図鑑
マルチーズ
小型犬種なのに、勝ち気でなく落ち着いた性質。
高齢者の伴侶にもよい白雪姫
英名
Maltese、Bichon Maltese
原産国名
Maltese、Malitae(メリテ)
FCIグルーピング
9G 愛玩犬
FCI-No.
65
サイズ
原産国
特徴
歴史
マルチーズの起源にはいろいろな説がある。何世紀にもわたり、移動や交雑が繰り返されていたようだ。犬種スタンダードでは、紀元前1500年頃、フェニキア商人(紀元前に地中海周辺の海上交易で栄えた人々。フェニキアという歴史的な地域名は現在のレバノン付近。地中海のいちばん東端)が、マルタ島(現在のマルタ共和国。イタリア半島のシチリア島の南に位置する。イギリス連邦加盟国なので、イギリスの影響が色濃い。公用語はマルタ語と英語)に連れてきたとしている。マルチーズは「イソップ物語」にも2度登場しており「長い船旅をする者や船員のペット」だったとされている。ちなみにマルチーズの名前を訳すと、そのまま「マルタにいる犬」という意味。
ただマルチーズの原産国は、
ファラオ・ハウンド と違って犬種スタンダードに「マルタ」とは明記されておらず、「中央地中海沿岸地域」となっている。おそらくその理由は、西にイタリアと東にクロアチアなどに囲まれたアドレア海にある島「メリテ」(Melitae)から来ているという説もあるからではないかと思う。文献によってまちまちであり、決定打はない。
いずれにせよ、長靴の形をしたイタリア半島周辺の島や地中海沿岸が発祥の地であることは間違いないようだ。でも、その沿岸地域や島々にいた土地犬から派生したのか、または
シー・ズー やラサ・アプソなどと遠い親戚にあるアジアから来た犬がベースになっているのか、それも明らかにはなっていない。ローマ帝国の歴史よりも古い紀元前1500年ほど前の話なのだから、無理もないだろう。マルチーズの歴史は、古代ローマよりも古く謎とロマンに満ちている。
ヨーロッパ各国に紹介されたのは、フランスで15世紀頃。王政時代の貴婦人の人気の的になった。マルチーズを抱きながらたたずむことは究極の贅沢であり、サファイヤや真珠などの宝石を身につけるのと似た感覚だったようだ。マルチーズは「女性のための宝石」とまで言われていた。
ユニークな逸話としては、マルチーズにはパワーストーンさながらに「通風やイボ、虚弱体質を治す効果がある」と囁かれていたという。温かく、愛らしいマルチーズを抱いていれば、関節痛の痛みも薄れ、また心も温かくなって、免疫力が高まり体が楽になった人がいたのかもしれない。
イギリスへ渡ったのはだいぶ遅れて19世紀の頃。マルタ島がイギリスの属領となったのは1813年以降で、その頃ビクトリア女王もマルタ島からこの犬を取り寄せたとのこと。それが一般市民にも伝わり、19世紀末にイギリスでも流行した。
日本では、昭和初期にすでに輸入されていたとの話しもあるが、大衆に広まったのは高度経済成長期の頃だ。日本3大お座敷犬といえば「マルチーズ、
ポメラニアン 、
ヨークシャー・テリア 」だった。マルチーズは、1968〜1984年まで日本の登録犬のトップだったというからすごい。
白い毛が汚れると困るという飼い方がされているケースが多いのか、道や公園を散歩しているマルチーズを見かける機会は少ないけれど、登録頭数データを見ると2012年度までの10年間も、マルチーズはランク10位前後をキープしている。恐らく私たちが街で見かける数以上に、マルチーズは日本に暮らしていると思われる。高度経済成長期以降、途中で洋風な映画の主人公
アメリカン・コッカー・スパニエル や、バブルの頃の大型犬ブームでシベリアン・ハスキーや
ラブラドール・レトリーバー 、そのあとの
ウェルシュ・コーギー・ペンブローク や
ミニチュア・ダックスフント といったファニーな短足犬が流行した頃も、マルチーズは目立った浮き沈みなく、日本でコンスタントに愛好されていた。日本人に好まれる清楚な白い外貌と、性格面でも大きな問題点の見当たらない、コンパニオンとして飼いやすい犬種なのだと思う。
外見
