図鑑
ボーダー・コリー
すべての犬の中で1、2を争う作業意欲。
「目力」の強い仕事中毒犬
英名
Border Collie
原産国名
Border Collie
FCIグルーピング
1G 牧羊犬・牧畜犬
FCI-No.
297
サイズ
原産国
特徴
歴史
「イギリス原産の牧羊犬の中で、最も作業能力が高いといわれる」と犬種スタンダードに記載されるのが、このボーダー・コリー。羊をまとめる仕事に対する優秀さ/執着ぶりは、まぎれもなく牧羊犬界でトップクラスである。また昨今の日本では2000年の頃から、スポーツ・ドッグの花形選手として愛好家から絶大な人気を誇っている。
ボーダー・コリーは、イギリスの中でもスコットランドの出身。「ボーダー」とは、国境、縁、辺境、境界などの意味だが、イングランドから見るとスコットランドは辺境の地であり、「辺境のコリー」という意味が込められているとスタンダードにはある。
また一説では、イングランドとスコットランドの境周辺の犬だったので、この名があるという資料もある。ただボーダー・コリーは、古い犬種ではあるが、実用性をいちばん優先して牧童たちが繁殖させていた犬だったせいか、繁殖管理の起源や発祥の地などの明確な資料はないようだ。
ちなみに、テリア・グループに「ボーダー・テリア」という犬種がいる。名前は似ているがボーダー・コリーと血縁関係は感じられない。ボーダー・テリアは、イングランドとスコットランドの境界に沿った地域の、とくにノーサンバーランド付近が原産地だとされる。ノーサンバーランドは、イングランド側に属するので、ボーダー・テリアはスコットランド出身ではなく、イングランド出身になる。
よって、スコットランドとイングランドを分けるチェビオット丘陵を挟んで、北のスコットランド側がボーダー・コリーのおおまかな出身地で、南のイングランド側がボーダー・テリアの出身地と推察することができる。冠の名前は同じだし、エリア的に近い場所であることには間違いないが、出身地が同じということではなさそうだ。ただどちらも「スコットランドとイングランドの国境(ボーダー)近く」というのは事実である。
ボーダー・コリーの祖先犬は、スタンダードによると「8世紀後半〜11世紀にかけてスカンジナビア半島付近で行動していたバイキングが、イギリスに持ち込んだトナカイ用の牧羊犬だった」とある。
ほぼ北極圏に近いスカンジナビア半島北部のツンドラ地帯で、何百頭、何千頭もの野生のトナカイの群れを追う仕事をしていた犬を総じてラップ・ドッグ(ラップ人が使っていた犬)と呼ぶ。ラップ・ドッグには、スウェーディッシュ・ラップ・ドッグやラピンコイラ、ラピンポロコイラという犬種がいて、黒や茶のモサモサと暖かそうな被毛に包まれた立ち耳のソリ犬のような姿をしている。その中でもラピンポロコイラは、黒地に白っぽい(淡い色)マーキングがマズル周りや胸、四肢先に入り、たまたまかもしれないが、カラー的にもボーダー・コリーを彷彿させる。
ともあれ3犬種とも、粗野でたくましく抜け目ない顔つきで、ボーダー・コリー以上に野性的な風貌をしている。粗食に耐え、持久力に富み、厳しい天候にも負けない剛健な犬であったが、そういう血はボーダー・コリーの根底にも流れている気がする。でも野性的な大きなトナカイ相手に仕事をするラップ・ドッグたちは、体格は3犬種とも体高50cm前後なので、ボーダー・コリーより小さめだ。
とにかく、イギリスにやってきたラップ・ドッグたちと、イギリス土着の牧羊犬やラフ・コリーの祖先犬などが長い時間をかけて交雑し、19世紀末にはほぼ今の形のボーダー・コリーが出来上がったとされる。でも正式にボーダー・コリーの名前が付けられたのは1915年のこと。それまでは、スコティッシュ・コリーの1種とか、ワーキング・コリーなどの俗名で呼ばれていた。
