図鑑
ビーグル
マイペースで平和主義の食いしん坊。
集団行動の得意な、山野のテノール歌手
英名
Beagle
原産国名
Beagle
FCIグルーピング
6G セント・ハウンド
FCI-No.
161
サイズ
原産国
特徴
歴史
セント・ハウンド(嗅覚ハウンド)の中で最も小さい犬。
日本では、獣猟犬のハウンドといえば、 ダントツで飼育頭数が多いのはドイツ原産の
ダックスフント だが、FCIのグループ分けではダックス1犬種のみの単独で、4グループに分類されている。そのほかの垂れ耳のセント・ハウンドは「セント・ハウンド&関連犬種」として6グループに分類されている。
日本で6グループのセント・ハウンドといえば、ビーグルがいちばんポピュラー。次に名前が知られているのはバセット・ハウンドだろうか(ちなみに6グループの“関連犬種”としては
ダルメシアン と
ローデシアン・リッジバック の2犬種がいる)。
一方、欧米には数多くのセント・ハウンドがいる。ヨーロッパやアメリカは狩猟大国。もともと狩猟民族であり、シカ、イノシシ、キツネ、ウサギなどを狩ることは生活の一部だったので、獣猟犬は大切な相棒だったのだ。犬種図鑑を紐解くと、日本人には馴染みのない犬種名が驚くほどたくさん並んでいる。
一例を挙げると、ハリア(イギリス原産)、シャン・ダルトワ(フランス原産)、ブラッド・ハウンド(ベルギー原産)、ドゥンカー(ノルウェー原産)、シラー・シュトーバレ(スウェーデン原産)、ハノーヴィリアン・シュバイスフント(ドイツ原産)、オガール・ポルスキー(ポーランド原産)、ユラ・ラウフフント(スイス原産)、セグージョ・イタリアーノ(イタリア原産)、サブエソ・エスパニョール(スペイン原産)、ブラック・アンド・タン・クーンハウンド(アメリカ原産)……など、ほんの一部を抜粋しただけでも相当な数。ヨーロッパやアメリカの、国や地域ごとに、地元のハウンドがいるのではないかと思わせるような犬種数だ。
しかもここに列記したのは、ビーグルと同じ短毛のハウンドばかりで、そのほかにもラフヘアー(テリアのようなボサボサ毛)のものがいたり、短足タイプもいたり、多種多様なハウンドがいる。猟場や獲物の種類によっても、体格やサイズ、毛質、性質が違う犬がいる。それだけセント・ハウンドは、狩猟民族の欧米人にとって生活に密着したポピュラーな犬なのだ。ちなみに、アメリカの国民的キャラクターである「スヌーピー」は、ビーグルがモデル。
しかし日本では、優秀な獣猟犬として甲斐犬や北海道犬などの日本犬がいたせいか、また吠え声の問題やタフすぎる運動欲求量などのキャラクターが日本の家庭向けではないせいか、セント・ハウンドはあまり日本には輸入されていない。だから、そんなに外国にたくさんの種類のセント・ハウンドがいるなんてピンとこないという人も多いのではないかと思う。
近年では、一部の大物猟(イノシシ、シカなど)の狩猟愛好家が、プロット・ハウンド(アメリカ原産)などを輸入して日本でもハンティングに使っているが、現時点ではJKCに登録はなく、全猟(一般社団法人全日本狩猟倶楽部)では
イングリッシュ・セッター とイングリッシュ・ポインター、ビーグルが主流のよう。プロットの国内における輸入や繁殖は個人ベースで行われており、公の場では見えてこない。ただし、遺棄や迷子のため動物愛護センターやレスキュー団体に収容されているプロットたちは近年増加している。
そうしてみると、ビーグルの存在は日本ではある意味特別といえる。家庭犬として、ショードッグとして、日本の一般家庭に認知されている数少ないセント・ハウンドなのである。
