図鑑
ピレニアン・マスティフ
普段は穏和で穏やかなジェントル犬。
小さいことは気にしない
英名
Pyrenean Mastiff
原産国名
Mastín del Pirineo
FCIグルーピング
2G 使役犬
FCI-No.
92
サイズ
原産国
特徴
歴史
ヨーロッパ大陸(フランス側)とイベリア半島(スペイン側)を隔てるピレネー山脈。そのスペイン側のエリアが原産の犬だ。スペイン語では「ペロ・マスティン・デル・ピリネロ」(ピレネーのマスティフ犬、の意味)などと呼ばれたり、「ナバラ・マスティフ」(ナバラは地名。スペイン・ピレネー山脈沿いの西南にある州)と記録されていることもある。
ピレニアン・マスティフは、紀元前1000年くらいの古い時代に、フェニキア商人が中東からイベリア半島に連れてきた長毛マスティフを祖先にしているといわれる。つまりルーツは、長毛マスティフの祖といえるチベタン・マスティフである。
時代や使役目的に沿って地元で土着の犬と交雑されて、いくつかのタイプのマスティフが誕生したが、現存する犬でもっとも本犬種に近縁なのが
スパニッシュ・マスティフ である。スペイン原産の超大型犬で体格も同等だが、こちらはスムース・コートだ。ナポリタン・マスティフやブル・マスティフほどの短いスムース・ヘア(滑毛)ではなく、もう少し長めのショート・ヘア(短毛)くらいの毛の長さである。おそらくピレニアン・マスティフは、山地で標高が高くて寒い地方で発達し、スパニッシュ・マスティフは標高の低い平地で使われた犬なのだろう。
また、名前が似ているので間違いやすいが、ピレニアン・マスティフとピレニアン・マウンテン・ドッグ(FCIではPyrenean Mountain Dog。JKCではグレート・ピレニーズと記載)は別の犬種である。後者はピレネー山脈の北側、フランス領で発達したフランス原産の犬。山を隔てた近隣の土地で分岐した親戚筋であることは間違いないが、ピレニアン・マウンテン・ドッグよりもピレニアン・マスティフの方が頭骨がでかくてがっしりしており、外観も粗野でたくましい、昔ながらの「働く山の犬」の存在感を放っている。
それに比べてピレニアン・マウンテン・ドッグ(グレート・ピレニーズ)は、アメリカや日本のドッグショーでは割と人気があり、ショードッグとして洗練された「大きな真っ白いぬいぐるみ」的な外貌になりつつある。
またピレニアン・マウンテン・ドッグは、全身白1色のものがショーで好まれることが多いが(ピレニアン・マウンテン・ドッグもピレニアン・マスティフと同様に、大きめのパッチぶちがある個体もいて、それはスタンダード内である)、ピレニアン・マスティフには白の単色はいない。ピレニアン・マスティフは、必ずはっきりとしたマスク(顔に入った覆面のようなマスクのぶち)がある。
仕事内容は、まさに「働く山の犬」だ。ピレニアン・マスティフは、ピレネー山脈のスペイン側の集落で、羊の群れをオオカミやクマから守る護羊犬の役目をしていた。中央アジアの長毛マスティフ同様に、護身のため(オオカミに喉元を噛み切られないように)スパイクのついた重装備の首輪をして任務についていたこともあった。強くてたくましい、頼りになる牧畜の片腕だったに違いない。
また、季節ごとに新しい牧草地を求めて牧童とともに数百、数千の羊の群れを移動させるときには、羊を守る仕事だけでなく、ロットワイラーなどと同じように牧畜犬の仕事も請け負うこともあった。
つまり、オオカミやクマに負けない強靱なパワーと精神力と自己判断力を持ち、かつ牧童の指示に従って家畜の群れをまとめたり誘導したりする、訓練性能と親しみやすさを兼ね備えた犬だと想像できる。中央アジアの長毛マスチフより、飼い主のコマンドを聞く気持ちやトレーニングする意欲があり、本家よりは扱いやすい可能性はある。
