歴史
ゴールデン・レトリーバー同様に、これほど欧米で家庭犬として最も愛好されている犬種でありながら、犬種の歴史がよく分かっていない。でもおそらく16世紀頃、アメリカ大陸沿岸へ出漁した北欧やイギリスの漁船に乗って、カナダ北東部に位置するラブラドル半島(Labrador。スペルは犬種名と同じ)へ渡った犬の末裔らしい。
その後1800年頃、カナダのニューファンドランド島から塩ダラを運ぶ船で、イギリスへ送られてきた。つまり逆輸入されて、ふたたびヨーロッパへ戻ってきた犬が、ラブラドールの最初といわれている。すなわちヨーロッパ産の犬が、カナダに渡り、極寒の海辺で網から海にこぼれた魚を回収したり、海中に流された網を探したりと、回収能力や耐寒性をパワーアップさせて、ふたたびイギリスに戻り、犬種を固定されたということだろう。しかし犬種名は、原産国イギリスの地名ではなく、カナダのラブラドル半島の地名が由来しており、そのためかときどき、カナダ原産の犬と間違われやすい。
ちなみに泳ぎが大好きで、フレンドリーな平和主義者といえば、カナダ原産のニューファンドランドがいる。この犬はクマのような大きな体の長毛マスチフ系の犬だが、優しい性格といい、水中の回収作業が大好きという仕事ぶりといい、ラブラドールと共通点は多い。犬種スタンダードの沿革に記載はないが、カナダの地でラブが数百年過ごしていたとき、ラブとニューファンは何らかの混血があったとしても不思議はない。
また1880年頃までのラブは頑固な性格も持っていたという。レトリーバー種の中で頑固といえば、アメリカ原産のチェサピーク・ベイ・レトリーバーを思い出す。短毛で、粗くウェーブがかったオーバーコートと、耐寒性と撥水性のある自然の脂を含んだアンダーコートを持つ犬だ。言い伝えによるとこの犬は、1807年にカナダのニューファンド島から来た船が、ワシントンD.Cの東にあるチェサピーク湾で難破したとき、助かった船長が救護のお礼に、ニューファンドランドから連れてきた犬を贈ったという。その犬と、アメリカの土地の犬のハウンド種との交雑で誕生したのがチェサピーク・ベイ・レトリーバーと言われている。やはり、ラブやニューファンドランドとのつながりを感じさせるエピソードだ。そういえばマスチフ系の犬は、基本的に頑固で自主性が高い。やっぱり何かつながりがあるような気がする。
いろいろ推察すると、同じレトリーバーの中でも、産まれも育ちもイギリスの
ゴールデン・レトリーバーや
フラット・コーテッド・レトリーバーとはちょっと違う。北米留学で鍛えた、極寒の海にも耐えうる逞しい精神と肉体を持つイメージが匂うラブであるが、人が大好きで、人の役に立ちたいという気持ちが強いところはゴールデンやフラットと同じ。まぎれもなくレトリーバーの性質である。
さて、ラブには、血統によってタイプが異なる。ショー系、フィールド系だ。
本来であれば、同一犬種であれば、外貌と性質(能力)はスタンダードで示されているとおり同一であることが普通。しかし
ドイツ・レトリーバー・クラブによると、ラブとゴールデンは、原産国イギリスで何十年もの間、明らかに差がある2つのライン(系統)があり、お互いがほとんどかけ合わされることがなかったという。
1つめは、使役あるいはフィールド・トライアルライン(猟犬や使役犬としての能力重視タイプ)、もう1つがショーライン(ビューティを重視するタイプ)である。一方、ヨーロッパ大陸の国(島国のイギリスに対してドイツとかフランスといった大陸にある国々を指す)では、ブリードクラブは統一された“Dual purpose”(デュアル・パーパス:二重目的/用途)タイプ、つまり姿形がスタンダードにそぐわない使役犬には繁殖許可を与えず、また繁殖には使役能力を備えていることを考慮するように努めている。つまりラブらしい美しさと、ガンドッグであるラブにふさわしい能力の両方を持つ子孫を残すことを目指しているのだ。とはいうものの、大陸であってもラブの外見や能力には一定の差異はあるそうで、犬を手に入れるときには、飼い主自身の好みがどこにあるか必ず明らかにしておくべきだとある。