真っ白い絹のような毛にくるまれた、体重3.2kg以下の超小型犬。理想は2.5kgとされるので、ポメラニアンとほぼ同等のサイズだ。被毛が長いので
チワワ より大きめに見えるが、チワワの理想体重は1〜2kgとされるので、実際にチワワよりほんの少し大きめだ。抱っこしてもマシュマロのように軽い。犬種スタンダードに体高の基準はないが、おおよそ23〜25cmほど。ポメラニアンより少し背が高く、
パピヨン より少し低め。
「立てば子羊、座れば小鳩、はしゃぐ姿は牡丹雪」 (エーファ・マリア・クレーマー著「世界の犬種図鑑」より)とあるが、その表現がぴったり。白くて可憐で、かつ快活な可愛い犬である。
ちなみにマルチーズ、ボロニーズ(イタリア原産)、ハバニーズ(地中海西岸原産)、
ビション・フリーゼ (フランス、ベルギー原産)、コトン・ド・テュレアール(マダガスカル原産)は、ビション系の犬と言われ、どれも白い被毛の小型犬で、性格も基本はよく似ている愛らしいコンパニオン達。おそらく親戚関係にある犬達だ。ビション・フリーゼもたまに日本で見かけるけれど、あとの3犬種は日本でお見かけすることがほとんどないレアな犬種である。
被毛は、絹糸状の長い直滑毛が全身を覆う。短毛や波状毛は欠点となる。家庭犬として飼う場合、毛の手入れを軽減するために短めのペットクリップにする家庭が多いが、本来の姿は、長いロングヘア。ドッグショー会場に行くと、白く輝く長い被毛のままの見事なマルチーズに会うことができるので、本犬種の飼育を検討するならぜひ一度そのスタンダードの美しさを見ておくとよい。
ポメラニアンやパピヨンなどは、目やマズルまわりや四肢の先の毛は伸びないけれど、マルチーズは顔の毛も四肢の毛も全部長く伸びる。その分、毛の手入れは大変。また犬種スタンダードにアンダーコートはないと書かれているが、別の資料だとアンダーコートがあるとする説もある。毛量はそれほど多くはないものの、長くて細い絹のような毛はからみやすいので、毎日のコーミング(櫛入れ)が絶対だ。
被毛の色は純白。淡いタン(黄褐色)あるいはレモン色は許容されるが望ましくない。やはりマルチーズは、白さが魅力である。でも白い毛は、涙やオシッコなどで汚れやすい。清潔感のある美しい白さをキープするのが、マルチーズを飼育するうえでの最大の難関。しかもマルチーズは本来とても快活で、家族連れでお出かけするのが大好きな犬。汚れるのがイヤだからと、部屋に幽閉するような生活を強いるのなら、マルチーズを選んではいけない。毎日のコーミング、こまめに目や口の周り、お尻周りを拭き取る作業、2週間に1回のシャンプーなど、日々の毛の手入れが楽しみという人向き。
ロングヘアのままのマルチーズの姿を保つなら、トリミング犬種ではないので、トリミング代はかからないが、手入れしやすい短めのペットクリップにしている家庭は多い。その場合はトリミング代が月1回ほどかかる。都内だとシャンプーカットで7000円〜くらい。ただペットクリップにしても、毎日のコーミングは必要だ。
毛色
魅力的なところ
抱っこしても軽いサイズ。日本人が好みやすい清潔そうな白い犬。
元気で人なつこく、賢く分別がある。小型犬にありがちな過敏性・攻撃性が低い。
部屋の中で騒々しくない。わりと落ち着いた性格。
ほかの小型犬ほどチャカチャカした動きではないので、高齢者との相性もいい。
一応警戒吠えはしても、ずっと吠え続けるようなことはめったにない。
それほどイタズラ好きでもなく、部屋を荒らされにくい。
何事にも中庸で飼いやすい。
大変なところ
繊細で内弁慶な個体もいる。外出するとブルブルして怖がる。ストレスを受けやすい。
社会化トレーニングを怠ると臆病になりやすい。
臆病だと、恐怖のあまり子供などに咬みつく行動をしやすい。
清潔な白さをキープする毛の手入れが大変。毛もからみやすい。
食後や排泄後の拭き取り作業は手間がかかる。
涙やけ対策の拭き取りや、目の周りの毛のメンテナンスも必要。
食が細い子が多い模様。とくに子犬時代は低血糖発作に注意。
まとめ
小型愛玩犬なのに過敏でないのが魅力。ただし「箱入り犬」に育てないよう注意