しかし時代の変化とともに、ヨーロッパでオオカミがほぼ絶滅状態になると、ピレニアン・マスティフも職を失い、絶滅しかかった。1940年あたりに数が激減したのだが、幸いにしてヨーロッパの一部ファンシャーの手により保護されて絶滅を免れた。その後、FCI(国際畜犬連盟)やKC(イギリスのケネルクラブ)には公認されたが、AKC(アメリカン・ケネル・クラブ)では未公認。いまも、国際的に数の少ない犬種であることは変わりない。
そして商業的に流行していることもなく、ショー用や愛玩用に繁殖されることは少ない。その分、人為的な犬種改良をされることが少なく、遺伝性疾患があまりないとよいのだが、いかんせん頭数が少ないために病気などのデータがほとんどないのが現状だ。
日本では、2000年以降に繁殖を手がけている犬舎があり、国内で入手することも不可能ではない。ただし希少な超大型犬ゆえか、マニア同士でのいさかいなども起きている模様。本犬種を希望するなら慎重に情報を集め、志し高く健全な犬を輩出するよう努力している本物のブリーダーを自分の目で見つけることが重要だろう。
外見
珍しい犬なのでそうそうお目にかかることはないが、イメージ的にはセント・バーナードのような覆面マスクや柄、そして体のボリューム、かつピレニアン・マウンテン・ドッグ(グレート・ピレニーズ)のマズルを少し長めにした野性的な顔つき、などを想像していただければ近いと思う。体高や体長は、個体差もあるがピレニアン・マウンテン・ドッグより少し大きめだ。
犬種スタンダードに体重記載はないが、一般的に体重は55〜80kgくらいとされ、超大型犬の部類に入る。しかも体高に上限はない。つまり、いくら大きくてもスタンダード外ということにならないのだ。全体的なプロポーション、バランスが狂ってなければ、大きければ大きいほど好ましいとされる。
しかし体高に下限はある。オスは77cm、メスは72cm以下はNG。理想的には、オスは81cm以上、メスは75cm以上がよいとのこと。小さい犬は好ましくないということだ。
体高は、体長よりわずかに短い。つまり少し横長の長方形体型。体長は、首の付け根〜しっぽの付け根の長さなので、大きな頭骨や太い首を合わせると、頭からお尻までの全長はゆうに120cmを超えるくらいの大きな犬ということになる。そして体高:胸囲=7:10。つまり胸囲もあり、胴体はすごくがっしりしている。そのうえ毛のボリュームがあるので、ますます大きく見える。
これだけの大きな犬なので、リビングも、移動用のクルマも、おうちでシャンプーする風呂場も、それ相応の設備や環境の準備が必要だ。毎日のお散歩コースも、家の前にすぐ幅の広い歩道があるとか、人が少ないなどの条件が揃っている方が、一般の通行人に圧迫感を与えないですむ。
ついでに言うと超大型犬は、本犬種に限った話ではないが、トリミングサロンのシンクに入らなかったり、動物病院の診察台に乗らなかったりすることがあり、シャンプーや診察、入院などを断られることもある。また、超大型犬は麻酔などに対してセンシティブな面もあるので、経験の乏しい獣医師にはこれまた診察を断られることもあると聞く。おうちに迎える前に、犬の実家やファンシャーたちとコンタクトをとり、通院可能範囲の距離にある動物病院や、必要ならサロンの情報を収集しておこう。
さらに言うと、いずれ年老いたときに介護が非常に大変になる覚悟も必要。体重のある犬は寝たきりになると褥瘡(床ずれ)がすぐできてしまうので、細やかなケアが必要だ。病院に連れて行くときは、飼い主一人の手ではクルマに乗せることすらも難しいので、家族や協力者の確保もしておいた方がいい。
そのほかにも超大型犬ともなるといろいろ大変なことが想定されるので、覚悟して前もってシミュレーションしておくことが欠かせない。そうすれば5年後、10年後、15年後に焦らなくて済む。