つまりラブの本場イギリスでは、ラブは、ショー系とフィールド系の二極化がされているということだ。ラブがイギリスのKC(ケネルクラブ)に犬種として認められたのは1903年のことである。その少し前の1899年に初めてのフィールド・トライアル競技会が開催され、1915年にイギリス初の“デュアル・パーパス”チャンピオンが登場した。しかしこの頃にはすでに2ラインの分岐が始まっており、そのまま二極化が進んでいったらしい。そのためかイギリスの“デュアル・パーパス”チャンピオンは10頭しかいない。いちばん最後のチャンピオンは1946年とのこと(
LRCof Great Britainより)。
戦争中という時代背景もあってか、いつのまにかショー系とフィールド系の差がどんどん開いていって、気がついたら片方で優秀な犬はもう一方で勝てない状態になっていったのかもしれない。
ちなみに日本でフィールド系といえば黒ラブのイメージがある。そこで気になって調べてみると、実はラブはイギリスでも初めのうちはみな黒ラブだったそうだ。当然初期のラブはみなガンドッグが本業だったわけだから、ラブといえば黒ラブ、ラブといえばフィールド系だったと考えられる。
黒ラブの出産で最初のイエローラブが生まれたのが1899年とのこと。ある1つの遺伝子に突然変異が起きたことで、(黒ではなく)イエローの毛色を持つラブが誕生したのだ。しかし最初のうちはイエローラブは殺されていたという(
Deutscher Retriever Clubより)。
イエローラブには受難の時代があったということだ。でも1910年頃にイエローラブ犬舎が登場して、この頃すでにフィールド系とショー系のブリードに分かれていたらしい。さらにいうと、チョコラブはイエローラブに遅れて、1930年代の終わりに認められた。
ブリードラインの話しに戻すと、イギリスや、あるいはイギリスの影響の強い英語圏の犬舎出身の犬は、今もショー系とフィールド系の2タイプがあると考えて間違いはないだろう。英語圏の国からの犬の輸入が多い日本でも、同じ状況と考えてよい。よってラブが飼いたいと思うのなら、自分がラブに期待する目的はビューティなのかサクセス(能力の達成。ラブの場合は、ガンドッグリトリーブ、災害救助犬トレーニング、アジリティなどのスポーツなど使役内容は多岐の分野での活躍が期待できる)なのかを考えてから、犬を探すとよい。またヨーロッパ大陸の犬舎出身の犬であれば、“デュアル・パーパス”、両方の魅力を持つ犬がいる可能性もある。
ともあれラブは、1つの犬種ではあるが、見た目や能力の違うタイプがいるということをぜひ覚えておいてほしい。調べれば調べるほど興味深い話がでてくるが、ともかく日本では、バブル期後半くらいの時代に、シベリアン・ハスキーのあとラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバーが流行した。近年では景気の低迷を受けてか、大型犬飼育率が下がっているが、それでもこの温順で扱いやすく、人のいい(性格のいい)ラブの大ファンは多い。
一時期流行した悲しい宿命で、日本では股関節形成不全はじめ遺伝性疾患など病気の犬がとても増えた。そもそも世界的に見ても、飼育頭数の多さから症例データが揃っているからかもしれないが、ラブは多くの犬種の中でも病気の多い犬ではある。でもとりあえずいまの日本では、ペットショップやホームセンターにたくさん陳列するために乱繁殖されていた時期は過ぎ、病弱な個体は以前よりは減ったように感じられる。この調子で、流行に便乗したお金儲けのためではなく、本当にラブを心から愛するブリーダーの手によって、世界に負けない素晴らしいラブが日本でも生まれるようになってほしいと願う。
外見
ラブの体高は、オス56〜57cm・メス54〜56cm。ゴールデンはオス56〜61cm・メス51〜56cmなので、ラブとゴールデンの体格差はほとんどない。レトリーバー御三家のもう1種、フラットコーテッド・レトリーバーの体高はオス59〜61.5cm、メス56.5〜59cmなので、ラブより体高が高めで、体格もスラッとしている。
