図鑑
アラスカン・マラミュート
友好的な犬だが我は強い。
世界最大・最強のソリ犬
英名
Alaskan Malamute
原産国名
Alaskan Malamute
FCIグルーピング
5G 原始的な犬・スピッツ
FCI-No.
243
サイズ
原産国
特徴
歴史
アラスカ西部の海岸地方にすむエスキモーの部族「マラミュート族」からその名をもらった、大型の北方スピッツ系の犬。祖先犬はシベリア原産の犬とされ、シベリアン・ハスキー(アメリカ原産)やサモエド(ロシア北部原産)と近親関係にある。大昔に北極圏の氷の世界を渡って、アメリカ合衆国に属するアラスカ州まで広がったのだろう。
ソリ引きが主たる仕事で、ソリ犬としては世界最大、そして世界最強と名高い。そのほかカリブー(北米のトナカイ)の群れを護る護畜犬の役割のほか、クマやヘラジカ狩りの猟犬、ときにはオオカミ狩りの手伝いもした。過酷な北極圏で生き抜くエスキモーたちの暮らしの右腕としてなくてはならない大事な犬だった。
ほかのエリアの北方のソリ犬たちはムチで叩かれるなどして服従を強いられソリ引きをさせられていたが、マラミュート族の人々は、この大きな犬にたくさんの愛情を注ぎ、質素ながらも寒さをしのぐ自分たちの住まいの中に入れて、ともに生活していたという。ロシア人探検家が初めてこの犬を発見したとき、人々が犬を非常に大切に扱っているのを見て驚いたそうだ。そうしたお互いを尊重する暮らし方だったせいか、マラミュート族と犬との絆はとても深く、人間の赤ちゃんと子犬が共存できるような温かい関係だったと文献には記されている。
マラミュート族はこの種の犬を何百年にもわたって繁殖させてきた。ソリ犬の中では極めて古い犬種とされる。隔絶された環境で純血が保たれていたが、白人たちがアラスカに上陸して以来、状況が一変した。犬ゾリレースが流行し、マラミュートもほかの犬種と雑交配が進められてしまった。とくに、1909年からの10年間はその傾向が強かった。
そもそもマラミュートは、最強のソリ犬ではあるが、それは「力持ち」という点での最強であり、「スピード」では劣っていた。そのために賞金を賭けた犬ゾリレースのために、足が速くてタフな犬を交配していった。近代でもマラミュートやハスキーに、タフな心肺機能を持ち、直進性が高く、スピードが速いポインター種を掛け合わせることはよく聞くので、そのような犬を交配させていったのだろう。結果的に、エスキモーたちが長年育んできたマラミュートの純血種が急速に激減してしまったという。
幸い、かなり辺境な土地には純血のマラミュートが外部からの影響にさらされることなく残っていた。1920年代に熱心な愛好家がエスキモーの村に住んで、住民の信頼を勝ち得て複数のマラミュートを手に入れ、その犬たちをベースに犬種の再興に取りかかった。またアメリカ本土でも犬ゾリレースが行われるようになったのを機に、純粋犬保存運動が起こり、1926年以降改良が行われた。AKC(アメリカン・ケネル・クラブ)がマラミュートの第1号を登録したのは1935年のことである。
日本では、1980年代後半に少女漫画をきっかけにシベリアン・ハスキーが流行したが、そのハスキー流行後期頃に「ハスキーに似ているけど、ハスキーよりももっと大きなソリ犬」として、アラスカン・マラミュートはソリ犬タイプの犬を愛する人々から注目を集めた。ハスキーほど有名にはなっていないが、マラミュートはサモエドと並んで一部の熱心な愛好家のいる犬種である。
外見
ソリ犬の中で最も大型。驚異的な持久力がある力持ちで、「重量級の輸送者」と言われる。深い胸、筋肉質のボディ、太くて骨量のある足。胸の深さは、体高の約2分の1。胸や肩、前肢の筋肉が大きくがっしりと発達しているから足が短く太く見える。
この犬種にはさまざまなサイズが見られる。1900年代初期の交雑の影響もあるかもしれないが、それよりもむしろボディサイズより、「力持ち」にふさわしいプロポーションやムーブメント(体躯構成によって生じる動きや、その犬種特有の動きや歩様)を重視しているからだ。
好ましいサイズとしてスタンダードに明記されているのは、体高はオス63.5cm、メス58.5cm。体重はオス38kg、メス34kg。でも45kgくらいの個体も割と見かける。また、ダブルコートとモフモフの毛にくるまれているために、実際の体重よりももっと大きな犬に見える。さらに夏よりも冬の方が毛がより厚みを増して、ひとまわり大きくなる。
