図鑑
パピヨン
貴婦人に愛された可憐な蝶々。
実は訓練性能・運動性能が高く、玄人も好む強者
英名
Continental Toy Spaniel(Papillon)
原産国名
Epagneul nain Continental(Papillon)
FCIグルーピング
9G 愛玩犬
FCI-No.
77
サイズ
原産国
特徴
歴史
原産国名であるEpagneul nain Continentalの「エパニョール(Epagneul)」とは、フランス語で「スパニエル」。「ナン(Nain)」は「矮性、小型」を意味する。つまり「Epagneul nain」で「小さなスパニエル」である。
FCI(国際畜犬連盟)の分類では、パピヨン(立ち耳タイプ)&ファレーヌ(垂れ耳タイプ)の2タイプの総称を「エパニョール・ナン(またはコンチネンタル・トイ・スパニエル)」として1犬種と見なしている。日本のJKC(ジャパン・ケネルクラブ)には垂れ耳のファレーヌの登録がないらしくパピヨンだけが独り立ちしている感じだが、JKCはFCIのルールに準じているので、もしもファレーヌの登録が国内にあれば、パピヨンとファレーヌはドッグショーで同じリンクに出陳することになるのだと思う。そうなると犬種名としては「エパニョール・ナン」または「コンチネンタル・トイ・スパニエル」とされるのが妥当。
ただしファレーヌは、パピヨンの登場によりヨーロッパでもこの200年間で激減しているので、そう簡単に日本に来日するとは思えないし、また今さら日本人もパピヨンが「コンチネンタル・トイ・スパニエル」に改名されてもピンとはこないだろう。
かたやテリアの仲間のノーフォーク・テリア(垂れ耳タイプ)とノーリッチ・テリア(立ち耳タイプ)は、別犬種として扱われている。なんともルールに統一感がなく分かりにくいが、これがFCI犬種スタンダードなのでこれ以上はなんとも言えない。ただ、国によってはパピヨンとファレーヌを別々の犬種としている国もある。
ともあれパピヨンの直接の祖先は、垂れ耳のファレーヌ。13〜18世紀くらいまでヨーロッパ大陸でトップクラスの人気犬種だった。ちなみに垂れ耳のファレーヌは、フランス語で「蛾」。そして立ち耳のパピヨンは、ご存知「蝶」の意味だ。耳の形からそう名付けられた。
パピヨンとファレーヌの原産国については諸説ある。犬種名がフランス語だからフランス原産とする説、ベルギーで非常に人気が高かったことからベルギー説、「スパニッシュ・ドワーフ・スパニエル」という小型の猟犬を祖先に持つとしているスペイン説、ファレーヌの祖先が古代ローマ出身と推察しているイタリア説など。よって、ファレーヌをベースに18世紀につくられたパピヨンの原産国も同様にはっきりしていないが、JKCスタンダードによるとパピヨンの原産国はフランス、ベルギーとなっている。
パピヨンは、当時ベルギーで、ファレーヌに突然変異が起きてたまたま蝶のような立ち耳が生まれたという説と、立ち耳を作出するべく小型のスピッツのような立ち耳の犬種を掛け合わせたという説がある。ふわっとした毛の感じからしてもスピッツ系の血が入っているとも言われる。
いずれにせよ、「新型ファレーヌ」、つまり立ち耳のファレーヌ(=パピヨン)はすぐにファレーヌよりも人気者になった。それから200年以上、パピヨンは人気を独占しており、そのためファレーヌはすっかり激減。まだ絶滅はしていないが、かなり珍しい犬となってしまっている。
パピヨンはヨーロッパの宮廷で人気を博し、ステータスの象徴だった。ファンシャーの中には、ポンパドール婦人、マリー・アントワネットはじめ、多くの有名な貴婦人がいた。また、ゴヤ、ルーベンス、レンブラントなどの数多くの芸術家が、著名人の肖像画にパピヨンも一緒に描いている。
