図鑑
ローデシアン・リッジバック
強烈な強さと瞬発力を持つ、
ライオンにも挑む「背中にヘビのついた犬」
英名
Rhodesian Ridgeback
原産国名
Rhodesian Ridgeback
FCIグルーピング
6G セント・ハウンド
FCI-No.
146
サイズ
原産国
特徴
歴史
唯一のアフリカ大陸の南部出身の公認犬種。ローデシアとは、アフリカ南部にあった旧イギリスの植民地の地域の名称。現在、北ローデシアは1964年にザンビアとして独立、南ローデシアは1980年以降、ジンバブエとなった。
入植したヨーロッパの白人たちが、アフリカの土着の犬とヨーロッパから連れてきた犬を掛け合わせてつくった強い犬が、このローデシアン・リッジバック。数あるセント・ハウンド(獣猟犬)の中でも最も勇猛な犬種の1つである。別名は「ローデシアン・ライオン・ドッグ」や「アフリカン・ライオン・ハウンド」など。呼び名のとおり、アフリカ南部で、ライオン狩りに使うために改良された獣猟犬だ。
なんといっても特徴は、背中(back)に、尾根のように隆起している、逆立った一筋のうね(ridge)があること。地元では「背中にヘビのついた犬」と呼ばれることもある。なんともワイルドな呼び名だが、この犬の身体的特徴とともに精神的特徴も示している気がする。この名前のように、毒蛇のような強烈な強さと瞬発力を秘めた犬だ。
先祖犬は、アフリカ南西部に暮らしていた遊牧民族コイ人(ホッテントット族)がもともと持っていた、古くからいた逆毛の犬がベースにあるとされる。その土着の犬は、少なくとも16世紀には存在が確認されていた。17世紀になってヨーロッパからの入植者がやってきたが、そのとき白人達は半野生のような土着の犬を撃ち殺していたという。しかしその後、オランダ系の移民が、土着の犬はアフリカの風土に強いので、殺すのではなく、自分たちが連れてきた犬と交配させて、アフリカの大地に馴染む、作業意欲の高い犬を作り出すことにした。
ブラッド・ハウンドをはじめとするさまざまなセント・ハウンド(獣猟犬)や、イングリッシュ・マスティフやブレンバイザー(ボクサーの先祖犬)などのマスティフの仲間、とくに
グレート・デーン の血が入れられた。リッジバックのフォーンのような色や、黒っぽいマズルや耳、そしてスラリとしなやかな体つきは、フォーンの色のグレート・デーンを彷彿させる。ほかにポインターの血を入れたという説もある。
こうした改良から、アフリカにいる大型獣を追い込んで噛み止めすることのできる、大型で勇猛なセント・ハウンドが誕生した。ヨーロッパの犬からは大きなサイズと嗅覚を使ったハンティング技術と猛々しさを譲り受け、アフリカの土着犬からはスピードとアフリカの風土に適した適応力、病気に対する抵抗力、そして独特な背中の逆毛を受け継いだと考えられる。
当初は、入植者にとって防衛のために必要だったのか、人間を襲うこともあるカバやゾウといった大型の草食獣を狩る仕事をさせていたようだ。その後、リッジバックはその勇猛な才能を買われて、ライオンやヒョウなどの大型肉食獣を狩るトロフィー・ハンティング(剥製などの戦利品を持ち帰る娯楽色の強いハンティング)のお伴として人気がでた。通常、3頭以下のリッジバックを1パックで使ったらしい。2〜3頭の犬が、5頭ほどのライオンに群れにも臆することなく向かっていくという。「ライオンにケンカが売れるのは、リッジバックとマサイ族だけ」という逸話もあるくらいだ。
1920年代になって、きちんとした犬種の確立を目指す動きが起こり、1922年、ローデシアで最初のスタンダードが起草された。それはなぜかダルメシアンのスタンダードに基づいたものであった。そして1926年、南アフリカ・ケネル・ユニオンによってそのスタンダードが承認された。