真っ白い被毛、キャリーバッグで移動できるサイズという小型愛玩犬の愛らしさを持ちながら、小型犬にありがちな勝ち気なきかん坊ぶりや、せわしさがなく、一般に飼いやすい。毛の白さを美しくキープするのは大変だが、性質的・行動的に「ほどほどに快活でほどほどに穏やか」「ほどほどに賢いが、好奇心や探求心が強すぎてイタズラに走ることもない」「警戒心はあるので少しは吠えるが、いつまでも騒ぎ立てるタイプではない」など、何事にも中庸で、コントロールしやすい。長年、日本で人気犬種を続けているということは、それだけ日本人にとって飼いやすい犬種だという証しだろう。
ただし、繊細で内弁慶な犬が多い。複数の外国の文献ではマルチーズのことを「快活・大胆・人なつこい」と表記されているが、どうも日本ではそれとは反対で、「繊細・内弁慶・シャイ」と書かれていることが多い。実際に、寒くもない日に往来や動物病院待合室でブルブル震えているマルチーズを見かけることがある。性格を形成するのは「遺伝半分・環境半分」。もしかすると、日本人は清潔好きなので、純白のマルチーズが汚れるのを嫌い、社会化トレーニングをさせる機会を設けていないために、そのような犬が増えている可能性はある。
「犬は犬」だから、外の世界に興味があるし、外を駆け回ることは大好き。心臓や四肢の骨関節などに問題がないのなら、積極的にいろんな人や犬に会わせたり、散歩に連れ出し、土や草のニオイに触れたり、往来のクルマや電車の音を聞いたりしながら、心のキャパシティを広げる社会化トレーニングを実践しよう。
とくに、時期には諸説あるが、だいたい生後3〜16週齢が大事な犬の社会化期。この期間を、ペットショップなどで一人ぼっちでケージ生活をしていると、臆病で内弁慶の箱入り息子・娘になりやすい。また社会化トレーニングは、社会化期だけ行えばいいというわけでなく、一生社会見学の勉強は必要。「毛が汚れるから外へは出さない」「小型犬だから家で走っていれば散歩は不要」などという人は、いくら溺愛していても、犬の適正飼養をしているとはいえない。
飼い主がそこを間違えなければ、マルチーズは、かなりの確率で、飼いやすい最良のコンパニオンとなる。高齢者や子供の相手もこなせる小型犬はそんなにいない。共有部分を抱っこ移動しないといけないようなマンション飼育でも扱いやすいサイズで、かつテリアやポメラニアン、パピヨンのように過敏に物音に反応するタイプでもないので、鳴き声が問題になることも少ない。1歳までに適切な社会化トレーニングを行い、元来の「快活・大胆・人なつこい」という子に育っていれば、マルチーズは広い層に飼いやすい犬といってよいだろう。
長年マルチーズを愛し続けている本物のブリーダーを探そう
マルチーズに限らないが、だいたい生後3週間から社会化期が始まる。その頃はまだ母犬のおっぱいを吸い、兄弟犬とじゃれているようなタイミングだ。でもそういう時期に、早々に母犬や兄弟犬から離されて、掃除機やテレビのような家庭にある音にも触れることなく、人間に構ってももらえず、ずっとショップのケージの中でひとりぼっちで過ごすような幼少期だったら、心が上手に育つわけがない。
産まれてから3か月間ほどは、子犬は実家で愛情いっぱいに育つべき時代である。まだ産まれて間もない生後3週間過ぎの社会化トレーニングは、これから犬を迎える飼い主さんにはできないことであり、これはひとえに子犬の生家(実家)の力量にかかっている。
よって、マルチーズをこよなく愛する心あるブリーダーを探すことが大切だ。マルチーズは、日本でも愛玩犬として歴史が長い犬種なので、探せばきっと「長年にわたってマルチーズひと筋」というファンシャー兼ブリーダーが見つかるはず。
またマルチーズは特別に遺伝性疾患が多い犬種というわけではないが、膝蓋骨脱臼という骨関節の病気や、動脈管開存症という遺伝性の心疾患はある。本来は比較的丈夫で長生きできる犬種でもあるので、なるべく元気に長く健康体でいてもらえるよう、遺伝性疾患の淘汰のために努力しているブリーダーの元から子犬を迎えた方が安心でもある。
マルチーズは、宝石でもぬいぐるみではない
