図鑑
スコティッシュ・テリア
気難しく強情でドライで、だけど忠誠心もある。
テリア道を極める「ダイ・ハード」
英名
Scottish Terrier
原産国名
Scottish Terrier
FCIグルーピング
3G テリア
FCI-No.
73
サイズ
原産国
特徴
歴史
日本ではあまり歩いている姿を見かけないが、スコッチ・ウィスキーのブランドである「ブラック&ホワイト」のラベルの犬といえば思い出す人もいるだろう(ちなみに黒い方が本犬種。白い方は同じスコットランド出身のウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア)。スコティッシュ・テリアは、ディズニー映画の
「わんわん物語」 に登場していた、物知りのジョックとしても有名。生真面目なジェントルマン的な存在感は、まさに本犬種のイメージどおりだ。
スコティッシュ・テリアは、通称「スコッチ」とか「スコッティ」と呼ばれる。スコットランドが誇る犬だ。でも昔は、一口にスコットランドのテリアといっても何種類もいたので、どの犬が真の「スコティッシュ」の名に値するか、かなり揉めたようだ。
この犬は、1879年にスコティッシュ・テリアと正式に命名されるまでは「ハードコーテッド・スコティッシュ・テリア」、「ダイ・ハード」(「頑強に抵抗する者」「不死身野郎」!)、「ワイヤーヘアード・テリア」、「アバディーン・テリア」などと呼ばれていた。
ともあれ、粗い被毛に覆われて長い眉毛とあごひげをたくわえた、このごつい風貌のテリアが、栄えあるスコティッシュの名を名乗ることとなった。ケアーン・テリアや
ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア と同じ、スコットランドのハイランド出身だ。コンパクトで短足の、丸くがっしりしたボディのワーキング・テリアを先祖にしており、農場で害獣となるネズミなどの小動物を退治するのが仕事で、アナグマ猟やカワウソ猟にも用いられていた。
ワーキング・テリアとして最も活躍していた時代には、獲物を捕るのに際だった才能があると重宝された。その頃「ビリー」という名のスコッチは、「100匹のネズミを何分で殺せるか」という賭博のゲームで、わずか7分でゲームクリアするという記録を打ち立てたという。恐るべき実力。素晴らしき才能である。
この血気盛んなネズミ殺しの天才は、次第に、洗練されたサロンで紳士淑女にもてはやされるようになる。1930年代には、国家指導者のペットとして人気だった。アドルフ・ヒトラーは愛人エヴァ・ブラウンに2頭のスコッチを贈り、また元アメリカ大統領のフランクリン・ルーズベルトは、ホワイトハウスでスコッチを1頭飼っていた。そうしてハイソサエティー犬の仲間入りをしたせいか、1940年代には世界的に流行した。
日本では、渋い風采で見た目も心も浮ついていない犬のせいか、日本人が一般に好む流行しやすい犬とは違うようで、欧米ほどポピュラーではない。しかし、このテリアの元祖といえるような犬は、日本でも地道に長くしっかりとスコッチ・ファンシャーに愛されている。
外見
がっしりとしたボディの、地中に潜るのに適した小型テリア。短足のせいか、ちょこちょこした歩き方をするのが特徴で、憎めない可愛さがにじむ。
また体のサイズの割に頭部が長い。頭でっかちな感じがこれまた不思議なバランスで愛らしい。でも頭部は長いけれども、バランスが悪いわけではなく、この絶妙な風貌が個性的で味わい深い。
アーモンド形のダーク・ブラウンの目は、眉毛の下に隠れ気味。眉毛とあごひげがこの犬の渋い味を醸し出す。耳は、先端のとがった直立耳。尾は付け根が太く、先端に行くほど先細る。耳もしっぽも、気丈で好奇心の強いテリアらしく、ぴしっと立っている。
体高は25.4〜28cm。体高(地面〜肩甲骨のいちばん高い位置)は、犬種スタンダード的にはケアーン・テリアやウエスティとほとんど変わらないか、スコッチのほうがやや低め。しかしスコッチの体重は8.6〜10.4kg。ケアーンの体重が6〜7.5kg、ウエスティが7kg前後なので、体重的にはスコッチのほうが少し大きい。毛に覆われていてよく見えないが、スコッチのほうがよりしっかり詰まったボディでごつい体をしているのか、それとも頭部が大きいせいなのか。
体重10kg近くあるスコッチは、抱っこして集合住宅の廊下を移動したり、キャリーバッグに入れて動物病院に行ったり、新幹線に乗って帰省するのは、頑張ればできなくもないが、ぎりぎりのサイズである。ただし体高は低いので、リビングで邪魔になる感じはしない。体のボリュームはコーギー程度と想像するとイメージしやすいかも。
毛質はダブルコート。短く、密で、柔らかいアンダーコート(下毛)があるので、多少は抜け毛がある。「テリアだから毛は抜けません」とペットショップで断言されることがあるが、部屋の抜け毛掃除がゼロになるわけではないので気に留めておくとよい。抜け毛の量は、トリミングの方法にもよる。
