図鑑
ジャーマン・ショートヘアード・ポインター
ドイツを始め諸外国でも愛好されている、
ワイルドな万能ガンドッグ
英名
German Short-haired Pointing Dog
原産国名
Deutsch Kurzhaar、Kurzhaar
FCIグルーピング
7G ポインター・セッター
FCI-No.
119
サイズ
原産国
特徴
歴史
ジャーマン・ポインター(ワイヤーヘアード、ショートヘアードを含み)は、ドイツで最も普及しているガンドッグ(鳥猟犬)。ドイツが世界に誇る
ジャーマン・シェパード・ドッグ と
ダックスフント (獣猟犬)に次いで、ジャーマン・ポインターは飼育登録頭数が多い。それにもかかわらず、ベルリンなどでは街中で見かけることがほとんどないとのこと。つまりドイツの人は、この犬を家庭犬として飼うのではなく、生粋の現役の猟犬として扱っている。それだけ猟欲の強い、生粋のガンドッグだ。裏を返せば、家庭犬の枠には収まりきらない犬である。
ジャーマン・ショートヘアード・ポインター(以下、GSPと略す)の元となる先祖犬については諸説あるが、ヨーロッパ最古のポインティング・ドッグの血をひくブラッコ・イタリアーノ(イタリア原産)や、ドイツでブラッケといわれる、ハウンドに近い古いタイプのポインターであるスパニッシュ・ポインター(スペイン原産)と、ドイツに元からいた鳥猟を専門とする猟犬と交配して作られたとされる。
中世の頃からいる鳥猟犬を祖先に持つ、ラージ・ミュンスターレンダー(ドイツ名:グローサー・ミュンスターレンダー)は、ジャーマン・ロングヘアード・ポインターと非常に近い犬種(当時は色バリエーション違いとの説もある)なので、このあたりの犬と近縁なのではないかと想像できる。
初期の頃はがっしりとした体格をしていてスピードで劣ったので、19世紀にイングリッシュ・ポインター(イギリス産)の血を導入し、スマートなボディに改良された。サイズがやや小さくなり、俊足の犬になり、洗練された精悍さを手に入れた。ちなみにイングリッシュ・ポインターは、スパニッシュ・ポインター×フォックス・ハウンドで作られている。
ともあれGSPは、ブラッコ・イタリアーノなどのヨーロッパ本土の古いポインター種と、ミュンスターレンダーと祖を同じくするドイツの鳥猟犬、そしてイングリッシュ・ポインターの血で改良された犬で、その目的は最強のポインターを作ることだったと考えていいだろう。実際、力強さ、スピード、激しさ、沈着冷静さ、粘り強さを兼ね備え、獲物も、鳥から大型哺乳類(シカ、イノシシ)まで対応できる。嗅覚を使って追跡する、ポイントやセット(位置を知らせる)、フラッシング(飛び立たせる)、リトリーブ(回収)、そうした作業を1頭でこなす質実剛健さ。
仕事内容としては、
ワイマラナー とよく似ている。ただしワイマラナーは当時は貴族階級のための特別なポインターで、庶民は飼育を許されなかった。その代わりとなるのがGSPだったのではなかろうか。大衆向けのオールラウンドなガンドッグである。そうした歴史もあって、現代でもドイツ国民に最も多く飼育されている身近なガンドッグなのだろう。
それにしても、GSPとワイマラナーは使用目的や実際の性能はとてもよく似ているのに、祖先となった犬が違っている(ワイマラナーには後にジャーマン・ポインターの血も入っているが、ブラッド・ハウンドやフランス系のハウンド種が祖である)。祖先犬が違えど、犬種改良する資金力が違えど、質実剛健で多目的に使えるタフなガンドッグを作り上げるのがドイツの国民性なのだろうか。
GSPは、1897年にはスタッドブック(血統書)が発行され、これに続いて犬種スタンダードや狩猟のためのトライアル規定が作られている。
さてアメリカでは、熱心な愛好家からガンドッグとして飼育される一方で、引き締まった精悍な体に魅了されてショードッグとしても人気があり、猟欲の乏しい犬は家庭犬として飼われている。そのため近年では、ショー・タイプとワーキング・タイプ(働く猟犬タイプ)が分かれてきているのが実情だ。ショー・タイプは胸板厚めの大きめタイプ、実猟タイプは小型化してスレンダーな形になってきて、ボディ・ラインにしろ、猟欲の強さにしろ、同じ犬種でありながらずいぶん差がでてきてしまった。
