図鑑
イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル
明るくエネルギッシュな中型スパニエル。
ショー系と実猟系で毛並みなどに違いあり
英名
English Springer Spaniel
原産国名
English Springer Spaniel
FCIグルーピング
8G レトリーバーほか
FCI-No.
125
サイズ
原産国
特徴
歴史
母国イギリスでは、単に「スプリンガー・スパニエル」や「スプリンガー」とも呼ばれる。一説によると600年も前から記録が残っている最古のスパニエルの1種。猟銃が発達する以前に、すばらしいダッシュをして獲物の鳥に飛びかかり、かすみ網に追い込んだり、鷹狩りのサポートなどをしていたフラッシング・ドッグだ。名前のスプリング(spring)は、英語の「バネのようにすばやく跳ぶ」「跳ねる」「跳びかかる」から来ている。このことからもこの犬種がいかに俊敏性の高いスポーティング・ドッグかがわかる。
スプリンガーは、欧米ではコッカー・スパニエルに次いで人気の高いスパニエル。日本では
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル が優勢だが、諸外国では日本以上にポピュラーであると考えていい。
現代では、スプリンガーはショードッグと実猟犬の2つの方向に分かれている。ショー系の犬は美しく豊かな被毛をまとい、飾り毛も長いタイプであり、実猟系は猟欲が強く運動欲求もより高いタイプだ。日本にいるスプリンガーは多くはアメリカ経由のショー系由来の家系で、ショードッグやコンパニオンとして飼育されている。
ただ優美な姿のショー系の家系であっても、アウトドアへの情熱と才能は捨ててはいない。とても活発でエネルギッシュな犬なので、愛玩犬と間違えてはいけない。心はあくまでも「鳥猟犬」だ。
近代、アメリカおよび日本などで外貌の美しさだけを優先したブリーディングの結果、攻撃性の強い性格や遺伝性疾患の多さが問題視されている。本来スパニエルは、人なつこくフレンドリーで攻撃性のかけらもない犬の代名詞。それにもかかわらず遺憾なことに、スプリンガーに突発的な攻撃行動などが散見されており、真面目なファンシャーの間で心を痛める事態となっている。ただ幸い、アメリカのトップブリーダーの間でもここ数年、性格面を重視した繁殖に開眼しており、それに習って今後日本にもよい血が導入されることが期待される。
外見
スパニエルには、陸上での狩りに使うことを目的とするランド・スパニエル(陸のスパニエル)と、泳ぎが得意な、湖沼や海辺で活躍するウォーター・スパニエルの2タイプがある。そのなかでスプリンガーは、ランド・スパニエルに属する。ちなみにランド・スパニエルには、そのほかにフィールド・スパニエルやサセックス・スパニエル、クランバー・スパニエルなどがいる。
スプリンガーは、イギリスのランド・スパニエルの中でいちばん脚が長く、レーシー(四肢が長く、ほっそりとしたタイプ)な体躯構成をしている。クランバー・スパニエルなどに比べるとすらっとしたボディだ。とはいえスプリンガーにはランド・スパニエルらしい力強さもあり、決して華奢ではない。前肢などを見ると骨太に見え、パウも意外なほど大きい。
体重は、メスなら15kg〜、オスでも22〜24kg程度のサイズなのに、前肢とパウを見ると体重30kgのゴールデン・レトリーバーにひけをとらないくらい大きくて、頑丈そうに見える。猛ダッシュをしたり、バネのように跳ねる運動性能の高さは、この前肢からきているのかもしれない。
体高は約51cm。紀州犬や甲斐犬など、中型日本犬ほどの体高だ。
ボーダー・コリー よりわずかに低いイメージ。
ゴールデン・レトリーバー や
ラブラドール・レトリーバー ほど大きくなく、
イングリッシュ・コッカー・スパニエル よりはひとまわり大きい。中型犬の大きさの純血種は日本ではそれほど多くはないのだが、スプリンガーは大きすぎず小さすぎずの中庸なボリュームであり、「大型犬の運動や毛の手入れをするのはちょっと自信がないけれど、大きめの犬に憧れている」という人にとって魅力的なサイズといえる。
