図鑑
ポーチュギーズ・ウォーター・ドッグ
ふわふわウェービーな、泳ぎのうまい中型犬。
ほがらかで適応力があり、子供にも親切
英名
Portuguese Water Dog
原産国名
Cão de agua Português
FCIグルーピング
8G レトリーバーほか
FCI-No.
37
サイズ
原産国
特徴
歴史
オバマ大統領の「ファースト・ドッグ」として、一時期マスコミを賑わせた犬種。あれからオバマ大統領はもう一頭迎えて、いま(2014年秋現在)ではポーチュギーズ・ウォーター・ドッグ(以下、PWD)を2頭飼育している。
日本ではポピュラーな犬ではないが、日本人の大好きな
トイ・プードル の「大きな従兄弟」のような外貌と性格を想像すると、どんな犬かイメージしやすい。愛らしいカーリー/ウェービーの被毛、大きすぎず小さすぎずのほどほどサイズ、気のいい快活なキャラクター……これから日本でも、もう少し注目されてくるかもしれない。でも中味はしっかり働き者の作業犬だから、運動欲求量や知的な刺激欲求量は多いし、毛の手入れはプードルと同等に手間もお金もかかるので、きちんと正しく飼養してくれる飼い主さん限定。
Cãoは「犬」、 aguaは「水」、Portuguêsは「ポルトガルの」。 Cão de agua Português (カオ・デ・アグア・ポルトゥゲス)は、文字通り「ポルトガルの水の犬」だ。
FCIのグループ分けでは、第8グループの「レトリーバー、フラッシング・ドッグ、ウォーター・ドッグ」に属している。つまり
ラブラドール・レトリーバー (レトリーバー)や
イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル (フラッシング・ドッグ)、アイリッシュ・ウォーター・スパニエル(ウォーター・スパニエル)、
スパニッシュ・ウォーター・ドッグ (ウォーター・ドッグ)などと同じ仲間に分類されている。
ただし、イギリスの動物行動学者のデズモンド・モリス氏の著作では、PWDは「狩猟の際に水鳥を回収するヨーロッパのウォーター・ドッグの親戚だが、任務がまったく異なるため、レトリーバーに分類することはできない」と書いてあったりする。
また、犬種の起源にもさまざまな説がある。犬種スタンダードには「かつてこの犬種はポルトガルの海岸のいたるところにいた」とあるが、それより前は、このくりくり毛の泳ぎの達者な中型犬が、どこから発生したのかはっきりしていない。アジアが起源だとする説もあったりするが、アジアのどの犬が、この犬に近縁なのかは書かれていない。謎めいている。
ともあれ古い犬種であることは間違いなく、ずいぶん大昔からポルトガルの海岸部にいて、土地の犬として定着していた。
ちなみに、FCIに登録されているウォーター・ドッグは以下の7犬種。みんな、くりくり巻き毛で、泳ぐのが好きな体高50cm前後の中型犬だ。それぞれが、大昔になんらかの血縁関係にあっても不思議はない。
・スパニッシュ・ウォーター・ドッグ(スペイン原産)
・バルビー<英名:フレンチ・ウォーター・ドッグ>(フランス原産)
・アイリッシュ・ウォーター・スパニエル(アイルランド原産)
・ラゴット・ロマニョーロ<英名:ロマーニャ・ウォータードッグ>(イタリア原産)
・ヴェッターフーン(オランダ原産)
・ポーチュギーズ・ウォーター・ドッグ(ポルトガル原産)
・アメリカン・ウォーター・スパニエル(アメリカ原産)
バルビーは、ヨーロッパのすべてのウォーター・ドッグの祖先だろうという説があり、またプードルとの親戚でもあるとされる。ただ興味深いのは、この8犬種の中で最もFCI登録番号が早いのがPWDの37番。ほかの6犬種はみな3桁台だ。祖先だろうと言われているバルビーでさえ105番、隣国スペインのスパニッシュ・ウォーター・ドッグは336番。ウォーター・ドッグの中で最も早く国際社会に認知されていたのが、PWDということになる。
PDWは、ポルトガル本土の最南端のアルガルヴェ地方(中心都市はファロ)で、漁師の仕事の相棒として大切にされていた。自ら泳いで魚の群れを漁網に追い込んだり、網からこぼれた魚を取ってきたり、波間に漂う網を回収したりなど、ほかの犬種にはない特殊技能を持っていた。前述のデズモンド氏の著作では「フィッシュ・ハーダー」(直訳すると、魚の群れを追い立てる者)というカテゴリーに入れられているほどだ。ちなみにフィッシュ・ハーダーに分類されている犬種は、フィージアン・ドッグ(チリ原産。1800年代に絶滅)と、PWDだけだ。
とはいえ、FCIのレトリーバー・チームに分類されているとおり、水中に落ちているものをなんでもかんでも拾ってくる性質も強かった。ときには難破船の水夫も拾って(助けて?)きたこともある。無線のない時代には、船と船の間を行き交い、メッセージを届ける役割も担っていたことからして、かなりの泳ぎの達人だったことは間違いない。作業意欲が強く、人間に喜ばれることが大好きな(=トレーニング性能の高い)犬だと想像できる。漁船や財産を守る番犬としての仕事をしていたこともあるようだ。
