図鑑
グレート・デーン
優雅でたくましい「犬の中のアポロ」。
馬のような圧倒的な存在感の優しい巨大犬
英名
Great Dane
原産国名
Deutsche Dogge(ドイチェ・ドッゲ)
FCIグルーピング
2G 使役犬
FCI-No.
235
サイズ
原産国
特徴
歴史
外国の情報が英語で入ってくることがほとんどの日本では、この犬が「グレート・デーン」と呼ばれることに何の疑問も持たないが、ドイツでは「グレート・デーン」と呼んでも通用しないことのほうが多い。なにしろ「デーン」とは「デンマークの」という意味だからだ。ちなみに、原産国ドイツの人は、ドイチェ・ドッゲ(ドイツ語で「ドイツ風のマスティフ」の意)と呼ぶ。
でもある説によると、デーンは17世紀にイギリスからドイツに入ってきて、19世紀までは「イギリスの犬」と呼ばれていたという。イングリッシュ・マスティフ系の犬とイギリスのサイト・ハウンドが先祖の1つでもあるので、デーンの初期の頃はイギリスで派生したものと想像することもできる。ドッゲは、英語のdogを元にしているとも言われているそうだ。
さらに別な一説によると、フランスの自然科学者ビュフォン(1707-1788)の影響から、フランス語での「グラン・ダノワ」(デンマークの大犬)を英語グレート・デーンに直訳したという話もある(でもなぜデンマークなのかは不明)。その後、ドイチェ・ドッゲに改名する理由なく今日に至るというのだ。その背景には、歴史的・政治的な事情(2つの世界大戦中、イギリス・フランスにとって「ドイツの」という名称が好ましくないとされた)もあったのかもしれないとされるが、真偽のほどはよくわからない。
とにかく名前の由来も、歴史も、いろいろと複数の説があり、謎が多く、1つの説に絞ることはできない。おそらくデーンは犬種改良の歴史が長く、紆余曲折があり、おそらくヨーロッパのいろいろな国を渡り、現在の姿に定着した犬種だと想像できる。
この犬は、当時からいろいろな名前で呼ばれていた。有名なところでジャーマン・マスティフ(英語で「ドイツのマスティフ」の意)、ウルマー・ドッゲ(「ウルム」はドイツの街の名前。「ウルムのマスティフ」の意)、ジャーマン・ボアハウンド(「ドイツの猪狩り犬」の意)など。そのほかにもたくさんある。この犬は古くからいて、今のような洗練された姿になる前にもいろいろな時代を経てきた。その改良途中の段階で、いろいろな呼び名があったのだろう。
そもそもグレート・デーンの先祖犬の1つは、ブレンバイザーという犬。いまはすでに絶滅したブレンバイザーは、かつてブラバント地方(現在のベルギー中部・北部とオランダ南部の地方)にいたマスティフ系の犬で、ボクサーの直接の先祖にあたる。ということは、デーンとボクサーは遠い親戚同士にあたるわけだ。優しく友好的でときどきお茶目で、とりわけ子供に対して寛容という点が似ている。
またブレンバイザーは、獣猟のときハウンド種によって追い詰められた獲物を、猟師が到着するまで口でしっかりくわえて捕らえておく「噛み留め」するのが仕事だった。鉄砲やナイフでとどめを刺すのは猟師の役目だったので、犬は獲物を噛み殺すのではなく、逃げないようにくわえて押さえつけて留めておく。グレート・デーンもその才能を活かして、当時はイノシシ猟で重宝されたのだろう。初期の頃はあごももっと力強く、ある意味「獰猛そうな」強さを表現されていた。中世の時代には、最強の猪狩り用として使われ、ドイツの封建領主のステイタス・シンボルとなった。
