いきなりだが、ウンチは芸術作品である。
「あれのどこが芸術品だ!」なんて言わないで、まあ話を聞いてほしい。
犬でも人間でも、毎日生きて行くためには何かを食べなくてはならない。人間の場合は何を食べるのか自分で選択できるが、犬、しかも現代の先進国に生きる犬においては、自分で食べるものを選択できる状況にはない。
発展途上の国ならば、犬達はまだまだ戸外で放し飼いされていることが多く、気が向けば自分で何かを捕りに行くことだってできる。しかし、私たちと一緒に暮らしている先進国の犬達の多くは室内で飼われ、たとえ戸外にいてもチェーンで繋がれていたりして、犬が一人で戸外をブラブラすることなどできない状況にある。なによりも先進国の犬達が食べるものは、常に人が選び、人から供給されるもののみである。
そう考えると、犬の栄養補給はまさに飼い主の双肩にかかっているといっても過言ではないだろう。ことの重大さが、重くのしかかる。
犬の体によいものを、と思ったところで一体何がよいのか分からない。犬の体に合ったものを選びたいと思っても、何を基準に考えればいいのか分からない。そんな悩みは多いのではないだろうか。
そんなとき、フード選びの1つの基準になるのがウンチのクオリティだ。犬が食べたものが、体の中を通って、消化され、出てきた結果、それがウンチ。どんなにカラダによさそうなものでも、体の中でごにょごにょと消化されているときに不具合があれば、往々にして理想のウンチにはならないのである。
よいと言われるフードを食べさせたのに、ウンチがゆるかった、なんてことは本当によくある。一体何がウンチのクオリティを左右するのか、今回は主なものについて話しておこう。
タンパク質
フード/トリーツ問わず、大人気の馬肉。「高タンパク」だという触れ込みを信じている人は多いと思うが、実はタンパク質含有量は高くない(そこ以外のメリットはむろんあるが) |
タンパク質は、犬のお腹の中で犬自身の消化酵素と腸内細菌によってアミノ酸に分解されてから吸収される。そのときにもしも、消化酵素が消化しきれない量のタンパク質がお腹に入ってくると、消化吸収されなかったタンパク質はウンチを軟らかくする。未消化のタンパク質は臭いもキツく、おまけに腸内細菌が悲鳴を上げているかのような臭めのおならもついてくる。色も黒めで、ぬめりがあり、でも量は割とコンパクト。
この現象を逆手に取ると、実は愛犬にとってのタンパク質摂取の限界が分かるというもの。良質のタンパク質がちゃんと体の隅々まで、毛の一本一本まで回りきるように少し多めのタンパク質をあげたいときは、まずはおならが出ていないか、ウンチの色や状態は大丈夫かをチェックしよう。
食物繊維
一般に「適正」といわれる食物繊維の量は、フード(乾燥重量)の1.5〜3%。それ以上に食物繊維を摂ると、ウンチは軟らかくなる傾向にある。市販のフードの食物繊維の量は、だいたい上記の“適正といわれる範囲“にとどまっているが、もしもフードにトッピングをする場合は注意されたし。うっかり野菜などを乗せると、合計の食物繊維の量が多すぎてゆるめのウンチになってしまうこともある。あるいは、適正範囲の食物繊維だとしてもそれが犬の腸内細菌に合った量でなければ、やはりウンチはゆるくなる。
野菜といえば、例えば未加熱の大根やブロッコリーなど、野菜の種類によってはそれに含まれる成分が犬の腸を刺激してウンチをゆるくしてしまうこともある。逆に、レッドビート(日本の野菜としてはちょっと馴染みがないけれど)や甜菜は、ペクチンのような水溶性の食物繊維もふくんでいるので、キャベツや白菜などよりも断然整腸によい。ペクチンといえば、もちろんリンゴだって(犬が食べるのならば)よい整腸食材だ。
ミネラル
マグネシウムを塊にするとこんな感じ。体重1kgあたり10mgほどが必要なミネラルだが、とりすぎに注意 (C)Warut Roonguthai |
その逆に、多く摂りすぎるとウンチがゆるくなるマグネシウムのようなミネラルもある。犬の場合、人間とは違ってマグネシウム自体は単体のサプリで摂る機会などはあまりないとは思うが、ほかのミネラルとのバランスによって、ウンチの固さに比較的影響することを覚えておいてほしい。タンパク質の量も食物繊維の量もそんなに悪くないはずなのに、なんだかウンチの具合がよろしくないというとき、少しだけミネラルバランスに疑いをかけてみるのもいいだろう。
このほかよく見られる症状として、炭水化物の多いフードではウンチは黄色くもっさりとした感じになりやすい。
ウンチの色や形や状態を決めるこれだけの要因が分かったところで、じゃあ、うちの犬にあったタンパク質量や食物繊維量は一体どれくらいなのかという答えは、すぐには出てこない。こればかりは、計算や理論だけで語れるようなものではなく、飼い主が毎日愛犬の出すものを見て判断するしかないのである。よいウンチは、毎日の食事の積み重ねの結果であり、健康な腸内細菌は一朝一夕では育たない。長い時間と手間をかけて作り出すものであって、だから芸術作品といってもいいのである。
「お腹が壊れやすい」という負のサイクルにひとたび陥ってしまうと、腸壁の痛んだ傷はなかなか癒えず、いいウンチを継続して作り出すことは難しい。そう、ちょうど「アレルギー症状が出て、痒くてかきむしられた患部」みたいな感じで、回復が早いといわれる腸壁ですら、傷みが慢性化すると、傷跡が完全に戻るまではやはり時間がかかるものである。
理想とするウンチは「固すぎず、軟らかすぎず、コンパクトで、スムーズに出てくる」もの、さらには「臭いがキツくなく、取り除いたときに跡が残らない」ものである。この理想のウンチを作るための努力を、どうか惜しまずにしてほしい。ウンチは犬の体を映す鏡であって、理想のウンチが出せる限り、犬の体にはそれなりの底力がある。
むろんこれらの話は人間にだって当てはまるのだが、どうも自分の食生活に置き換えて考えるとしっくり来ないのはどうしたことだろう。犬の方がよっぽど食事に気を遣われているのはたしかなようだ。