図鑑
フレンチ・ブルドッグ
顔だけでなく性格も愛嬌たっぷり。
病気の心配を除けば、飼いやすいコンパニオン
英名
French Bulldog
原産国名
Bouledogue français
FCIグルーピング
9G 愛玩犬
FCI-No.
101
サイズ
原産国
特徴
歴史
FCIの分類で「Companion and Toy Dogs」(小型愛玩犬)とは、
プードル や
マルチーズ 、
チワワ 、
パピヨン 、
狆 、
ペキニーズ などのグループ。その中に「Small Molossian type Dogs」(小さなマスティフタイプの犬)というくくりがある。コンパニオン(家庭犬)として扱いやすいサイズで、かつ小さなマスティフに該当するのはこのフレンチ・ブルドッグ、ボストン・テリア、そしてパグの3犬種だけである。
フレンチ・ブルドッグ(以下フレンチ・ブル)は、原産国フランスでは「ブルドグ・フランセ」という名前で親しまれ、そのほかにも「フレンチー」「フロッグ・ドッグ(カエル犬)」「バット・イヤーズ(コウモリ耳)」などの俗称で呼ばれる。イギリスでは一時期「フレンチ・トーイ・ブルドッグ」として知られていた。
さてブルドッグといえば、イギリスのナショナル・ドッグ(国犬)。「イングリッシュ」ブルドッグとは言わない。いちいち「イギリスの」という注釈をつけなくても、ブルドッグといえばイギリスの犬だという自負がある。だからフレンチ・ブルにブルドッグの名前がつくのを好まず、犬自体を敵対視した時代もあったそうだ。また、いまは絶滅したイングリッシュ・トーイ・ブルドッグの異形である、つまりフランスの犬ではなくイギリス原産の小型ブルだ 、と主張するブリーダーもいたという。
そう主張するのも理由がある。そもそもフレンチ・ブルの犬種の成り立ちは、イギリス人のレース編み職人たちが、1850年代頃フランスのノルマンディー地方に移住するときに、当時イギリスで流行していた小型のブルドッグを一緒に連れていったのが発端だからだ。やがてイギリスでの小型ブルの人気は下火になり絶滅したが、海を渡った小さなブルドッグの子孫たちは、フランスで生き残った。
この小型ブルは、ファニーなコンパニオンとしての価値だけでなく、ネズミ捕りが得意な点も重宝されたらしい。ネズミ捕りの才能を強化するために、フランスでテリアの血が入れられたという説もある。
1880年代頃にパリの下町で熱心に異種交配されたが、プロのブリーダーの手によって計画的に犬種改良されたのではなく、当時は素人、たとえば工場の職人さん、肉屋などの商人、娼婦などの手によってなされていたため(つまりは今で言うバックヤード・ブリーダーが繁殖させていた感じか)、どういう犬同士を交配したのかなどの記録は残っていない。一説にはパグとの雑交が行われたともされる。悪い言い方をすれば犬種のスタンダードの理想像やルール決め、計画的な血統管理などはなく、当時はサイズや外貌などさまざまなタイプがいたと想像できる。
けれどもフレンチ・ブルは、フランスの人々の心を掴んで離さなかった。結果的に、特殊な外貌や特徴が脚光をあび、パリの街を闊歩するフレンチ・ブルの姿を芸術家達がこぞって描くようになったりして、市民権を得ていったようだ。そして1898年、フランスのケネルクラブによって純血種として公認されたのである。
日本では、ファッショナブルな犬の1つとして人気が高い。デザイナーやヘアメイクなどのおしゃれに敏感な人達から支持があるし、マッチョな筋肉質のせいか、小型愛玩犬の中では珍しく男性のファンシャーも多い犬である。
外見
典型的な小型のモロシアン・ドッグ、つまり「小さなマスティフ」だ。カラーがパイド(ブラック&ホワイト)のフレンチ・ブルで、それでいてスタンダードから外れて華奢で四肢が細めで、首も長めの犬だとボストン・テリアと見間違うことがあるが、ドッグショーで正しい美しいフレンチ・ブルとボストン・テリアを並べてみると、違いは一目瞭然。