ヨーロッパの大陸ではこのように絶大な人気犬種だったが、イギリスに初めてパピヨンが登場したのはだいぶ遅れて1901年である。1920年代にイギリスのKC(ケネルクラブ)に公認され、アメリカのAKC(アメリカン・ケネルクラブ)に受け入れられたのは1930年代半ばとのこと。英語圏におけるパピヨンの受け入れの遅れは、イギリスには貴族の愛玩犬としてキング・チャールズ・スパニエルがいたので、新参者の流入を拒んだ風潮があったせいかもしれない。でも現代では、パピヨン先進国はイギリスと北欧との声があるほど、イギリスでも人気犬種となっている。
日本では70年代にやってきて、それ以降我が国でも安定した人気を誇る。ここ数年(2013年末時点)は、飼育登録頭数は10位前後。ふわふわした白ベースの被毛、愛玩犬として手頃な小ささなどが、日本人の好みによくマッチしているようだ。
外見
ふわふわの毛や耳からの飾り毛が愛らしく、「気品がある」「エレガント」と評される小型愛玩犬。体高は28cm以下。犬種スタンダードには体高の明記しかないが、体重は一般的に5kg前後とされる。骨は細く華奢で、抱き心地も軽い。抱っこ移動も楽々である。体高は、体長より少し短い。足は、細くシュッとしている。
ほかの中型や大型のスパニエル(たとえば
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル や
アメリカン・コッカー・スパニエル 、
イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル など)に比べると、頭部は全体的に軽く、マズルも短め。マズルはスカル(頭の鉢)より短く、少し尖っている。これもどことなくスピッツ風で、たとえば
ポメラニアン (スピッツの1種)とちょっと似た顔立ち。
そしてパピヨンのチャームポイントといえば、大きな立ち耳。
チワワ やポメラニアンのような小さな立ち耳ではなく、もっと大きい。そして耳の角度も特徴的で、「蝶が羽根を広げた角度」が望ましく、約45度が理想。飾り毛に覆われているので分かりにくいが、先端はスピッツ・タイプの耳のように上方に尖ってはいなくて、先端を触ってみると先っぽは少し丸みを帯びている。
ちなみにパピヨン×ファレーヌを交配すると、しばしば先端が少し垂れた半直立耳(シェルティのような耳)が生まれる。この交配によりできた半直立耳は、重大な欠点とされる。
はずむような軽やかな歩き方も実にパピヨンらしい。活発で機敏。15cmほどもあるしっぽの飾り毛を陽気に揺らしながら小走りに進む姿は、本当に愛らしい。
被毛は豊富で艶々しており、ウェービー(ゆるふわウェーブ。プードルのようなしっかりした巻き毛ではない)。それほど柔らかくなく、少し弾力があり、絹糸のよう。首の周りの毛は長く、ラフ(首周りの長くて厚い毛)やウェーブして胸まで届くジャボー(あごの下や首まわり、胸の長い豊かな飾り毛)をつくる。耳や前肢の後ろ側に飾り毛があり、また後肢の後ろ側にも、柔らかな豊富な毛によってキュロット(大腿後ろ側の豊富な飾り毛)が形成される。
そうした長い飾り毛は、毎日のコーミング(櫛入れ)が必要だ。きれいにとかして、美しさ、清潔さを保つことが大事。オーバーコートは長いけれど、アンダーコートはほとんどない犬なので、毛は絡みにくく、長毛種であっても意外と手入れはしやすい。またプードルやテリアのようなトリミング犬種ではないので、シャンプーも自宅で出来、美容代は基本的にかからない。
しかし足の裏の毛が伸びてくると滑りやすく、とくにフローリングなどの床の場合は危険。脱臼などのケガにもつながる。そのためカットする必要があるが、自分でできない場合は、爪切り、肛門嚢絞りなどと合わせてシャンプーカットをプロのトリマーに依頼する家庭もある。トリミング代はお店によってまちまちだが、参考までに都内で平均5000〜9000円くらい。
毛色はさまざま。白地であればすべての毛色が認められる。よく見かけるのは、ブラウン&ホワイトのように白ベースに耳や顔が茶色の犬。ボディに茶色のぶちもあったりする。ブラック&ホワイトのほか、顔がグレーっぽい子やセーブルの子もいる。またトライカラーも見かける。
毛色
魅力的なところ