そうこうしているうちに改良され、スッとした長身のボディに改良が進んだのではないか。デーンのもう1つの先祖は、重厚なイングリッシュ・マスティフタイプの犬と、俊敏な駆け足の速いサイト・ハウンド(視覚ハウンド。おそらくウルフ・ハウンドのタイプ)のミックス犬とされている。サイト・ハウンド系の血が入ったため、体高の高い洗練されたボディを手に入れた。
19世紀になると猟犬としての仕事を卒業し、ブルジョワたちに飼われることとなる。ついには有名なドイツの政治家であり貴族のビスマルク宰相(1815-1898)がこの犬を1876年に「国家の犬」と宣言した。
「国家の犬」となった本犬種の標準をきちんと定めることになったのか、1878年、ベルリンでブリーダーや審査員7人によって作られた委員会によって、種々の異なったタイプの犬たちが分類されたという(つまりその頃はまだいろいろなタイプや形がいたのだろう)。そして1つの犬種となるよう整理していった。結果1880年、ベルリンでのショーで、グレート・デーンのスタンダードが初めて定められた。
19世紀後半にデーンはアメリカに渡り、それ以降大変な人気を博している。今では、犬種としては同一犬種なのだがドイツ系とアメリカ系でタイプが分かれているほどで、外貌も変わりつつある。ドイツ系のデーンは重厚でがっちりしており、アメリカ系はスタイリッシュで体型もよけいシュッとしているイメージだ。また一部ブリーダーによると、性格の違いも指摘されている。
日本には明治初期にやってきたとされる。フォーン(金色がかった薄い茶色)のデーンだったようだ。日本が作出した闘犬の土佐は、1924年にデーンの血を導入し、犬種改良されている。
外見
「犬界のアポロ」と言われる。アポロは「ギリシア神話において中心となる神のこと」とのこと。つまり全犬種の中の神、中心的存在というニュアンスなのだろう。威風堂々とした姿と大きさの迫力はたしかに圧巻。なめらかで光沢のある極短毛のスムースヘアなので、美しい筋肉美も堪能できる。何よりもこの子馬のような、子牛のような、犬らしからぬ体高と体長からくるこの存在感は「とにかく大きい犬が好き」という人にはたまらない。垂涎の的となるのも当然の、特別な犬種である。
体高はオス80cm以上、メス72cm以上。よくデーンは「世界一大きな犬」と思われているが、体高でいえばアイリッシュ・ウルフ・ハウンド(体高オス79cm以上、理想は81〜86cm。メスは71cm以上)と、犬種スタンダード上はあまり変わらない。
体重でいえば、デーンは、犬種スタンダードに規定はないが45〜55kgくらいが一般的とされるので、マスティフ系の犬のほうが重たい。ただし「大きければ大きいほど立派でカッコイイ」とする風潮はあり、なかには80kgを超える巨体のデーンもいる。体高の上限もない。
ギネスブックに認定されている世界一体高が高い犬はグレード・デーンで、107cmを記録している。つまりデーンは「世界一大きな犬種」とは言えないが、個体で見ると現時点で「世界一背の高い犬」であることは間違いない。ちなみにギネスに載っている「世界一重たい犬」は、イギリス生まれのマスティフで155.58kg。犬界のお相撲さんだ。
デーンの体型はほぼスクエア。体高(首の付け根付近の肩甲骨の高さ〜地面):体長(胸骨の端〜座骨の端)=1:1。メスの場合は、少し胴長のものも許される。
ボディは、背はほとんどまっすぐで、後方に向かってかすかに傾斜している。足の骨関節に異常があるなどの場合は腰が下がったりしているが、本来はまっすぐが正しい。長くすっきりした筋肉質の首は、高く掲げられ、少しだけ前方に傾斜している。首をいつも下げて歩いている場合などは、頸椎や背骨等に異常があることも考えられる。
本来の「イヌ」という1生物種の姿としては、ある意味「異常」なまでの大きさに人為的に改良されている犬なので、いかに健全性を保ちつつ、あの大きさを維持するかが大きな命題である。
