図鑑
ブリタニー・スパニエル
大きくもなく小さくもない魅力的なサイズ。
野原を愛する、運動性能抜群な小悪魔ガンドッグ
英名
Brittany Spaniel
原産国名
Epagneul Breton(エパニョール・ブルトン)
FCIグルーピング
7G ポインター・セッター
FCI-No.
95
サイズ
原産国
特徴
歴史
フランスで最もポピュラーなガンドッグ。愛らしい姿をしているがまぎれもない実猟犬で、フランス原産の鳥猟犬種の中でいちばん飼育頭数が多い。元々はスパニエルらしくフラッシング・ドッグ(獲物の鳥を飛び立たせる犬)だったが、訓練次第でトラッキング(追跡)、セッティング/ポインティング(位置を知らせる)、リトリーブ(回収する)という種種の仕事もできる、多目的な犬として愛好された。多目的に使える猟犬という点では、ドイツの
ワイマラナー や
ジャーマン・ショートヘアード・ポインター 、
クライナー・ミュンスターレンダー などと同じだ。
フランスのブルターニュ地方中部が原産。フランス名は「Epagneul Breton」(エパニョール・ブルトン)。「エパニョール」とはフランス語のスパニエルなので、「ブルトン(ブルターニュ)地方のスパニエル」の意味だ。愛好家の間では単に「ブルトン」と呼ばれることもある(ここでは原産国に敬意を払い、以降ブルトンと略す)。
アメリカではスパニエルをはずして「ブリタニー」が正式犬種名とされ、AKC(アメリカン・ケネルクラブ)でも「ブリタニー」となっている。その理由は、スパニエルよりもセッターに似通っているからだという。日本のJKCでは、FCIにならって「ブリタニー・スパニエル」で登録されている。
ほかの犬種でもありがちだが、本場フランス系のブルトンと、海を渡って改良されたアメリカ系のブリタニーではもはや違う犬種だとするファンシャーもいて、少々議論も起きているらしい。
ともあれまず基本の沿革としては、本犬種は中世の古い鳥猟犬から発達した。その後は諸説あるが、19世紀末か20世紀初頭あたりに、ヨーロッパ大陸に古くからいた鳥猟犬とラヴェラック・セッターとの交配により作出されたという。ラヴェラック・セッターとは、
イングリッシュ・セッター の初期の頃の呼び名であり、つまりブルトンは、イングリッシュ・セッターと近縁ということだ。そのほかに、イングリッシュ・ポインターなど複数の犬種と異種交配や淘汰がされて犬種改良されていったという説もある。
ブルトンの最初のスタンダードの草案は1907年に作成され、1908年に採用された。これが「ナチュラリー・ショート・テイルド・ブリタニー・スパニエル・クラブ」の最初の犬種スタンダードとなった。このクラブ名から分かるように、最初の名前は「ショート・テイルド・ブリタニー・スパニエル」だった。この犬種は、オールド・イングリッシュ・シープドッグのように生まれつき尾のないものがいたからだろう。
日本に入ってきたのは東京オリンピック(1964年)の頃らしい。当初はアメリカ系の犬が多かったようだが、現在はフランス系の犬を扱う犬舎が多い。ちなみにこの愛らしい中型犬は、当時から日本でも実猟犬として好まれた。
アメリカ系とフランス系の違いをざっくり言うと、フランス系は狩猟犬としてレンジ(主人との距離、あるいは捜索範囲)が狭いタイプだが、アメリカ系はレンジが広い。つまりフランス系は、猟をする際に人間が徒歩で行ける範囲、人間の目の追える範囲内で犬がフラッシングやポインティングを行うのだが、アメリカ系はハンターが馬に乗って広い草原で狩りをするようなスタイルに適している。
そのため、(日本に輸入された犬の家系だけかもしれないが)アメリカ系の犬のほうがサイズもパワーも一回り大きい印象がある。また気性が激しいこともあったようだ。