テリアらしい硬い毛を保つために、毛を指とナイフでつまんで抜くテリアならではの技で手入れをすると、抜け毛は減るそうだ。特別な技法なので、テリアを専門にしているようなサロンでないと施術できないことが多い。
ペット用の場合は、バリカンやハサミで短くされることがあるが、そうすると毛が柔らかくなってしまうし、抜け毛も増える。それでも都内でトリミング代は9500円以上が相場。技術によってはもう少し高くなるかもしれない。トリミングは1〜2か月に1回通う。
飼い主がある程度、スコッチの毛の手入れをできるようにレクチャーしてくれるブリーダーもいる。やはりスコッチたるもの、硬い粗毛をキープしてほしいという愛情とこだわりからだろう。そのような親切な親元から子犬を譲ってもらうと、毛の手入れ以外にも、たとえばしつけで悩んだときや親戚でなりやすい病気のことなどについて相談にも乗ってもらえるので心強い。
普段の手入れもブリーダーに聞くのが一番いいが、基本は週に2〜3回、ピンブラシなどでブラッシングをする。粗いオーバーコートはそんなにからまないし、汚れや葉っぱなどもサッととれるが、おなかや大腿のうしろなどの柔らかい毛の部分はよくチェックしよう。また自慢のあごひげや眉毛もコーミング(櫛入れ)して、スコッチらしい思慮深い表情をキープしてほしい。
毛色は、ブラックのイメージが強いが、ブラックだけでなく、ウィートン(小麦色)、ブリンドルのいかなる色調でもよい。ウィートンは白に近い個体もいるので、ときにウエスティと間違えそうになる。よく見ると、ウエスティのように丸顔でないことに気づくだろう。ウィートンのような白っぽい被毛の犬は汚れが目立つので、口の周りなどはこまめに拭いてあげると変色が防げる。
毛色
なりやすい病気
遺伝性
レッグペルテス症
フォン・ウィルブランド病
頭蓋骨下顎骨骨症
先天性
その他
魅力的なところ
なんとも独特な渋い風貌。思慮深い表情。
短い足でのちょこちょこ歩きが可愛い。
プライドが高く、実にテリアらしい犬。テリア好きにはたまらない。
その気になれば俊敏だが、1日中走り回りたがるタイプではない。歩いて長めに散歩すればよく、都市部での生活にも向いている。
顔のとおり、分別のある、まじめな性格。大人の飼い主向き。
穏やかな血統もあるが、基本よく気がつき、攻撃的な性質も秘めており、番犬になる。
頑張れば、キャリーバッグに入れて公共交通機関を利用できる。
大変なところ
テリアの中でも高ランクのテリア気質。かなり頑固で気難しく手強い。テリア玄人向き。
気の弱い、気の優しい飼い主にはきっと無理。
プライドが高く、家庭内で順位をつけたがる。初心者や子供のいる家庭には向かない。
過敏性・無駄吠え・子供を咬む行動特性は多くの犬種の中でもトップクラス。
他犬への攻撃性は高め。ドッグランでみんなと仲良くできるタイプではない。
訓練性能は中くらいだが、トレーニングにはコツと忍耐力が必要。
敏感でよく気がつくので、隣人の足音や物音にも反応し、警戒吠えしやすい。
トリミング代がかかる。
まとめ
まずはテリア気質を理解する
テリア気質とは、気が強くて、興奮しやすく、勇敢すぎて血気盛んで、頑固で、気難しく、自立心旺盛。臆病ではなく、快活で、明るく、おきゃんな楽しい性格。もともと、ネズミやウサギ、キツネなどをいたぶり殺すのがテリアの仕事なので、そういうテリア気質は立派な優れた才能だ。けれども、猟犬やネズミ殺しの仕事をさせるつもりがなく、家庭犬として飼う場合は、可愛い部分とコントロールが難しい部分の両方を持っているとまず理解すべきである。
テリアは小型犬がほとんどなので、世界でも日本でもコンパニオンとして人気がある。でも欧米の人は、小さいけれどその逞しいテリアらしい性質を理解していることも多いのだが、なぜか日本人は、ただ小さいから飼いやすそうとか可愛いから欲しいなどと外貌だけで選びやすいので、あとで不幸が起きる。
もともとテリアは、抱っこされるために小型のサイズでいるわけではない。穴に逃げ込んだネズミを追いかけ、地面を掘って捕獲するためである。そして捕まえて噛み殺すのが本業である。勇敢なのも、興奮しやすいのもそのためだ。自己判断能力が高く、頭の回転が速く、自主性が高く、人間への依存心が少ない(服従性が低い)のは、自己判断でハンティングをするのが仕事だからである。だから、人間と共同作業しながらハンティングの相棒に使われる
ラブラドール・レトリーバー のようなガンドッグ達とは違い、「呼ばれたらいつでも飛んで来る」犬とは本質が違う。素直で従順な犬が理想なのであれば、テリアを選ぶべきではない。
自分に自信のあるテリアは、他人の意見に従う気持ちが低く、しつけるには忍耐力が必要で、素人には難しい犬。でもテリアは頑固で気位が高く、へこたれないそういう強さが魅力なのである。だから世界中にテリア・ファンシャーが根強く存在するのだ。