ちなみに逆毛のある犬種は、このローデシアン・リッジバックのほかに、タイ原産のタイ・リッジバック・ドッグや、タイランド湾に面するベトナムのフーコック島にいる未公認犬種フーコック・ドッグがいる。かつてはこうしたタイ近くの犬が海洋商人によってアフリカに連れてこられたのではないかという説もあったが、それは近年の遺伝子検査により否定されている。タイ周辺とアフリカのそれぞれで、逆毛の因子を持った突然変異の犬がたまたま誕生したのだろう。
しかし、この逆毛の因子が「類皮洞疾患」という先天性の病気を引き起こすことが近年明らかになった。背骨の逆毛に沿って多数のこぶのようなもの(=類皮洞)ができ、そのこぶが感染を起こすと背骨が痛んだり、硬直したり、発熱したりし、ひどいときは命の危険もある病気だ。
実はローデシアン・リッジバックは、ときどき逆毛のない犬も産まれる。でも逆毛のない犬はスタンダード外とされ、安楽死されることがいまでも多い。でも逆毛のないリッジバックは類皮洞疾患にはかからないことが分かっている。
犬種のスタンダードを守ること(=逆毛のある犬しかローデシアン・リッジバックとして認めない)が、病気のリッジバックを産ませることになっているこの問題について、イギリス等で近年話題となっているが、保守的なショードッグ界ではまだ改善の様子はない。これから本犬種の飼育を希望するならば、この問題について真摯に向き合うことが必要だろう。
さて、堂々たるローデシアン・リッジバックは、ヨーロッパ、アメリカではショードッグやコンパニオンとして人気があり、日本よりはポピュラーである。欧米のショー系やコンパニオン系の血統の方が、現在もアフリカで現役の獣猟犬やガードドッグとして仕事をしている血統よりも日本で飼うならまだ扱いやすいと思われる。
日本に輸入されたのは1990年代はじめ頃。残念なことにこの犬種をめぐって当時「珍しいアフリカの犬の子犬をたくさん産ませたら儲かる」と高額な値段で売りつけたモラルのないペット業者がおり、連続殺人事件にまで発展してしまった過去がある。日本の犬界の暗部を見るような事件であった。
これはもちろんローデシアン・リッジバックは何も悪くないが、レアな犬種だからと欲しがる風潮が生んだ悲劇といえる。「珍しいアフリカの犬」「ほかの人が飼っていないから自慢」などの理由で欲しがる人は、リッジバックの飼い主としてふさわしくない。こうした悲劇が二度とないように、私たちはモラルのある飼養者にならねばならない。
外見
背骨に沿ったリッジ(逆毛)が、この犬の一番の特徴。俗名「背中にヘビのついた犬」に、思わず納得。光沢のある赤みがかった毛、筋骨たくましいボディ、百獣の王ライオンにも負けない力強い外貌と物事に動じない堂々とした表情をしており、実にカッコイイ。大型のセント・ハウンドのがっしりとした胴体と、グレート・デーンなどから受け継いだであろうスラリと長くて頑丈そうな四肢など、セント・ハウンドとマスティフ系の両方のいいところをうまい具合にミックスしたような体つきをしている。頭部も同様に、ダルメシアンと耳の垂れたグレート・デーンの中間のような形状に思える。
体高は、オス63〜69cm、メス61〜66cmが理想。
ダルメシアン よりひとまわり背が高く、
ドーベルマン より少し小さいのがスタンダード。体重は、オス36.5kg、メス32kgが理想。これもダルメシアンより少し大きく、ドーベルマンより少し小さめ。でも日本で見かけるリッジバックは、40kg以上あるタイプが多い気がする。
ちなみにAKC(アメリカン・ケネル・クラブ)のスタンダードは、体高はFCIと同じで、体重はオス39kg、メス32kg。オスの体重の基準は3kgくらい大きいが、それほど差はない。本来のリッジバックは、ドーベルマンより小ぶりなのだ。
スカル(頭の鉢)はかなりの長さがあり、平ら。両耳の幅は広い。耳と耳の間の長さ(ヨコ方向):スカルの長さ(タテ方向):マズルの長さ=1:1:1。等しい長さだ。