それに比べてラブのボディは「樽型」といわれ、胸はじゅうぶんな幅と深さがあり、あばら部分も幅広く、よく張っている。腰も幅広く丈夫。ショート・カプルド(最後の肋骨から寛骨[かんこつ]までの距離が短い)な、力強い体つきが特徴だ。その逞しい外貌のとおり、リードを引っ張る力も強い。
頭の鉢も幅広く、頭突きされたら痛そうな、しっかりした頭骨。太めでしっかりしたマズル。スニッピー(とがって弱々しい)なマズルはNG。
毛質は、短毛で密生している。ウェーブ状の飾り毛はない。手触りはけっこう硬く、下毛は風雨に強い。極寒の海にも耐えられるような毛質だ。ポインターのような滑毛種のように寒がりではなく、雪の中でも嬉々としてはしゃぎまくる。冬の海でも喜んでダイブする犬がいるから驚く。老犬だったり、足腰や心臓などに持病がなかったりするのでなければ、犬服はなくても大丈夫そうだ。
ただ、耐寒性があるということはアンダーコートが豊富というのと同じ意味。それだけに思ったよりも毛はよく抜ける。毛が短い犬だと思って油断しないでほしい。キレイ好きで神経質な奥様には耐えられないかも。室内にちらばる抜け毛を減らすためにも、2〜3日に1回ブラッシングをして、死に毛をとっておくようにするとよい。シャンプーは自宅でできるので、手入れにお金はかからない。
毛色は単色。胸に小さな白斑があるのは許容される。ボディ色は、ブラック、イエロー、レバー/チョコレート(茶)の3色。その色から「黒ラブ」「黄ラブ」「チョコラブ」と呼ばれる。イエローは、明るいクリーム色から赤味の強い「レッド・フォックス」という色まで色調は幅広い。
毛色
まとめ
世界で最も愛される家庭犬。大型犬だが性格的には飼いやすい
ラブとゴールデンは、欧米で家庭犬として人気が最も高い。優しく、フレンドリーで、人が大好きな飼いやすい温順な性格だからだ。人間や子供に噛みつけ、と命令されても、どう頑張っても噛めない、心からピースフルな犬。小さなお子さんや小学生がいるご家庭には、気丈で自己主張が強く、転じて咬む行動をとりやすい小型愛玩犬を選ぶより、むしろラブがオススメ。ラブサイズなら、子供が犬をぬいぐるみ扱いをすることもない。
「とにかく元気で屈託がなくて愛嬌いっぱい。怒られても気にしない。いつもなんだか楽しそう」。ラブ・ファンシャーの言葉のとおり、パワーと愛嬌の塊のような犬だ。
毛の手入れの簡単さでいうと、ゴールデンよりラブに軍配が上がる。欧米では、ラブは家庭犬としての飼育登録数が最も多い犬。これだけたくさんの人、たくさんの国で、一過性の流行ではなくずっと愛されているということは、まぎれもなく最良の「人類の友」としてふさわしい。
また盲導犬として活躍するラブが多いのは、単に「攻撃性が低い」「頭がいい」だけでない。実はラブの素晴らしいもう1つの能力は「環境適応能力の高さ」。つまり、新しい環境(旅行先のホテルや帰省先の実家や友人宅や動物病院など)に連れ出しても、知らない人間に会っても、動じないで、マイペースで現場を楽しむことができる能力だ。いい意味で図太い。根っから楽天的。いつでも平常心、その場を楽しめちゃう、という才能だ。これは非常に飼いやすさに通じる性質といえる(ちなみに神経質で臆病でパニックを起こしやすいタイプの犬は扱いが難しい)。
この環境適応能力が全犬種の中で最も高いとされるのがラブである。だからラブは、盲導犬になれる。電車に乗っても、初めてのホームでも、初めての道路でも、雨でも雪でも暑い日でも、子供が寄ってきても、よその犬に吠えられても、踏切がカンカン鳴りだしても、つねに平常心を保ち、いつもと同じように仕事ができる、というのは、警戒心が強かったり、繊細で、神経質な犬にはなかなかできない。
ジャーマン・シェパード・ドッグはご存知の通りとても聡明で賢い犬だが、彼らはいい意味でも悪い意味でも繊細で、ビビッドに反応する犬である。だから訓練性能が優れ、警察犬のような爆発的な集中力や精神力を活かす仕事に最適なのだ。