ふわふわの白っぽい被毛。日本人が好みやすい。
陽気でおおらかで人生楽しそう。人間相手には社交的で扱いやすい。
もともとスパニエルはガンドッグなので、利口で活発。トレーニングを楽しみたい人向き。
小さいが機敏で丈夫。よく走る。散歩大好き。キャンプやハイキングのお伴もOK。
警戒心が強いのでアラームドッグになる。
ほぼシングルコートなので、毛の手入れは長毛種の割には楽。
華奢な見た目と裏腹に遺伝性疾患が少なく、意外と頑健。
大変なところ
気の強いところがある。トレーニングは一貫性を持って行う。
小型犬ながら、中型・大型犬に負けないやる気と活発度。お座敷犬ではない。
人間にはフレンドリーだが、犬に対して吠えやすい。
興奮や警戒心から吠えやすい。集合住宅では近所トラブルになる心配あり。
幼児・小学生低学年のいる家庭では、落ち着きのないやかましい犬になる可能性。
子供にぬいぐるみ扱いされると、不本意で噛みつくかも。
骨が華奢なので、子供が抱っこ中に落下させ、脱臼・骨折する事故がある。
すばしこく体高も低いので、お年寄りではリードを付けるときなど捕まえるのが大変。
まとめ
小型愛玩犬らしさが満喫できる、陽気で勝ち気なアイドル
ふわふわした飾り毛、ちょこまかとすばやい動き、キャンキャンした鳴き声……姿も行動も「ザ・小型愛玩犬」。ペットショップなどでもポピュラーに売られている犬なので、幼少期に母犬と早期に離されているなどの問題がある可能性もあるが、本来は臆病ではなく、陽気で社交的で、飼い主だけでなくよその人にもフレンドリーで愛想がよい。
また猟犬のスパニエルの血が入っているせいか、人間との共同作業が好きでコマンド(合図)によく反応し、学習能力も高い。教えたことを、ゲームをするかのようにサクサクと覚えてくれる。ビギナーにも比較的飼いやすい犬種といってよい。
プロの訓練士にも愛好家が多い。玄人をも満足させるデキル犬
ジャーマン・シェパード・ドッグ や
ボーダー・コリー といった非常に訓練性能の高い犬を普段扱うプロのドッグ・トレーナーが、自分の2頭目の相棒としてパピヨンを選んでいるケースが多い。食費やスペース的にエコモードでありつつ、頭脳明晰、運動神経抜群だからではないかと思う。
それくらいパピヨンは、小さいけれどパフォーマンスが高い。賢い大型の牧羊犬やガンドッグに負けないような、教え甲斐と遊び甲斐のある楽しい犬といえる。訓練競技会やアジリティなどのドッグスポーツで颯爽と飛び回り、活躍しているパピヨンに会うと、その才能に感服してしまう。
ただし、パピヨンに限らず小型犬によくある特徴なのだが、顔に似合わずけっこう気が強い。体が小さい分、気が強くないとやられてしまうからそういう性質を身につけたのかもしれないが、とにかく可愛いからと甘やかしたり、すぐに抱っこしてかばう習慣をつけるのは厳禁。なにかにつけて吠えて要求するようになったり、盗み食いをしたり、機嫌を損ねて人間の手にパッと噛みついたりなど、ワガママな不良犬になりやすい。しかもパピヨンはとても頭のいい犬なので、自分の都合のいいことをどんどん学習していくし、自分の要求を通すためにはどうすればいいかを考えて実行する。
よってパピヨンとは「可愛い小型犬の皮をかぶった賢い大型犬」くらいの気持ちで付き合うと成功する。そういうスタンスで付き合えば、それに応えて素晴らしい家庭犬になるが、甘やかしてしまうとどんどんワガママな王子/お姫様になってしまう。リーダーシップをとり、ダメなモノはダメと一貫性のあるしつけをすることが大事だ。
でも、そこまでパピヨンに対してきちっと対峙する自信のない優しすぎる人や、パピヨンの精神的&肉体的エネルギーに負けそうな人は、もう少しマイルドなキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルや、そこまで知的・身体的欲求の高くない
シー・ズー の方が飼いやすい。
