犬の好きな食べ物ナンバーワンといえば、なんといっても肉である。肉のほかに果物が好きな犬もいるし、野菜が大好きな犬もいるし、食べ物だったら何でも大歓迎の犬もいる。犬が嬉しそうに何かを食べている姿を見るのは、飼い主として至福のひとときではないだろうか。
……そんな至福の時間をよそに、なぜそんなものを食べるのか問い詰めたくなる不思議な食行動が、犬にはある。
その1 ウンチ
おそらく、初めてその光景を見た飼い主は絶叫するに違いない。「なぜそんなモノを食べるのか」の最たるモノは、ウンチである。多くの場合、室内トイレの上で自分がしたウンチを食べ、さらに多頭飼いの場合は、ほかの犬のウンチを自分で食べてしまう……こともある。いくら目に入れても痛くない愛犬だとはいえ、とりあえずその口で飼い主の顔を舐めるのは、さすがにご遠慮いただきたい。
犬は普通の状態(?)でも、馬や牛・羊・ウサギなど草食動物のウンチを食べる習性がある。おそらく体に不足している栄養素(エネルギーやビタミンB群、タンパク質など)を補おうとしているのだといわれているが、昔ならともかく、現代の科学を駆使してこれだけ多くのドッグフードが市販され、多くの犬達が栄養満点で健康な暮らしを送っているはずなのだから、それは理由としては「ない」だろう。犬の体が必要とする栄養バランスが、すべて整っているはずのフードを食べている犬ですらウンチを食べるという行動が見られるのを考えると、どこか別のところに理由があると思われる。
実はウンチを食べる(食糞)行動は、犬だけではなくほとんどすべての動物に見られる行動の一つであるといっていい。ということは、もしかすると犬の食糞行動というのは飼い主の感情はさておき、犬にとって異常行動に数えるべきものではないのかもしれない。
とはいえ、膵蔵の病気などが原因で消化機能が衰えている犬での食糞行動が見られることも知られているので、もしも頻繁にウンチを食べる場合には、一度獣医で検査をしてみてもらってもいいだろう。そのほかにも、ストレスが食糞行動の引き金になることもあるので、あまりに頻度が高い場合には、犬の生活状況を見直してみるきっかけにしたい。
たとえその理由が分からなくても、犬にとって異常な行動ではないとしても、ウンチを食べる行動は飼い主としてやはり好ましいとは思えない。出来ることといえば「ウンチはすぐに片付ける」ということだ。犬に食べるチャンスを与えないようにしよう。
その2 草
春先や夏場など、特に新鮮な若芽が育つ頃に、犬達は草むらに入って一心不乱に草をほおばる。犬が草を食べる行動もまたウンチと同様に「栄養不足を補う」などといわれたりするが、科学的な説明はいまだになされていない。
「フードに含まれる食物繊維の量に関係なく草を食べる行動が見られた」という実験結果もあるので、少なくとも繊維質を補っているわけではなさそうだし、「胃がムカムカするから吐くために食べる」と言われている説についても、草を食べたから吐くというものでもない。食べた草がむしろウンチと一緒に出てきてキレが悪いというケースもよくあることだ。これもまた、犬の自然行動に数えてよいだろう。
もしかしたら気付いていない人もいるかもしれないが、街にある樹木や道ばたの草は、虫の発生を押さえたり除草したりするため、農薬や除草剤が大量に撒かれることがある(除草剤などは、茶色く一斉に枯れているので見てすぐ分かる)。そして散布は、地域によってはまさにそろそろ始まるタイミングだ。どうかそれだけは、食べないように注意していただきたい。それを除けば、草を食べることくらいは許されてもいい行動の1つだと思う。
その3 異物
木をかじったり石やおもちゃを飲み込んだりというのは、ウンチや草とは異なり命の危険が伴う食行動だが、その原因はストレスであることが多い(あまりにいい匂いに誘われて桃を種ごと盗み食いするようなパターンは別だ)。
一度飲み込んだこれらの異物は、放っておいてもなかなか吐き出されず、また飼い主も犬が異物を飲み込んだことに気が付かないことも多く、飲み込んだ物によっては消化もされないので犬の具合が悪くなり、そこまで初めて獣医さんに駆け込むというパターンも多い。吐き出したり消化されなかったりした場合は、胃壁を傷つけたり、腸に流れても腸壁にくっついて詰まったり、ひどい場合だと腸壁を破ってしまうことだってある。
異物を食べる理由を正確に特定することは難しいが、まずは犬にストレスを溜めさせないように、定期的で十分な運動をし、よく構い、さらにいままで以上のゴミの管理を心がけよう。