しかし、いろんなことにいちいちピリピリと反応しすぎる犬は、心を擦り減らして任務を遂行することがある。盲導犬のように、毎日、朝から自宅に戻るまでの長い勤務時間を平常心で正確に淡々とこなすのは、シェパードよりもラブラドールの方が向いていることが多い。もちろんシェパードでも優秀な盲導犬として活躍する犬もいるが、犬種の全体像として平均値をみるとラブの方がストレス少なく、仕事に従事することができる。ラブの、そのいい意味での図太さ・平常心は、最高の宝なのだ。
ついでに言うと、シェパードは優秀な警察犬/護衛犬になれるが、ラブはどんなに賢くても、「襲撃」が任務となる仕事には向いていない。ラブで警察犬になるとしたら「臭気選別」や「追跡」という、ニオイをかぎ分けたり、追いかけたりする仕事。平和主義に反する仕事はお断り。
フィールド系、ショー系など血統により性質や体格が違う
このように性格的には、最高のコンパニオンとなりうるラブであるが、まず最初に注意したいのは、やはり大型犬なので力は強いということ。とくに若犬時代の運動量や弾けぶりは、けっこうすごい。もともとはガンドッグだし、荒海で漁師の手伝いをしていた犬なので、タフでパワフルである。悪気はなくとも「陽気な暴れん坊」になる確率は高い。
5歳くらいにはそこそこ落ち着いてくれる犬だが、元気いっぱいの時代は、小柄な力のない女性や高齢者には散歩は厳しいものがある。実際、手を焼いて捨てられてしまうラブは後を絶たない。こんなに友好的で世界的に家庭犬として愛好されているラブですら、捨てる日本人。実に残念な話しだ。よって、腕力・体力に自信のない人、ちょくちょく山や海に連れて行ってあげられる時間や交通手段のない人は、ラブを迎えない方がお互いのためである。
またペットショップで「盲導犬になる賢い犬ですよ〜」と言われて、うっかりラブに手を出す人がいるが、トレーニングもしないで、盲導犬や行儀のいい家庭犬になれる犬はいない。人間と暮らすルールを教えてあげる必要がある。もっと言えば、血統によっても盲導犬になるような穏やかな犬とそうでない犬がいる。ラブだから全員賢い、全員飼いやすいと思ったら、大間違いだ。
ラブには使役用途により、同一犬種の中でもタイプが大きく2つに分かれている。また血統管理の徹底ぶりによって「第三のタイプ」ともいえる系統もあるし、いっときの流行のせいで、金儲けのためだけの論外な繁殖を行う輩がいて、その犠牲として「ラブらしからぬラブ」も生まれてしまっている。これらはみな家庭犬として飼うときの注意事項が異なるので、ここで紹介したい。
まず1つめ。
「フィールド系」(またはフィールド・トライアル系)の犬は、読んで字のごとく、野山で使うのに適した活動量がいちばん高いライン。日本ではラブを猟犬として使っている話はまず聞かないが、このラインは活動性や身体能力が高く、体型は小柄でスリムで筋肉質。ちょっと体格は小さめだけど、侮るなかれ、実は運動量はラブの中で最も高い。冗談ではなく、文字どおり“爆発的に”高い。めちゃめちゃハイパー系なので、アジリティーやフライングディスクなどのドッグスポーツを楽しみたい人には最適である。
あるいは登山やカヌーなどのアウトドア・スポーツが好きな飼い主向き。災害救助犬育成などの使役犬としてトレーニングを楽しみたい人にも向いている。とにかくフィールド系は、ラブの中のアスリート系&やる気まんまん系と認識すべし。体育会系の飼い主さんでないと、フィールド系のラブに付き合うのは無理。また犬の扱いに慣れていないビギナーにも難しい。「のんびりした優しい家庭犬が欲しい」という人は手を出さない方がいい。
でもフィールド系のラブは、ペットショップやホームセンターに陳列されていることがある。子犬のときは素人には区別がつかないし、「盲導犬になる賢いおとなしいワンちゃんですよ」「小ぶりだから扱いやすいですよ」となどと説明されるかもしれないが、迎えたあとに「こんなにラブがパワフルでエネルギッシュだなんて!」と泣きたくなっている家庭多し。素性の分からない子犬を入手するのはリスクがある。運動が足りないと、犬なので、ストレス発散のために破壊行動や無駄吠えなどの問題行動を勃発させる。問題行動もまたパワフルと思ってよい。
2つめ。
