「前のフードと同じ量与えているのに、この頃太ってきた気がする」「いや、なんとなく痩せてきたかも」「以前のフードに比べて今回のは量が少ないのに、ウンチの量が前より増えている!」 ……など,フード選びに犬の観察は欠かせない。
フードによって、なぜだかあげる量が違う。前のフードは1カップギリギリで、今度のフードはカップ大盛り。それぞれフードによって原材料が異なるから、フードに含まれるカロリーもそれぞれ違っていても不思議はないし(そして実際そうだし)、量が増えたりしたら犬は嬉しいかもしれないけれど、果たしてそれでいいんだろうか? 給餌量を目安にすると、これまでよりも量が減ってしまい、犬が満足しないからちょっと多めに与えたいけど大丈夫だろうか? ……などなど、フードへの疑問は尽きない。
どんなドッグフードでも、パッケージの裏には必ず「推奨給餌量」が記載され、愛犬の体重に見合った量がすぐに分かるようになっている。例えば体重10kgの犬の場合、Aというフードでは150g、Bでは170g、Cでは245g……ん?
この推奨給餌量を目安として、「犬や猫が必要とする栄養基準を満たした、毎日の主要な食事として与えるためのフード」で「新鮮な水と一緒に与えるだけで、それぞれの成長段階における健康を維持することができるように、理想的な栄養素がバランスよく調製されている」というのが「総合栄養食」であるとペットフード公正取引協議会は定義しているけれど、これほどまで違いがあるというのはどうなんだろうか。
やはりここらで一度、フードによって含まれるカロリーにはどれくらいの幅があるのか、把握しておきたいと思い、今回はその給餌量とカロリーを比較してみた。
大手メーカー3種
中堅メーカー3種
オーガニック1種
ホームセンター系3種
高級系3種
選んだのは、明らかに含有カロリーが少ないことを示す「ライト」や、対象年齢を明記した「パピー」や「シニア」、運動量の多い犬向けの「アクティブ」、特定の犬種を対象にした「ブリードフード」、特別な病気に対応するために作られた療法食……などを除いた、普通に日常を過ごす健康な成犬向けに作られたフード13種類である。
つまり、すでに成長し切った体で、特にドッグスポーツもせず、肥満状態でもなく、疾患も抱えていない(であろう)犬を対象にして作られたフードばかり。どのフードブランドにおいてもベーシックな商品といえるものを、さっそくdogplus.meのデータベースで探ってみると、健康な成犬向けのフードで少ないカロリー量のものは275kcal/100g前後、その逆に高いカロリー量では400kcal/100g超えだった。
それだけだと、「それぞれ与える量は違うけど、でもきっと1日に与えられるカロリーは同じくらいなのだろう」と予想できないこともないので、給餌量を参考にそれぞれ体重10kgの犬の1日のカロリー摂取量も比較してみた。
予想は見事に外れ、同じカテゴリーにあるはずのフード達のカロリーは実に300kcalもの幅があることが見てとれる。最小と最大を倍率で表すならば、実に1.8倍もの開きだ。
300kcalといえばご飯で約2膳、牛肉赤身で約200g、鶏胸肉なら250g以上に相当する。ちなみに犬が消費するカロリーがどのくらいかというと、1km歩くと、小型犬では1kg体重あたり1.7kcal、大型犬では1kg体重あたり0.9kcalというから、体重10kgの犬ではその真ん中あたりをとっておよそ15kcalくらいになるだろうか。
もちろん犬種や個体差があるから厳密ではないが、ざっくりした話をすると300kcalを消費するためには20kmくらい歩かなければならないということになり、例え犬種による違いや個体差があったとしても、ちょっとやそっと近所を歩いたくらいでは消費されないカロリー値であることが分かる。それが毎日続くと思うと、これほどの差はいくらなんでも軽視できるレベルではない気がする。
給餌量が違ってくると、当然それに含まれる成分量だって違ってくるだろうし、どんなに良いと言われるフードでも推奨給餌量を与え続けていて明らかに太ってきたり痩せてきたりすると、給餌量を変えたほうが良いのではないかとも思う。
タンパク質からフード量を考える
……とつらつらと原稿を書きながら、ふと気になった。愛犬のボディコンディションに合うように、もし飼い主が勝手に給餌量を調整した場合、犬の体に必要な栄養素は確保できるんだろうか?
そこで、健康の維持に最も大事なたんぱく質の量をフードの成分表示と給餌量から割り出してみるとこれまたバラバラ。念のために体重10kgの犬の体の維持に理想とされるタンパク質量28g/日と比べてみると、ほとんどのフードで20-40%近く上回るタンパク質量であり、若干フード量を減らしてもそれほど劇的にタンパク質が不足するわけでもなさそうだ。むしろ、中には目安とされる給餌量では、理想とされるタンパク質供給量ギリギリであるものもあり、消化/吸収時のロスを考えると、その場合はむしろ若干多めの供給を心がけたほうがよさそうな感じでもある。
しかし、タンパク質以外の栄養成分についてはいずれも明確な量が分からないため、そこについてはただひたすら飼い主が愛犬を観察して判断するしかない(容易に分かるようなことでもないが)。
フードと水さえ与えていれば、犬が健康を維持することができるように理想的な栄養素がバランス良く調整されているというその言葉には、どうやら思っていたよりも大きな振れ幅があるらしい。生き物である犬の多様性と同じだけフードも多様であってよいと思うが、目の前にいる愛犬に合ったフード選びは、やはりなかなか一筋縄ではいかないことを暗に示唆しているように思える。
「ライトフード」とは一体?
そんな“普通のフード”の事情が分かった一方で、最後にぼんやりとフードのカロリーと給餌量を見比べているときに、ライトフードと銘打たれるフードの中には、“普通のフード”よりもカロリーの高いものがあることも、改めて気になった。しかも目安となる給餌量が多めで、結果としてほかの普通のフードに比べて、1日の摂取カロリーが高くなっているという、まったくもって腑に落ちない状態にあるものさえある。
アメリカ飼料検査官協会(AAFCO)の定義によると、ドライフード(水分が20%以下)の場合に310kcal/100g以下のフードを「ライト」と表示しても良いことになっているから、確かに間違った事をしているわけではない。しかしこんな事情を知らなければ、うっかり「ライト」という名称に釣られて、普通のフードよりもカロリーが多めのものを選んでしまうことにもなるし、いやむしろその逆に、普通のフードだと思って選んだのに、実はカロリーが極めて少ないということにもなり、下手をすると愛犬の体質まで見誤ってしまう可能性もでてくる。
いやいや、やはりフードはちゃんとパッケージの裏を見て選ぼう。そのためには、今の愛犬のボディコンディションもよく把握しておこう。体重の増減のほかにも、ウンチの状態や毛づや、口臭、目ヤニなど、まだまだフードによる体への影響はたくさんある。食は愛犬の体を作る元なのだから、健康管理の一貫として、ちょっと真面目に取り組みたい。
参考:
H. Mayer, J. Zentek: Ernährung des Hundes, 6. Auflage, Enke Verlag, Stuttgart, 2010