フレンチ・ブルは小型の割に力強く、ずんぐりしていて重心が低い。頭もでかく頑丈で、幅広く角張っている。首も短い(ボストンはもう少し長くシュッとしている)。フレンチ・ブルは筋肉隆々で、がっしりしていて、愛玩犬というよりやはり小さなモロシアンという名にふさわしい。
体重は8〜14kg。大きい個体だと抱っこするのは厳しいボリュームである。ちなみにボストン・テリアは「6.8kg未満」「6.8〜9kg未満」「9〜11.35kg」と体重で3つに分類されるが、フレンチ・ブルにはそうした分類はない。小ぶりなフレンチ・ブルだとボストンと体重が変わらないものもいるが、やはり骨格、体格、スタイル、胸の厚みなどが異なる。ちなみにフレンチ・ブルは、モロシアンの犬らしく外貌に性差がある。オスはよりがっちりしていて、骨格も太そうで、筋肉隆々。メスは愛らしい柔らかい顔をしており、オスよりは小ぶりである。
スタンダードに体高の記載はないが、だいたい30cm前後。AKC(アメリカン・ケネル・クラブ)のスタンダードだと、体高サイズで大きさを比較すると、パグ < フレンチ・ブル < ボストン・テリア、となる。すなわちボストンは、体重はフレンチ・ブルより軽く、体高はフレンチ・ブルよりも高い。犬種の成り立ちは違うので語弊はあるが、パッと見た印象は、ボストン・テリアはボクサーを縮小したような体型で、首も四肢も長く、スラッとしている。それに比べて、フレンチ・ブルはごろっとしたボリューム感があり、シルエットとしては(その名のとおり)ブルドッグに近い。
フレンチ・ブルの被毛は、なめらかでボディに密着したスムースコート。光沢があり、柔らかい。
毛の配色については、大きく分けて2パターン。
・単色系:フォーン、ブリンドル、ブラック・ブリンドルおよびそれにわずかな白斑(はくはん)があるもの
・パイド系:ホワイト&フォーン斑、ホワイト&ブリンドル
フォーンの色調は、レッドからライト・ブラウン(カフェ・オ・レ)まである。全体にホワイトに近い犬もいる。
つまり、濃いめのブリンドル(褐色、黒などが混じった色)はいるが、「ブラック」のフレンチ・ブルはスタンダードとしてはいないとのことで、ちょっと意外だ。黒い斑のように見えても、よく見たらブリンドルなのだろう。
ちなみにフォーンの色調は、レッドからライト・ブラウン(カフェ・オレ)までさまざまのものがいる。
フォーンやブリンドルにまったく白斑がない(つまり単色)、あるいはほとんどないうえに顔にピンク色の斑があるものは重大な欠点となる。
シャンプーやブラッシングは自分で簡単にできる。ただしスムースヘアなので、細かい毛がよく抜ける。ブラッシングは、ラバーブラシや豚毛ブラシで週1〜2回。フレンチ・ブルは皮膚の弱い子も多いので、皮膚の状態のチェックがてらこまめに行おう。また、短い毛なりに春と秋の換毛期はよく抜けるので、ブラッシング回数を増やすとよい。
またパグほどではないが、顔のしわに汚れがたまったり、ヨダレや鼻水のような泡で口の周りが汚れやすいので、タオルでこまめに拭いて清潔を保つようにしたい。
毛色
なりやすい病気
遺伝性
停留睾丸
シスチン尿症
変性性脊髄症
股関節形成不全
膝蓋骨脱臼(パテラ)
フォン・ウィルブランド病
先天性
その他
アレルギー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎
角膜腫瘍
まつげの異常
難産
外耳炎
緑内障
炎症性腸疾患
椎間板疾患ハンセンI型
肥満細胞腫
子宮蓄膿症
前立腺肥大
腫瘍
半側脊椎
クッシング症候群
二分脊椎
ガン
魅力的なところ
ファニーで愛嬌のある表情。短頭種好きのスター。
飼い主を慕う、健気で甘えん坊の性格がたまらない。
遊び好き、溌剌、はしゃぎ屋さんなので一緒にいて楽しい。
順応性が高く、要求は少なめ。性格的には初心者でも扱いやすいタイプ。
室内ではわりと静かに過ごす。
それなりのボリュームがあり、存在感がある。
いびきはかくが、あまり吠えない。鳴き声のトラブルは少ない。集合住宅でも飼育しやすい。
