煮えたぎるような暑い夏が過ぎ、今年はちょっと早めに秋の足音が近づいてきた。夏場に失っていた食欲は気温が低くなるにつれ徐々に戻り、そしていよいよ(犬も飼い主も)食欲の秋の到来である。
秋は動物や植物にとって、寒い冬を乗り越えるための備蓄の季節でもある。木々は種子を残し、魚は体脂肪を蓄え、私たち人間にとってもっとも食材が美味く感じられる季節。この秋の味覚を愛犬にも、と考える飼い主はきっと多いことだろう。
今回は、秋の味覚をどこまで愛犬と分けあってよいのかについてお話ししよう。
栗
私たち日本人にとって、栗はとてもなじみ深い食材の1つ。ゆでてそのまま食べてよし、ご飯と一緒に炊いてよし、あるいは手をかけて甘露煮に……と、栗は秋から冬にかけてとてもよく食べられている。
栗はその約36%が炭水化物であり、ジャガイモやサツマイモより炭水化物の比率が高い。また犬の体が必要とする必須アミノ酸を各種含んでいるほか、リノール酸やリノレン酸といった不飽和脂肪酸、カリウム、ビタミンB2、ニコチン酸、ビタミンCなどに富んでいる。見た目のイメージよりは遥かに栄養価が高いのだ。
しかし同時に、アーモンドなどと同じく苦み成分(青酸化合物)も含まれるため、大量に与えると吐いたり、下痢をしたりする。甘味が強く犬が欲しがるからといってどんどん食べさせていると翌日獣医さんに駆け込むハメになるので注意が必要な食材であることは記しておきたい。なにごともほどほどに。
サンマ
焼くと滴るほど脂がのったサンマは、まさに秋の味覚の代表格。乱獲や不漁などの諸問題はあれど、日本人にとって風物詩ともいえる秋の食材だ。秋のサンマでなによりも価値が高いのは、やはり脂分。サンマには約20%の脂が含まれており、しかもそれは不飽和脂肪酸が4分の3を占める。サバやイワシに比べ、ダントツの含有量である。
もしサンマを食事メニューに取り入れるなら、できれば内臓を取り除かず骨のついたそのままをぶつ切りにし、焼くなり煮るなり加熱して与えることをおすすめしたい。サンマの内臓は少し苦味があるけれど、鉄分などの微量ミネラルが含まれており、骨と並んでこれまたよいミネラル源になる。
そもそもサンマの骨は、ほかの魚に比べて細くて喉に刺さる危険性が極めて低いうえ、さらに身がついたままであれば気にするほどではない。骨がカルシウムなどのミネラル源になることはいうまでもないだろう。とはいうものの、家族の食べ残しの骨をそのまま与えるのは、丸飲みして食道粘膜などを引っかく可能性があるほか、しょうゆなど塩分を多く含む調味料がついていることもあってお勧めできない。
キノコ
森の恵みのキノコもまた秋の味覚の代表だが、なかでも秋に旬となるキノコといえばマツタケくらいのものだろうか。いくらなんでもマツタケを犬に与えるのは、犬がその価値を分からないだけにもったいない気もするが、与えたからといってとくに害になるものではない。
マツタケは、シイタケなどのほかのキノコ類と同じく約4%の食物繊維が含まれ、カリウムや鉄分などのほかナイアシンや葉酸、パントテン酸などほかの野菜類ではあまり含まれない栄養素が多く含まれている。普段野菜類を犬のメニューに加えているならば、その栄養バランスを整える意味でキノコ類を加えるのも手だ。
ただし、キノコ類はほかの野菜に比べて加熱しても消化がよいとはいえないので、与えるときにはできるだけ細かくしないと、そのままの形で後ろから出てきてしまうことに注意。
もしも家族の晩ご飯がキノコご飯で、そのおすそ分けを犬にしたいとき、ここでも注意したいのはキノコよりもむしろ塩分量。健康な体であれば、一時的に多めの塩分を摂ったとしても、一時的に大量の水を飲めば体から塩分が排出されるので問題はないが、心臓病や腎臓病を抱えている犬の場合は、“一時的”とはいえ臓器に負担がかかるのであまり好ましくはない。無理して食べさせなくてもよい食材であることを思い出してほしい。
ほかにも、ペクチンを含んでお腹の調子を整えてくれるリンゴを筆頭に、果物なども含めて秋はとにかくいろいろな収穫の時期だ(まだその理由が解明されていないけれど、ブドウは犬にはよくない)。あまり欲張らずにほんの少しずつならば、どの食材も犬と分かち合えるものである。