「ショー系」。ショードッグとして繁殖されているラインである。でもショーで勝てる犬はその中で選ばれし者なので、きょうだい犬の中でショードッグとしてちょっと体格がオーバーサイズだったり小さすぎたり、ミスカラーだったり、性格がのんびりしすぎだったり繊細すぎだったりしてショーチャレンジには向いていない犬は、ペット用(家庭犬)として売られることが多い。
性格や運動量は、基本はフィールド系よりはマイルドで飼いやすい。でもショー系は、日本では外貌(サイズや被毛の色)の美しさや立派さを重視されがちで、性格面まで考慮しているブリーダーは残念ながらそう多くない。そのため、まったり・のんびり系の子もいれば、やたら運動量が高い子もいて、個体差が大きい。子犬を入手するときに、母犬や親戚犬を見せてもらい、性格や体格の特徴などをブリーダーに尋ねるとよい。
そのほか、これは正式な系統として確立されているわけではないが、「ガイド・ドッグ系」(盲導犬系)とでも呼ぶべき系統があるという話もある。フィールドでの能力(忠実性や嗅覚、学習能力、持久力、環境適応能力など)と、体格(大きさ、健康)と、そして温和な性格が要求される、ある意味人の命にかかわる重大な任務を託される犬だけに、厳選された優秀な家系であるのは間違いない。
ガイド系のラインの犬は、頭の鉢が大きく、体格もどっしり、心もどっしりと落ち着いており、性格は最も穏和で温順、より平和主義者である。でも同じ家系の犬であっても、盲動犬や介助犬などの使役犬によりふさわしい犬と、ちょっとはずれた犬も産まれる。この使役犬候補生ではない犬が、家庭犬として分譲されることがあるわけだ。でもこのラインの犬は、目的を持ってしっかりとした繁殖管理を行っている家系なので、当然ペットショップやネット販売では手に入らない。希望する場合は、情報収集や人脈づくりを頑張るしかない。
さらに、ラブ以外のすべての犬種でも言えることだが、上記に該当しない、いわゆるパピーミル(子犬工場)や血統管理のことを何も考えていない繁殖業者の犬も日本にはいる。犬種スタンダードや遺伝性疾患の問題など関知せずに、ただ金儲けのために産ませているブローカーがいて、ペットショップやホームセンター、インターネット販売、イベント販売などでよく流通している。
血統管理がずさんであれば犬種の特性から外れることも多く、「ラブらしからぬ犬」も誕生してしまうのである。また産まれてからどういう扱いを受けてきたかで、ラブであっても、臆病で神経質な個体が生じることもある。だからやっぱり日本では「ラブだからどの子でも飼いやすい」と保証はできない。「最近、咬むラブが増えてきた」というトレーニング関係者の声も聞いた。悲しい事態である。
さて余談だが、被毛の色によって性格が違うという俗説もある。「イエロー=ちょっと落ち着いてて飼いやすい」、「ブラック=お調子者で脳天気」、「チョコ=少し神経質」。都市伝説のような気もするが、トレーナーやラブの飼い主さんも、間違いなくそういう印象があると複数証言あり。
言われてみると、イエローはガイド系で活躍している系統が多く、ブラックはフィールド系で活躍していることが多いような気がする。チョコは全体数が少ないのでどうとも言い難い。これはあくまでも俗説なので鵜呑みにする必要はないが、もしもできるだけ穏和な犬がいいと願うなら神頼みでイエロー、できるだけ爆発的な身体能力のある犬が欲しいならフィールド系のブラックを選ぶという作戦もなくはない。
ともあれ、基本原則としては、ラブは友好的な優等生である。頭はいいし、素直で真面目な犬なので、トレーニングはしやすい。仮に問題となる事件が勃発しても、負けないでほしい。きっとラブは更正できる。初心者は、犬の扱い方のイロハをドッグ・トレーナーに真っ先に教えてもらうことを勧める。飼い主が教え方、接し方を間違えなければ、ラブは賢く素直なので、どんどん人間と暮らすマナーや家庭内ルールを吸収してくれるだろう。
股関節形成不全を始め,遺伝性疾患など病気は多い犬。なるべく健康な家系を選ぶ
残念ながら、病気の多い犬である。欧米で長く愛されて、犬種改良が行われた歴史があるため、遺伝性疾患や先天性疾患などなりやすい病気が多くなったと考えられる。