それは日本国内でも同じことが言える。日本ではGSPはそれほどショードッグとしての需要は高くないし(ワイマラナーの方が近年では出陳頭数は明らかに多い)、家庭犬として飼われているのはごく少数なので、都市部で歩いている姿を見かけることはほとんどない。反対に、地方で現役の狩猟犬として使われている実猟タイプは、スレンダーで小柄である。そして鳥だけでなく、シカやイノシシ猟に使っているという話も聞く。
日本では近年すっかり数が減ったポインターだが、明治時代には多くの犬が輸入されている。大正時代に開かれた畜犬品評会では「ジャーマン・ポインター」の参加も明記されている。戦後の東京では、GSPはジャーマン・シェパード・ドッグや
ボクサー 、
イングリッシュ・セッター 、
ダックスフント などと並び、割とポピュラーな存在だった。そのため現在でも、70代、80代のご年配の方にとってGSPは懐かしい存在らしく、若者よりも高齢者の方がこの犬について詳しかったりする。
外見
引き締まった筋肉質の体。力強さ、タフさ、スピードを兼ね備えた外貌をしている。ぴったりした皺のない頭部。機能性抜群のワーキング・タイプで、頑健で、非常に筋肉質。短く密なスムースヘアなので、締まった筋肉がよく見えて美しい。オスの方がよりがっしりと筋肉質だが、去勢手術をしている場合はこの限りではない。
体高はオス62〜66cm、メス58〜63cm。オスの方が大きめで、胸も厚く、がっしりしている。体重は犬種スタンダードに明記がないが、オスは25〜32kg、メスは20〜27kgほど。性差が割とはっきりしており、オスの方が一回り近く大きい。
頭骨は適度な幅があり、わずかに丸みを帯びている。後頭骨はほとんど目立たない。眉の隆起ははっきり分かる。マズルは獲物を正しく運べるように、長く、幅広く、厚みがあって頑丈。横から見ると鼻梁(鼻すじ)はわずかに湾曲していて、これはオスの方が顕著である。完全に真っ直ぐな鼻梁はあまり好ましくなく、ディッシュ・フェイス(マズル上部が少しくぼみ、横から見ると鼻すじが反って皿状になった顔)は重大な欠点となる。ちなみにイングリッシュ・ポインターは、ディッシュ・フェイスが正しい。これが独ポ(ジャーマン・S・ポインター)と英ポ(イングリッシュ・ポインター)の分かりやすい違いである。
鼻の色は、基本的にはブラウン。毛色がブラックベースの場合は、鼻は黒。
ポインターは、犬種随一の非常に優れた心肺機能を持ち、効率よく熱交換ができる体を持つが、それを裏付けるのが大きな鼻。鼻はやや突き出し、幅があり、たくさんの空気を一気に吸い込めるような大きな鼻孔(鼻の穴)をしている。
尾は慣習的に中間点で断尾される。しかしすでにヨーロッパでは断尾は法律で禁止なので、今後は断尾しないGSPも増えていくだろう。断尾しないと、飛節(くるぶし)まで達する長さがあり、真っ直ぐか、サーベル状に保持される。山で好奇心いっぱいに獲物を探して嗅ぎ回っているときは、しっぽを持ち上げ、左右に軽く振りながらごきげんそうだ。
被毛はスムースヘア。たいへん密で、毛質はラフで堅い。頭部はぴんと張った皺のない皮膚の上に、短い堅い毛が覆う。首周りなどは毛が少し厚めで、シャンプーするときにここだけいつまでも湿っているので、ドライヤーでよく乾かす。
スムースヘアで、細かい毛がよく抜ける。ブラッシングはラバーブラシや豚毛ブラシで週1〜2回。血行促進のためだけでなく、傷、ダニなどを早期発見するためにも行う。春と秋の換毛期はよく抜けるので、ブラッシング回数を増やす。シャンプーは家でできる。湖沼などで泳ぐのが好きな犬種で、アウトドアから帰ったらシャンプーする機会が増えるが、シャンプーは簡単だし、手入れは簡単。
毛色はさまざま。巷では「レバー」と言われることが多いのだが、FCIやJKCの規定では、レバーではなく、ブラウンと記載されている。またブラウン系だけでなく、ブラック系の犬もいる。
・ブラウン :ブラウンの単色(マーキングがなく、全身茶色)。
・ブラウン&ホワイト :胸や足に小さな白のマーキングがあるブラウン。あるいは、頭部にブラウンのマーキングやぶち、点があり、ボディはホワイト。