プードル同様に毛が伸び続けるタイプのため、抜け毛はほかの犬種に比べると少ない。月1回のトリミングは必要なので美容代はかかるけれど、オバマ家のようにアレルギー体質を持つ人がいる家庭にとっては好都合といえる。ただし抜け毛はゼロではないし、「抜け毛がない=アレルギー・フリー」は科学的に立証されているわけではないので、過信は禁物。
アメリカではオバマ家が選んだ犬とあって有名になったけれど、それでもアメリカでポピュラーな犬だと言い切れるほど飼育頭数は多くなく、イギリスでも多くはない。また日本ではもっと認知度は低く、飼育頭数も少ない。わずかながら国内に犬舎はあるものの、子犬を希望するならば気長に待つ覚悟が必要。オーストラリアなどの海外から個人輸入しているファンシャーもいるようだ。
外見
体高は、オス50〜57cm(理想は54cm)、メス43〜53cm(理想は46cm)。体重は、オス19〜25kg、メス16〜22kg。作業性を重視していたせいか体格サイズにはばらつきがあり、大きめの子もいれば小さめの子もいる。しかも、日本国内にいる犬は遺伝子プールが乏しいせいか、小ぶりな犬が多いように見受けられる。
本来ならば、ポルトガルの隣国スペインのウォータードッグである
スパニッシュ・ウォーター・ドッグ よりも、PWDの方が大きい。日本でよく見る犬種と比較するなら、PWDは
ボーダー・コリー より大きい。また遠縁にあたる
スタンダード・プードル の体高は45〜60cmなので、ほぼPWDと同サイズということになる。しかも毛質がほわほわとボリュームがあるので、実際の体格よりもひとまわり大きく見えるのが普通だ。
泳ぎと潜りにおいて特別な能力とスタミナを持つ犬なので、ボディはがっしりしている。コンスタントに泳がせて、この美しい筋肉を維持することが大事。
毛のタイプは、2つある。
・Curly: 短い巻き毛タイプ
・Long and wavy: 長めのウェーブタイプ
いずれにせよ、ほぼプードルの毛質と似ており、メンテナンスの仕方もだいたい同じ。毎日ブラッシングして、毛玉を作らないようにする。そして月に1回トリマーにお願いして、毛を刈り込んでもらう。プードル同様に毛がどんどん伸び続ける犬なので、放置していると、どんどんボリュームが出てくるし、毛玉もひどくなる。
スタンダード・プードルと同等のサイズなので、毛の手入れの手間とトリミング代は、スタンダード・プードル並と見積もっておいた方がよい。スタンダード・プードルのトリミング代は、地域差もあるが約2〜3万円。PWDを迎えるならば経済力も必要だということだ。あるいは筋金入りのファンシャーの中には、自ら勉強をしてトリマーになってしまった人もいる。毛の手入れの好きな人が、この犬種のオーナーに向いている。
日本では、この犬種のトリミング・カットに精通したトリマーは多くないと思われるので、技術の高い人を探すのにも苦労するはず。ちなみにPWDは、ショードッグの場合は、ライオンのような姿の「ライオン・クリップ」にするのが基本。頭のてっぺんの毛、首まわり、胸、前肢、そしてしっぽの先の毛を残して、あとは刈り込む。つまり短く刈るのは、マズル、胴体の下半分、後肢、しっぽの途中まで。刈らなければ、全身モコモコした毛になる。このライオン・クリップは、漁師のアイデアとのこと。冷たい水から心臓を守るために前半身は毛を残し、泳ぎやすいように後ろ半身は毛を刈る。ライオン・カットは、プードルのコンチネンタル・クリップとも似ているし、そういう点でも、PWDとプードルは近縁種なのだと感じる。
泳いでいるときの目印になるのが、しっぽの先に残った毛。しっぽをちょいと上げて泳ぐので、しっぽの毛が旗のようによく見える。
毛色は、単色あるいは2色の組み合わせがある。単色の場合はブラック、ホワイト、ブラウン(ブラウンの色調はさまざま)。2色の場合は、ブラック&ホワイト、またはブラウン&ホワイトの組み合わせ。ホワイト&ブラック斑、ホワイト&ブラウン斑の犬もいる。ちなみにオバマ大統領の最初のPWDの「ボー」は、黒地に、胸に大きな白いエプロンがあり、両前肢に白いブーツを履いているようなカラー。2頭目の「サニー」は全身単色の黒である。
毛色
なりやすい病気
遺伝性
若年性腎疾患
股関節形成不全
進行性網膜萎縮
毛包異形成症
タンパク質喪失性腸症
若年性拡張型心筋症
先天性
その他
魅力的なところ
働き者で気立てがよい。明るく楽しいキャラクター。
泳ぐのがうまい。海や湖沼で一緒に遊ぶなら適任。
見た目は可愛いがタフで活発。体育会系の飼い主向き。
水陸両用で持久力抜群。アウトドアのお伴に最高。
トレーニング性能は高く、しつけの理解も早い。
アジリティなど、ドッグスポーツも得意。
