図鑑
パグ
天真爛漫、茶目っ気たっぷり。要求少なく扱いやすいコンパニオン
英名
Pug
原産国名
Pug
FCIグルーピング
9G 愛玩犬
FCI-No.
253
サイズ
原産国
特徴
歴史
FCIの分類で「Group9:Companion and Toy Dogs」(小型愛玩犬)とは、
プードル や
マルチーズ 、
チワワ 、
パピヨン 、
狆 、
ペキニーズ などのグループ。その中にさらに「Small Molossian type Dogs」(小さなマスティフタイプの犬)というセクション(くくり)があるのだが、そのセクションにいるのが、このパグだ。同じセクションには、
フレンチ・ブルドッグ 、ボストン・テリアがいる。パグは、ペキニーズや
シー・ズー と先祖犬が同じとされているのに、ペキニーズやシー・ズーとは別扱い。スムース・ヘアだからだろうか。
パグの歴史には諸説あるが、その中の1つが、すでに絶滅している古い犬種で、英語名「ハパ・ドッグ」(中国名:哈吧狗 ハ−パ−コウ)という中国原産の小型犬が、パグやペキニーズ、チベタン・スパニエルの祖先ではないかという説。イギリス・ハートフォードシャー州のトリング動物博物館にハパ・ドッグの剥製が残っているが、パグによく似た短毛の犬だ。目もパグのように大きくて丸くて黒く、マズルはつぶれている。パグの理想体重は6.3〜8.1kgだが、ハパ・ドッグはもっと小さくて2〜3kgとの記述がある。がに股でごろりとした体型だが、体重的にはチワワサイズ。いまも現存していれば、抱っこ犬を好む日本で人気が出そうな犬だ。
ともあれ犬種スタンダードでは「中国の古い愛玩犬」という記述はあるものの、ハパ・ドッグが先祖犬だという記述はなく、パグの沿革はまったく不明となっている。
そんなパグがヨーロッパで知られるようになったのは、1600年代の終わり頃。オランダの船員がアジアから連れてきたので、当時ヨーロッパではオランダ原産と思われており、そのためか「ダッチ・マスティフ」(オランダのマスティフ)とも呼ばれていた(余談だが、オランダの隣国ベルギーには、見た目も性格もパグの面影を強く感じるプティ・ブラバンソンという犬種がいる)。イギリスには東インド会社を通じてもたらされたのだが、早々に貴族の婦人たちに人気がでたという。しかもその当時、パグは断耳をされていた。ちょっとびっくりだが、テリアと同じような感じだったのだろうか。
1890年 British Schoolの作品。右下に、とりわけ目立つ断耳されたパグの姿が確認できる
英語圏でのパグの名前の由来は諸説あるが、ラテン語の「握り拳」であるpugnusからきている説がよく聞かれる。パグの頭部の形が握り拳に似ているからだという。そのほかに、古代闘犬種のPugnacesを小型化した犬だからという説、18世紀にpugという言葉に「優しく慈しまれるもの」という意味があり愛玩犬として溺愛した説、など複数ある。
ちなみにドイツでは、パグはMops(モップス)と呼ばれている。18世紀のはじめの頃からそう呼ばれているようだ。低ドイツ(ドイツ北東部の低地エリア。オランダに近いところ)ではmopen「口がぽかんと開いている、歪んでいる」、古いオランダ語ではmoppen「文句を言う、ぼやく、不機嫌な、むっつりした」などの意味があり、それに由来していると考えられる。パグの表情は、不機嫌そうな、暇を持てあまして文句を言いたげな顔立ちに映ったのだろうか。一方フランスでは、パグはCarlin(読みをあえてカタカナで書くと「カルラン」に近い)と呼ばれている。
日本にパグが初上陸した時期は諸説あるものの、明治時代にはすでにパグの存在を示す記載がある。最初の写真付きの記事は大正時代初期なので、少なくともそのあたりには“来日”していたようだ。むろん,その頃はかなり希少な存在だったが。
1980年代に、日本の映画「子猫物語」で登場して認知度がアップ。その後もアメリカ映画
「メン・イン・ブラック」 や、日本のドラマ
「結婚できない男」 などで、パグはいつも名脇役としてインパクトのある役を任され、コケティッシュな魅力を振りまいている。戦後のお座敷犬(マルチーズ、
ヨーキー 、
ポメラニアン など)、バブル後の
コーギー やチワワ、
ダックス 、トイ・プードルのように一気に大ブームになることはないが、着実に日本に根付き、大衆に愛される犬となっている。ひと昔前は老婦人のお伴が多かったが、いまでは若い世代、ヘアメイクやスタイリストなどのおしゃれなアーティスト系の人たちからも好かれている感がある。
外見
FCIの分類では「Small Molossian type Dogs」(小さなマスティフタイプの犬)の一員であるが、