短い毛は抜けるが、手入れは楽。
子どもにも寛容。過敏でもないので同居可能。
大変なところ
残念ながら病気が多い。医療費がかかる犬種。
病気によっては、失明や四肢麻痺など介護が必要。
思い込みが激しく頑固な一面も。
興奮しやすかったり、テリトリー意識が強い犬もいる。
若いときは活発。ボール遊びなどにつきあってくれる活動的な飼い主さん希望。
重心が低く、引っ張る力はわりと強い。非力な女性にはオススメできない。
体重は中型犬並み。けっこうパワフル。
マンションなど、共有部分を抱っこしないといけない住環境では体重がネック。
キャリーバッグで公共交通機関に乗るのも厳しい重さ。
甘ったれで繊細な面もあり、留守番は苦手な子も多い。
暑さに弱い。熱中症に最も注意しなければいけない犬種の1つ。
寒いのも苦手。日向ぼっこベランダや床暖房など大好き。
いびきを愛せない人には厳しい。
難産な犬種のため、子犬の価格は高め。
まとめ
初心者でもなんとかなるお茶目でフレンドリーな犬
ファニーな3頭身のようなカエル顔に、コウモリみたいな大きな耳。大はしゃぎではつらつとサッカーボールをドリブルし、ヨダレと鼻水まじりでハアハアと得意気に飼い主を見上げ、そうかと思えば飼い主に情愛深く甘えてきて愛らしく、普通に賢く、人間に対してはフレンドリー。たまにテリア系の血が強く出たのか興奮しやすかったりテリトリー意識の強い犬もいるが、おおむねほかの犬とも仲良くできることが多く、ドッグランで万人に笑顔を振りまきながら遊んでいる若いフレンチ・ブルもよく見かける。でもたいていもう少しオトナになると落ち着いてきて、いつまでも走りたがることもなく、人間が歩くスピードの散歩のお伴にもちょうどいい。
マスチフ系の血の名残りか、ちょっと頑固で思い込みが激しく融通が利かないこともあるが、家庭犬としてのトレーニング程度なら問題なくこなす。総合して、犬と暮らす初心者でも、性質面と体格面からいえば、飼育が可能といえる犬種といえる(ただし健康面でいうと難しい面は多い。それはあとで述べる)。
小さいことは気にしない大らかな性格でもあるので、人間の子供に対して過敏になることもない。むしろ、小学生の男の子とサッカーするなら大喜びで志願するだろう。プードルやチワワのようなぬいぐるみ感覚で子どもが抱っこするにはボリュームがありすぎるので、子どもが手荒く扱って落下させるような事故や、そういう経験から子どもが怖くなって恐怖心から咬むようになる事件もあまり聞かない。子どもの相棒にも向いている、数少ない小型愛玩犬といえる。
都市部のコンパニオン向き
パリの下町で発達したという歴史のせいか、それとも偶然なのか分からないが、都市部の住宅密集地やマンションなどの集合住宅などでも飼いやすい犬といえる。いびきはかくけれど、ほとんど鳴き声は発しない。鳴き声のトラブルが少ないというのは助かる。
また、若いときは元気よく公園で遊ぶのが好きだが、家ではまったり静かに過ごすタイプ。家でもドタバタと運動会をするような話しはあまり聞かない。やはり都市向きの犬といえるだろう。
ただし、顔に似合わず甘ったれで飼い主を一心に慕い、繊細な一面があり、留守番が苦手な子も多い。ひとり暮らしや共働きなどで朝から夜までの長時間留守番をさせるライフスタイルならば、フレンチ・ブルを迎えるのは我慢してもらうのが犬のためだ。でもたとえば共働きでも、一緒に出勤できるような自由な職業の方ならOK。美容院やセレクトショップなどで看板犬となっているフレンチ・ブルは、犬もひとりぼっちにならなくていいし、お客様からの人気も上々で、一石二鳥といえる。
暑さ・寒さに弱い、手間のかかるお坊ちゃん&お嬢ちゃん
短頭種は、パグでもボストン・テリアでもボクサーでも、犬種的に気管が狭窄(きょうさく)していたり閉塞気味な犬も多く、体内の熱を外へ送り出すラジエーター機能の効率が悪い。そのため暑さにめっぽう弱い。あれよあれよという間に熱中症になり、場合によっては絶命するケースもあるので油断できない。
