図鑑
ポメラニアン
チワワ並みに小さいけれど
鼻っ柱が強くて活発な、ふわふわ「パフボール」
英名
Pomeranian
原産国名
Zwergspitz(ツベルグスピッツ)
FCIグルーピング
5G 原始的な犬・スピッツ
FCI-No.
97
サイズ
原産国
特徴
歴史
日本で1970〜80年代に流行ったポメラニアン。当時は、マルチーズ、ヨークシャー・テリア、ポメラニアンが人気お座敷犬として定着していたので、子供の頃に飼っていた思い出から、今もポメラニアンに愛着のある人は多いようだ。
また、ポメラニアンはFCIやJKCのグループ分けでは、ちょっと意外なことに「コンパニオン・ドッグ&トイ・ドッグ」の仲間ではなく、「スピッツ&プリミティブ・タイプ」に入っている。そこからも分かるように、ポメラニアンはスピッツ系の犬だ(ちなみに日本犬もこの仲間に入る)。立ち耳、スピッツ顔、茶色い被毛など、日本犬とポメラニアンは似ているところがあり、日本人の心をくすぐる可愛さを持っている。
ただFCIの分類では、ポメラニアンは、ジャーマン・スピッツ(またはDeutscher Spitz)の中の1タイプとされており、単独で1犬種という扱いではない。
ジャーマン・スピッツには、5つのタイプがいる。
Wolfsspitz(=キースホンド、ヴォルフススピッツ、ヴォルフ=オオカミ)
Großspitz(グローススピッツ、グロース=大きい)
Mittelspitz(ミッテルスピッツ、ミッテル=中くらい)
Kleinspitz(クラインスピッツ、クライン=小さい)
Zwergspitz (=ポメラニアン、ツベルグスピッツ、ツベルグ=矮小)
つまりポメラニアンは、ジャーマン・スピッツの中でいちばん小さいタイプだ。日本ではポメラニアンが人気独占状態なので、ほかのジャーマン・スピッツに馴染みがない人も多いと思う。たまにキースホンドに会うこともあるかもしれないが、あとのグローススピッツ、ミッテルスピッツ、クラインスピッツは、日本で見かけることはおそらくないだろう。
ポメラニアンの原産国はドイツだが、ドイツの人気犬種は日本とは反対で、男性的で逞しい犬が好まれる。そのためか、ポメラニアンはドイツではそれほど愛好されていなかった。
ところがイギリスで火がついた。18世紀にイギリスに渡ったポメラニアンの祖先犬は体重がもっと大きく、10kg前後の個体だったのだが、イギリスで注目されて小型化された。19世紀ヴィクトリア朝時代にはヴィクトリア女王の寵愛を受け、女王自ら1891年に開催された第1回目のクラフト・ショー(イギリス最大のドッグショー)にポメラニアンを6頭出陳し、犬種1席を獲得したとのこと。
女王陛下が手塩にかけて育てたお気に入りの1頭を、審査員が2位にジャッジできるものなのかという気もするが、いずれにせよポメラニアンは、ドッグショーの本場で華々しいデビューを飾ったわけだ。そしてそれ以降現在まで、欧米でショードッグとして確固たる地位を築いている。すなわちポメラニアンは、多数のジャーマン・スピッツを生んだドイツ最北部のポメラニア地方の名にちなんで命名されているけれど、小型に改良し、犬種を固定させたのはイギリスと考えていいだろう。
外国のファンシャーの間では「Pom」(ポム)という愛称で呼ばれたり、親愛の情を込めて快活な「パフボール」(ふわっとふくらんだボール)と呼ばれているそうだ。
現在の日本では、トイ・プードルやチワワ、ミニチュア・ダックスフントといった、ほかの小型愛玩犬の台頭により下火になった気はするものの、調べてみると近年の5年間(2009〜2013年度)の犬種登録数はいつも4位。つまり、数字が示す意味そのもので、
プードル (トイ・プードル)や
チワワ 、
ダックスフント (ミニチュア・ダックスフント)に次いで人気犬種だということである。これほどまでに長年にわたって、根強く日本人に好まれているポメラニアン。高度成長時代から、日本の経済発展をずっと見守ってきた犬に思えてくる。
外見
体高20cmが基本。±2cmはOK。体高と体長の比率は、体高:体長=1:1。毛がほわほわしていて、鞠(まり)のように丸くなっているから実際より大きく見えるが、シャンプーして全身が濡れたら、毛がぺしゃんこになって小さくなる。立っている姿がA4用紙におさまるほどの大きさかと思うと、本当に超小型犬なのだと実感する。
体重は1.8〜2.3kgが理想。