見た目の話に戻すと、ピレニアン・マスティフの頭部は大きくて力強く、いかにもマスチフっぽいたくましい頭骨を持つ。スカル(頭の鉢):マズル=5:4。スカルの幅:スカルの長さ=1:1か、わずかにスカルの幅の方がわずかに長い。頭突きされたらきっと脳震盪をおこしてしまうであろう大きな頭をしている。
ただしボディは、重々しさや鈍そうな印象であってはならない。力強く筋肉質で、働く犬としての機能性を維持していることが重要。
被毛は、密で長く、適度な長さ。トップライン(横から見た背中の上側のライン)の中間あたりで測ったときに理想的な被毛の長さは6〜9cm。毛質は剛毛。柔らかいウーリー(羊毛状)はNGだ。冷たい風雨に晒されるような過酷な環境下で働いてきた犬だということが伺える。
ウーリー状ではないので、それほど毛玉になりやすいこともなく、ブラッシングは毎日しなくてもよい。ただし、耳の後ろや脇の下、おしり周りなどは毛が柔らかめで、こすれてからみやすいので、毎日でも軽くブラッシングしてあげると美しさを保てる。
ただ、厳しい環境に耐えられる密で長い被毛ということは、抜け毛がひどく多いと覚悟するべし。部屋の掃除機かけは大変だし、洋服や家具についた毛をとるのも、とても大変。
そして人間側の衛生面以上に心配なのは、犬の皮膚の健康面だ。長毛マスチフは、日本の湿度・気温の高い季節がすごく苦手。ダブルコートの抜け毛をきれいに取り除くように努めないと、皮膚が蒸れて皮膚炎を起こす可能性があるので、夏場のブラッシングは、室内環境への毛の散らばりを予防するためだけでなく、犬の皮膚の健康のためにもしっかり行うこと。
また同時に、こういう長毛マスチフは非常に暑がりである。地域にもよるが、ゴールデン・ウィークの頃から11月の晩秋まで冷房をしている飼い主も多い。冷え症の飼い主さんがこの犬と同居するのは修行のようにきついだろう。電気代も高くなるし、経済的な心づもりも必要だ。ただし裏を返せば、冬場の暖房費は心配しなくていい。その代わり、その寒い環境に飼い主自身が適応する必要があるのでやっぱり修行のようなもの。家の中で常にダウンの上着を着ているということもあるようだ。
日本でも、冷涼な気候の山間部や雪の多い地域にお住まいならば、ピレニアン・マスティフが暮らしやすい自然環境を提供できる可能性が高いが、都会や暑いエリアにお住まいの場合は本犬種の健康管理・室温管理などがきちんとできるかを事前によく検討し、無茶はしないこと。
ブラッシングに加えて、欠かせないメンテナンスがヨダレ拭き。暑いときはもちろん、水を飲んだあと、走ったあと、興奮したあとなどに、ヨダレがたくさんでる。こまめに拭き取らないと、自慢の胸の白い毛が、ヨダレ焼けして赤くなってしまう。人間の赤ちゃんのようにヨダレかけをしている長毛マスチフも見かけるが、あれはファッションではなく、本当に必需品なのだろう。
ちなみにヨダレは粘り気があり、室内飼育の床拭きの頻度も増える。ブルブルッと頭を振ると、ヨダレが室内の壁や天井にまで飛んでいくこともある。キレイ好きな方がそのヨダレ攻撃に耐えられるかは心配なところである。神経質な人には、本犬種はまったく勧められない。
毛色は、ホワイトの地色にはっきりしたマスク(前頭部にある暗色の部分)があり、耳にも必ず暗色のぶちがある。たとえばグレー&ホワイト、ホワイト&フォーン斑、ホワイト&ブラウン斑、ホワイト&ブラック斑など。理想的なぶちの色は、好ましい順に並べると、
1. グレー
2. ゴールデン・イエロー
3. ブラウン
4. ブラック
5. サンディー(砂色)
6. マーブル(大理石模様)
となっている。
鼻の色はブラック。目の色はダークなヘーゼル(赤褐色)が好ましい。目の形は小さめのアーモンド形。犬が静止しているときは、下のまぶたが少しゆるみ、結膜がわずかに見えるのが特徴。
首にははっきりしたダブル・デューラップ(左右に分かれた喉の下の皮膚のたるみ)があるが、過度すぎではない。