参考までに、日本でマラミュートよりも認知度の高いシベリアン・ハスキーの場合、体高はオス53.5〜60cm、メス50.5〜56cm、体重はオス20.5〜28kg、メス15.5〜23kg。マラミュートに比べてけっこう小さい。中型犬といってよいサイズである。でもやはり豊富な被毛に覆われているので、同じ体重のスムースヘアの犬よりは大きく見える。
同じく参考までに
秋田 は、スタンダード体高でオスは67cm、メスは61cm。体重スタンダードの記載はないが、一般に体重オス40〜45kg、メス32〜38kgくらい。マラミュートが標準サイズなら、秋田よりも小さい犬だということになる。思ったよりもマラミュートは大きくない。
ただしアメリカや日本のショーの世界では、大型犬はより大きい方が見栄えがよいと評価されやすい傾向にある。とくにアラスカン・マラミュートや
グレート・デーン のようにスタンダードに上限サイズがない犬種は、その可能性が高い。アメリカでマラミュートはショードッグとしても人気があるので、より大型化させようとするブリーダーもいるかもしれない。ただし、
柴 や
プードル のように矮小化されることと同じく、巨大化のさせすぎも健全性を損なう。マラミュートを迎えようと思うならば、心身ともに健康な体を未来に残す努力をしているブリーダーを探そう。
ちなみにハスキーはブルーの瞳やバイアイ(片方だけ青い目)がいるが、マラミュートの場合、ブルーの目は失格となる。マラミュートの目はブラウンでなければならない。
被毛は、極東の厳しい寒さに耐えるダブルコート。上毛は荒い毛で、下毛は密に詰まった、脂性のウーリー(羊毛状)な毛。脂っぽい毛は耐水性があり、極東で生きるのにふさわしい毛だが、一般に体臭は強くなると言われる。また脂性で密な羊毛状の毛ということは、日本の高温多湿な気候では、蒸れたりからんだりしてフェルト状になりやすい。毛の厚い犬なので、ブラッシングを1日おきにする覚悟が必要。とくに春と秋の換毛期は、気合いを入れて毎日ブラッシングしないといけない。
また頑張ってブラッシングしていても、日常的に毛が抜ける。室内飼育の場合は、毎日掃除機がけが日課になる。庭で飼育する場合も、抜け毛がご近所にまで飛んでいきやすいので、やはり毛の手入れは怠らないようにして、かつ抜け毛の掃除も頑張ろう。集合住宅の場合、ベランダでブラッシングをすると階下の洗濯物に毛がつき近所トラブルになるのでNG。風呂場などでブラシをかけよう。
夏場は通常少し毛が短くなり、密度も減り、ちょっとスッキリしたコートになる。その分、夏毛に衣替えする前の春の換毛期は、よけいに大量に抜ける。
シャンプーは自宅でできるが、マラミュートに限らず、犬は洗うと新陳代謝が高まり、よく毛が抜ける。マラミュートは毛深いうえに、ほかのスピッツ系の中で最も体表面積が広いので、抜け毛がものすごい。風呂場の配水管が詰まる心配があるので注意。
足をすっきりさせるためのカット、以外のカットは認められない。通常の家庭犬なら、トリミングサロンに行く必要はないだろう。ただ、大きな犬のシャンプーやドライヤーを自分でするのが体力的・時間的に大変なので、プロに依頼する人はいる。密な下毛を乾かすのに時間がかかるため、シャンプードライは1万円前後。しかしサイズが大きいので、トリミングテーブルやシンクに入らないと断られるケースもある。
一方、抜け毛対策や暑さ予防と思って、バリカンで丸刈りにされる犬もいるが、犬の被毛は直射日光や輻射熱から防御する役目もしており、毛が短いとよけいに熱中症になりやすくなると言われる。皮膚炎など特別な理由で獣医師からカットを指示された場合を除き、丸刈りにするのはよろしくない。
また丸刈りにすると、ごく細かい毛がパラパラとよけい落ちる。飼い主が毛の手入れや抜け毛の多さに我慢できそうにない、また日本の蒸し暑い夏を涼しく快適に過ごさせてあげることが難しい土地なら、マラミュートを始めとする北方スピッツ系の犬を飼うのは諦めた方が賢明だ。
マラミュートにはさまざまな毛色や柄がある。頭部を覆うキャップ(かぶり物のような模様)が特徴。顔の模様も個性があり、すべてホワイトだったり、線(鼻筋を通る濃い色)が入ったり、マスクのような模様(日本犬でいうところの四つ目。目の上の模様)などいろいろだ。