チワワ も、正しいスタンダードサイズは1〜2kgが望ましいとされるので、ポメラニアンはチワワとほぼ同等のおちびちゃんである。豊かな綿毛にくるまれているが、抱きあげると綿菓子のように軽い。ただし犬種スタンダードについて勉強していない繁殖業者が産ませている犬も多く、その場合は5kg近くありそうな大きな犬もいるので、迎える際には注意が必要である。
三角形でとがった小さな立ち耳が、頭部の高い位置についている。しっぽは中くらいの長さで、背中にしっかり背負うような位置に掲げ、これまたほわほわの豊かな毛で覆われている。尾先が2重巻きになっている個体もいるそうで、それもスタンダード内として許される。
ポメラニアンの魅力である被毛は、長い上毛と、短く厚い綿毛のような下毛の二重構造。頭部、耳、四肢の前面の毛は、短くて密に生えており、ベルベットのような柔らかい手触り。そのほかの部分はツルツルした豊かな長毛で、とくに首と肩は、たてがみのような豊かな毛で、また四肢の後ろ側にも飾り毛がある。さらに尾はプルーム(尾から垂れている長い飾り毛)があり、それをふわふわ揺らしながら快活に跳ねるように歩く。
本来はトリミング犬種ではないが、毛の手入れの手間を減らすため、あるいは別の可愛らしさを楽しむために、トリマーに依頼して短めの「サマーカット」にしている犬も見かける。短いと抜け毛が減ると思われがちだが、新陳代謝で抜けることには変わりなく、むしろ短い期間で、短めの毛がパラパラと大量に抜けるので、よけいに抜け毛が目立つことになりがち。
また、日本の夏は暑いから涼しいようにとバリカンで刈るほど短くされた犬もたまに見かけるが、むしろそれは逆効果。豊かな被毛は、人間でいう帽子や長袖の役目をして、太陽の直射日光やアスファルト路面の輻射熱をカットする役目をしているので、バリカン刈りされるとよけいに熱中症になりやすくなる。よかれと思った親心が仇にならないように留意しよう。
ちなみにトリミング犬種ではないのでカットの必要はなく、シャンプーも自分でやってもよいが、毛量があるのでドライヤーでしっかり乾かすこと。プロにシャンプードライをお願いするときは、だいだい5000円〜が相場。毛玉が多いと追加料金をとられることもよくある。サマーカットのようなデザインカットもお願いすると、7000〜9000円くらいのようだ。
毛色は豊富。普通ポメラニアンといえば茶色やクリーム色を思い浮かべる人が多いと思うが、ブラック、ブラウン、チョコレート、レッド、オレンジ、クリーム、オレンジ・セーブル、ウルフ・セーブル、ビーバー、ブルー、ホワイト、パーティ・カラー(2色の組み合わせ。ホワイト&ブラウン斑、ホワイト&ブラック斑など)、ブラック&タンなど実にいろいろ。セーブルとは、地色に黒い毛先が混じったもの。またビーバー色というのもポメラニアンならではの珍しい言い方。文字通りビーバーのようなブラウンや灰色の混じった色だ。
とにかくポメラニアンのボディカラーは実に多彩なのである。黒いポメラニアンを、ときにスキッパーキに間違えそうになったり、白っぽいポメラニアンを日本スピッツの子犬かと思うかもしれない。でもマズルの長さや顔つきをよくよく観察すれば、犬種スタンダードに沿った犬ならちゃんと見分けられる。
ただし白は白でも、アルビノ(被毛や皮膚は白。目は血管を透過して赤色に見える)は失格となる。たとえ白い被毛でも、唇や鼻の色はブラックでないといけない。被毛がブラウンの場合は、ブラウンの唇、ダーク・ブラウンの目の色が認められる。
毛色
なりやすい病気
遺伝性
膝蓋骨脱臼(パテラ)
遺伝性てんかん症
レッグペルテス症
動脈管開存症
停留睾丸
先天性
その他
魅力的なところ
毛糸玉のようなふわふわした毛並みで、愛らしさ抜群。
ちょっと勝ち気で明るいおきゃんな性格。飼い主の言うことは割ときく。
知的好奇心が強く、遊び好きで、いろいろ芸も覚える利発な犬。
自分でシャンプーとブラシができる人は、トリミング代は不要。
小さいが強気で警戒心が強いので、アラームドッグの役目を果たす。
小さくても活発な犬なので、散歩は大好き。散歩のお伴によい。
軽いのでキャリーバッグでの移動も可。新幹線や電車など公共交通で旅行・帰省ができる。
大変なところ
鼻っ柱が強い。大きな犬にも負けじと吠えかかる。
子供を噛む気質が強い。甘噛みも多い。犬の扱いができない子供との同居は難しい。
骨関節が弱く、華奢。脱臼や骨折には注意。階段やジャンプは避ける。