少しでも健康で長生きできる犬と暮らせることが、もちろん理想。そのためには、やはり遺伝性疾患を淘汰するよう努め、繁殖犬の遺伝子検査をしたうえで交配に使うなど、ラブの未来を考えてブリーディングをしている意識の高いブリーダーから子犬を譲ってもらうことが大事。そういうブリーダーが日本にもっと増えると嬉しい。
ブリーダーを探すときは、繁殖に使う前にどんな検査を実施しているのか、父犬、母犬、おじいちゃん犬、おばあちゃん犬は存命か、親戚犬含み既往症として遺伝性疾患やガンの犬はいないか、同じ血統の犬の平均寿命、死亡原因(疾病)などを尋ねてみよう。その犬種を心から愛するブリーダーなら、そこまで真摯に考えて子犬を迎えようと努力する飼い主を邪険に扱うことはない。反対に丁寧に教えてくれなかったり、話しを濁したりするブリーダーは、誠意がないし、遺伝性疾患についての意識や犬種全体に対する愛情が低い。子犬探しの際に、こういうリサーチをするのは、欧米では当たり前のことだ。
かたや、正しい厳しいブリーダーであれば逆に質問されることもある。住環境や家族構成、職業(経済的に犬を養っていけるかどうか)など。自分の大事な子犬を譲るのだから、そういう質問をするのはごく自然なことだ。「自分の大事な娘を嫁に出す」感覚に似ていると思えば、イメージしやすいだろうか。本当に幸せにしてもらえるのか、人間性や経済力などを確認するのは正しい親心。だからそれに対して、しっかり返答できることも大切である。よいブリーダーであればあるほど、「お金を払うんだから、何をしてもいい。答える必要がない」と思っている人には子犬を譲ってくれない。
これはどの犬種にもいえることだが、とくにレトリーバー種は病気の多い犬なので、しっかりした人間関係を作って、信頼のおけるブリーダーから譲ってもらうことを強くオススメする。
食いしん坊。なんでも口に入れたがる。誤飲事故や肥満に注意
楽天家で大らかな犬は、食いしん坊な犬が多い。食いしん坊ベスト3といえば、ラブ、
ビーグル、
ウェルシュ・コーギー・ペンブロークとも言われる。たしかにこの3犬種は、とっても楽天的で、大らかで物事に動じないし、食いしん坊。神経質ではなく、バイタリティーに富むから、どんな環境下でもどんなごはんでも、食が細くなるということが少ないのかもしれない。
いい意味では生命力が強い犬といえるのだが、ときにそれが命取りになることもある。いちばん気をつけないといけないのは、誤飲・誤食事故。好奇心が強いこともあり、とにかくラブはなんでも口に入れて確認しようとする。消化のできないものや、毒性のあるものでも食べたら大変だ。とくに子犬時代は悪さが多い。部屋の中は整理整頓し、ゴミ箱や植木鉢などは別室に片付け、とにかくラブの口が届くところには、なるべく物は置かないようにする。
また食いしん坊なうえに、運動不足だと当然太る。しかもラブは、ゴールデンと同様に、食べ物以外にはそんなに執着しないし、人間の生活に合わせてくれる性格なので、散歩が足りないからと言ってワンワンと要求することは少ない。それをいいことに散歩をちょっとしか行かないと確実に筋肉は衰え、脂肪に変わる。
ときどき、びっくりするくらい巨体のラブに遭遇することがある。その姿を見て内心嘆いている獣医さんも多い。「可愛い」「食べたがるから」とか言ってる場合ではない。これはもう管理不足のネグレクト(育犬放棄)といえる。飼い主と犬種がミスマッチで、運動が足りないのも原因の一つである。太ると骨関節や心臓に負担がかかるし、糖尿病にもなる。長生きしてもらいたいのなら肥満にさせてはいけない。
適切な運動管理と栄養管理が欠かせない。でも、「太るから」といって食事量を安易に減らすのは考えもの。おやつは減らすべきだが、栄養バランスを崩すような主食の制限はよくない。まずは大型犬のガンドッグにふさわしい運動カロリーを消費しているかを考えるべきである。ただしすでに肥満の場合は、急な運動は足腰を痛めることがある。人間と同じだ。プールやトレッドミルといったハイドロセラピー(水泳療法)を行う施設が日本でもいくつかあるので調べてみよう。