おでこに皺があるのも、味わい深い本犬種の特徴。ただ休息時にはこの皺は見られない。
目はほどよく離れ、丸い。目の色は、鼻がブラックの場合は目はダーク(暗色)、鼻がブラウンの場合は目はアンバー(琥珀色、赤茶色)。耳は中くらいの大きさで、付け根はかなり幅広く、付き位置は高くつく。
首は長く頑丈で、ブラッド・ハウンドにあるデューラップ(首のたるたるの皮膚)より少なめの、スローティネス(喉の下のたるんだ皮膚)もない。
胸は幅広すぎてはいけないが、とても深くて広々とした胸。前胸は肘まで達する。あばらはほどよく張り、樽胴ではない。つまりラブラドールのような樽型の胴体ではなく、少しウエストが切れ上がっている。
しっぽは、ほどよい長さで、先端に向かってしだいに細くなる。上方に向かってわずかなカーブを描いて保つが、カールはしない。
最大の特徴であるリッジ(逆毛)は(先天性疾患のことをひとまず置いておいて、犬種スタンダードのルールとしては)、はっきりした逆毛が必須。肩の後ろあたりから、寛骨(かんこつ:腰の骨)あたりまで続き、尻に向かって少し細くなる。
リッジの平均的な幅は5cm。リッジは左右対称で、2つのクラウン(逆毛のうねりの起点であるつむじ)があり、そのクラウンは同一サイズで正反対に位置すること。クラウンの下端はリッジ全体の長さの3分の1以上に伸びてはいけない……とこのように、スタンダードには理想とするリッジの細かい規定がある。
しかし、これはショーで勝つ犬の基準。実際の犬達は、つむじが片方だけだったり、リッジの長さが短かったりする犬も多く存在するし、さらにいえば、リッジのまったくない犬もたまに産まれる。純血のリッジバックでありながらリッジのない犬は安楽死されるケースが多いが、リッジのない犬は類皮洞疾患にならないことが分かっており、犬種の健全な保存のためには、リッジのない犬の遺伝子が重要なのかもしれない。リッジに固執する(=病気の犬を増やす)現在のスタンダードが今後、獣医師などの遺伝子の専門家の助言を得ながら動物福祉の観点からどう改正されていくのか注目される。
被毛は、短く密生した滑毛(スムースヘア)。なめらかで光沢であり、赤みがかったつややかな被毛は、堂々たるライオンを思わせ、名前の由来はこっちかと勘違いしたくなるほど美しい。
アンダーコートは基本ないとされるので、アンダーコートのあるタイプの滑毛種より抜け毛は少ないと思われるが、それでも短い針のような毛は抜ける。ブラッシングはラバーブラシや豚毛ブラシなどで週2〜3回行う。
シャンプーは簡単。体の大きな犬であっても、洗うのや乾燥が手早くできるのは滑毛種の魅力。
下痢のときでも毛に付くなどの苦労はない。
ただし爪切りや肛門嚢絞り、耳掃除は定期的に必要なので、やり方が分からない場合は獣医師やブリーダーから教えてもらっておくこと。
被毛色は、ライト・ウィートン(明るい小麦色。淡い黄色やフォーンの毛色と類似)からレッド・ウィートン(赤っぽい小麦色)。胸および指趾(前後肢の指)に見られるわずかな白は許されるが、胸、指趾、腹、指趾の上部に過度に白毛があるのは望ましくない。ダークな(黒っぽい)マズルと耳はOK。でもボディ全体に過剰に黒毛があるのは極めて好ましくない。
毛色
なりやすい病気
遺伝性
先天性
その他
甲状腺機能低下症
類皮腫洞
アレルギー性皮膚炎
肥満細胞腫
胃捻転
二分脊椎
魅力的なところ
肉体的にも精神的にもタフで強い。頼もしい。
運動性能も高く、タフ。体育会系飼い主向き。
野性味があり、意志も強固。それだけに玄人向き。
他人にはつれない(基本、他人は信用しない)。その分飼い主への忠誠心が高い。
聡明で賢い。犬から信頼を得られれば、トレーニング性能は高い。
独立心があり、堂々としている。分離不安になりそうにない。