被毛は密生していて、まっすぐ。風雨に強いが、決して粗野ではない。耳、前肢、腹部、後肢に飾り毛がある。美しさをキープするには、毎日ブラッシングが必須。白い毛は汚れが目立つので、シャンプーもこまめに。美しく保つために、1〜2週間に一度のシャンプーを欠かさないファンシャーもいる。
また、コッカー・スパニエルと同様にトリミング犬種である。トリミングをしないと、頭部の毛も首周りの毛もほかの部分も伸びてきて、放置していると落ち武者のような容姿になる。何もしないでこの美しい姿になるわけではないのだ。
またスプリンガーの飼育頭数は国内でそれほど多くないため、たいていのトリミング・サロンでは正しいスプリンガーのグルーミングができず、コッカー・スパニエルのようにされてしまうことが多いそうだ。でもスプリンガーは、コッカーとは毛の生え方などいろいろ違うとのこと。スプリンガーを譲ってもらったブリーダーに、スプリンガーのグルーミングができるトリマーを紹介してもらうか、または自分で勉強をして地元のトリマーに指示を出す方法で乗り切っている人が多い。
トリマーをあてにせずに自分でシャンプー、カット、ドライを頑張っているファンシャーもいる。スプリンガーは欧米では家庭犬としても人気がありポピュラーだが、日本では一般に多い犬種ではないので、飼い主自身が頑張るしかない、というケースもあるようだ。
いずれにせよ、密に生えた豊かな毛、美しいふわふわな飾り毛、そして中型犬サイズのボリュームの犬を、日々美しく保つのには飼い主側に根気と体力が必要。毛の手入れが大好き、という人だけが迎えていい犬である。
また、垂れ耳で耳の中が蒸れやすく外耳炎になりやすいので、耳の掃除も欠かせない。ごはんや水を飲むときに耳がフードの容器の中に入らないように、スヌード(人間のヘアバンドを変形させたような形の犬用耳カバー)をつけるとよい。あるいは「スパニエル・ボウル」(耳が茶碗の中に入らないように口が狭くなっていて、全体も高めの、富士山のようなシルエットのスパニエル専用茶碗)を用意してもよい。
頭部は、わずかに丸みをおびている。マズルは短すぎず、かなり幅広く、厚みがある。目は中くらいの大きさでアーモンド形。瞬膜(まぶたとは別に水平方向に動いて眼球を保護する透明又は半透明の膜)は見えない。目はダーク・ヘーゼル色(ヘーゼルは、ヘーゼルナッツのような赤褐色。ダーク・ヘーゼルはそれよりも濃く暗い赤褐色)。
ジャーマン・ショートヘアード・ポインター や
ワイマラナー 、ビズラなどのように、明るいブラウンやアンバー(琥珀色)の目の色は好ましくない。
耳はロビュラー(木の葉形の耳)で、かなり長く、幅広で、頭部に沿って付いている。飾り毛があるので、長い耳がさらに倍近く長く大きく見える。
慣習的に日米ではまだ断尾されているが、ヨーロッパではすでに断尾が禁止になっている国が多いので、これから断尾しない個体が増えてくるだろう。
毛色は、レバー&ホワイト、ブラック&ホワイト。これらにレバー&タン&ホワイト、ブラック&タン&ホワイトのように、タン(黄褐色)のマーキングが入る場合もある。
毛色
魅力的なところ
基本は陽気で朗らか、フレンドリーで愛情深い。性格が可愛い。
犬種本来の性格は、攻撃性はない。子供ともうまくやれる献身的な犬。
鳥猟犬なので人間との共同作業が好き。しつけも入りやすい。
大型犬に近い存在感がありながら、大型犬よりは扱いやすい中庸なサイズ。
元は鳥猟犬なので、とても活動的で俊敏。アウトドア大好き。キャンプや登山のお伴もできる。
水遊びも大好き。泳ぎが得意な犬が多い。
スタイルの良いスマートな体型、かつ豊かな毛が美しい。
それなりに警戒咆哮ができるので、番犬の役割もできそう。
大変なところ
毎日ブラッシングすること。毛の手入れが面倒な人には無理。
正しいスプリンガーのグルーミングができるトリマーが少ない。
正しいスプリンガー・スタイルにしたかったら、自分も勉強することが必須。
毎月1万円以上のトリミング代がかかる。
頭が良くちょっと気が強いので、甘やかすと図に乗る。要求が強くなる。
追い詰めたり、厳しくすると逆ギレする。飼い主に強い意志とオーラが必要。
ときに「激怒症候群」という先天性の行動異常の犬がいる。