ビーグルは、紀元前からギリシアでウサギ狩りに用いられていたハウンドの末裔とされる。女王エリザベス1世(1533〜1603年)時代のイギリスには大小2タイプのハウンドがいて、小さい方がビーグルと呼ばれた(大きいタイプがなんと呼ばれていたかは不明)。アイルランド語のゲール語で「Beag」は「小さい」の意味なので、そこからビーグルと呼ばれたという説がある。
ビーグルは、いまは絶滅したサザン・ハウンド(大型のハウンド。オスジカ狩り用)の縮小版といわれる。サザン・ハウンドは、現存するフォックス・ハウンドやオッター・ハウンドの祖先の1つで、フランスのブルー・ド・ガスコーニュの血縁らしい。そうした大型のハウンドと比べて、ビーグルの利点は、小型でスピードが遅いため、馬で猟野に入るスタイルではなくて人間が歩いて犬のパック(ハウンドの群れ)を引き連れていくことができた点だ。コンパクトで、人間の歩く速度で移動してくれる……これは家庭犬としても好都合ではなかろうか。
馬を必要としない狩猟スタイルは、貴族層だけでなく、田舎に住む人々や徒歩で狩りをする層の人々にも浸透していったようで、これが、猟犬としてだけでなく、ビーグルにコンパニオンとしての道が開けたきっかけかもしれない。
ちなみにイギリスのセント・ハウンドを使った狩猟は、群れ(パック)の犬を使って、鳴いて獲物を取り囲んでいくスタイル。複数といっても2頭や3頭のレベルではない。貴族は何十頭というハウンドたちを猟場に放ち、ハンティングに興じていた。ビーグルの仕事は、大勢で、山野に響き渡る大声で吠えて、獲物を追い込んでいくこと。よってそのよく通る野太い美声が、最大の魅力だった。ビーグルは、吠えることと、優れた嗅覚を使って執拗に追いかけること、これが彼らの任務である。
余談だが、ビーグルよりもさらに小さく、貴族のハンターの、馬の鞍の横にぶら下げたサドルバッグに入る「ポケット・ビーグル」なるものも改良された時代があったという。1575年に描かれたエリザベス1世の肖像画には小さなビーグルがいるそうだ。しかし、矮小化により不健全な犬になってしまったのか、単に人気がなくなったのか、衰退の理由は定かではないが、1920-30年頃に絶滅した。
通常のビーグルは、体高35〜38cmだが、ポケット・ビーグルは約20〜25cm。現代ではアメリカで“13インチビーグル”なる小型のビーグルが改良されているが(1犬種として公認はされていない)、当時のポケット・ビーグルはそれよりも小さい。体高約20〜25cmというと、
チワワ や
狆 のサイズ。ずいぶん小さいサイズのビーグルが、昔は存在したということだ。
ビーグルは、温順で朗らか、環境適応能力が高く、パックで狩りをしていた歴史から群居性もあり、犬同士でケンカするタイプではない。人間にもとてもフレンドリーで、飼い主に限らずすべての人間に友好的。そして食欲旺盛で、丈夫で、多産。個々の遺伝子の差のばらつきも小さい。(吠え声は大きいけれど)小型な犬で犬舎のスペースもあまりとらない。
悲しいかなそうした優れた特長を有しているせいで、ビーグルは最も頻繁に動物実験に使用される犬である。ペット用や猟犬用とは別に産業動物として、工場のようなところで「量産」されている現実がある。
かたや明るい話題としては、ビーグルの順応性やフレンドリーさや群居性、そして本来の一番の商売道具である嗅覚を活かして、日本の空港において農林水産省管轄の「検疫探知犬」(国内に害虫などが入らないように手荷物の中などから肉製品や果物などを探し出す犬)として活躍している。空港のような混雑した人ゴミの中、コンパクトで可愛らしく、人なつこく、人々に恐い印象を与えないというのもビーグルが選ばれた理由だ。
またバンコク(タイ)の空港で、ベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノアなどとともに麻薬探知犬としても働いているビーグルも話題になった。
外見