まだ日本では数が少ない犬種だが、実猟犬としてだけでなく、普段は可愛い家庭犬で冬場の猟期の週末だけ実猟犬として出勤するという、二足のわらじを履いている犬も多い。100%家庭犬として過ごしている犬もいる。でも運動量はすこぶる多いので、ずっと飼い主の隣でテレビ鑑賞ばかりするインドアな生活には不向き。実猟犬でなくても、アウトドアで過ごす時間が多い家庭で好まれている。
外見
FCIやJKCの犬種のグループ分けの、第7グループ(ポインティング・ドッグ)の中で最小のサイズ。体高はオス49〜50cm、メス48〜49cmが理想で、上下2cmまでは許容される。スタンダードに体重表記はないが、だいたいオス16〜18kg、メス14〜16kgくらい。ほどよい中庸なサイズだ。
体つきはガンドッグらしく頑健だが、コンパクトで引き締まった体をしており、重々しくない。全体的にコビー(短胴でつまった体型)である。体高:体長は1:1で等しく、横から見ると体躯構成はスクエア(正方形)。
「犬種の特徴が不十分なもの。すなわち同じ犬種のほかの犬と似ていないもの」は「タイプの欠如」として失格になる。わざわざこうした失格項目がスタンダードに明記されているということは、タイプの違う犬が出る確率が多いのだろうか。いずれにしても、子犬を入手するときは、両親犬や親戚犬の状態をよく確認することが望ましい。
頭部の重要な比率は、スカル(頭骨):マズル=3:2。つまりスカルがマズルより長い。マズルが長すぎるのはよくない。
耳は付け根が高く三角形。耳の上部はウェーブ状の毛があるが、先端は短毛の毛で覆われている。
目はわずかに斜めに付き、少しオーバル(卵形)。色はダーク(濃い)なほどよい。スタンダードには「利口で優しく、素直な表情。明るい色の目や意地悪な表情、獲物を追う鳥のような目つきは重大な欠点」とある。目の表情は耳の付け根が上に動く動作と調和して、いわゆる<ブルトンの表情>と言われる利口かつ注意深い表情をする。
非常に明るい目の色や、双眼異色(両目の色が異なるもの)は失格。また斜視で眼瞼内反、眼瞼外反のもの、眼瞼の色素欠乏が目立つものも失格となる。
山野を走り回れる優れた心肺機能があることを裏付けるのが、大きな鼻。鼻孔(鼻の穴)も大きい。鼻の色は、毛色や目の縁の色、口の色に調和している。鼻の色素が薄いものは失格。
ボディのトップラインは、腰および尻の始まり部分まで水平。背は真っ直ぐで短め。尾付きは高い。ブルトンは無尾か、大変短い尾で産まれてくることがある。断尾したときの尾の長さは3〜6cmで、10cmを超えてはならないとスタンダードにあるが、ヨーロッパではすでに断尾は法律で禁止されている国が増えているので、今後はしっぽのあるブルトンも登場するはずだ。
被毛は、なめらかだがシルキー(絹糸状)ではない。ボディにぴったり沿って生えているか、わずかにウェーブ状。カールはしていない。頭部と四肢の前側の被毛は短いが、足の後ろ側には飾り毛がある。手首や飛節に近づくにつれ飾り毛は自然に短くなる。ただ実猟犬で使う犬は、四肢の飾り毛に草の実などがたくさん付くので、バリカンなどで短くカットしていることもある。
毛質には個体差があるが、割としっかりした硬めの毛のため、もつれて毛玉になることは少ない。手入れはけっこう簡単。週2〜3回くらい軽くブラッシングする程度で、美しさを保つ。トリミングも不要。泳ぐことが大好きだし、野山に出かけたら泥んこだらけになることもよくあるが、飼い主が自宅でがんがん洗える。長毛種といっても、長い毛は耳と四肢の飾り毛くらいで、ボディ部分は短毛種といってよいかもしれない。抜け毛も見た目の想像より少なく、
ゴールデン・レトリーバー やイングリッシュ・セッターのように抜けることはない。