通常、被毛の色は、ライトグレーからブラックまでのグラデーションのような色(グレー&ホワイトやブラック&ホワイトなど)や、セーブル(ゴールド、シルバー、グレー、フォーンなどに黒い毛先が混じった色)からレッドまでの色(レッド&ホワイト、ブラウン&ホワイトなど)とさまざまである。許容される単色カラーはホワイトのみ。つまり全身真っ白のマラミュートもいるらしい。部分的な白が、つねに下腹部、足(あるいは足先)、顔に入る。額や鼻筋のブレーズ(白い線)や白い襟巻きは魅力的だと評価されることもある。胴体にぶちが散ったようにほかの色が混じるのは好ましくない。
毛色
なりやすい病気
遺伝性
若年性腎疾患
股関節形成不全
アラスカン・マラミュート多発性神経疾患
糖尿病
亜鉛吸収不良
先天性
その他
毛刈後脱毛症
矮小化
角膜腫瘍
甲状腺機能低下症
胃捻転
角膜ジストロフィー
進行性網膜萎縮
若年性白内障
魅力的なところ
たくましくて頑丈な姿。成犬になると威厳もある。
毛がモフモフの大型犬。包容力たっぷりで魅力的。
日本犬と同じルーツを持つので、なんとなく親しみ深い。
ソリ犬は団体行動なので、他犬とも比較的友好的にできる。
誰にでもなつく。ワンマンドッグ(1人の飼い主に従う犬)ではなく社交的。
飼い主がちゃんと統率できれば、気が優しく、子供にも寛容。
自転車ギグレースや犬ゾリスポーツなど、引っ張り系ドッグスポーツを楽しめる。
長距離歩く散歩、自転車並走、ジョギングのお伴が得意。
耐寒性がある。雪国でも飼える。
自主・独立性があり、留守番も苦手ではない。
大変なところ
非常にタフで力持ちな犬。このエネルギーを消費させるのは大変。
飼い主にも、犬に負けない強靱な体力と精神力が必須。
自意識が高いので、群れのリーダーになろうとしやすい。
我が強くてマイペース。一筋縄ではいかない。しつけには忍耐力が必要。
引っ張るのが仕事だったので、リードを引っ張りやすい。力も強い。
飼い主に背を向けて走るのが仕事。ノーリードにすると呼び戻すのは大変なことが多い。
意外と遊び好き。運動不足だと破壊行動に走る恐れあり。
ときに攻撃性のある犬がいる。力が強いのでコントロールするのは非力な人には難しい。
ワンマンドッグが好きという人には物足りない。ちょっぴりつれない。
子供には寛容だが、体当たりしないよう監視は必要。
日本の温帯湿潤気候は暑すぎる。冷房は5月〜11月近くまで必要なことも。
真冬がベスト気温。冬の室内の暖房を嫌がる。
抜け毛がすごい。
まとめ
マイペースすぎて一筋縄じゃいかない、力持ちでパワフルな犬
ハスキーよりも大きく、ハスキーより少し丸みを帯びたボディがこれまた可愛い、最強のソリ犬。日本犬と同じ北方スピッツ系の犬なので、秋田犬の遠い親戚筋にも見え、なんとなく親近感を覚える。
ソリ犬は、いろいろなチームに参加してソリを引いたり、いろいろな人にエサをもらったり構ってもらったりするライフスタイルなので、ワンマンドッグ(ただ一人の飼い主に忠誠を尽くす犬)ではない。秋田犬とはここが正反対。マラミュートは細かいことは気にせず、誰にでも心を許す寛容で大雑把な心の持ち主といえる。
裏を返せば、あまり番犬には向いていない。誰にでもなついてしまうからだ。一見、十分怖そうな顔に見えるが、とてもフレンドリーで、遊びに誘うと調子に乗ってはずんで遊び出す一面もある。そういうところは飼いやすい可愛い性質といえる。
しかし「難所(坂道)の多い場所でも、数頭のチームで500kgくらいの荷物を引っ張って、1100マイル(約1770km)もの距離を走破できる」と文献にあるほど、タフで根性のある犬だ。きっと子犬は小熊のようで最高に可愛いに違いないが、ぬいぐるみを買うようなつもりで飼ったら犬も飼い主も不幸になる。自転車を引っ張って走るギグレースや、犬ゾリ競技など、プル競技(引っ張り系のドッグスポーツ)を犬とやりたい、というくらいの気概のある人を希望。
日々の運動は、せめてジョギングや自転車の伴走はさせないとマラミュートにとっての散歩とは言えない。自転車でだいぶ走っても、そう簡単には疲れてくれないらしい。飼い主もかなりタフで体力のある人でないと難しい。