FCIやJKCの犬種スタンダードだと体高33〜40cmが理想。アメリカからの血統で「13インチビーグル」などの小ぶりなビーグルももてはやされたりするが、13インチとは体高33cmに該当。FCIの国際標準の中でもっとも下限サイズということだ。
犬種スタンダードに体重のルールはないが、だいたい8〜14kgほど。頑丈でコンパクトな体格をしている。獣猟犬であるが、粗野な印象は与えない。
目はかなり大きくて、穏やかで優しい印象。色はダーク・ブラウンかヘーゼル。この大きな黒目がビーグルの愛らしさを引き立てる。鼻もブラックが好ましい。
マズルはスニッピーではだめ。つまり、とがった弱々しいマズルはよろしくない。
耳は長くて、付け根は低い。先端に丸みがあり、伸ばしたときにはほぼ鼻先にまで届く長さ。きめ細かい手触りで気持ちいい。
しっぽは適度に長く、付け根は高く、陽気に持ち上げている。いつでもごきげんそうに保持するしっぽが、これまたビーグルの性格の良さを体現している。背上に巻いたり、背中に向かって前方へ傾斜はしない。しっぽの先は白。猟野でも高く上げたしっぽの先が遠くからでもよく見える。
被毛は短毛。風雨にも耐えられる。暑がりでもなく寒がりでもなく、環境適応能力がある。短毛でも毛は密生しており、また滑毛種(スムースヘア)の犬よりは長さもある。毛がもつれるようなことはなくブラッシングは簡単だが、でもそれなりに抜け毛はある。春と秋の換毛期は多めに抜けるので、ブラッシングの回数を増やすとよい。
シャンプーも自宅でできる。ドライヤーでの乾燥もそれほど手間ではないし、自然乾燥にしている家も多い。おめかしの手間もお金もかからないコンパニオンである。
毛色は、レバー以外のハウンドカラーならOK。ハウンドカラー・ホワイト&ブラック&タンとは、白地にブラックとタン(黄褐色)の2色のぶち。そのほか白地に1色ぶちのハウンドカラー・ホワイト&レモンやハウンドカラー・ホワイト&ブラウンなどもいる。
また、ぶちではなく黒茶の鞍が乗っているようなカラーもOK。タンの色がレモン色のように薄い個体もいて、柔らかい印象となる。
失格事由は、陰睾丸。失格になる項目がこれだけというところからみても、健全な犬で、遺伝子が安定していると推察できる。
毛色
魅力的なところ
朗らかで温順、お人好し、犬とも他人ともみんなと仲良くできるほのぼのした性格。
ドッグランでもたいていみなとうまくやれる。
多頭飼育しても大丈夫。群れで暮らすのは得意。
コンパクトなサイズだがタフ。健脚な人のお散歩の友に最適。
もともと山野で活躍する犬。アウトドア、キャンプの相棒にもよい。
丈夫で多産。比較的病気も少ない健康優良児。
攻撃性がなく脳天気で遊び好きなので、子どもの相手もできる。
多少毛は抜けるが、毛の手入れは簡単。
コンパクトながら、犬らしい存在感がある。
大変なところ
体の大きさのわりに声が野太い。吠え声が問題になりやすい。
もともと猟犬だからタフ。運動欲求量は高い。
毎日たくさん散歩で歩いてほしい。
頑固で執着質でマイペース。しつけには忍耐力が必要。
自分が気になるニオイに夢中になりやすい。失踪に注意。
タフで遊び好きな分、ストレスが溜まると無駄吠えなどの問題を起こしやすい。
食いしん坊。盗み食いもしやすい。
太りやすいので、運動管理と食事管理をしっかりやる。
まとめ
タフな元気さを満たしてあげれば、ビギナーでも扱いやすい犬
愛らしい黒目がちな大きな目。コンパクトな扱いやすい大きさと丈夫さ。スヌーピーと同じ、垂れ耳(垂れ耳は、立ち耳より威圧感がなく、親しみやすいとされる)。そうした外見だけでなく、性格も温順で脳天気で大らかで、他人にも犬にもフレンドリー。
自分の牙でイノシシなどの獲物に食らいついて倒すのではなく、自慢の美声で吠え立てて追い鳴きするのが仕事だったので、獣猟犬であっても攻撃心がほとんど見られない。声は大きいのでアラームドッグにはなるけれど、本当は泥棒にもコンニチハをしてしまうような友好的な犬。容姿的にも性格的にも、家庭犬に向いている。