・ブラウン・ローン :頭部がブラウン。ボディ全体に均一にブラウンとホワイトが混合。ブラウン・ローンの色調はダーク・ブラウンからライト・ブラウンまで幅がある。ライト・ブラウン・ローンの場合は、ボディはブラウンのぶちがあるときと、ぶちが全然ないときもある。またライト・ブラウン・ローンの犬は、ダーク・ブラウン・ローンよりホワイトの占める割合が多い。
・ブラック :ブラックの単色。
・ブラック&ホワイト :胸や足に小さな白のマーキングがあるブラック。あるいは、頭部にブラックのマーキングやぶち、点があり、ボディはホワイト。
・ブラック・ローン :頭部がブラック。ボディ全体に均一にブラックとホワイトが混合。
一般的なのは「茶色の頭でボディが茶色×白の霜降り柄」だが、全身茶色単色もOKだし、白が多くて茶色が占める割合が少なくてもよい。さらにブラウンの代わりにブラックでもよいということだ。しかし日本では黒いGSPを見ることはほとんど見ない(少なくともショーリンクにはいない)。
ちなみに、犬種スタンダードには上記のように毛色について書いてあるのだが、一般的にはブラウンのことを本犬種ではレバー(肝臓色)と呼ぶことの方が多い。血統書にも、ダーク・ブラウン・ローンの犬のことを「ホワイト&レバー」と書いてある。語句の統一がきちんとなされていないようだ。
また、オーバーショットやアンダーショットの咬み合わせ、ライ・マウス(ゆがんだ口)傾向にあるもの、欠歯がある犬は失格。優秀なガンドッグたるもの「弱々しい性格」も失格と明記されている。
毛色
魅力的なところ
野性的でタフな筋肉質の体。
身体的にも精神的にも、ものすごくタフガイ。
水陸両用。持久力抜群。アウトドアのお伴に最高。
非常に多才。ドッグスポーツ、訓練を楽しみたい人にオススメ。
毛の手入れは楽。
本来の抑制的な性質ならば、子供にも動じず寛容。
分離不安になる傾向は低く、割としっかりしている。独立心はある方。
頑健な犬で病気は少ない。
大変なところ
頑丈でハイパーな大型ガンドッグ。運動欲求量が膨大。体育会系飼い主限定。
人間との徒歩の散歩では満足しない。野山や湖沼に連れて行ってくれる人希望。
とくにオスは力が強い。革の首輪がちぎれることも。非力な人には難しい。
好戦的な犬もいる。ドッグランで遊べないタイプも少なくない。
鳥猟犬の中では服従性が低く、頑固なくせに繊細。トレーニングにはコツが必要。
猟欲が強い。家庭犬向きではない。都会向きでもない。
運動不足などストレスがあると、さまざまな問題行動を起こしやすい。
頭が良く、好奇心・探求心が強く、退屈が苦手で、無類のイタズラ好き。
猟欲が強い犬は、猫などの小動物に対し、激しく反応することも。
まとめ
野性的な外貌どおり、猟欲が強く、一般向けではない
見た目どおりにワイルドな犬である。猟欲もかなり強く、運動欲求も膨大。ドイツ・フランクフルト生まれの犬の専門家、エーファ・マリア・クレーマー女史は著作の中で、「気性は激しい。強く優しく腕のいいハンターにしか使いこなせない」と書いている。都会でペットとして飼おうなどと考えるのは、本場ドイツの人から見ればクレージーな選択とみなされるだろう。実際、ドイツ・ベルリンではコンパニオンのGSPには会えないと聞く。飼育登録頭数としてはシェパードに次いでドイツに多くいる犬種なのに、都市部では会えないということはやはりドイツの人はGSPを完全な現役の猟犬として愛好しているに違いない。
アメリカのショードッグ経由の犬は、猟欲の乏しい犬もおり、飼育方法しだいでは家庭犬として飼える。しかしそうは言っても、本来は百戦錬磨の勇猛なガンドッグ。ポインターは、すべての犬種の中で最もタフとされる犬なので、軽い気持ちで飼えるものではない。適切な訓練を与え、猟犬としての喜びを与えてあげられる飼い主限定。そして野山に毎日のように出かけることのできる環境に住んでいる人がよい。ずっと都会暮らしを強要されているGSPは、犬からしてみればとても不幸だと思う。