また厳しい北極圏の生活では、依存心の強いような軟弱な精神力の犬は淘汰されていく。よって体だけでなく精神力も強靱で、自主性があり、自意識が強い。そのためしつけは一筋縄ではいかず、教えるには時間と根気がいる。また飼い主が頼りがいのないリーダーだったら、すぐにその座を奪おうとするらしい。40kg級の大きな体の犬が好き勝手な振る舞いをするようになったら大変だ。飼い主は、犬に認められる統率力のある人でなければならない。よって初心者には向かない。
北海道など寒い地方にはよいが、暑い地域では要検討
北極圏でエスキモーたちと暮らしていた犬である。近代はアメリカでショードッグとして注目され、コンパニオンとして飼育されていることもあるけれど、基本は北極圏の犬。日本のような温帯湿潤気候は辛い。夏の蒸し暑さは、マラミュートには大敵だ。
北海道や東北、長野などの涼しい地方ならまだよいが、本州以南や都市部のヒートアイランドの気温の地域で飼えるのか、照り返しの強いアスファルト舗装の散歩道しかない場所で夏場の散歩はどうするのか、それでも犬を幸せにしてあげられるのか、事前によく考えた方がいい。
室内飼育ならば、早ければ4月から、10月くらいまでは冷房を入れることになり、電気代がかかる。反対に、冬は電気代はかからない。暖房を入れない方が、マラミュートにとって快適だからだ。だけどそれでは人間が寒すぎる。犬のために暖房は使わず、室内でも上着が手放せないような暮らしをしている家庭もある。犬に合わせた生活様式で暮らせるかどうか、まずシミュレーションしてほしい。
また夏場の散歩は、日中はもちろん暑すぎるので、朝5時起床で1時間歩くという飼い主さんもよく聞く。そしてまたアスファルトが冷めた頃の時間の深夜に1時間ほど歩く。犬のためなら早起きや深夜の散歩も苦にならないという人がよい。さらに言えば、冬場は犬ゾリレースに参加できるような環境だと、犬はいちばん喜ぶだろう。
ノーリードは心配。ドッグランなど囲いのある場所で
ソリ犬たちは、ときどき「頭が悪い。呼んでも来ない」などと言われることがある。しかしソリ犬たちは自主性があり、自分で生き抜く判断力と生命力のある聡明な犬。決してバカな犬ではない。
呼んでも来ないのは、ソリに乗った人間に背を向けて、一生懸命前に向かって走り続けるのが仕事だったから。牧羊犬やガンドッグのようにノーリードで野に放たれ、人間の指示どおりに動く仕事ではないので、呼び戻しが得意である必要性もなかった。またソリとつながった綱をずんずんと力いっぱい引っ張るのが仕事だったから、リードでつながった飼い主もズンズンと引っ張りたくなる。
リードの引っ張り癖は、トレーニングすれば引っ張らないように教えることはできるだろう。ただし呼び戻しについては、精度が悪いと迷子や交通事故につながるので心配だ。ノーリードで遊ばせるときは、ドッグランや広い庭のような囲いのある場所で行うようにする。また万が一に備えて、つねに迷子札や鑑札をしっかりつけておき、マイクロチップも入れておこう。
北極圏の寒さにも負けないダブルコートの毛深さ。抜け毛は覚悟
密でウーリーな下毛がたっぷりということは、寒さに強く、暑さに弱く、そしてものすごく抜けるということだ。柴でも秋田でも日本スピッツでも、北方スピッツ系の犬は抜け毛が多いけれど、なかでも北極圏仕様の犬はガンガン抜けて当たり前。ブラッシングや部屋の掃除機がけが面倒という人は、マラミュートのオーナーになるのは無理だ。
もしも家族に動物の毛のアレルギーのある人がいるのなら、飼育は諦めるべき。あとになって「やっぱり無理だった。捨てるしかない」という事例が散見される。マラミュートに限ったことではないが、事前によく検討と覚悟をしないで犬を選んではいけない。
とくに、春と秋の換毛期の抜け毛量は尋常でないので、自宅のお風呂でシャンプーをすると排水溝が詰まりそうになる。排水溝の上にネットを取り付けるなどして対策をしよう。
またベランダや家の前の道路、公園などの公共の場所でブラッシングするのも考えもの。大量な抜け毛が風に乗ってご近所に飛んでいってしまうとまずい。近隣に犬の嫌いな人がいるとよけいに問題が大きくなりやすいので、十分配慮する。
このページ情報は,2014/10/30時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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