小型犬の多くは、人間の子供が犬を手荒に扱うことに対する恐怖心や鼻っ柱の強さから、手を噛むなどの問題を起こしがちだし、抱っこして落とされて骨折などのケガをすることもある。そのせいで、やんちゃな子供がいる家庭になかなか勧められないが、その点、ビーグルは抱っこするには大きいのでそういう事故は起きにくいし、犬の性格が温順だし、遊び好きなので、元気な子どもの相手もこなしてくれる。
ただし、いくら平和主義で協調性のあるビーグルでも、しつけもせず、飼い主が言いなりになって、運動もさせずにストレスを溜め込んだら、延々と吠えたり噛みついたりする不良になる可能性もゼロではない。通常は飼いやすくて扱いやすい犬であるが、勝手に優等生に育つわけではないので、そこは勘違いしないように。
トレーニングは、飼い主に根気が必要
ハウンドは、自分の判断力で獲物を追う仕事をしていただけあって、自主性があり、マイペースで頑固な一面がある。そのためしつけやトレーニングには根気が必要。しかし飼い主に反抗心や攻撃心があるわけではないので、咬傷事故などの大きな問題は起きにくく、また小さすぎず大きすぎずのサイズとパワーなので、ビギナーでも飼いやすい犬といえる。トレーニングは、何度も繰り返してやればいつかは覚えてくれる。飼い主は、ビーグルと同じくらい寛容で根気があり大らかな心の持ち主だとよい。
とくに何かのニオイをクンクンし始めたら執着することが多いが、飼い主は広い心で愛犬が無心にニオイを追跡する様子を見守ってあげるくらいの度量を見せてほしい。
最大の長所であり、短所は「声が大きいこと」
猟野で働いていたときは、ハンターから「森の声楽家」「森のトランペッター」などと誉められていた、山野をよく通る野太い声なのだが、これが日本の住宅地だと、残念ながら短所となってしまう。体のサイズの割に、とにかく声が大きい。
ましてや、本来は1日中野山を歩いても大丈夫なタフな犬。そして本当は、クンクンとニオイを追跡する嗅覚を使った脳の刺激を欲している。それなのに、毎日留守番でかまってもらえず、散歩時間も短ければ、無駄吠えなどの問題行動を起こしてしまうのも無理もない。
集合住宅に住み、運動をさせる時間をたっぷりとれない人には、ビーグルはお勧めできない。
こんなに朗らかで飼いやすい犬なのに、捨てる人がいるというのは、本当に残念なことだ。ビーグルは確かに飼いやすい部類の犬ではあるが、犬の習性を理解し、犬の運動欲求や好奇心をたっぷり満たしてあげる生活と飼育環境を与えることができるのか、事前によく考えることが重要だ。
食いしん坊なので肥満に注意
大らかで順応性の高い犬というのは、得てして食いしん坊。中でもラブラドール、コーギー、ビーグルが、3大食いしん坊犬種だ。小さいことは気にせず、びびらず、いつでも朗らか。ストレスフリーで生命力がある食欲旺盛な犬といえ、それは魅力的な性質でもあるのだが、一歩間違うと、食い意地が張りすぎている、盗み食いや拾い食いをする、太る、ということにつながりやすい。
運動をしっかりさせることも大事だし、愛らしい黒い瞳の懇願に負けて人間用の唐揚げをついついあげちゃったりしないよう、飼い主は強い意志を持つことが必要だ。
ビーグルは椎間板ヘルニアや糖尿病になりやすい犬種でもあるので、肥満は大敵。長生きしてもらうために、食事管理、運動管理をしっかり行おう。
このページ情報は,2014/10/30時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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