健全なデーンは、強靱な、しっかりした体つきを本来持っている。また体躯が健全であれば、しなやかで調和がとれた歩様(歩き方)をする。アンバランスな体型や歩き方の犬は、やはり何かがおかしい。やっぱり美しい犬は健康だし、不健全な犬は美しくない。「大きければ大きいほどよい」という誤った思想の下で繰り返される繁殖は、犬種の健全性を損なう恐れが高いので要注意だ。ただしデーンにはオーバーサイズという規定はなく、どんなに大きくても犬種スタンダードに認められる。でもアンダーサイズは失格となる。
また体だけでなく、心の健全性も重要。攻撃的な性格、恐怖のあまりに咬みつくような性格は、犬種スタンダードとして失格。あれだけの体格で攻撃性があると、制御不能になること必至。そういう犬は社会的・道義的に許されない。デーンは猛獣ではなく、現代では愛すべきコンパニオンなのである。攻撃性や臆病、ビビリ、神経質、神経過敏な性質の犬は、いくら姿は立派でも繁殖に使うべきではない。
毛色は、大きく5つ。
・フォーン :金色がかった色から薄く黄色がかった色。ブラック・マスクが好ましい。
・ブリンドル :濃淡のあるゴールデン・フォーンに、ブラックの縞が入っている。ブラック・マスクが好ましい。
・ブラック :漆黒(単色)
・ハールクイン :純白の白地に不規則な漆黒のぶちがあるもの。いわゆる牛柄。デーン特有の呼び方。ボディ全体に不規則な漆黒の斑がまんべんなく散らばっているのがよい。
・ブルー :青灰色、スチール・ブルー(青い鋼色)などと言われる。ワイマラナーの灰色より濃い。
またブラックには、マンテル(ボストン・テリアと同じようなカラーで、黒地に白のマーキングの入った色)も含まれるので、6色といわれることもある。ちなみにマンテルは、ドイツ語で「外套」の意味。ドイツでは、犬の首から背中の部分に黒やブルーなど濃い色が覆っているのを「黒いマントを着ている」ようなので「マンテル」という。補足すると、背中の黒い部分が小さい面積のときは「サドル」(=鞍が乗っている)と言う。デーンの場合はサドルじゃなくてマンテルだ。
上記以外の色は、すべて規定外で失格となる。劣性遺伝による弱い個体の誕生を避けるためだ。とくに注意を要するのはハールクインやブルーの個体の繁殖。ブルー・マール(シェットランド・シープドッグやコリーにある被毛色で、灰色の地に薄い黒のぶちがある毛色)やイザベラ(薄い栗毛色)などが、比較的多い頻度で生まれる。こうした色素の薄い犬は、次世代の子どもを残してはいけない。
鼻の色も重要。ハールクイン以外の毛色では、鼻はブラック。ブルーの犬でも基本は毛色に準じたやや薄いブラック。ハールクインの場合のみ、ブラックの鼻がベストだが、バタフライ・ノーズ(暗色の鼻に肉色の斑や点があるものや肉色の鼻)が許される。すべての毛色でレバー色の鼻は失格。
毛の手入れは、ごく短いスムースヘアなので、豚毛ブラシやラバーブラシなどで皮膚の血行促進も兼ねて2〜3日おきに一度サッと手入れすればよい。ただ、極短毛だが抜け毛は多い。しかも体表面積が子馬並みなので、ブラッシングは体力勝負だし、毛もパラパラと大量に抜ける。また、とくに体臭がきつい犬種というわけではないけれど、体表面積が広い分、小型犬よりはニオイを感じやすい。
シャンプーは自宅でできるが、体が大きいので、時間と体力がいる。また風呂場も子馬が入るほどの広さが必要だ。
ちなみに体のサイズが大きい分、介護も非常に大変となる。寝たきりの犬を起こすのは、大人ひとりでは難しい。飼い主が年配者や女性の方で力がない場合は、若い男手の協力なしに介護や通院は難しいだろう。5年先、10年先に愛犬が弱ったときのこともシミュレーションして、覚悟のうえで迎えることが重要である。