本来は快活で、人なつこく、飼い主家族と行動を共にするのが大好きな犬なので、犬の扱い方を説明すれば理解してくれる小学生高学年くらいになれば、マルチーズと子供との同居は可能である。誘えば喜んで遊びに応じてくれるし、芸を教えればそつなく覚える物覚えのいい犬でもあるし、子供が散歩しても制御ができないような力持ちでもないから、子供の良き遊び相手、理解者となってくれるだろう。
ただし、いくらマルチーズが小さいとはいえ、散歩中は、自動車や踏切など、危険を回避しないといけない場所も多いので、くれぐれも事故のないよう、散歩は子供に全面的に任せるのではなく、親が安全を監視した方が安心だ。また子犬を迎えたら、親子と犬と一緒にパピー教室に参加して、犬の扱いを習っておくとベスト。
ただ、犬が臆病な性格だと、追い詰められると恐怖のあまりに吠えたり、子供を咬んでしまったりするケースはなきにしもあらず。マルチーズは、ほかの小型犬種の中では子供に対して寛容な部類に入るのだが、それでも、小型犬の気持ちをよく考えて扱うことが大事。それができないような、幼児や小学生低学年のうちは、もう少し彼らの成長を待ってから、犬を迎えたほうがお互いのためによい。
また骨が華奢なので、子どもが抱っこして落下させると骨折や脱臼となることが多い。マルチーズは、貴婦人の抱き犬であったことは歴史上の事実ではあるけれど、現代では犬をぬいぐるみ扱いするのはよろしくない。抱っこされるというのは犬にとっては「拘束」であり、不安を助長することでもある。守っているつもりでも、犬にストレスを与える動作でもあることを覚えておく。やはりいくら小型愛玩犬でも、犬は犬として扱い、心も体も健全に育ててあげることが大切だ。
もちろん、外の散歩をしない犬は、足腰に筋肉もつかない。生き物なので、歩くことはやっぱり生きる基本。マルチーズは食が細い犬が多いとも言われるが、運動すれば、それなりにおなかもすくだろう。ごく当たり前のことなのだが、とにかくマルチーズは、ぬいぐるみではない。ご自慢の宝石でもアクセサリーでもない。ちゃんと正しく育てよう。
白雪姫のような可憐な姿を保つために、とにかく頑張れる人向き
何度も言うようだが、とにかくマルチーズは、飼いやすい犬種だけれども、純白の被毛の手入れを一生涯することになる犬だ。毛はからみやすいので毎日コーミング。涙やけで流涙症になりやすいので、目元をこまめに拭きとる。ごはんや水飲みのあとは、食べ残しや水分を拭きとる。オシッコやウンチが長い被毛についたら拭きとる。
拭き取り作業を怠ると、汚れに雑菌がわいて毛が黄色や茶色に変色していくので、清潔を保つためにちょくちょく拭いてあげることが大切だ。やはり毛の手入れが好き、誰かのお世話をするのが大好きという母性が強いタイプの人がマルチーズの飼い主にふさわしい。
ただシングルコートに近い毛のため、意外と抜け毛は少ない。毎日コーミングをしておけば、そんなに部屋に毛が散らばることはないそうだ。でもポメラニアンやパピヨンと違い、顔の毛がどんどん伸びる。目の周りの毛が角膜を傷つけてしまうこともあるので、毛が目に当たらないように短くカットするか、毛を束ねてあげることは忘れずに。
また白い毛は汚れが目立ちやすいので、シャンプーは月2回は必要。自分でできない場合は、プロのトリマーに依頼する。
ちなみに子犬を迎えたばかりの頃は、まだこどもの毛質と長さなのでそう絡まないのだが、生後8か月前後におとなの毛に変わってくる。その頃、被毛のもつれもひどくなる。もつれてから焦ってコーミングしようと思っても、犬も痛いし、櫛に慣れていないので怖い。グルーミングが嫌いな子になってしまうと、あとから大変だ。まだ子犬の毛でグルーミングが必要じゃないときから、「グルーミング・タイムは楽しい時間」と犬が覚えるように毎日ちょっとずつ練習を繰り返すとよい。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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