コリーという名称についても、ラフ・コリーのコリーかなと思いそうだが、これには諸説あり、一説によると、スコットランド高地地方にいるコリー・シープという羊の名前から来ているとも言われる。こちらのコリーは、古いアングロサクソン語で「黒い」という意味があり、コリー・シープには黒い斑紋があった。その「コリー・シープを見張る犬」が「コリー・ドッグ」と呼ばれたそうだ。そのほかコリーにはゲール語で「役に立つ」という意味があり、そこから名前がついたという説もある。本当の由来がどれかは分からないが、ボーダー・コリーが人間にとってかなり「役に立つ」犬であることは誰にも異論はないだろう。
ラフ・コリーが美しい被毛をたなびかせてショー・ドッグの道を歩み出す一方、ボーダー・コリーは相変わらず羊飼いの優秀な片腕となるよう、作業能力だけを重視して交配された。そのためサイズや容姿、毛並みなどはバラバラだった。エレガントさよりタフさ、美しさより仕事の能力を優先されて牧場で飼育・繁殖されていたので、ボーダー・コリーはいつまでも田舎で活躍し、国際舞台はもとよりイギリスの都会で暮らす人にすら、知られる機会がほとんどなかったという。
しかしショー会場でのワーキング・トライアルやオビディエンス・トライアルなど,“ビューティさ”ではなく能力を競う場でボーダー・コリーは注目され始め、公認犬種となった。KC(イギリス)では1976年、AKC(アメリカ)では1980年、そしてFCIでは1987年に公認された。割と最近のことである。
公認犬種となったあと、だんだんショードッグとしても人気が高まってきた。そのため、公認されてから20-30年ほどのうちに、ショードッグ系の血統と、ワーキング系の血統で、見た目も能力も健全性もずいぶん変化しているのが実情だ。良い意味でも悪い意味でも、人間による犬種改良の影響の大きさを感じる。
ショードッグの家系の犬は、毛並みがゴージャスで、顔つきもソフトで可愛らしい印象を受ける。かたやワーキング系は、体型がスリムで、毛並みもスッキリめ。顔つきもたくましく、眼光鋭い。ハーディング(羊の群れの追い込み)の能力にもおそらく差が出ているに違いない。すなわちショー系の犬の方が、ハーディングの本能や仕事欲求がマイルドになっている分、家庭犬として飼育しやすい性質になっている可能性はある。
しかし、そうはいっても犬種随一のワーカホリック(仕事中毒)との異名をとる犬。どんなにショー系に改良されても、それはほんの20-30年ほどの期間にすぎず、トナカイの牧畜犬から始まった長い歴史に及ぶはずもない。
これからこの犬種がどのような形で、ショー系とワーキング系を両立させていくのか、はたまた分裂していくのか、将来のボーダー・コリーの姿が気になるところである。
外見
悪天候でも耐える被毛とボディを持つ。犬種スタンダードによると、粗野なもの、やせすぎは好ましくない。でも、牧場で現役で働くボーダー・コリーはどちらかと言うと痩せ気味なほどにスリムで、眼光鋭く、オオカミのような野性味があり、優美さよりワイルドさを感じる。機能性・実用性を重視したらそうなるのだと思う。
またフサフサ、フワフワなゴージャスな被毛をキープすることは、悪天候の冷たい雨の下でも走り回って仕事をするボーダー・コリーにとっては無理である。見た目のエレガントさより、本物の耐寒性、耐湿性がすべてのはずだ。
ショー系とワーキング系は、外貌や被毛に関しては、別の犬種のようにも思える。犬種スタンダードは同じ犬種なので1つしかないが、ドッグショー会場にいる犬と、牧場にいる犬とでは、別犬種かなと見間違えるほどである。
また日本で、ショー会場や公園で見かけるのは、長毛タイプのボーダー・コリーだが、本犬種にはスムースタイプもいる。スムースタイプは、
ラブラドール・レトリーバー のような毛の長さだ。ちなみにFCIには長毛とスムースの2タイプとあるが、AKCではラフ(粗剛毛)とスムースと記載されている。ボーダー・コリーの長毛は、個体にもよるがそれほど長くない犬も多い。とにかく毛の長さや硬さも、個体差や血統差が大きいのだ。