従来は断耳するのが慣習で、いまもショードッグなどは断耳されている個体が多いが、ヨーロッパの多くの国では断耳はすでに禁止されており、今後国際的にその流れになると思われる。すでに日本でも耳を切らないで飼育するオーナーも増えている。
断耳しなければ自然に垂れ下がる垂れ耳。立ち耳はシャープで強そうな顔になるが、垂れ耳のデーンは、その本来の優しい性格のとおりの穏やかなイメージになり、とても可愛らしい。
しっぽは昔から切らない。高く付き、幅広で、ホック(くるぶし・飛節)まで届く長いしっぽ。先端に向かって徐々に先細る。よじれた尾は重大な欠点となる。
毛色
なりやすい病気
遺伝性
股関節形成不全
拡張型心筋症
ウォーブラー症候群
三尖弁異形成
カラーミュータント脱毛症
膝蓋骨脱臼(パテラ)
若年性白内障
先天性
その他
骨肉腫
眼瞼外反
胃捻転
肥大性骨ジストロフィー
巨大食道
肢端舐性皮膚炎
アジソン病
魅力的なところ
性格は基本的に穏やかで優しく、家族や子供にも献身的。
精悍で強そうな外貌なのに、ものすごく優しく甘えん坊な性格というそのギャップ。
あのでかさでもたれかかって甘えてくる、愛すべきキャラクター。
日本人の多くは信じられないだろうが、子供との同居も悪くない。ただし体当たりには注意。
やはり超大型犬の迫力、存在感は圧倒的。美しい。
散歩量は、猟犬種や牧羊犬種ほど大変ではない。
トレーニング性能は悪くない。ちゃんとできる。
いろいろな苦難はあれど、それに勝る悦びもデカイ。
大変なところ
やることなすこと、動きがデカイ。非力な人、瞬発力のない人にはやはり無理。
超大型犬だけに、社会的責任も大きくなりがち。怖がる人が多い。
見た目だけ、憧れだけで飼育することは許されない。
広大なお屋敷や庭がなくても大丈夫だが、やはり寝床は1畳くらいは必要。
食費、獣医療費などもビッグ。それ相応の経済力は不可欠。
動きが緩慢でのんびり屋なところがあるので、トレーニングの際には飼い主に忍耐力が必要。
放任主義で育てるのは絶対NG。自分でできないのなら必ずトレーナーに相談。
血統差、被毛色で性質に違いがある。すべてのデーンが穏和で優しいかは分からない。
健全性を保つのが大変な犬種。ブリーダー探しを頑張る必要がある。
見た目によらず甘えん坊でデリケート。長時間お留守番や屋外飼育はご遠慮願う。
悪気はないが、とにかく破壊力がデカイ。
骨の成長などが特別なので走らせすぎもダメ。運動管理はプロの指導をよく聞く。
介護が大変。
大型の自家用車必須。
超大型犬を洗える広い風呂場が必要。
骨関節の問題を引き起こさないため、階段利用は避ける。一軒家で犬も2階を利用するなら、エレベーターがあるとよい。
超大型犬なので、設備面や技術面で動物病院に断られる可能性あり。
致命的な胃捻転になりやすい。予防や情報収集と覚悟が必要。
超大型犬は、ほかの犬種に比べると短命である。個体差はあるが7〜10歳くらいと覚悟。
まとめ
有無を言わさぬ迫力。だけど穏やかな「優しいジャイアント」
一般の日本人は、大きな犬に対して恐怖心を抱いていることが多い。ところが欧米の人は、飼いやすさや気の強さ、咬みやすさなどは、サイズとは関係ないことを知っている。グレート・デーンは、日本人の成人女性の体重を上回るような重さと、子馬のような背の高さを持つ超大型犬だが、欧米では「愛玩犬」としてリビングで寝そべっている犬なのである。
たしかに大きい分、住環境やクルマのスペースなどの制約は受ける。獣医療代もかかる。とくに毎月のフィラリア薬や、大病をしたときの投薬代、麻酔代などは、体重換算で値段が変わるので、体重の大きい犬ほどお金がかかる。
