図鑑
エアデール・テリア
テリアで最も大きい「キング・オブ・テリア」。
賢く、意志が強い、玄人好みの犬
英名
Airedale Terrier
原産国名
Airedale Terrier
FCIグルーピング
3G テリア
FCI-No.
7
サイズ
原産国
特徴
歴史
イギリス・ヨークシャー地方のエアー渓谷(渓谷=デール)付近が出身。17世紀の頃、大きめのテリア系の犬と、カワウソ猟に使われるラフヘアの大型犬であるオッター・ハウンドとの交配により大型化された。さらに勇猛剛胆な中型のテリアであるアイリッシュ・テリアなどの血も入れられたという。一説では、現在は絶滅しているブラック・アンド・タン・テリア(硬い毛が特徴)や、ブル・テリアを交配させたという話もある。
そうした強いテリアの血を導入したことでエアデールは、自ら喧嘩を売るタイプではないが、攻撃されると大胆に反撃し、必ず勝つまでやるという頑強な犬になったのだろう。負けず嫌いで臆することのない、意志の堅い犬で、実にテリアらしい。しかもサイズがテリアの中でいちばん大きい。勇猛な気丈さと、大型犬のパワーを兼ね備えている。敵に回したくないタイプだ。
仕事は、カワウソやほかの獣の猟。もともとカワウソを捕獲するのは、漁業の保護のためだったという。19世紀の中頃にはエアー川で定期的な競技会も開かれていた。エアデールは、「水のテリア」と言われるほど、泳ぎが得意な犬だそうだ。日本では泳がせているエアデールに会ったことがないが、歴史からみてきっと
ラブラドール・レトリーバー 並みに水遊びの大好きな犬に違いない。光沢のある水をはじく堅い毛は、水泳に適したものなのだろう。
カワウソ猟犬をしているうちに、多目的な仕事を任されるようになり、カモの捕獲や、テリアらしくネズミの捕獲、ときにシカといった大型の獣猟にも使われたこともあったという。その後、番犬、鉄道警察隊のパトロール犬といった仕事をし、さらに20世紀前半の第一次世界大戦/第二次世界大戦ともに、救援物資の輸送犬や伝令犬として活躍し、「ウォー・ドッグ」とも呼ばれた。戦場で連絡文書をエアデールが届けていたという。また負傷した兵士を見つける任務もしていたようだ。それだけタフで、現場に強く、精神的に自立している信頼のできる犬であり、また全天候で使えるたくましい犬だと想像できる。
最初の頃は「ウォーター・サイド・テリア」、または地名より「ピングリー・テリア」などと呼ばれていたが、1878年にエアデール・テリアと命名された。1884年でのドッグショーで優勝し、一躍イギリスで人気犬種となる。また第一次大戦のあと、戦場のおける勇敢さや忠実さが伝えられて、アメリカのセオドア・ルーズベルト大統領(1858−1919年)ほか、歴代の大統領やハリウッド俳優らがこぞってエアデールを飼育したことから、アメリカで人気が出た。
日本には1930年頃に渡り、軍用犬として飼育され、その後一般に普及した。昭和の時代にはそこそこ見かけることがあったが、近年では毛の手入れの大変さ(費用がかかる)のせいか、なかなか街で出会うことはない。しかし昔からの根強いファンシャーはいて、愛犬家による単犬種団体がいまもしっかり活動している。ファンシャーによって大切に愛され、守られている犬種というのは日本ではまだ少ないので、とても素晴らしいことだと思う。
ちなみに公益社団法人・日本警察犬協会が警察犬として能力を認定しているのは7犬種なのだが、エアデールはそのうちの1犬種である(エアデール・テリア、
ジャーマン・シェパード・ドッグ 、
ドーベルマン 、
ボクサー 、ラフ・コリー、
ラブラドール・レトリーバー 、
ゴールデン・レトリーバー )。エアデールは、イギリスやカナダでも警察犬として実績がある。実力としては、災害救助犬、麻薬探知犬などの使役犬として活躍することも可能な、マルチな才能を持つ犬だ。
外見
テリアの中で最も大きい。筋肉質な体で、足の長さや体長にかかわらず、かなり「コビー」(胴が短く、つまった体型)である。体高は、オス約58〜61cm、メス約56〜59cm。犬種スタンダードに体重規定はないが、だいたい20〜30kg程度。オスの方が大きめだ。