毛色は以下の3種類。
・ホワイト&オレンジ
・ホワイト&ブラック
・ホワイト&レバー (濃い茶色)
パイポールド(パーティ・カラーと同じ意味。地色に1色または2色の明確なぶちがあるもの。ホワイト&ブラック斑やホワイト&レバー斑など)や、あるいはこれにローン(変則的な細かいぶちが入っているもの。ブラック・ローン&タン、レバー・ローン&タンなど)もOK。
パイポールドやローンにおいては、マズルの上部や側面(頬)、四肢にティッキング(レバー&タン&ホワイトのように、白地に黒・オレンジ・レバーなどの小さいぶちが足の下の方に散らばっているもの)があってもよい。またトライカラー(黒&黄褐色のタン&白の3色の毛色)もOKで、マズルの上部や側面(頬)、目の上(つまり麻呂眉)、四肢、胸、尾の付け根にタン(オレンジ〜ダーク・タン)が入ることもある。耳にある白いぶち、目の周りのホワイトは失格となる。
何色の毛でも、細いブレーズ(鼻筋を通る細長い白斑)があると好ましい。単色の被毛は認められない。
ちなみに性格上の問題があるものは、どんなに美しい犬でも失格となる。「咬み癖のあるもの、犬や人間に対して攻撃性があるもの、極端に臆病なもの」は失格。スタンダードにこの規定があるということは、かつて犬種が荒れてこういうタイプの犬が多く出たということではないかと思われる。性質に問題のある犬は繁殖犬に使ってはならない。
毛色
魅力的なところ
明るくて社交的で、人が好きな可愛い性格。
かたや野性味もある。鳥を見つけたときの迫力はすごい。
活動的でやんちゃ。
小さすぎず大きすぎない中庸なサイズ。
水陸両用で持久力抜群。アウトドアのお伴に最高。
非常に多才。ドッグスポーツや訓練を楽しみたい人にもオススメ。
毛の手入れはけっこう楽。
子供好き。子供に優しく穏和。幼児との同居を推薦できる数少ない犬種。
ほかの犬とも仲良くできる個体が多い。
頑健な犬で病気は少なめ。長生きな犬も多い。
本来無駄吠えは少ない犬。マンション飼育も可能。
大変なところ
頑丈でハイパーな鳥猟犬。運動欲求量が膨大。体育会系飼い主限定。
人間との徒歩の散歩では満足しない。野山や湖沼に連れて行ってくれる人希望。
非常にやんちゃな破壊魔。とくに子犬のときは小さいデビル。
頭が良く、好奇心・探求心が強く、退屈が苦手で、無類のイタズラ好き。
頑固ではないが、自主性があり思ったより従順ではない。しつけは忍耐力が必要かも。
感受性がこまやかなので、矯正トレーニングはNG。
猟欲が強い。野山が大好き。その幸せを与えるには時間や体力が必要。
運動不足などストレスがあると、問題行動を起こしかねない。
家ではすっかり仕事オフ状態。テリトリー意識が低く、番犬には向かない。
まとめ
可愛いぬいぐるみにはなれない野趣溢れる犬
現在の日本では、JKCの飼育登録頭数が84位(2012年度)。日本では少数派だが、フランスやアメリカで広く愛されている犬である。実猟犬としてはもちろん、人なつこく明るい性格、環境適応能力のある大らかさ、子供好き、扱いやすいサイズ、無駄吠えの少なさなど、家庭のコンパニオンとしての才能も十分。日本でももっと認知されていい犬種ではないかと思う。
しかしそれでも「ビギナーにもオススメ」と言えないのは、やはりガンドッグならではの莫大な運動欲求量の高さ。しかもただ自転車引きやドッグランで走らせればいいというものではない。この犬の幸せは、飼い主と一緒にアウトドアで活動することだ。
この犬の可愛さと扱いやすいサイズが気に入り家庭犬として飼い始めたが、気が付いたらライフル免許と狩猟免許を取って週末ハンターになっていたという強者のファンシャーもいる。いつもは家族のアイドルとしてソファーで寝そべり、子供たちとキャンプに行きつつ、猟期になったら週末はキジを探しに一緒に野に出る。こういうライフスタイルを与えてくれる人が、ブルトンにとって最高の飼い主だろう。