また本犬種の特徴としておもしろいのは、デュークロー(狼爪)が1本か2本あること。ない場合もあり、切除も許されるが、ショー会場においては、もし犬のクオリティ(犬の質)が同じだったら、2本のデュークローがある方が望ましいとされる。
失格事由としては
・鼻や唇などの粘膜の色素欠乏
・スプリッド・ノーズ(左右に分かれて見える鼻)
・ホワイトの地色でないもの
・マズル、尾の先端、足の下部にホワイトがないもの
・全身ホワイト
・マスクなし
・ぶちが目立たないもの
・他犬種との交雑を示唆するような散らばったぶち
などがある。
毛色
魅力的なところ
とにかくでっかくて、威風堂々とした外貌。
長毛マスチフ好きにとってはたまらぬ存在感、包容力。
この外貌で実は飼い主思い、家族思い。たまらない。
犬種改良があまりされていなくて、素朴で野趣あふれてたくましい。
自分の強さがよく分かっているから、物怖じしない。堂々としている。
自分が強いと分かっているからか、ほかの犬や他人にも寛容。
飼い主との知り合いと分かっていれば、他人がなでても抱きついても文句を言わないで、我慢強く付き合ってくれる。
必要とあれば最強の番犬となるが、普通は穏やかで物静か。
自己判断能力も高いが、意外と従順で、訓練性もいい。
飼い主との絆がしっかりしていれば、子供にも忍耐強く付き合う。
野山を駆け回って運動するタイプではないので、走る運動はそれほど必要ない。
室内でもバタバタせず、悠々としている。
大変なところ
とにかくデカイ。食費、獣医療費、自家用車代など経費がかかる。
住環境もそれなりの広さが必要。風呂場もクルマも大きくないと困る。
毎日の排泄物も当然でかい。
体重もあるので瞬発的な力はすさまじい。飼い主に相当の腕力/体力必須。
タフな筋肉質の犬なので、毎日長距離歩くなどの運動が必要。
精神力も強いので、それ以上に飼い主の心が強くないと従ってくれない。
マスチフだけあって頑固で自主性が高いので、しつけにはコツがいる。
超大型の護羊犬だけに、いざというときは最強。事故が起きないようにする社会的責任は大きい。責任感のない人は飼ってはいけない。
希少種だからと欲しがられやすい(犬のせいではない)。
大きすぎて動物病院やトリミングサロンで断られることがある。
寒冷地仕様のダブルコートの犬なので抜け毛は非常に多い。
ヨダレがでる。
暑さに弱い。地域によっては春の終わりから晩秋まで冷房費がかかる。
暑さに弱いので、冬以外の時期の日々の散歩、外出、旅行は気を遣う。
超大型犬なので、病犬や老犬の介護は大変。
世界的にも希少種のため、病気など健康に関するデータが乏しい。
日本で飼育経験者の先輩が少なく、情報集めが難航する。
まとめ
モフモフをぎゅーと抱きしめる幸せ。しかし単なる愛玩用ではないので覚悟は必須
大きな大きなモフモフの体。でっかい頭。何事にも動じない強い心。真に心も体も強い犬だからこそ、他者に対して寛容に接してくれる肝っ玉のでかい犬。実際に会うと、想像以上に寛容で穏やかな犬なのでびっくりした。小さいことは気にしない。度量がでかい。このビッグな包容力・安心感は、体格だけでなく、精神的なものも大きく関係していると感じる。
護羊犬という本来の仕事を想像すると、もっとほかの四つ足動物に対して攻撃性があったり、家族以外の人間に対して警戒心が強く拒絶するのかと思っていたが、意外とそうではない。もちろん出会えた少数のピレニアン・マスティフの飼い主が、たまたまきちんとした人たちばかりで、正しい社会化やトレーニングを犬に施し、正しく飼養した結果、穏やかで親しみやすいタイプに育った可能性はある。
また日本のピレニアン・マスティフのファンシャーが安定した性質の健全な犬を日本に輸入するよう努力し、厳選されたペアリングを行い、よい血統の犬をつくる努力をしているのかもしれない。さらに現時点では、日本はもとより世界的にみても商業主義に乗せられて愛玩用の流行犬種になった時代がなくて乱繁殖されていないので、犬らしい健全性が正しく残っているからかもしれない。