攻撃的な性格や遺伝性疾患を淘汰するよう努力しているブリーダーを探すのが大変。
真面目なブリーダーは、毎年繁殖しないことがほとんど。子犬を1〜2年待つ気持ちが必要。
鳥猟犬なので運動欲求量は高い。運動不足から来る問題行動もある。
イタズラ好き。破壊活動や誤飲を防ぐよう環境整備が必要。
アウトドア遊び、水遊びも大好きなので、そのあとの毛の手入れを頑張らねばならない。
無駄吠えをする個体もいる。集合住宅などではトレーニングを頑張る。
まとめ
性格を考慮しない繁殖の結果、攻撃性の高い犬が増加。突発性の「キレやすい」系統も
本来は、朗らかで友好的な性格の犬。鳥などの獲物をやさしくくわえることのできるガンドッグで、オモチャやボール遊びをしてもふわっと噛むソフトマウスの犬だ。元来スパニエル種は、攻撃性は感じられない犬であり、子供の相手も任せられるほど人なつこい献身的な犬のはずだったのだが、外貌を重視するショードッグの改良に夢中になったあまりに、世界的に、気性が荒かったり、非友好的な子孫が増えてしまった。
さらには、攻撃性が突発的に発現する「激怒症候群」(レージ・シンドローム)という、キレる先天的行動異常のある犬もいる。そういう犬は、怒っている素振りもないのに、突然目の色が変わり、本気で咬んでくる。他人であろうと家族であろうと容赦ない。そして興奮がピークに達したあとに、電池が切れたように急におとなしくなる。その後、また何かのタイミングでキレて、この症状を繰り返すという非常にタチの悪い症状である。
イングリッシュ・コッカー・スパニエル、アメリカン・コッカー・スパニエル、ゴールデン・レトリーバーなどいくつかの犬種にみられる症状だが、スプリンガーにもこの系統が発現しているのはとても残念なことだ。
しつけをしてなくて、ワガママ放題にさせていれば、どの犬種でも、どのスプリンガーでも、咬む犬に仕立てることもできるが、その場合は威嚇行為として事前に唸ったり、歯をむき出すなどの「咬むぞ、咬むぞ」というシグナルをだしてくれるけれど、激怒症候群の犬の場合はそういうステップがなく、突然まるで何かに取り憑かれたように怒り出すのが特徴である。
これは飼い主のしつけ方が悪いというものではない。この行動異常は、先天性のてんかん症状の一部らしく、脳内の刺激伝達物質の不足が原因とされる。つまり、脳の病気。残念ながらトレーニングやしつけで矯正されるものではない。よって、なるべくそういう家系の犬は選ばないよう努力するしかない。親犬や親戚犬でこうした行動を起こした犬は繁殖ラインからはずさなくてはならない。人を咬む、家族にも牙をむく、という行動は致命的な問題行動だからだ。
飼い主側としてできることは、犬の性格や健康のことを真面目に考えて繁殖計画を立てている志高いブリーダーから子犬を譲ってもらうこと。ペットショップやネット販売など親犬や親戚犬を確認せずに買うのはあまりにも危険な博打のようなものだ。
本気で咬まれて傷だらけになるのは飼い主も痛いし、自分の心を制御できない犬も不幸なことである。スプリンガーにはそのほかの遺伝性疾患もあるので、ブリーダー探しは重要だ。子犬を迎える前に十分なリサーチをしよう。ファンシャー同士のブログなどを見て口コミを調べたり、ブリーダーに繁殖の際に気をつけていることを聞き、親犬・親戚犬と面会し、繁殖犬にどのような遺伝子検査を行っているかを直接確認するとよい。
そして飼い主側が、安易にスプリンガーを衝動買いせず、良いブリーダーを見極める知識を持つことによって、乱繁殖するブリーダーを淘汰させることができるに違いない。幸い、数年前からアメリカのトップブリーダー達が、性格面と健康面を重視した繁殖に力を注ぐようになってきたという朗報もある。昔ながらの、正しい、陽気で楽しく、人なつこい、素直なスプリンガーは日本でも増えるように願う。
「毛の手入れができる人」も飼い主に欠かせない条件
実猟犬としてではなく、ショードッグや家庭犬として愛されるための豊かな被毛をまとうように犬種改良された血統が、多く日本に入ってきている。ふんわりボリューミーな毛に覆われているが、それだけ毛玉になりやすく、手入れはかなり努力が必要。アメリカン・コッカー・スパニエルは、全犬種の中でも最も毛の手入れが大変と言われており、スプリンガーはそこまでではないにしろ、同じスパニエルの親戚筋なので、それに準ずるほど毛の手入れの労力を覚悟しておこう。