個性的な毛並み。
本来の性質ならば子供好き。よい相棒になる。
大変なところ
ハイパーな中型作業犬。体育会系飼い主限定。
天才スイマー。水遊びをさせてくれない飼い主はNG。
仕事好きなので、ヒマだとどんなイタズラをするか分からない。
毛の手入れはスタンダード・プードル並みに大変。
毛玉になりやすい毛なのに、すぐ水に入りたがる。
毎月のトリミング代が高額。
日本国内では遺伝子プールが乏しいので、健全な犬を探すのに苦労する。
まとめ
明るく快活な楽しいキャラクター。動物アレルギーのある人にとって期待の星
個性的なウェービー(波打った毛)タイプと、愛らしいカーリー(巻き毛)タイプがいるが、どちらにせよ可愛い外貌。そのうえリトリーブなどが得意で人間との共同作業が大好きだから、トレーニングも入りやすい。そして明るい社交的な性格で、子供の面倒も喜んでしてくれるという家庭犬としての資質も備えている。
そして抜け毛が少ないので動物アレルギーを持つ人にも望まれる犬である。ただし本文にも書いたが「抜け毛が少ない=アレルギー・フリー」であることは科学的に立証されているわけではないので、安易に迎えるのは好ましくない。ファンシャーの集うオフ会などに参加し、実際に犬に触らせてもらったり、できることなら一緒に寝泊まりして数日間過ごしてみてから、迎える決断をすると安心。
毎日のブラッシング、毎月のトリミング代を覚悟
たいていのことには動じずにほがらかに対応でき、かといって興奮が高すぎて騒々しいわけでもなく、いろいろなことに中庸に適応できる能力がある。性質面では飼いやすい犬だといえるだろう。さらに子供に対して寛容で面倒見がよいという面もあり、家庭犬としてオススメしたい犬である。しかし、そう簡単に推薦できない理由は、元気がありすぎて好奇心が強く、イタズラ好きということ。あとやっぱり難題なのが毛の手入れ。
カーリータイプでもウェービータイプでも、からみやすい毛のため、毎日のブラッシング/コーミング(櫛入れ)が必要。毛の手入れ方法は、プードルと同じと考えてよい。しかもサイズがスタンダード・プードル並だから、手入れには時間がかかる。それに加え、毎月のようにプロのトリマーにシャンプーとトリミングを依頼せねばならず、お金がかかる。サイズ差や地域差もあるが1回2〜3万円のトリミング代を捻出できる経済力が必要だろう。
ついでにいうと水泳が大好きな犬なので、心の健康と筋肉の維持のためには海や川、湖で頻繁に遊ばせてあげたいが、水遊びをするということは、それだけ毛がもつれたり臭くなったりして、シャンプーの回数が増えることになる。オバマ家の犬のように愛らしい姿をキープするのは相当な忍耐力と経済力のある飼い主でないと難しいと考えるのが妥当であろう。
毎日のブラッシングが苦にならず、毎月のトリミング代も問題ないという飼い主向け。スタンダード・プードルの毛を美しく維持できる人ならば、PWDのメンテナンスも大丈夫といえる。
働き者の犬。運動欲求と知的欲求は高いので、欲求不満にさせないこと
PWDは、アメリカでは警備犬、護衛犬、そり犬、救助犬などを指す「ワーキング・グループ」に属している。つまり、ドーベルマンやロットワイラー、シベリアン・ハスキーなどと同じジャンル。FCIならば第8グループ「レトリーバー、フラッシング・ドッグ、ウォーター・ドッグ」に属するのだが、いずれにせよPWDは働くことが好きな犬。頭が良く、人間との共同作業が好きで、人間の役に立つことを率先してやりたがる犬であることは疑う余地がない。
でもそれは裏を返せば、いつも仕事を欲しており、運動欲求が高く、知的好奇心・探求心に満ちているということであり、その欲求が満たされないと、自分で仕事を探したり、運動したがって、人間側から見ると面倒なアクティブさやイタズラ心を発揮することとなる。頭のいい犬は、よからぬこともすぐ覚える。運動好きな犬は、よく走りたがるし、泳ぎたがる。ヒマだとイタズラもする。ストレスが溜まると問題行動を起こす。
キャンプやハイキングが好きなアウトドア派の飼い主希望。とりわけカヌーや波乗りなど水辺の遊びが趣味の飼い主なら、PWDにとって最高だろう。外見は可愛い犬だけど、中味は本格的なスポーティかつワーキングな犬であることを忘れないでほしい。泳げないPWDになってしまったら、ウォーター・ドッグの名が廃る。
ただし、もちろんPWDであっても、正しくない繁殖管理や、社会化トレーニング不足などがあれば、社交性に乏しく臆病で暗い性格や、泳げない犬になってしまうことはある。PWDが、PWDらしい明るい人生(犬生)を歩むことができる血統管理と飼育管理が、日本でも進むことを望む。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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