ごはん代も、活動量が尋常じゃなく莫大なガンドッグや牧羊犬の仲間と比べれば、「大きいわりには思ったよりごはん量は少ないな」と感じることもあるが、しかしそうは言っても若いときは洗面器ほど食べる。そして食べれば、脅威的に大きなウンチをする。それを毎日拾わねばならない。
病気になって犬が自分で歩けない日が来たら、介護の大変さは人間並み、いやそれ以上だという声もある。そもそも動物病院でも、診察台のサイズがない、麻酔の経験がないなどと言われてお断りされることもあるという。超大型犬でもちゃんと診察できる、信頼のおける獣医師を探さないといけない。
そのほか単に道を歩いて散歩しているだけで、心ない悪態をつかれる可能性もある。「コワイ犬が来たわよ」「食べられちゃうわよ」「咬む?」「ひゃ〜〜〜恐ろしい恐ろしい」など普通の大型犬でも言われるので、超大型犬のデーンだとどんな失礼なセリフが飛び出すかわからない。小型犬が圧倒的に優位な日本では、何かとマイノリティになりやすいだろう。
そして悲しいかな、超大型犬は小型犬ほど長生きはしない。一般的にデーンの寿命は7〜10歳くらいと言われる。ただし10歳を超えるご長寿さんの存在もときどき耳にする。獣医療の発達もさることながら、室内飼育をして愛情深い日々の管理をし、病気の早期発見に努めることで、長生きできる個体も増えているのかもしれない。できるかぎり健康に長く一緒に過ごすことができることを祈ろう。
超大型犬ならではの苦労、大変なところはいろいろある。しかし、グレート・デーンを一度飼うと、もうほかの犬では満足できなくなると言われるほどで、圧倒的な存在感と、意表を突かれる可愛らしさいっぱいのキャラクターにノックアウトされてしまうファンシャーは多い。苦労も大きいが、喜びも大きいのだ。
経済的・環境的・体力的などいろいろなハードルが高いので、誰にでもオススメできる犬だとはとても言えないが、デーンは、日本人が思っている以上に穏やかで、甘えん坊でチャーミングで憎めない、可愛い犬だ。正しいデーンならば、攻撃性もないだろう。はじめにトレーニングしておけば、引っ張ることもほとんどない。結構ぼーっとしているので、運動量も人間の速度の歩き散歩で足りる。
アメリカで見かけたハールクインの大きなオスは、10歳くらいの女の子がリードを持って歩いていた。子供にも寛容で、むしろ犬のほうが子供に気を遣って歩く。そういう慈愛に満ちたところのある犬である。
日本人も、大きさからくる誤解と偏見をなくし、ぜひデーンの良さを知ってほしい。
オス・メスどちらを飼うか。サイズや性格に性差あり。色の差で性格も違うらしい
オスの方がやはり体格がいい。筋肉もよく発達する。よって力も強い。初めて飼うのなら、最初はメスを勧められることが多い。やはり体が大きいとコントロールするのは大変だから、いきなり大きなオスを飼うのは心配といえる。
ただ、性格的には一般にオスの方がやんちゃで甘えん坊でちょっと間が抜けていると思うほど素直で優しい。メスは気が強めで、自分のメリットになることを理解していて、ずる賢いほどしっかり者のところがある。これはデーンに限らず多くの犬種でこの傾向があると考えてよいと思うが、デーンの場合は体格が良い分飼い主が気合いを入れてコントロールする必要があるので、選ぶ前にちゃんと熟慮したほうがいい。どっちが好みか、どっちが扱いやすいかは、人により意見が分かれる。
またデーンは、なるべく劣性遺伝のミスカラーの子をださないように、同じ1犬種の中ではあるが、<フォーンとブリンドル>グループ、<ハールクインとブラック>グループ、<ブルー>グループ内でしか繁殖を原則行ってはいけないとのこと。代々そうした繁殖管理をしていると、そのグループごとの個性ができあがってきているようだ。