被毛は、針金状の剛毛が密生しているのが理想。自ら抜け替わらない毛なので、抜け毛はあまりない。その代わり、そのままにしているともじゃもじゃと長くなる。それをバリカンやハサミで短くすると、被毛が細くなって柔らかくなり、褪色してしまう。そこで光沢のある、水をはじくような太い毛を育てるために、特殊なトリミング・ナイフで毛を挟み込んで抜く「ストリッピング」などの作業をする。専門の技術を持つ上手な人がやれば、犬は痛がらない。
犬種スタンダードでは「カールした被毛や柔らかい被毛はきわめて好ましくない」とあり、エアデール・テリア・ファンシャー(愛好家)は、バリカンやハサミは使わず、抜くのが本流としている。月1回程度の頻度でトリミングに行く。特殊な技術を要するので、トリミング代は
スタンダード・プードル 同様に高額で、数万円かかる。しかもストリッピングなどは特殊な技術なので、テリアの得意なトリマーでないと受け付けてくれない。また下手な人がやると、犬も痛がる。それが可哀想だったり、近くにいいトリマーがいなかったり、高額なストリッピングでのトリミングは困る一般家庭では、毛が柔らかくなるのもよしとして、バリカンやハサミで手入れをしていることも少なくない。
そうしたトリミング方法の差による毛の質の違いにより、日々の毛の手入れ方法は異なる。家庭犬で柔らかい毛の場合は、週に2回ほど、コーム(櫛)でとかしてあげる。プードルほどはからまないので、コーミングはそんなに難しくはない。そして毛が伸びてもじゃもじゃになってきたら、近くのトリミングサロンに依頼する。自分でバリカンをする家庭もある。
一方、ショードッグ並みに硬くて黒々とした毛を保つ場合は、それぞれのトリマーにより一家言があるので、信頼しているトリマーに、家でのメンテナンス方法を聞くとよい。
毛色は、ブラック&タンやグリズル&タン。サドル(背中に広がる鞍のようなぶち)部分は黒かグリズル(ブルーがかったグレー)で、そのほかの部分はタン(黄褐色)というテリアらしいカラーだ。耳は濃いめのタンであることが多い。また日本では慣習的に断尾されるが、ヨーロッパの多くの国では断尾はすでに禁止となっている。
目は、ダークで(暗色)で小さい。明るい目の色や丸く大きな目は極めて好ましくない。
耳はV字形で、耳の折れ目はスカルの高さよりわずかに上になる。垂れ耳や、付け根の高すぎる耳はよくない。
忘れてはならないエアデールの特徴としてよく言われるのは、活力に富み、どんなときでもワクワクしている表情。大きくてもやっぱりテリアなのだ。好奇心強く、外向的で、自信に満ちた目や耳の保持、尾をきりっとあげているところに性格が現れる。また歩様も特徴的で、足はまっすぐ前方に伸び、弾むような弾力的で軽快な動きをする。足長テリアならではの歩様で、とてもチャーミングな足さばきだ。
毛色
なりやすい病気
遺伝性
若年性腎疾患
股関節形成不全
肘関節形成不全
進行性網膜萎縮
角膜ジストロフィー
免疫介在性溶血性貧血
先天性
その他
ガン
アレルギー性皮膚炎
胃捻転
甲状腺機能低下症
まつげの異常
結膜炎
慢性僧帽弁不全
胃腸障害
クッシング症候群
脊椎症
魅力的なところ
さすがテリアの王様。立派で、独特の存在感がある。テリア好きの垂涎の的。
いつでもルンルンと機嫌がよい。明るくお茶目な性格。
スキップするような跳ねる歩き方がチャーミング。
「エアデールにできないことはない」と言われるくらい、賢く頑健で多芸多才な犬。
抜け毛が少ないので、室内掃除が楽。
テリアの中ではたぶん唯一、子どもに寛容。
番犬になる。
飼い主をボスと認めたら、忠義を尽くす。
大変なところ
黒くて光沢のある太い毛を保つためには、特殊な毛の手入れが必要。トリミング代も高額。
せかせかしていて、気が短い。静かな暮らしを望む人には向いていない。
勇敢で荒っぽい元猟犬。猫や小動物を追いかけたがる。攻撃スイッチが入ることも。
飼い主に逆らうくらい頭がいい。頑固で強情。テリアの扱いに慣れていないと手強い。
トレーニングには根気とコツが必要。
せっかちで気が短い。
好奇心が強い。喧嘩が気になる「江戸っ子気質」。
自ら喧嘩は基本売らないが、喧嘩になったらとことんやる。
タフな犬なので運動や刺激はたっぷり必要。ヒマは嫌い。
まとめ
せっかちで気が短く、喧嘩が気になる「江戸っ子気質」