どちらのタイプも上毛は密で、下毛は、柔らかく密で風雨に強い。つまりスコットランドの寒さや激しい風雨の環境下でも大丈夫なダブルコートなので、抜け毛は多い。ただし、実用的な犬のため、本来ならばそれほど毛玉になりやすい毛でもなく、ブラッシングは週2〜3回でよい。しかしショードッグとして活躍している犬は、熱心にブラッシングして、美しい被毛を保っているに違いない。ショー会場にいるボーダー・コリーの美しさに憧れるのであれば、それ相応の努力と手間は覚悟する必要がある。
長毛タイプは、メーン(首の後ろと横にある長くて豊富な毛)とブリーチング(腿の後ろの飾り毛)、しっぽの被毛が豊か。顔、耳、前肢の前側は短く、後肢のホック(飛節。くるぶし)から地面に到達する部分の毛は短くなければならない。
毛色は、犬種スタンダードによると「さまざまな色が認められている。ただホワイト部分の方が(全体の配色の中で)優位であってはならない」とある。つまり実用性重視の犬なので、毛色はなんでもいいということか。
通常、日本でポピュラーなのは、ブラック&ホワイト、レバー&ホワイト、レッド&ホワイト(レバー・レッド・オレンジなど、茶色の色調はいろいろ)、そのほかグレー&ホワイト、ブルー・マール(白っぽい地色に大理石のように見える同じ色調の青灰色系のブチ)、レッド・マール(同じくマールで、こちらは茶系のブチ)、ブラック&タン&ホワイト(黒×茶×白)なども存在する。
ただし、遺伝子的に健全性が懸念されるカラーもある。見た目の好みだけで選ぶのは、とくにビギナーにとってはリスクが高い。よく勉強してから、自分の犬を選ぶようにしたい。
筋骨たくましく、胸の深いボディ。体高はオス53cmで、メスは53cmよりわずかに低めが理想。つまりあまり性差はない犬種のようである。体長は体高よりやや長い。つまり背骨の長さよりも足の長さが短い、横長長方形の体型だ。
体重はFCIでのスタンダード記載はないが、おおよそ14〜20kg程度である。
ゴールデン・レトリーバー のようには大きくなく、中型犬の部類に入る。
頭部のスカルはかなり広く、オクシパット(後頭部)は目立たない。マズルは鼻先に向かって先細りになっている。スカルとマズルの長さはほぼ同じ。鼻はブラックが基本。毛色がブラウンかチョコレートのときはブラウン鼻、毛色がブルーのときはスレート(濃いグレーがかったブルー)でもよい。
目は、広く離れて付いていてオーバル(卵型)。目の色は通常はブラウンだが、毛色がマールの場合は、両目や片目、あるいは目の一部がブルーでもよい。ただしマール因子を持つ犬は、聴覚障害などの問題が隠れていることもあるので注意が必要だし、ましてやそうした犬を繁殖犬に使う際はその家系の遺伝子を遡って検証し、慎重に交配相手を選ぶなり、繁殖に使うことは断念する配慮も必要だ。飼い主側は、子犬を譲り受ける際に、そのブリーダーが本物かどうかを、よく調べる必要がある。それが、悲しい子犬を増やさないためにできることだ。
耳は、適度な大きさの直立耳か、耳先が半分折れた半直立耳。耳が立っていても、ちょっと垂れていてもどちらでもOKというのが、実用性重視のボーダー・コリーらしいルールだ。
長毛タイプでもトリミングは必要ないので、自宅でシャンプーOK。ショーに出す予定のない家庭犬ならばおめかしにお金はかからない。ブラシも週2〜3回程度なので、手間もたいしてかからない。ただしダブルコートで抜け毛は多いので、掃除機を頻繁にかける必要はある。
毛色
なりやすい病気
遺伝性
遺伝性てんかん症
股関節形成不全
進行性網膜萎縮
停留睾丸
MDR-1遺伝子変異
遺伝性好中球減少症
先天性
その他
魅力的なところ
仕事が出来て仕事が好きで、仕事命なところ。
頭の回転の良さ、集中力はピカイチ。
身体的にも精神的にも、ものすごくタフガイ。
非常に多才。羊を飼っていなくても、ドッグスポーツ、訓練を楽しみたい人に最高の友。