一般に<フォーンとブリンドル>グループは、おっとり、おだやか系。ときにシャイで繊細。散歩でものんびり引っ張らずに歩く。ごはんものんびり食べる。なにかとスローリーで、ときにめんどくさがりっぽい。<ハールクインとブラック>グループ、<ブルー>グループは、やんちゃ、活発系。言うならば大雑把、がさつな動き。散歩はわりと引っ張る。ごはんの要求も高い。しっぽを振り回し、当たると割と痛い。
これは犬種スタンダードで明文化されているものではないので、参考程度にしてほしい情報ではあるが、たしかに複数の犬たちを見ていて、まったくの誤報ではないような気がする。
よって初めてデーンと暮らす人、小さな子供のいる家庭、女性や年配の方が散歩することが多い家庭などでは、<フォーンとブリンドル>グループをオススメされることが多い。
やんちゃでパワフルと分かっていても陽気で脳天気な性格が好きで、かつ体力に自信があり、かつ出来ればしっぽで物をはたき落としたり、うっかり窓ガラスを突き破ったりしないくらい広くゆとりのある住環境で暮らしている人、あるいは破壊されても許せる度量の広い人なら、<ハールクインとブラック>グループ、<ブルー>グループがとても楽しいコンパニオンとなるはずだ。
ドイツ系、アメリカ系でも姿がちょっと違う
犬種スタンダードとしては同じ犬種なのだが、実際には形の違いがあるのは疑いようのない事実であろう。<ドイツ系>と<アメリカ系>という2系統だ。
原産国<ドイツ系>は、どっしり型で胴もしっかり太め。マズルも太い(そのためヨダレが多めという説もある)。マスティフ時代の名残を感じさせる力強いタイプだ。
<アメリカ系>は、長身でシュッとしてスタイリッシュに改良が進んでいる感じがするタイプ。ドイツ系より胸が張り、ウエストが絞られてやや細身。ボクサーも同じような犬種改良をされている印象を受けるが、きっとこういう洗練された感じがアメリカの好みなのではないかと思われる。
日本のドッグショー会場では<アメリカ系>が多いようだ。でもどちらが良い悪いというのはない。どちらも甲乙つけがたく、それぞれに魅力がある。デーンと暮らしたいと思ったら、目当てのブリーダーをショー会場やHPなどを探し、あるいは超大型犬ばかりが集まるオフ会なども開催されているので、まずはいろいろなデーンのタイプをじかに見て、体感して、飼い主さんやブリーダーの生の声を聞いて研究してみよう。
また血統により、遺伝性疾患や先天性の病気などもある。姿形の美しさ、性格のタイプに加え、病気についても、しっかり研究することが重要だ。
最高にカッコイイが、憧れだけでは飼えない
超大型犬なだけに、もしも足腰の骨関節にしろ、心臓などにしろ、遺伝性の病気もそうだがシニアになると、介護がとても大変である。憧れだけではとうてい飼えない。
また本来穏やかで優しいのがデーンの良さなのだが、性格を形成するのは「遺伝半分・環境半分」である。遺伝的に攻撃性のある血統の犬は繁殖に使ってはならないとあるが、実際はどうか分からない。かつての取材で、興奮が高く、威嚇してくるデーンに会ったことがあるが、あの大きさでアタックされると、さすがにどんな犬好きでも身の危険を感じるだろう。
制御が難しい犬だと屋外で散歩させてもらう機会が減り、ますます社会化不足になり、悪循環に陥ることもある。やはり「遺伝半分」の部分をクリアするためには、性質面のことをよく考えて繁殖をしている良識のあるブリーダーを探すことが非常に重要だ。