ストレスが積み重なれば、無駄吠え、攻撃行動などに転化される心配もある。どう考えてもビギナーにはオススメできない。とくにオスはメス以上に体格がよく、力も強く、服従性が低いとされるので、一筋縄ではいかない。いずれにせよ、よほどの覚悟と気骨のある、野山を愛する飼い主でないと、お互いが不幸になるだろう。
賢く繊細で感受性が強い。素敵な魅力だが、ビギナーには手強い
GSPは無尽蔵の体力のある犬であると同時に、頭も非常に良い犬なので、知的なゲームを与える必要がある。ベストなのは猟の訓練と、実際に猟野に出ることだが、その代わりとなるガンドッグ・リトリーブ・トライアルやアジリティーなどのドッグスポーツ、山歩き、オビディエンス(服従訓練)などの共同ゲームでもよいだろう。
訓練やトレーニングというと「うちはそこまでしなくてもいい」と思う人がいるが、犬にとってトレーニングは飼い主との共同作業であり、一緒にゲームを楽しむようなもの。とくにガンドッグは、飼い主との共同作業を至上の悦びとしている犬達である。体と脳を使うゲームや遊びをたっぷり与え、心身の健康を保つようにしたい。
GSPはとても感受性が強い。その性質のおかげで訓練性能が高く、細かい指示にもきびきびと反応する。優秀なガンドッグにとってなくてはならない気質なのだが、その感受性の強さが悪い方に転ぶととても面倒。頭の良い犬は、よく切れるハサミと同じで、扱い方しだいで優秀な道具(相棒)にもなるし、自分(飼い主)が痛い目に遭うことにもなる。GSPをコントロールするのはビギナーには難しい。
もしも、すでに迎え入れたあとで扱い方に困っている場合は、ガンドッグ、しかもできればドイツのガンドッグ(GSP、ワイマラナー、ミュンスターレンダーなど)を訓練した経験のあるトレーナーや、長年ドイツのガンドッグの飼育経験のある人に相談しよう。
GSPは、ガンドッグ(鳥猟犬)の中でも、ラブラドールやゴールデンといった平和主義のレトリーバー、朗らかなアイリッシュ・セッターやイングリッシュ・セッターなどとは別物である。トレーニング法や導き方も異なる。GSPを家庭犬としてトレーニングした経験のあるトレーナーはそう簡単には見つからないと思われるので、慎重に探した方がよい。インターネットを通じ、GSPのファンシャーから情報を得るのもよい。
猟犬の血統のGSPは、ますます運動欲求が高いので要検討
GSPは、現在の日本ではワイマラナーほど家庭犬として普及していない代わりに、JKCとは無関係に(=血統書がない)、週末ハンターたちがバックヤードで繁殖させていることも多い。そうした犬達は基本的に猟が上手な血統をかけているので、当然猟欲が強くて運動欲求が高いので、家庭犬としては扱いが難しい。
また犬種スタンダードを守ろうという意識もおそらくないので、体格、気質その他もスタンダードから離れていることがある。中には雑種かと思うような犬もいる。「GSPが欲しい」と思い立った場合は、どこからどういう血統の子犬を入手するか、事前によく検討をすること。
捨てられるGSPが多い現実
適当に繁殖され、余った子犬を捨てたり、道具扱いされて猟期が終わった春先の時期に山に遺棄されることがよくある。GSPの悲しい現実である。これは家庭犬として犬を愛する人にとっては別次元の話しだが、日本での猟犬の扱いがよくなるように、私たちが世論を変えていく必要がある。
捨てられたガンドッグをレスキューする団体もある。とはいえ「可哀想だから」と安易にこのハイパーな犬を家族に迎える決心をしてよいわけではない。本来GSPは、飼い主との絆をとても大事にする犬である。ワンオーナー(飼い主はただ一人)タイプの忠犬であり、他人にはクールな顔しかしないが、飼い主だけに見せる誠実な愛情はたまらないものがある。すごく可愛い犬なのだ。
誰でも最初は初心者だから、ビギナーは絶対にGSPを飼ってはいけないとは言えない。苦労したあかつきに、最高な関係を築ける素晴らしい犬である。一筋縄ではいかない犬であるという現実を事前に理解し、自分の体力、精神力、忍耐力を一層鍛える覚悟のある人にとっては、GSPは最高の相棒となるだろう。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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