せわしくない。敵が来なければ、基本静か。
自然体で、自由を愛する、とてものびやかで美しい犬。
本能的な防衛心が強い。特に訓練しなくても有能なガードドッグ。番犬が欲しい人向き。
毛の手入れは楽。
大変なところ
頭はよいが、自主性が高いので、しつけは難しい。
犬に尊敬される強い飼い主になれるか。犬にバカにされたらアウト。ビギナーには難関。
タフで命知らず。その精神的・肉体的強さをコントロールできるのは玄人のみ。
怪しいものには徹底的に厳しい。攻撃もする。制御は一筋縄ではいかない。
不審者などは噛み殺すほどではなくちゃんと手加減するが、洋服くらいは破く。
犬らしくニコニコ顔で従順に振る舞うことはない。一般的な犬らしさを希望すると違う。
野山を1日走っても疲れを見せない。毎日、膨大な運動をさせること。
広大なお庭や敷地のパトロールが生きがい。住宅密集地では過剰防衛する可能性大。
「珍しいアフリカの犬」扱いで値段が高額なことも。
ブリーダー数が少なく遺伝子プールも乏しいので、日本でよい犬を探すのは難航する。
血統によってはとても攻撃性の高い、家庭犬として手に負えない犬がいる可能性がある。
野性味が強く、食べ物に対する執着心や領土防衛などの本能が強すぎる犬もいる。
家族の中でも、犬が認めない人には唸ったりする可能性あり。
リッジ(逆毛)の遺伝子を巡り、犬種の健全な未来に暗雲が立ちこめている。
まとめ
「弱い犬ほど吠える」の真逆。精神的にも肉体的にも強くたくましい
リッジ(逆毛)で有名な犬だが、そうした威風堂々とした外貌もさることながら、その強く淡々とした性質も実に魅力的な犬。いざというときは電光石火のごとく動いて、ライオンにも飛びかかり対等に闘ってしまう、精神的にも肉体的にも「命知らず」な最強の犬なのだが、普段はとても物静かなのだ。
通常、弱く神経質で臆病な犬ほどよく吠え、先に威嚇するものだが、リッジバックはそれとは正反対。物事に動じない。「我関せず」という風に、のんべんだらりと横たわっている時間が長い。まるでおなかいっぱいのときのライオンが、草原でゆうゆうと寝転がっている様にも似ている。
飼い主に対する反応も、犬らしい愛嬌は見られない。飼い主が近づいたらゆるくしっぽは振るけれど、はしゃいで歓待するタイプではない。表情もリラックスしているのか、ストレスを感じているのか分かりにくい。しっぽをぶんぶん振って全身で喜びを表現するような「犬らしい犬」とは違う。どちらかと言うと「猫っぽい」とリッジバック・オーナーは言う。
なんとも普通の犬とは違う魅力が満載。この落ち着いた犬は、信頼した飼い主には徹底的な忠誠を誓う。飼い主の横を静かについて歩き、また飼い主に「ここで待ってて」と言われたら黙って静かに長時間でも待つ。忍耐強く、環境適応能力もある。それは自分の強さに絶対的自信があるからではないかと思う。
その代わり、飼い主以外はそう簡単に信用しない。また飼い主が信頼できるか、忠誠を誓うに値する器なのかは犬が決める。一貫性のない飼い主の言うことには耳も貸さないはず。それは飼い主家族内でもそうである。お父さんの言うことには絶対服従でも、お母さんや子供のコマンドは完全無視、というケースもある。実に手強い。一筋縄ではいかない。簡単に飼養できる犬ではないので、経験や覚悟もなしに欲しがってはいけない。玄人向けの犬だ。なにしろこの犬が本気を出したらライオンにも勝ってしまうような犬なのだから、社会的責任も大きい。
そのうえこの犬種の日本での飼育の歴史はごく短いから、まだ未知数の部分が多い。
ドーベルマン やロットワイラー、
ジャーマン・シェパード・ドッグ のような一般的なガードドッグ達とは何かが根本的に違うアフリカの野性味あふれる血が流れているから、普通の訓練士やトレーナーによる矯正訓練、陽性トレーニングなどによって、すんなり効果が上がるかどうかよく分からない。