一緒に学び、高めあう。積み上げていく一体感が最高。
犬の扱いに慣れた、トレーニングの好きな人にとっては申し分ない犬。
毛の手入れはわりと楽。
大変なところ
ワーカホリック(仕事中毒)。無職だと犬が壊れて、問題勃発。
退屈、運動不足、刺激不足、絆不足だと何をしでかすかわからない。
頭がいいだけに、要求が多い。
気が強く、自我が強いので、気に入らないことには文句を言う。
犬よりも強くタフな飼い主であることが必須。
ビギナーには最も手強い犬のひとつ。
テンション・コントロールが必要。
中型犬だが、運動能力、持久力は大型ガンドッグ並み。
日本では乱繁殖や社会化不足のせいか、びびりで神経質、繊細な犬が多い。
マール因子など繁殖管理が難しい。よいブリーダーを探さないといけない。
繁殖管理されていない犬は、聴覚障害など健康に問題が起きやすい。
ショー系とワーキング系で、飼育管理法が異なる可能性あり。
羊を追いかけたがるように、自転車やバイクを追いかけ、交通事故になることがあるので要注意。
子供を追いかけることもある。公園などではリードをしっかり管理。
CL病という若くして死亡する恐ろしい遺伝性疾患がある。
抜け毛は多いので、神経質な飼い主にはお勧めできない。
まとめ
「ほっといちゃいけない犬No.1」訓練士のような人に飼われてこそ、才能と魅力が花開く
ゴールデン・レトリーバーほど大きくなく、柔らかな被毛にくるまれて愛らしい顔をしているので、「大型犬は大変そうだけど、この犬くらいなら飼えるかな」と思われがちな犬。また10年ほど前(2000年過ぎ頃)に、かっこいいディスク・ドッグとして雑誌等の表紙を華々しく飾ったり、「賢い犬」の代名詞のようにテレビなどでも評判となったため、「公園で一緒にディスク遊びをしてみたい」と人気が高まった。
しかしボーダー・コリーは数ある犬種の中で、最も玄人向きの犬の1つだと断言しよう。
ビギナー飼い主の多くが腰が引けるであろう
ジャーマン・シェパード・ドッグ と同じくらい、賢くて気の強い犬をコントロールできる強い精神力が飼い主にあり、ポインターを飼うくらい、登山が趣味だったり、アウトドアが得意だと豪語できるほど飼い主もタフで、繊細でびびりな心を大きな愛で受けとめ、長い目で付き合って絆を深めていくことができるような寛容な心の持ち主の飼い主なら、ボーダー・コリーを上手に成長させて、素晴らしい関係を構築することができる。ボーダー・コリーは、本当に賢く、剛健で、タフで、信頼のおける犬なのだ。
逆に言えば、サイズが中型犬でも、ボーダー・コリーはそれくらいパワーとスタミナと知力と負けん気のある犬である。「羊の被毛をかぶったオオカミ」くらいのつもりで迎えないといけない。週に1回や月1回、ちょっと公園でディスク投げをする程度で満足するはずもない。
羊たちを追う役割を遂行するために長い間磨きをかけてきた仕事欲と体力と、繊細な感受性の持ち主だけに、初めて犬を飼いたいと思うような人に手に負える犬ではない。無責任なペットショップやホームセンターで「賢い犬」とオススメされることの多い犬種ではあるが、「賢い」=「飼いやすい」ではないので勘違いしないようにしよう。
しかし残念ながら日本では安易に手を出し、結果的に捨てられてしまうボーダー・コリーが多い。実に嘆かわしい。ボーダー・コリーと暮らすことを希望するなら、本当なら羊の牧場主であることが望ましい。本気でそう思う(むろん筆者にも無理だ)。実際、日本で本当に羊を追う仕事を与えられて、幸せに暮らすボーダー・コリーもいるが、さぞかし幸せな毎日だろう。
牧場主でなければ飼ってはいけないというわけでもないが、譲歩するとしたら、羊のハーディングに変わる仕事ーーたとえばアジリティなどのドッグスポーツやオビィディエンス競技などを全力で与えることのできる飼い主であれば、この犬に充実した人生(犬生)を与えることはできると思う。それくらいの気概と覚悟を持った上で、この「賢い」犬を選ぶべきだ。