テリアの仲間で唯一の大型犬。穏和で親しみやすいムク毛のオッター・ハウンドの血も入っているためか、小型テリアと比べれば落ち着いていて、そこまで気が強くなく、子供にも寛容なのだが、でも飼育経験者に話しを聞けば聞くほど、やっぱりエアデール・テリアの中味は「テリア」以外の何者でもない。
せかせかしていて、気が短く、好奇心が強く、目新しいものや喧嘩にすぐ顔をつっこみたがる。まるで「江戸っ子みたい」とのこと。陽気で、朗らか、いつもルンルンとしていてお茶目。細かいことは気にしない、あっさりした性格。そのくせ頑固で気難しい面もあり、自分のルールを持っていて、自分の意志は曲げない。テリアだから、勇敢で剛胆で喧嘩っ早いところもある。
よって人間のルールを教えるには、根気とコツが必要。非常に個性的で、おもしろいキャラクターなので、一度エアデール・テリアにはまると、それ以外は考えられないという人も少なくないが、それだけキャラが濃い。テリアに精通した人にはたまらない、いわゆる玄人好みの犬だが、素人には手強い。外見のテリアっぽさ以上に、直視すべきはその内面のテリア・キャラクター。ボディサイズが大きい分、それだけコントロールするのは大変でもある。体力と、テリアに負けない精神力のある、テリア・ファンシャー(愛好家)向きの犬。
ついでに言うと、そもそもテリアはネズミ捕獲の仕事をしていたため地面に穴を掘るのが得意で、どのテリア種もその習性をいまも残している。体のサイズが大きく改良されたエアデールもやはり未だにそうらしく、庭のある家では穴掘りをするのが趣味のことが多い。でも大型犬のエアデールが穴掘りをすると、殺人事件の共犯者になるつもりかと焦るような、大がかりな穴を掘る犬もいるそうだ。庭の花壇や芝生を掘り起こされたくない家庭では、フェンスで区切るなどの努力を要する。
毛のメンテナンスは特殊な技量が必要
テリア気質と共に、素人に扱いが難しいのが被毛の管理。エアデール・テリアの本来の渋さ、凛々しさを保つためには、ストリッピングなどの特殊な技術が必要である。そのため月1回ほどのトリミング代がかかる。特殊技術なので、ほかのトリミング犬種よりトリミング代はお高めだ。「テリアの王様」を養うためには、それなりの経済力が必要といえる。
また、このテリアに特化した技術を持っているトリマーがいなくて「バリカンなら引き受けるが、ストリッピングはできない」というトリミングサロンも少なくない。あるいは、技術のない人が毛を抜くと、犬は痛がる。そうなると人間に触られることが嫌いになってしまうケースもあるので要注意。
エアデール・テリアを飼い始めたら、腕のいいサロンを探すのが最初の難関かもしれない。ブリーダーから子犬を手に入れるときに、ブリーダーはその犬種の専門家なのでいろいろ教わっておくとよい。エアデール・テリア犬友達をつくり、口コミなどの情報を集めることも大事である。ついには、自分でストリッピング技術を身につける飼い主もいる。そしてそのまま愛犬の毛の手入れが趣味になってしまう人も。愛があれば、さまざまな壁も越えられる。
家庭でのメンテナンス方法は、愛犬の毛質によって異なる。いつもお願いするトリマーに、飼い主が日々やるべき毛の手入れ方法について習うのがいちばん話が早い。またエアデール・テリアは、プードルのようにからみやすい毛ではないので、家でのブラッシングは割と簡単。放置しておくとそのままもじゃもじゃと体が大きくなっていくが、ほとんど抜けないので部屋の掃除は楽。
敏感なので、警戒吠えが近所トラブルにならぬよう注意
敏感で勇敢なので、番犬になる。しかし反面、郵便屋でもなんでも吠えてしまい、吠え声が苦情になる可能性がある。でも警察犬の訓練にも対応できるほど賢い犬なので、きちんと教えれば、犬は理解できる。
また犬なりに、吠えねばならぬ理由がある場合がある。なぜ吠えているのか、何かほかにストレスがないのかなどを飼い主側が把握し、犬の行動を理解し、改善してあげることが必要。自分で改善できない場合は、トレーナーに相談しよう。テリアへの教え方にはコツがいるので、できればテリアのトレーニングに慣れているトレーナーや、エアデール・テリアを扱っている警察犬訓練所を探すとベストだ。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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