアン・ハスキーや
秋田犬 と同じ北方スピッツ系の犬なので、アンダーコートが厚い。そして、その毛がよく抜ける。とくにシャンプー後や春と秋の換毛期にはよく抜けて、部屋じゅうが、白っぽい毛だらけになる。掃除機や床拭き紙ワイパーなどでこまめに掃除する必要がある。トリミング犬種ではないが、抜け毛の多い換毛期にプロのトリマーに依頼して、念入りにシャンプーとブラッシングしてもらうことによって、抜け毛の散らばりを予防するという方法もある。ただし、抜け毛が多いのを嫌がって、あるいは「夏場は暑そうだから」とバリカンで短く刈ってしまうのはNG。短い被毛がよけいに抜けることになるし、また被毛は帽子のように炎天下の直射日光の暑さを和らげる役目も持っているので、刈ると熱中症になりやすくなる。蒸れて皮膚炎を起こしているなどで獣医師からの指導でバリカンをすることはあるかもしれないが、獣医師の判断もないのに丸坊主にするのはやめよう。
椎間板ヘルニアや変性性脊髄症などの神経系の病気やガンも多い
長い背骨のため、椎間板ヘルニアや遺伝性疾患の変性性脊髄症(DM)など、脳神経の病気が多いコーギー。遺伝性疾患の場合は、そうした病気を淘汰するべく、繁殖犬に事前検査を行っているブリーダーから子犬を手に入れることが望ましい。また、母犬、父犬、親戚犬の健康状況を包み隠さず公開してくれるブリーダーこそ、良心的な犬舎といえる。脳神経系の病気は、四肢麻痺や寝たきり、排泄コントロールができなくなるなど、介護も正直すごく大変になる。犬も可哀想だし、飼い主も苦労することになる。健全なコーギーを誕生させてくれる志の高いブリーダーを応援するためにも、子犬の入手先はよく検討したい。
また、フローリングの滑る床や、階段やソファーの段差などジャンプや上下運動が多い住環境は、背骨や四肢の骨関節の健康を害する。滑る床にはタイルカーペットを敷くなどの環境整備を行う。また、たまたま通る歩道橋などならともかく、毎日恒常的に家庭内の階段を上下するような習慣的な上下運動はさせないようにする。階段は抱っこする、ソファーに毎日ジャンプするなどはやめるよう教えることが重要だ。アジリティやフライングディスクなどのドッグスポーツは、ジャンプの衝撃で背骨を痛める可能性があるので要注意だ。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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