よって日本人で初めて犬を飼おうとする人にお願いしたいのは、必ずその犬種の内面も見てほしいということ。外貌から好みの犬を見つけるのは確かに楽しいし、ワクワクする。それも否定しない。でも外見だけに惚れ込んでも、長続きはできないことがある。性格の不一致で離婚するのは人間夫婦ならよくあることだが、自分から一方的に惚れ込んで選んだ犬をあとで「性格が手に負えない」といって捨ててしまうことのないように、テリアの内面の性格をよく理解してから、伴侶にするかどうかを判断してほしい。
気が強くて、頑固で、人間に媚びたりしないのがテリアのいいところ。とくにスコティッシュ・テリアは、数あるテリアの中でも、「これぞテリア!」というテリア気質の強い犬種である。それを十分理解のうえ選んでほしい。
甘やかしてくれる飼い主は見下して、家庭内のボスになろうとする強い犬
飼い主以外にはしっぽを振らない、お愛想をしない犬で、忠実ではあるのだが、生粋のテリアらしく、とにもかくにも頑固。譲歩するのは苦手なので、しつけには忍耐力を要する。
また家族内の順位をつけたがる犬。テリア気質をよく理解し、つねに一貫性のある態度で、的確な指示を犬に出し、きちんと上下関係を作れるリーダーシップのとれるボスの言うことは聞くが、そうでない人の指示に耳を傾けることはしない。曖昧な指示を出したり、毎回言うことが違ったり(昨日はダメと怒ったのに、今日はテーブルから人間のおかずをくれたなど)するような人間はボスとは認めてはくれない。
また、甘やかすだけの飼い主も尊敬はしない。そうなると、しつけやトレーニングをしようにも相手にされない。そして自分より下だと認識している人や子供が、気やすく抱きかかえたりしたら、一喝がてら咬んでくる可能性もある。
スコッチはとにかく、意志が強く頑固で、気難しがり屋で、しっかり者。飼い主はスコッチ以上に、冷静でしっかりしていないといけない。また多少のことには動じない、忍耐力と寛大な心の持ち主であることが望まれる。スコッチは、テリア好きの玄人さんにふさわしい犬。それでもスコッチに惚れ込んだのなら、それなりの覚悟と知識を蓄えて、よき飼い主になれるよう全力で頑張ってほしい。
ちなみに、運動量的には、テリアにしてはそこまで爆発的ではなく、1日中チャカチャカと忙しなく走りたがるタイプではない。そういう意味では、テリア気質を熟知しているのであれば、高齢者の相棒になることも不可能ではない。そうはいっても活動的で頑丈なテリアで、長時間の散歩のお伴くらいの体力は十分ある。決して散歩が少量でよい犬という意味ではないので誤解なきよう。
この犬種に限らないが、運動をたっぷりしている犬は、問題行動が少なく、いい子に育つことが多い。散歩は、飼い主とのよい関係づくりにも役立つ。一緒にたくさん出かけてほしい。
ペット・クリップにしても、毛の手入れは週2〜3回必要
テリアなので抜け毛は少なく、部屋の掃除はそこまで苦労しないが、スコッチはアンダーコートが密なので、抜け毛がまったくないというわけではない。
また自分で毛の手入れができないのなら、1〜2か月に一度トリミングに通うことになる、トリミング代がかかる犬種であると認識しておくこと。何の手入れもしないで、勝手にあのテリアらしい威厳ある風貌になるわけではない。ただのボサボサのムク犬にしてしまうくらいなら、考え直してほしい。
スコッチはボディサイズが大きめのせいか、ダブルコートのせいか、ほかの小型犬種よりもトリミング代が少々高額のようである。毎月、自分の美容院代よりもトリミング代がかかることを認識しておこう。
また、ショー用かペット用かでグルーミングの方法が違う。値段の差は技術の差であることも考えられるので、内容を確認すること。最近はお店のホームページなどを見て「安い」と思っても、よく見ると足の裏のバリカンや肛門嚢しぼり、耳掃除などが別料金のところもあるし、犬の扱いが粗暴なサロンもあると聞くので、内容や信用度をよくチェックしよう。テリア・ファンシャー同士の口コミを、ネットや公園散歩友達の間で共有するとよい。
ウィートン色などの白っぽい毛は汚れやすいので、ブラッシングはピンブラシなどで毎日行うとよい。口の周りやお尻の周りも汚れが付着したままにしていると変色してしまうので、こまめに拭き取る。
また子犬の頃は、まだパピーの毛なので毛も長くなく、そうもつれないが、だんだん大人の毛に変わってくると、毛質や毛量が変化する。成犬になって毛がもつれてからコームやブラシをしようとすると怖がって嫌がったり、痛くて怒って、手入れをさせてくれない犬になることもある。もちろん犬にも精神的ストレスを与えることになる。
ましてやスコッチは、頑固な気難しがり屋なので、ほかの犬種以上に意見の途中変更は難しいかもしれない。子犬のときから、ブラシでそっと撫でるなどの練習をして、グルーミングを無理なく受け入れる犬になるよう育てよう。子犬を家に迎えた月から初めてもいいくらいだ。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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