この賢く美しい犬に憧れて、1か月に数回、自分の都合のいいときだけ公園でディスク遊びをする程度で満足してもらおうと思っても、確実に、犬は壊れる。咬みや吠えや追跡などの問題行動に悩まされ、飼い主も心労で壊れてしまう可能性が高い。あるいは、犬が捨てられる。
ファンシャーの言葉を借りると、「ほっといちゃいけない犬No.1」。留守番ができないわけではないが、いつでも人間の指令を待っていて、仕事がしたくてしたくて仕方がない犬であることを理解し、相当な覚悟と気合いで迎えてほしい。
賢く繊細で感受性が強い。テンション・コントロールが必須
ファンシャーにボーダー・コリーの魅力を尋ねると、「今までちょっとずつ積み上げてきたものがパカッと開花し、“ああ、やっとわかり合えた!”と感じる瞬間が最高。そういうときにばっちり絆を感じる」と言う。苦労は多いが、その分、関係がうまくいくと、たまらない。しかも賢いボーダー・コリーは、一度理解したことは忘れない。頭のいい犬ほど大変なんだけど、頭のいい犬ほど信頼関係ができるとその絆は強い。
ボーダー・コリーは、羊を追い立てるとき、
ウェルシュ・コーギー・ペンブローク のようにワンワンと吠える行動はせず、オオカミが身を伏せるような態勢で羊たちにそろりそろりと近づき、目力(めぢから)で羊の群れを追い込んでいく。凄みのある目力があるのも、本犬種の神々しい魅力でもある。声が商売道具ではない分、本来ならば無駄吠えも少ない。
ただし、興奮が抑制できず、かつ吠えることで要求が通るという経験を学習してしまうと、頭がいいので次からもその作戦に出る。そのため「早くディスクを投げろ!」と投げてくれるまで吠える犬もいるし、自転車を吠えながら追いかけてしまう犬もいる。
この興奮を抑制すること、すなわち「テンション・コントロール」さえできれば、ボーダー・コリーを飼育することは難しくなくなるとファンシャーは言う。そして、飼い主がつねに犬より一枚上手でないといけない。「テンション・コントロール」と「主導権は飼い主が握る」、この2つが、ボーダー・コリーを正しく導くために必要だ。もちろんそのためには、犬をよく観察する力や、飼い主側の強い精神力も必要となってくる。
でも繊細な犬でもあるので、強制訓練も向いていない。厳しく叱咤されると、凹んでやる気を失い、飼い主を信じる気持ちも薄れ、犬が混乱する。興奮を抑制し、テンションをコントロールし、犬の好き勝手にさせないようにしながらも、犬の積極性やハッピーさを維持しつつ教えてあげる必要がある。
これはかなりの難題だ。確かにビギナーにはハードルが高すぎる。でもだからこそ、教え甲斐があるとも言え、訓練士が自分の愛犬としてボーダー・コリーを迎える理由はこういうところにあるのかもしれない。ややこしい犬は、面倒ではあるが面白いのだ。
ファンシャー曰く、「とにかく漫然とした毎日、犬生(人生)にさせてはいけない」とのこと。アジリティでチャンピオンを目指すのでもいいが、そんな大それたことでなくてもよく「人のとなりにずっといる(いさせる)」「切り株の上で30分待たせる」などでもいいので、犬に指令を与え、それを実行させる。できたら、しっかり誉めて、その任務をこなしたことを「よくやった」と犬に知らせることが大事。
飼い主は「こういう風に犬と暮らしたい」という目標をしっかり持ち、犬に仕事や任務を与えること。そうすればボーダー・コリーは、親分に言われた任務を完璧に遂行するために、脳味噌を使い、我慢し、頑張る。そして、飼い主との深い絆を確認し、より強い信頼関係が結ばれていく。
ボーダー・コリーは、実に健気で、一生懸命で、可愛い犬なのだ。