警戒心が強く、敏感によく吠える習性あり。集合住宅では厳しいかも。
散歩に行かず、社会化させない生活をしているとますます神経過敏で吠える犬になる。
イタズラ好きなので、超小型犬と思って油断しているといろいろ物を破壊される。
アンダーコートの毛量が多く、もつれやすい。手入れの好きな人向き。
超小型犬だが、抜け毛はそれなりに目立つ。
骨関節や心臓の遺伝性疾患がある。親犬の健康状態が分からない店で買うのはリスクが高い。
まとめ
愛らしい、きかん坊。小さくてもちゃんと犬として扱うこと
極小サイズなので、引っ張り癖で困るとか重たくて困るという問題もなく、チャーミングで明るい性格で、しつけもちゃんと入る芸達者な犬。コンパニオンとして改良された歴史が長いので、家庭犬として飼うのはそれほど大変な犬ではない。
ただ、忘れていけない点は大きく2つ。
1)咬みやすいこと
2)吠えやすいこと
咬み癖は、多くの犬種の中でもトップクラスとのデータがある。抱っこしようとする子供の手を咬んだり、高齢者が部屋の隅に追い詰めて捕まえようとすると咬まれたりしやすい。超小型犬なので、人間の子供サイズでも、動きがのんびりなお年寄りでも、十分恐怖の対象なのである。犬をぬいぐるみ扱いしてしまう子供のいる家庭、チョコチョコと駆け回る犬に機敏に対応できない高齢者にはあまりオススメできない。
ただ、トレーニングをすれば、ちゃんと呼べば来るし、呼んで目の前にオスワリさせてリードをつければ、咬まれるようなことはない。要は、トレーニングと信頼関係がキチンと出来ていればよい。
また子犬時代の甘噛み(軽く人の手や指を咬むこと)を許していると、成犬になってもその癖が抜けず、よく咬む犬になることもある。子犬のうちは小さくて愛らしいので、しつけをしなくてもいいと思ってしまう人がいるが、やはりポメラニアンも「犬は犬」。「ダメなことはダメ」と一貫性を持ってしつけることは欠かせない。同じスピッツ系の日本犬を飼うのと同じような気持ちで育てることが大切だ。きちんと教えれば、利口な犬なのでちゃんと理解でき、賢き小さな良き伴侶となってくれる。
またお座敷犬扱いをして、散歩に行かないような育て方をしていると、当然犬もストレスがたまり、無駄吠えや咬むなどの問題行動に転化しやすい。外の世界をたっぷり見せて、脳にも刺激を与え、社会性を養う社会体験もとても大事だ。
ポメラニアンは、登録頭数の人気ランキングが長年上位であるにもかかわらず、外を散歩する姿を見かけることが少ない気がする。やはりちゃんと犬として認め、犬としての生きる悦びを与えることが、犬の心身を健全に育て、かつ飼い主とのよい関係を作ることにつながる。
吠え癖がなかなか矯正しにくい。鳴き声が問題となる住環境は避ける
超小型犬だが、警戒心が強く、勇気もあり、意外によきアラームドッグになる。番犬として活躍する日本犬とポメラニアンは、親戚筋と思えば想像してもらえると思うが、ポメラニアンは吠えるのが得意な犬なのだ。しかも小型犬特有の興奮しやすさも兼ね備えているので、キャンキャンとよく鳴く。よく言うと「陽気でよく喋る犬」なのだが、人によっては「すぐ興奮する、うるさい犬」と感じてしまう。
そもそもどの犬種でも、多かれ少なかれ吠え声や足音などはするので、犬飼育禁止の住居で飼うのはもってのほかだが、「ポメラニアンは小さいからバレないかな」などと夢にも思わないでほしい。犬飼育OKの場所でも、鳴き声が問題となりそうな住環境の場合、ポメラニアンを選ぶのは心配だ。逆に、大きな庭があるような家で、大型犬の番犬を飼うには自信がないといった飼い主さんが、アラーム(警報機)代わりにポメラニアンに働いてもらうのは向いている。泥棒と闘うパワーはないが、アラームとしては大いに貢献してくれるだろう。
元気すぎる子供、腰の痛い年配者にはオススメできない
やんちゃな子供のいる家庭だと、犬もよけいに過敏になり、興奮しやすい性格が強まりがちである。よって、よけいによく吠える犬になることが多い。また骨関節の遺伝性疾患があり、脱臼も多い犬なので、子供が抱っこしようと無理な体勢にしたり、落下させたりすると、骨折・脱臼をしやすいので要注意だ。無理強いすると、咬まれる可能性もある。
反対に、落ち着いた大人の家庭で飼われているポメラニアンは、しっかりとしていて落ち着いた性格に育っていたりする。犬の性格を形成するのは、遺伝半分、環境半分なのだ。