この犬種のトレーニングが得意なプロは、日本にまだほとんどいないと考えていた方がよいだろう。つまり通常の犬種であれば「困ったことがあったらトレーナーや獣医師に相談をしてください」という話で済むが、リッジバックは他人に相談しても、そう簡単に問題や悩みが解決できない可能性がある。よって、ほかの犬種以上に飼い主自身の経験値、犬の行動に対する理解度、愛犬を観察する力などが重要になってくる。
犬のトレーニングに長けており、かつ性格的に強いマスティフ系の犬の扱いにも慣れており、かつ獣猟犬のパワフルな運動量を満たすことのできるアクティブな人にとっては、最高に骨のある面白い犬。反対に「アフリカからやってきたエキゾチックなリッジのある珍しい犬だから飼ってみたい」などと軽く考えている人にとっては、最も飼い犬に手を咬まれる(=反抗され、害が生じる)可能性の高い犬といえる。
趣味は定期的パトロール。教えなくても根っからの最強ガードドッグ
日本ではほとんど見かけることができず、また会えたとしても、淡々と静かに散歩している姿が目撃できる程度なので、実際、家ではどんな風なのか、さらにいえば本場のアフリカではどんな犬なのか、まだ情報が少ない。今回、80年代に本場ザンビアに獣医師の父と共に海外赴任して、4頭のリッジバックと生活していた人に話を聞くことができた。
「治安が悪いので、邸宅には鉄格子のついた塀、門番がいる暮らしで、犬は番犬として必需品だった」。敷地の広い邸宅の場合、番犬を複数頭飼うことがポピュラーで、リッジバックはアフリカの風土にも強く、病気になった記憶もないくらい丈夫なので適役。リッジバック4頭は、1日数回、だいたい決まった時間に「トットットットッ」という駆け足程度の速さで敷地内をぐるっとパトロールするのが日課だったという。そのほかの時間はダラダラと寝転がって過ごしていたらしい。
でも部外者にはかなり厳しい。ホームパーティなどの来客時、クルマが来るとものすごく吠える。そして家族がお客様を出迎えると威嚇は終了し、あとはお客様を無視(愛想は振らない。攻撃もしない)。しかし、万が一何かあったら(お客様が突然強盗になったりでもしたら)すぐ攻撃できる距離になにげなくいる。天性のガードドッグだ。
嫌い/怪しい、と一度思われた人は徹底的にマークされる。「住み込みの庭師はとくに憎まれていた。カマやハサミを持っている仕事のせいか、すごく怪しまれていた」。少しの挙動ですごく吠えかかり、庭師が背中を向けたとたん吠えずに、いきなり襲いかかる。オス犬の方が過敏に攻撃をしやすかった(攻撃性や防御本能が高いせいだろう)。「ただ本当に噛むほどではなく、犬はちゃんと手加減していました。服を破くくらい(笑)」。でも日本だったら、犬はセーブしているつもりでも、「凶暴な犬だ」と保健所に通報されるかも。
リッジバックはどの国に行ってもリッジバックなのだが、飼われる国が違えば、価値観や文化が違うので、犬は悪者扱いされる可能性がある。アメリカでショードッグやコンパニオンとして改良された血統であれば、もう少しマイルドな性質になっている可能性は高いが、本来の犬の血筋としてはこういう仕事をしていた犬であるという覚悟はしておいた方がよい。
「頭はいいけれど、しつけは難しい。飼い主がバカにされたらアウト。飼い主は、怒るときはしっかり怒り、主従関係をはっきり教えておかないとなめられる」という。そのかわり、親分と認めた飼い主にはとても忠実。「犬も主従関係を重んじている」。そういう関係ができていれば、決して裏切らない最高の伴侶となる。
野性的な本能が強い
前述のアフリカ滞在の人の話によると、リッジバックはよくトカゲやカメレオンなどの小動物を狩ってきては、ピクピクと半死状態になるまでいたぶったり、それを飼い主の横にリトリーブしてきたという。狩猟本能の強さを感じさせる。