「頭のいい犬だから、やればやるだけ覚える。日本語は通じないのだけれど、コマンド(指令)などを通じ、共通の言葉が増えていくのが楽しく、嬉しい。言葉、意志が伝わる喜び。こういう作業の積み重ねが楽しく、またそれを犬も喜んでくれる。その喜ぶ犬を見るのもまた喜び」とファンシャーは言う。ボーダー・コリーは、1+1=2ではなくて、3にもなるし、4にもなるかもしれない、未知数の喜びを与えてくれる犬。そういう試行錯誤を苦労と思わず、犬と一緒に学んでいくことが楽しいと思える飼い主さんに迎えてほしい犬種だ。
遺伝性疾患はじめ、繁殖には細心の注意が必要
ボーダー・コリーは、すべての犬種の中で、とくに遺伝性疾患が多いというほどではないが、まず日本で一時注目されたCL病(神経セロイドリポフスチン症)という遺伝性疾患は要注意だ。進行性の運動障害(足をつっぱらせて歩く、方向感覚の喪失、奇妙な行動など)・知的障害(尋常ではない不安や恐怖。精神錯乱したような状態など)・視力障害などを起こす。1歳くらいまで普通に暮らしていた犬が、2歳までに発症し、2歳半か3歳ほどで、飼い主が誰かも分からぬような錯乱状態になって死んでいったりする、治療法のない病気だ。これほど辛い病はそうそうないのではないかと思われる。
幸か不幸か、この病気は遺伝性の病気なので、その病気の因子を持つ犬を繁殖のラインから完全に外すようにブリーダーが繁殖管理すれば、淘汰が期待できる病気でもある。だから、ボーダー・コリーは(ほかの犬種も同じではあるが)、きちんとしたブリーダーから迎えてほしい。
CL病は、日本でボーダー・コリーが脚光を浴びて乱繁殖された時代に増えたのだが、幸い、ここ最近はあまり聞かれなくなったとファンシャーは言う。そうであることを願う。またこれから無知な繁殖業者などが病気の因子を持つボーダー・コリーを量産することを許さないように、世論が見張っていくことが大切である。
また、ボーダー・コリーの被毛色は、さまざまな色が許されているのだが、グレー色やマール(大理石のような霜降りぶち)は、遺伝子的に要注意。グレー(ブルー)因子は皮膚病などとの関連が懸念されている。さらに心配なのはマール因子。聴覚障害がかなりの高確率で出やすい。
ちなみにちょっと想像すればわかることだが、聴覚障害のある犬は当然耳が聞こえない(または聞こえにくい)ので、声で「オスワリ」「オイデ」などのコマンドを与えても反応できない。また自分の吠え声が聞こえないので、大きな声で吠え続けたりすることもある。トレーニングのうまい経験者なら、聴覚障害の犬でも正しく導いてあげることは可能だが、一般のビギナーでは手に負えず、捨てられることになりやすい。
スタンダード的にはさまざまな色が認められているものの、健康で長生きする犬と暮らしたいのなら、見た目の好みだけで選んでよいものか難しい犬種である。さらにいえば、その個体はマール色でなく、一般的な色であったとしても、マール遺伝子を持っている場合もある。そのため繁殖に使う犬は、何代にも遡って被毛色や遺伝子などを調べ、よく見極めて、血統管理をした父犬と母犬を掛け合わせる必要がある。
ボーダー・コリーの遺伝子のことをよく勉強しているブリーダーでないと、この繁殖管理は非常に難しい。また親犬、それぞれのおじいちゃん犬・おばあちゃん犬、さらにそのまた先の曾おじいちゃん犬・曾おばあちゃん犬、できればおじちゃん犬たち、おばちゃん犬たち……などの親戚一同の素性が分かっていることにより、より正しい遺伝子の判断ができる。よってペットショップやホームセンターで、どんな親犬なのか追跡できないようなところで本犬種を買うのは、かなりのリスクだと思われる。
幸い、日本でのボーダー・コリーのファンシャーのネットワークは、他犬種に比べて充実していると感じる。ボーダー・コリーの飼い主になりたいと思うのなら、情報をしっかり収集し、志の高いブリーダーを見つけるよう最大限の努力をしよう。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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