原っぱや落ち葉の上を走るのも大好きだが、散歩から帰ると小枝や葉っぱやゴミなどいろんなものを毛に絡めて帰宅する。お花見のときは、桜の花びらやちょっとネバネバしている花の芯などをごっそりつけてくる。散歩後の毛のメンテナンスのために時間を割くことのできる人でないと難しいだろう。反対に「散歩に行くと毛が汚れるから行かない」「汚れるのがイヤだから、土や草の上は歩かせない」「キャンプや水遊びなんてもってのほか」などという考えがあるのなら、スプリンガーを選ぶべきではない。鳥猟犬出身のスプリンガーにとって、それは虐待と同じ。飼い主の虚栄心のためにスプリンガーを選ばれてしまうと、犬にとってはとても悲しい人生である。
また、手入れが大変だからと、バリカンで丸刈りにされている犬もいる。豊かな被毛が魅力のスパニエルを丸刈りにするくらいなら、最初から手間のかからない短い被毛の犬種を選ぶべきである。ちなみに、丸刈りにすると太陽の光や道路の輻射熱をダイレクトに浴びてしまうので、よけいに熱中症になりやすくなるので注意。丸刈りは見た目だけでなく、犬の身体にも負担をかけるのでやめること。
ペットショップや悪質なブリーダーから、毛の手入れの大変さの説明を受けることなく犬を買ってしまい、あとでとても苦労している飼い主もいる。中には、なにもしないで、犬種図鑑の写真のとおりの姿がキープされると思っている人もいる。すべての犬種の中でトップクラスの毛の手入れの大変な犬を売るときに、毛の手入れの説明もしてくれないようなお店や繁殖業者は、どう考えても無責任極まりないので疑ってかかったほうがよい。「こんなはずじゃなかった」とあとで後悔しないようにしたい。
ちなみに毎日、丁寧にブラッシングをしていれば抜け毛は減るものの、もともと毛量の多い犬なので抜け毛は多い方。リビング内の掃除機がけも、けっこう手間である。
美しいレディやプリンスを養うには、お金がかかる
毎日の毛のメンテナンスの大変さはもちろんだが、それをしたうえで、さらに最低月1回はトリミングサロンにお願いするのが、ファンシャーの間では普通。1回のトリミング代はお店により差もあるが、都内では1万円以上。子犬のシャンプーだけ(カットなし)で、都心部で1万5000円かかる例もあった。コッカー・スパニエルやトイ・プードルよりもサイズが大きいだけに、トリミング代は高額になる。
そのうえ、正しいスプリンガーのカットができないサロンが多いというのも不安材料である。高いうえに、なんだか妙なカットにされてしまうと残念だ。子犬を譲ってもらうときに、ブリーダーからいいトリマーを紹介してもらっておこう。またスプリンガー愛好団体では、ファンシャーに対して勉強会を行い、正しいスプリンガーのグルーミングやカット方法などを伝授しているところもある。そういうところに参加するのもオススメ。
運動は毎日しっかり。ボール遊びも大好き
オスとメスで性差があるが、だいたい15〜24kg前後のそれなりのサイズのある犬だし、本来は鳥猟犬。野山を走り、鳥を探していた犬である。当然、運動量は高く、見た目の可愛さからは想像できないほどタフである。活発で、フラッシング・ドッグだから類い希なジャンプ力もあり、アジリティーなどのドッグスポーツも得意に違いない。見た目のラブリーさとは裏腹に、体力的と性格的には、実は中味は体育会系の犬なので、そのつもりで迎えるべし。
またランド・スパニエルでありながら、ウォーター・スパニエルほどではなくても泳ぎが大好きな犬も多いそうだ。あの毛並みで、湖や海で遊んだら、どんなにそのあとシャンプーなどが大変だろうかと心配になるが、真のファンシャーはそんなことを言ってはいられない。毛が汚れようと濡れ犬になろうと、思う存分アウトドアで遊ばせてくれる飼い主さんをスプリンガーは待っている。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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