パピヨンは、ビギナーにも飼えない犬ではないけれど、プロの訓練士も納得させるトレーニング性の高い犬であることを肝に銘じて迎えよう。しつけの方法が分からなかったら、トレーナーにすぐ相談。早期に相談した方が、悪い癖をつけないで済むので、結果的に早期に問題が解決する。パピヨンは頭のいい犬なので、飼い主さえ教え方をマスターすれば、ちゃんと素敵な家庭犬に成長してくれるだろう。
キャンキャンと無駄吠えを増やさないためにも、毎日の散歩はたっぷりと
興奮したときも、嬉しいときも、要求するときも、気にくわないときも、けっこう鳴いて主張してみるお喋りな犬が多い。犬飼育不可のマンションで内緒で飼うなんてもってのほかだが、飼育OKのマンションであっても苦情がでるケースを聞く。小型犬ではあるが、一軒家の方が向いているかもしれない。また、家庭内で静かな生活をしたいライフスタイルの人には不向き。
またどの犬でもそうだが、運動不足や退屈は問題行動の元となる。反対に、たっぷり歩いて、たっぷり脳にも外界の刺激を与えられてくたびれた犬は、家ではよく眠り、静かにするものだ。
とくにパピヨンの基礎はスパニエル。もともとは猟犬だ。それだけにシー・ズーやペキニーズなどに比べると明らかに活動的である。やる気も好奇心も強いし、けっこうタフで遊んでも疲れ知らず。ドッグランでも、高速で元気いっぱいで走り回っているのが常だ。もし散歩が嫌いで歩きたがらない子がいるのなら、膝蓋骨脱臼(パテラ)など骨関節になんらかの問題があることを疑ったほうがいいかもしれない。
ペットショップなどで購入の際に「排泄は室内トイレで済ませればいいし、小型犬だから散歩には行かなくても大丈夫」と無責任極まりないことを言われることもあるが、そんな生活をさせたら、フラストレーションが爆発して、ますます吠えてしまう犬になる危険性大である。もし愛犬の無駄吠えに悩んでいるのなら、まず、なんで鳴いているのか、運動は十分足りているか、知的探求心は満たされているか、などを検証してみるとよい。
愛犬の精神の安定をはかり、無駄吠えが減れば、それは飼い主にとっても嬉しいこと。犬が疲れるくらいたっぷり、毎日散歩に連れ出してあげよう。
ただし、パピヨンは、家族以外の人にも社交的なのだが、散歩中に道路ですれ違うほかの犬には少々吠えやすい傾向にある。それは社会化トレーニングで慣らしていくことにより改善することもあるが、警戒心や多頭飼育での同調による興奮、オスの場合はテリトリー意識などから、吠えるのをゼロにするのは難しいことも。
そういうときは、ほかの犬の犬散歩が多い時間を避ける、ルートを変更するなどの工夫をしてみてはどうだろう。いつも吠えるとそれが常習化してしまうし、興奮しやすい性格を強めてしまう可能性もあるので、吠えない環境作りを試してみるのも1つの作戦だ。
パピヨンは、ぬいぐるみではない
本来は陽気で人なつこく順応性のある犬なので、子供のよい友達になれるが、気の強いところがあるので、子供にオモチャ代わりにされたらご立腹する可能性大。威嚇がてらパクリと噛みつくこともあるかもしれない。
また骨が華奢なので、子どもが抱っこして落下させると骨折や脱臼となることが多い。説明してもまだ犬との接し方が理解できない小さな子供のいる家庭では、パピヨンを迎えるのは遠慮した方がいい。あるいは、子供が分別のつく年頃になるまで待とう。
さらに、やんちゃな子供がいる家庭では、兄弟喧嘩があったりとなにかと騒々しいだろうから、それにつられて犬も負けじと吠えて主張したりして、よく鳴く犬になりやすいから注意。
いずれにせよ、パピヨンはペットショップに陳列されていることが多いため、予習なしに買われてしまうことのある犬種の1つであるが、ぬいぐるみ感覚で子どもに買い与えたり、大人女子もアクセサリー感覚で購入するのはNG。この先15年間ほど一緒に暮らす命として、きちんと予習をし、覚悟して迎えてほしい。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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