フレンチ・ブルの飼い主は、夏場は夜明けのまだ涼しい時間帯に朝の散歩に行き、夜はアスファルトの熱も冷めた遅い時間に散歩に行くように頑張れる人でないといけない。また夏場は飛行機にも乗れないので、ゴールデンウィークやお盆休み、夏休みなどの暑い季節に、飛行機で帰省や旅行に行きたい人は不適。
また、キャリーバッグの中も案外熱がこもるものなので、とにかく暖かくなった季節は、熱中症回避をつねに考えることが必要だ。さらに外出時だけでなく、留守番時もつねに温度・湿度管理には細心の注意を払うこと。とくに近年のマンションや家屋は気密性が高いので、家だからと安心していると、会社から帰ってみると倒れていて亡くなっている例もある。
また外出時にクルマの車内にフレンチ・ブルだけ残すようなことは絶対にやめてほしい。ほかの犬種でももちろん熱中症の危険はあるが、フレンチ・ブルはとくに熱中症になるスピードが速い。おそらくは想像以上に速い。油断大敵、注意1秒ケガ一生である。
こんなに暑さに弱いフレンチ・ブルなのだが、寒いのもとても苦手。スムースヘアだということもあるが、同じようなスムースヘアの犬種の中でもどうやらとくに寒がりの部類のようである。ベランダ近くの窓辺の日だまりで、日向ぼっこしながらうつらうつらしているフレンチ・ブルの姿は、とても平和で愛らしい。とはいえ、冬場でも夏場でも留守番時にエアコンの温度が暑すぎても寒すぎてもNGなわけで、室温管理は気を遣う。
冷暖房をつけていても、サークルやバリケンの中には入れず、犬が自分で快適温度の場所へ自由に移動できる空間を用意してあげてほしい。ただし、その際に分離不安やストレスのせいで異物食いや破壊行動などをする個体は、フリーにしていても大丈夫であるのかを筆頭に、環境の安全確保をしたり、トレーニングや運動不足解消をしたりして、熱中症以外の事故も起こさないように気を配ることも欠かせない。
残念ながら病気が多い犬種。その覚悟は必要
性格面、体格面では初心者でも飼いやすい数少ない犬種といえるのだが、病気の多い犬種であるとはっきり断言できてしまう犬である。
目の病気、アトピー性皮膚炎のような一生お付き合いすることになる皮膚の病気、気管や食道の病気、骨関節の病気、脳神経の病気……こんなに愛嬌のある可愛い犬なのに、病気のデパートのように遺伝性疾患、先天性疾患、かかりやすい病気がオンパレードで揃っているのは残念でならない。今後、日本および世界のフレンチ・ブルのブリーダーは、遺伝性の病気の個体は繁殖ラインから外して遺伝性疾患を淘汰させる取り組みが不可欠であるといえる。
また一般の飼い主も、病気が多い犬種であることを理解、認識しておくことがまず大前提。親犬や親戚犬の既往症が把握できないところから犬を入手することはあまりにリスクが高いのでやめるべきだ。ただでさえ、ほかの犬種よりも獣医療費がかかる犬種である。しかも医療費をかけて治る病気なら飼い主も頑張れるが、一生根治ができない病気や四肢麻痺、排尿困難など、看病・介護に多大なる時間や手間を割かねばならないケースも多いので、少しでも健康な犬を手に入れる努力を事前に行ったほうがよい。あとで病気が発覚し、病院代や介護の手間がかかるからと捨てられてしまう犬がいるのは本当に悲しいことだ。またフレンチ・ブルという犬種全体の未来のためにも、繁殖業者やパピーミルが無配慮に子犬を生産して儲けることを許さないように、一般飼い主が意識を高めておくことにも意味がある。
フレンチ・ブルは、本当にお茶目で魅力あふれる犬である。そしてフレンチ・ブルはじめ鼻ペチャ犬をこよなく愛するファンシャーは多い。健康体のフレンチ・ブルが日本で増えるように切に願う。
このページ情報は,2014/11/08時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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