ただ、穏やかなご年配の方が飼うのはそういう点では向いているし、そうはいっても超小型犬の運動量やパワーなので、お年寄りののんびり散歩のお伴にはちょうどいいとも言える。
しかし、とても活発ですばしこい犬だということを忘れてはいけない。しかも体高が低いので、捕まえるときは、腰をかがめて無理な姿勢を強いられる。それがご年配の方にしんどいという声も多い。なまじ、
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル のような、ほどよい体高のある柔和な犬の方が、高齢者の伴侶には向いているかもしれない。小さければ小さいほど飼いやすいと思ってしまうのは、結果的に間違っていることが多いのでよく考えよう。
ふわふわパフボールのダブルコートの手入れは丁寧に
体表面積が小さいからその分ブラッシング時間は短縮されるし、オーバーコートはツルツルしているのでそれほどホコリや葉っぱをからめてくる毛でもないから、一見毛の手入れは楽そうに思えるかもしれない。しかし体がボールのように丸く見えるほどアンダーコートが密で豊富につまっている犬だから、思ったよりも大変だ。毛量がたっぷりあるアンダーコートは柔らかいので、もつれやすい。きちんと櫛を入れないと、フェルト状にかたまってしまうこともある。毛の根元から丁寧にブラシをかけることが重要で、毛玉にならないよう、ブラッシングは毎日行う。
また、気が強く、自尊心も高く、警戒心が強いので、子犬の頃からグルーミングに慣れていないと、体に触ろうとしたら怒って咬みつく犬もいる。そういう犬に育てないように、「まだこんなにチビのうちはブラシは必要ないかな」などと思っても、ブラシやコームで体を軽く撫でたり、敏感な足の先やお腹やマズルなどを触る練習を、小さいときから少しずつ毎日しておこう。「グルーミングは楽しい時間」「飼い主とのハッピーなコミュニケーションタイム」だと犬に感じてもらうようになっていれば、成犬になってからのグルーミング・タイムが楽になる。
遺伝性疾患もあるし、犬種サイズに乱れがあるので、よいブリーダーを探す
ポメラニアンは、ペットショップの定番の犬である。しかし、ポメラニアンも犬は犬である。健全な犬であることがいちばんだ。遺伝性疾患は、親犬が交配前にきちんと検査をしていれば、減らせる病気である。でも金儲けの手段として繁殖させる繁殖業者やパピーミル(子犬工場)は、ポメラニアンの犬種の未来のためのことなどは微塵も考えていないので、わざわざお金をかけて親犬の健康管理をしたり、遺伝子検査をするはずがない。犬は売りっぱなしなので、親犬や親戚犬の病気のデータを蓄積する必要もないし、性格の安定性などを考慮して繁殖計画をする気もない。
そういうところで産まれた子犬を買うのは、非常に心配である。また、ポメラニアンに限らず超小型犬種に多いのは、純血種としての血統書がありながら、びっくりするほど規格外に大きく成長することがあるということだ。またポメラニアンの場合、毛ぶきが貧相すぎる犬もいて、犬種スタンダードからかけ離れた外貌の犬に成長することもある。
ポメラニアンが大好きで、なるべく健康で長生きしてくれる犬、成犬になってもポメラニアンらしいサイズと顔つきの犬、明るくチャーミングなポメラニアンらしい性格でありつつ、なるべく過敏ではない犬を望むなら、ペットショップやホームセンター、イベント販売、ネット販売などで安易に衝動買いはしないで、ちゃんとポメラニアンを心から愛して繁殖をしている正しいブリーダーから購入することを勧める。その際は、親犬に使う繁殖犬の遺伝性疾患の検査は何の病気について実施しているかなども質問してみるとよい。きちんとポメラニアンについて考えている正しいブリーダーであれば、誠意を持って答えてくれるはずだ。
一方、ポメラニアンはペットショップなどで陳列されていることが多いため、前知識もなく購入されてしまうことも残念ながら多い犬種。そして結果、捨てられてしまうこともある。小型犬の寿命は比較的長い。一度迎えたら、この先15年は一緒に暮らす命だと胆に命じて、きちんと予習して、覚悟をして家族にしてほしい。
このページ情報は,2014/11/10時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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