スペインで羊の番をする仕事以外の人生(犬生)を歩んでいるピレニアン・マスティフの情報は少ないので(なにしろアメリカのケネルクラブでは未公認犬種であるから、アメリカからの輸入犬が多い日本ではもれなく情報量や輸入数が少なくなる)、正直なところ未知な部分が多く、飼い主の経験の差、犬の個体差・血統差、オスメスの差などもあるから、軽々しく「優しい穏やかな犬。飼いやすい」などととても断言はできない。
ただ、日本で出会った数少ない犬は、みな紳士的ないい犬だったことは事実である。
飼い主とのよい関係ができている賜物であると思われるが、初めて会った他人がぎゅーっと抱きしめても「おまえが誰だか知らないが、敵ではなさそうなので、仕方ないから我慢してじっとしててやるか」という平常心の顔をして、付き合ってくれる環境適応能力と寛容さがある。ドッグランですぐ目の前を通り過ぎる小型犬〜大型犬を気にする素振りもしない。おそらく人間の子供に対しても我慢強く、寛容な心で応じてくれそうな器の大きさを感じる(誤解があるといけないので付け足すが、穏和といっても、ラブラドール・レトリーバーなどのように、愛想をふりまくフレンドリーさとは違う。他人には媚びない。自らはしゃいでは近寄ったりはしないタイプだ)。
しかし、忘れてはならないのは、この犬はオオカミやクマとも対等に闘える精神力と牙を持っているという点。警戒心・攻撃心を秘めることがこの犬の任務であり、才能なのである。つまりこの強さが、間違った方向に発揮されてしまうと、非常に深刻な大事故になることは容易に想像がつく。
犬の攻撃性は、小型犬であろうが超大型犬であろうがサイズに関係なく飼い主がコントロールできなければいけないけれど、残念ながら日本ではまだまだ犬への理解度が低いこともあり、大きな犬に対して過剰な恐怖心を抱いている人は多いので、やはり大きな犬を飼養するということは社会的責任が大きくなる。また当然相手に与えた恐怖やケガが大きければ大きいほど、万が一の事故の際の賠償責任も大きなものになっていく。
「珍しい犬だから」「希少犬でかっこいい」「みんなに見せびらかしたい」などという気持ちで飼える犬ではない。本気で覚悟をして、本気で勉強して、本気で自分の体力もつけて、経済力も蓄え、住環境などを整えた上で、この素晴らしき犬を迎えていいかどうかをよくよく検討しすることが欠かせない。
動物病院やトリミングサロンで断られる心配あり
カットは必要のない犬種なので、シャンプーは自分でできる。けれど、頭からお尻までが120cmを超えるような巨体の持ち主なので、小さなお風呂場で洗うことは厳しいかもしれない。また体表面積も大きいので、けっこう時間もかかるだろう。
トリミングサロンに出すと、サイズが大きいだけにシャンプー&ドライだけでも2万円前後はとられるだろう。お金を払えばなんとかなるならまだよいけれど、この犬の入るサイズのシンクがなければお店側から断られる。というより、相当に大きなシンクが必要なので、むしろ断られる店の方が多い気がする。超大型犬の扱いになれたサロンが近くにあればラッキーだ。
あまりの大きさのために断られるのは、トリミングサロンだけではすまない。動物病院でも、診察台に乗らないから診察を断られることがあるそうだ。なんとか治療はしてもらえても、犬舎(ケージ)がないために入院はできないと言われることもある。
また超大型犬は、超大型犬の治療経験不足を理由に断られることもあるとのこと。経験がないのに無理して治療や手術をして死亡事故になるほど辛いことはないので、ある意味治療拒否されるのはお互いのためかもしれないが、とにかく超大型犬は日本では特別な存在となることがあるので、まずその心の準備をしておいた方がよい。
