春のように暖かだったり、強烈な寒波が来たり、例年より寒暖の差が激しい今冬、みなさんの犬たちの体調も不安定なのではないかとちょっと心配になる。
犬の体は、人間の体よりも気温の変化に左右されやすい。人間のように洋服を着込んでないから……ということではなく、そもそも犬は、自然環境を感じながら生きている動物だからだ。
気温が下がってきたら、人間ならばさっさとシャツを1枚余計に着込むところだが、犬はせいぜい丸くなって寝たり、体を震わせて熱を発するしかない。そんな犬を見た普通の飼い主はすぐに犬に服を着せたり毛布を掛けたりしていることと思う。しかし寒さを感知した体の中では、ゆっくりと体脂肪を付けたり、アンダーコートを生やしたりする代謝が活発になっているのである。
「天高く馬肥ゆる秋」という故事成語は、(元々の意味は違うが)寒い冬を目前に体に脂肪を付けて、自然の防寒対策をとる馬の姿を季節の風物詩として捉えたもの……とも取れる。そしてこの現象は、もちろん犬にもいえることである。冬を前に食欲を増し、なんとなくふっくらしてきた愛犬を見て「肥満は大敵」といわんばかりにいつもの体重を保とうとする飼い主はいないだろうか?
人間の事情に当てはめてダイエットに励もうとする前に、よく考えてみてほしい。寒い冬に体脂肪で身を守り、気温の上昇とともに少し食欲が落ち、それに伴って脂肪を落として暖かい季節に備えるというのは、犬にとって極めて自然な体の変化だ。脂肪というものは、元々体にとっては「エネルギー貯蔵庫」であり、断熱材の役割をも果たす。
つまり冬を目前に厳しく体重管理をしてしまうと、寒くなったときに断熱材がなく本当に寒い思いをする。そして気温の低下とともに体温調節のためにエネルギーを消耗するが、エネルギー貯蔵庫である脂肪がないので筋肉をエネルギー源として使い、どんどん痩せてしまう。痩せてしまうだけでなく、断熱材である体脂肪が少ないことで犬の体は冷えやすくなり、膀胱炎になる危険性も高まる。日本では、冬になると獣医達が「膀胱炎に気をつけよう」と飼い主達に呼びかけることが多くなるが、その背景には、このような気温と体脂肪の関係があるのではないかと思う。
部屋の気温が低いときには洋服や布団で防寒するのもいいが、犬の自然な代謝をまったく無視して、ただ人間の事情を当てはめて犬の体を調整させることが、犬にとって良いとは思えない。ある程度の寒さに慣らし、気温に対する調整を自分の体で行わせることで、犬の体に寒さに対する抵抗力ができ、ストレスは少なくなり、それは免疫力のアップにもつながる。
極端な方向に解釈されぬよう追記しておくと、「寒さに慣らすこと」にはもちろんやり方と限界がある。真冬の極寒の北風が吹く中に長時間出しっぱなしにするとか、寒いところにずっと待たせるなどすると犬の体が冷え切ってしまうのは当然で、そんなことはしてはいけない。しかし犬の体は、寒い気温の中でも動き回っているときは筋肉運動を通して熱を発しているので、寒さで震えることはないのだ(とはいえ、寒いからといって飼い主が散歩をサボっているようでは、なかなか寒さに慣らすことは難しいだろうけど)。
冬場に体脂肪が付いていることで犬の体は助かるが、その逆に、春から夏にかけてはある程度脂肪を落としたほうがよいのは確かだ。年がら年中太ったままというのはもちろん、自然の状態からかけ離れているばかりか、健康面でも重大な問題が発生する可能性が高いのでNG。
本当の意味での体重管理というのは、犬の自然な代謝の流れを考慮しつつ管理することであり、年中太ったままなのは言うまでもないとして、やたらめったら痩せてればいいというものでもない。そして、ただ寒暖から体を守ってやることも大切だが、体を怠けさせるのではなく、気候の変化とともに体を活性化させるほうが、犬本来の「体に合った合った生活」が送れるというものだ。