そして「環境半分」をクリアするためには、飼い主がトレーニングをきちんと施すことが不可欠である。どんなに穏やかな血統でも、飼い主が犬をきちんと育てられなければ、環境要因により不良化することも大いにある。それはどの犬でも同じことがいえるのだが、デーンの場合はあの大きさなので、不良犬になってしまうと制御不能になり、人間が大怪我をする確率も高まり、周囲の人へ与える恐怖心も大きくなってしまう。自分の手に余るなら、早期の段階でトレーナーに相談するのが必須。
やはり、かなりの覚悟と、犬への知識をもった人でないといけない。軽々しく選んでいい犬ではないことは間違いない。
悪気はないけれど、破壊力抜群
デーンと暮らしている人の話を聞くと、一般人には衝撃な事件を、日常茶飯事のように笑って話すので、驚いてしまう。「ちょっとよっかかっただけで掃き出し窓のガラスが割れた。もう窓ガラスを交換したのは3枚目」とか「ふすまもよく破く」「嬉しくて長いしっぽを振ると、ちょうどダイニングテーブルの高さなので、コーヒーカップなどが宙を舞って割れる」「留守番させて帰ると、ソファーが無残な姿になっていた」「長いしっぽをびゅんびゅん振って悦びを表現してくれるのは可愛いが、当たるとけっこう痛くてムチで叩かれているみたい」……など、武勇伝は数知れず。破壊力、イタズラ力、お茶目力は、一般飼い主の想像をはるかに超える。
多少のことでは動じない、デーンサイズに負けない広い心の持ち主さん希望。
大きい図体で寂しがり屋の甘えん坊。屋外飼育はほんとは悲しい
強そうなイメージがあるが、基本、甘えん坊な愛すべき性格である。昭和の時代は、こんな大きな犬を室内飼育する風潮は乏しかったため、当時は庭に大きな犬舎があってその中に住んでいるデーンが多かったが、性格的には、本当は家の中で一緒に家族と暮らしたいと望んでいる犬だ。長い留守番も苦手である。ストレスの多い飼い方をしていると、胃捻転になる確率も増してしまうかもしれないので、室内飼育をお願いしたい。
またスムースヘアの超大型犬だし、心臓疾患の多い犬種でもあるので、暑さ・寒さにも強くない。日本の蒸し暑い夏ならエアコンの冷房の効いた快適な部屋で涼み、雪の降るような日には暖炉の前でのんびりと昼寝をする……そういうブルジョワな生活がふさわしい犬と思って正解だ。
ファンシャー同士のネットワークを大切に
近所で同じ犬種と暮らしている人を見つけるのはかなり難しい犬種である。けれども、病気のこと、評判のいい動物病院情報、しつけのこと、介護の不安など、悩みもビッグなことが多いので、そういうときに頼りになるのがファンシャー同士のネットワーク。オフ会などに参加し、デーン仲間のネットワークを作り、どんどん情報交換をするように心がけよう。特別な犬を愛する者同士のつながりもきっと格別だ。
オフ会探しなどはネットで探してもよいし、大きなドッグショー会場などでは、デーン・ファンシャーが集まってお喋りしているシーンもよく見かけるので、そういうときに勇気を出して声をかけてみるのもよい。まだ自分がデーンの飼い主になっていない段階でも、ひやかしでなく本当にいつかデーンと暮らしたいと勉強中であることが伝われば、きっと親切に教えてくれるはずだ。
どの犬でもそうだが、デーンはよりビッグな覚悟が必要で、衝動買いができる犬では決してないのだから、勉強しすぎて損になることはない。飼う前も、飼ってからも、情報収集を頑張ることが、こういう超大型犬と暮らす飼い主の最も大事な条件の1つと言えるだろう。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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