子犬期こそすぐ下痢したり、免疫が低くて病気になりやすかったりするので、子犬を迎える前から、近所に超大型犬の治療も引き受けてくれる動物病院があるか、事前に下調べしておく。ブリーダーやファンシャーから情報を得ておくことも大事だ。
また犬の老後を考えても、超大型犬の長毛種は、下痢などをしたときに下の世話で毛が汚れたときの日々のケアも想定しておいた方がよい。
暑がりさん。年の半分以上は冷暖房完備の生活を
長毛マスティフ系の犬は、雪国に対応できる被毛を装備している。よって日本の蒸し暑い夏はとても苦手である。春と秋の換毛期に関係なく、大量の抜け毛がでるのは間違いないが、とくに冬服(冬用の被毛)が抜け変わる春の換毛期は相当の抜け毛を覚悟しよう。体表面積も大きいので、抜け毛の量は尋常ではない。それくらいの心の準備はしておく。
またそうした抜け毛をちゃんとブラッシングして取り除いてあげないと、皮膚が蒸れて皮膚炎を起こしてしまう心配がある。日本の梅雨時期から秋の長雨の頃までは、蒸れないように、しっかりブラッシングをすることが皮膚の健康を守るために必要だ。ブラッシングで死んだ毛を抜いておけば、室内に散らばる毛を減らすことにもなる。
からみやすい毛ではないけれど、毛の手入れは大変な犬だと覚悟をしておくこと。
またこれだけ雪国仕様の被毛ということは、犬の快適温度が、我々日本人とは大きく異なることも覚えておこう。彼らにとっては、日本のゴールデン・ウィークは暑い。エアコン冷房は、すでにこの頃から始めないといけない。湿度の高い梅雨時期、気温の高い真夏は、24時間連日エアコンで冷やしてあげること。冷房しなくてすむのは晩秋以降らしい。
かたや、暖房のスイッチを入れることはしなくてよい。日本の真冬が彼らにとって過ごしやすいベストシーズンだからだ。よって、飼い主さんは、家の中でもダウンの上着を着込むような生活を余儀なくされる。この快適温度の違いを我慢してでも、それでもピレニアン・マスティフと暮らしたい!と切望する強者の飼い主でなければ、この犬を選んではならない。
トレーニングの理解力は割とある。でも教えやすいかどうかは飼い主の力量しだい
ピレニアン・マスティフは、護羊犬ではあるが、ときに牧畜犬のような仕事も請け負うことができる犬。それだけに、飼い主との協調性やトレーニング性能はあると思われる。単独で仕事をこなす長毛マスチフの護羊犬よりも、トレーニングは入りやすい。
しかしそうはいっても、やはり自主性が高く、自己判断能力のある犬なので、頑固な部分があり、トレーニングにはコツがいる。しかもこの手の犬種のトレーニングをしたことのあるドッグ・トレーナーは日本ではあまりいないので、先生を探すのも苦労すると思う。頼るところがないというのは難題だ。ピレニアン・マスティフを素晴らしいコンパニオンに育てるのは、ビギナーにはハードルが高い。それだけの覚悟と強い精神力、そして、ファンシャー同士のネットワーク作りなどをして情報を集める努力など、いろいろなことを頑張る必要がある。
病気についての情報が少ない。日本の獣医師にとっても未知の犬のはず
商業的な乱繁殖がされていないおかげで、それほど虚弱な犬ではないと推察できるが、しかし日本国内はもちろん、世界的に飼育頭数の少ない犬なので、遺伝性疾患、先天性疾患、またかかりやすい病気の情報が少ない。というかほとんどない。獣医師も国家資格を持ったプロとはいえ、この犬を診たことのない人が大半と思われるので、犬種特有の体質(麻酔への耐性など)やかかりやすい疾病についての知識が乏しいことも考えられる。
希少種というのは情報が少ないというリスクがある。その点も飼い主は覚悟をしないといけない。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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