むろん、誰もがハンティングを趣味にすることはできないので、最低でも犬と一緒にアウトドアを楽しみ、一緒にトレーニングやドッグスポーツ、山歩きなどの共同作業を楽しめる人を希望。反対に、頻繁に山野に出向き犬と共に活動するのが無理だと思う人は、お互いの幸せのためにブルトンは諦めたほうがよい。
「頑固じゃないけど従順ではない」。小悪魔みたいな性格
飼い主への反抗心が乏しく、訓練に順応する能力も高く、子供を咬む特性が低く、服従性も高い。ブルトンは、家庭内の親分の座を狙うこともしないし、子供の面倒をみたがる穏和な犬なので、ビギナーや小さな子供のいる家庭でも良好な関係の維持が期待できる。かなりコンパニオンとして優等生と思われるのだが、ファンシャーに聞くと「素直だし、優しいし、頑固じゃないけど……従順かと言われると……」との返答。
飼い主が帰宅すると、謳うような声をだして全身で喜ぶし、10歳過ぎても「あそぼ、あそぼ」と言ってくる「永遠の少年」のような純朴な面があるかと思いきや、「小悪魔」にもなるらしい。
自主性があり、自分で考えることをする犬なので「従順」とはちょっと言いがたいらしい。呼ばれてもすぐには来ないで3回目にようやく腰をあげたり、すねてストライキしたりすることもある。憎めないキャラクターだけど、ちょっと手を焼くこともあるそうだ。
ちなみに子犬の頃はかなりやんちゃでイタズラっ子なので、初めて犬を飼う人はゲンナリしてしまう人が多い。でもイタズラ好きなのは知的好奇心・探求心の高さの現れともいえる。靴やリモコンなどが破壊されないように、子犬を迎えるときはリビングを整理整頓し、犬の口の届く範囲にモノを置かないようにしよう。またイタズラする余力がなくなるくらい、日々たっぷり遊んでやったり、アウトドアへ連れ出して運動や脳に刺激を与えると、破壊活動などの事件は減るはずだ。
とにかく同じ鳥猟犬でも、イングリッシュ・セッターや
ゴールデン・レトリーバー のような「素直さ、従順さ、生真面目さ」が保証されているわけではないので、トレーニングには少々コツと忍耐が必要。そうはいっても、多くの犬種の中では十分服従性の高い、トレーニングのしやすい犬だ。
大きな犬が好きだけど、大型犬を飼う自信のない人にちょうどよい中庸サイズ
ヨーロッパには15〜23kg程度の中型犬サイズの犬種が、牧羊犬種やハウンド種などでちらほらいるのだが、相対的に中型犬というのは案外少ない。さらに日本に輸入されている犬種となるともっと少なくなる。比較的日本でも見かけることのできる、ブルトンに近いサイズとしては、
イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル (体高51cm)、紀州犬(体高オス52cm、メス49cm)、
ボーダー・コリー (体高53cm)などだ。
「大きな犬が飼いたいけれど、自分の体力や、将来の犬の介護を考えると大型犬を飼うのはちょっと難しい」という人に、ブルトンはちょうどよい。子犬や若犬期のやんちゃぶりに手を焼く家庭もあるし、その頃の元気炸裂時代はけっこうリードを引っ張るので、非力な女性や高齢者、小学生・中学生くらいの子供が扱うにはぎりぎりかもしれないが、まぁなんとかなる範囲内でもある。また、介護が必要になったときに一時的に抱き上げることも、頑張ればできないこともない。そういう意味でも、ブルトンの大きさは貴重なサイズだ。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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