そのアフリカのお宅にはプールがあったが、犬たちは泳ぐのは嫌いだったという(同じくアフリカ原産の
バセンジー も水は苦手)。でもある日、ブラックマンバ(アフリカ南部・東部に生息する、世界で最も多くの人命を奪った毒ヘビ。体長4mほど)がプールで泳いでいるのを発見したリッジバックは、ワンワン吠えて、大騒ぎしてお父さんを呼びに行ったという。初めて見るのにブラックマンバは危険だということを本能的に知っているような行動だった。ライオンや強盗には臆することなく攻撃できるのに、ブラックマンバには飛びかからない。野生のカンがいい。
ちなみに「興奮すると、背中の逆毛がバリバリッとよけいに逆立つ」という。ぜひ一度見てみたいが、その強烈に逆立った逆毛を安全な立場で見るためには、この犬の主人にならないと難しい。
犬らしい「ニコニコ顔」はたまにしかしない
飼い主が帰ってきたら、しっぽをゆるく左右に振りながら、タッタッタと小走りで寄ってきてお出迎えしてくれるし、呼べば来る。でも、ベタベタはしてこない犬で、どちらかというと「猫のよう」。そばにはいるけれど、しら〜っとしているという。それはオスでもメスでも同じ。「お帰りなさいっ!」としっぽをぶんぶん振ってニコニコ顔炸裂で歓待してくれる、普通の犬とは違うので、感情表現が乏しいと感じるかもしれないが、ベタベタしてくるうざったい犬は苦手という人にはほどよい距離感を保てる心地よい関係といえる。
でも、困った顔、訴える表情はちゃんと分かるという。どういうときに困った顔をするのか聞いてみると「頼み事があるとき」。たとえば「大きな骨の髄が食べられないので、これを割って」とか「アフリカには耳の肉を食べるハエがいる(皮膚の内部にハエの幼虫が寄生し、しこりができ、腫れたり、痒みを伴う)んですが、その虫をとって」など。肝っ玉の相当座った犬だけに、かなりワイルドな悩みのときしか困った顔はしないらしい。
運動性能も高い。ものすごくタフ。運動管理もしっかりと
当然ながら運動欲求量も高い。脚側歩行(飼い主の足のそばについて歩くこと)を教えれば、リードを引っ張ることもなく、賢くお散歩のお伴をしてくれるが、しかしその状態は犬にとっては訓練モード、仕事モード。ずっと仕事モードのままでは犬も気の毒。また人間の歩く速度ではとうていリッジバックの運動欲求を満たさない。
プールがあるような大邸宅で、高い塀に囲まれた敷地があり、犬が駆け足でパトロールできる環境ならともかく(それでも社会化のために、敷地外での散歩は必要である)、一般的な日本の住環境で飼育するなら、やはりドッグランなどの広い場所でしっかり運動をさせてあげることが大切。どんなにしっかりトレーニングが入っている聞きわけのよい子でも、犬は犬。自由に駆け回り、葉っぱなどのニオイを嗅ぎ、はしゃぐ時間を与えることが必要。そうすることに心の健康が保たれ、また美しい筋肉もつく。
しかし他犬への攻撃性がある場合は、ほかの犬が遊んでいるドッグランに放すのは問題が勃発しやすいので避けるべき。誰もいない時間帯に行くとか、貸切ドッグランで遊ばせるとか、自転車引き運動を取り入れるなど、愛犬の運動欲求を満たす努力と、ほかの犬や人に迷惑のかからない手段を模索する必要がある。これがけっこう苦労する。飼い主は頑張るしかない。
ちなみに一般的に、メスよりオスの方が、攻撃性やテリトリー意識は低く、運動欲求量も低めではある。どうしてもリッジバックが大好きで飼育してみたいのだが、果たして自分で飼育可能か自信がないときは、オスよりもメスの方を検討するとよい。血統差、個体差ももちろんあるが、オスのリッジバックと暮らしたいなら、相当の覚悟と体力が必要だ。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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