「いつもかまって」オーラがだだ漏れの愛すべき犬
ガンドッグは人間との共同作業をするために作られてきた。ラブも同様に、人間からコマンド(指令)をだしてもらい、何か用事を言いつけられたり、お役に立てることを至上の喜びとしている。
犬が寝ている時間以外は、いつでも飼い主のことを見ている。飼い主がパソコンに向かっていても、トイレに行っても、こっちの動向はすべて観察されている。目が合ったら、すぐに飛んでくる準備万端。犬と暮らす喜びとは何か、信頼とは何か、それをいつも体現してくれる犬だ。全幅の信頼のおける友人のような犬と暮らしたいなら、ラブはベストチョイス。構ってあげれば、それがどんな些細なことであっても、犬が寝ているところを起こしたとしても、100%の喜びを表現してくれる、ものすごく可愛い犬だ。
しかしこの長所は、短所にもなりうる。いつもいつも飼い主の様子を伺っていて、コマンド待ちの状態なので、視線がレーザービームのように熱い。飼い主が立ち上がれば、待ってましたとばかりに立ち上がる。そういう愛が重い、適度な距離を保ちたいと感じる人には、うざったい存在になりかねない。そういう人は、もっとクールな、自立心のある犬と暮らすほうが気楽だ。
泳ぐのが大好き
レトリーバーなので、泳ぐのが大好き。海や川に投げたボールを派手に飛び込んでレトリーブするラブをたまに見かけるが、実に人生(犬生)楽しそうだ。ラブの飼い主なら、どんどん川や海、湖などのアウトドアへ連れて行ってあげてほしい。愛犬が最も犬らしく、幸せそうな姿を見ることができる。
海からあがった後は、潮水が残っていると皮膚炎の原因になりやすいので、できればすぐに真水できれいに潮水を洗い流してあげること。ラブはアトピー性皮膚炎になりやすい犬種の一つでもあるので、皮膚になるべく負担をかけないようにする。
病気が多い犬種。獣医療費はかかる覚悟を
股関節形成不全などの骨関節の病気、若年性白内障、心臓の病気、糖尿病、ガンなど、犬種改良の長い人気犬種なだけに、かかりやすい病気は多岐にわたる。よいブリーダーの努力と一般飼い主の知識の向上により、これからこの犬種の健全な家系は増えてくるかもしれないが、現時点ではやはりある程度の覚悟はして、心とお金の準備をしておく。
またフローリング床は滑るので、骨関節の病気の悪化を少しでも減らすために、犬が歩く場所はカーペットを敷く、なるべく階段は使わせない、などの住環境の整備も必要だ。
しっぽの破壊力は強烈
ラブの尾は「オッターテイル」と呼ばれる。オッターとは「カワウソ」の意。カワウソの尻尾のように、根元が太くて先が細い。また表面を短い毛が覆っているのが特徴だ。
彼らはこのしっぽを最大限活用し、感情表現をしてくれるのだが、これが実にパワフル。ぐるぐるしっぽを振り回し、全力で喜んでくれるのは可愛いけれど、体にバシバシ当たるとかなり痛い。またテーブルの高さがちょうどいいと、台の上のものをなぎ倒す。ちょっとくらい重いものでも平然と落とす。悪気のない破壊活動をするので、しっぽの高さには物は置かないようにしよう。
友好的すぎて「空気が読めない」
どんな場所でもごきげんでマイペース。どんな人にも、どんな犬にも、すたすた近づく。そういうフレンドリーな性格は愛すべき魅力である一方で、「空気を読めない」というマイナス点でもある。相手によっては近寄って欲しくないケースもあるのだ。
誰にでも警戒心なく脳天気に近寄ってしまい、空気を読まず、咬まれてしまう事件が起きることがある。いろいろな性格の犬、いろいろな生い立ちの犬がいるし、トレーニングを頑張っている最中の犬もいるのだから、自分の犬の攻撃性がゼロでも、相手の犬が仲良しになりたいと思っているかどうかは分からない。相手から見れば、実はとても迷惑だったりする。よその犬や相手の飼い主にしてみれば「近づかないで!」と心の中で叫んでいることもあるので、ぶしつけに相手の犬のリード内に近寄らせないようにする。どの飼い主だって、自分の愛犬がよその犬を咬むのは避けたいと思っている。相手の状況を想像し、知らない犬に不用意に愛犬を近づけないことは、相手のためにも、自分の犬を守るためにも大事なマナーである。