フレンチ・ブルドッグ (フレブル)やボストン・テリアに比べると、そこまでマスティフっぽさはない体型と顔貌。鼻ぺちゃ短頭種なのは間違いないし、スムースヘアではあるが、毛を丸刈りにしたらマスティフ系というより
シー・ズー などに近いのではないかとも思える。
とはいえ、スクエアでコビー(短胴でつまった体型)、コンパクトで引き締まった体つきで、筋肉は堅い。小さなマスティフというのも頷ける。日本ではぶよぶよしたパグを見かけることが多い気がするが、おそらくそれは運動不足、または去勢避妊などによるホルモン量の問題が起因しているのかもしれない。本来のパグは、コリッと堅そうな筋肉質の肉体派なのである。
パグの理想体重は6.3〜8.1kgだ。フレブルでもパグと似たようなフォーン色の個体がいるが、フレブルの体重は8〜14kgなので、本来ならばサイズがかぶることはない。フレブルの方が、パグよりも頭部が明らかに大きいし、ボディもひとまわり大きく太い。
さて、パグのボディの背のトップラインは平ら。弓なりに曲がっていたり、くぼんでもいない。胸は幅広く、あばらはよく張っている。四肢はとても頑丈で真っ直ぐ。華奢な体つきやひょろりとした足ではない。そう考えるとやはりマスティフ系である。足は、前肢後肢ともに真っ直ぐが正しい。がに股はNG。しかしながら後肢の特徴的な歩様により、歩いているときの動きを見ると、わずかなローリング(歩行中にボディが横揺れする歩様)を見せる。
なんといっても特徴的なのはヘッド(頭部)。大きく、丸く、マズルは短く、ずんぐりしていてスクエアな短頭。額というか眉間というか、とにかく前頭部にはっきりとした皺が幾重にもある。また口の周りや短い鼻の上あたりにも皺がある。この皺の溝はいつも適度に湿っているし、ごはんのカスが残りやすい部分のため、雑菌がわきやすい。食後は顔の皺を拭いてあげよう。
わずかにアンダーショット(下顎の前歯が上顎より出ている咬み合わせ)。ライ・マウス(顎が片方にねじれたゆがんだ口)や、歯や舌の見えているもの(舌が出っぱなしなど)は極めて好ましくない。下顎は幅が広く、切歯(前歯)はほぼ一直線に生えているのがよい。
目玉は、ダーク(暗色)で、こぼれそうなくらいに大きく丸い。でも大きく丸くでているため、角膜を傷つけやすい。痛がる素振りや、目をこする、掻くなど、目を気にしているような行動をするときは、眼球を傷つけた可能性があるので病院で診てもらった方がよい。
耳は「薄く、小さく、黒いベルベットのように柔らか」とスタンダードにあるが、まさにそのとおりで、本当に薄くて柔らかくて、気持ちのいい触り心地である。昔のイギリスではこれを断耳していたというが、もったいない話しだ。
耳の形には2種類ある。
(1)ローズ・イヤー:垂れ耳が後ろに折れて耳たぶが見える形
(2)ボタン・イヤー:スカルの前方に向かって折れて、スカルに沿うように垂れ、耳の先端が目の方に向かっている形
両方ともスタンダード的にOKだが、ボタン・イヤーの方が好ましいとのこと。
尾は、尾つきが高く、お尻の上にできるだけ固くカールしているのがよく、ダブル・カールだとより好ましい。
被毛は細く滑らかで、柔らかく、短い。光沢があってツヤツヤしており、手触りはとてもいい。決してチクチクするような粗毛ではない。ただし栄養状態などにより、手触り(毛の堅さ)は変わることがある。
毛の手入れは簡単。シャンプーもドライもブラッシングも楽ちん。もちろんトリミング代もかからない。でも爪切りや耳掃除、肛門嚢しぼりなどのやり方が分からないときは獣医さんに習っておこう。また、この短い毛はけっこうパラパラとよく抜ける。ショップなどで「滑毛種(スムースヘア)だから抜け毛はないです」と言われることがあるが、鵜呑みにして信じないこと。
毛色は、シルバー、アプリコット、フォーン、ブラックの4色。トレース(後頭部から尾にかけて、背を流れるブラックのライン)やマスク(顔面のブラック・マスク)とのコントラストはハッキリしている。
黒のマーキングもはっきりしている。マズル(鼻面)、耳、頬の上の黒斑、サム・マーク(前頭部の斑)、前頭部のダイヤモンド、そして前述の背中のトレースは、黒いほどよい。ただし当然ではあるが、黒パグではこうしたマーキングは分からない。
毛色
魅力的なところ
天真爛漫で、いつもごきげんさんな明るい性格。
飼い主の前でだけはしゃぐなどの特別感がある。
ファニーで愛嬌のある表情。鼻ぺちゃ犬好きにはたまらない。
飼い主を慕う、健気で甘えん坊の性格がたまらない。
順応性が高く、要求は少なめ。初心者でも扱いやすい。
ほかの犬と友好的に遊ぶほどではないが、喧嘩もしない。
いびきはかくが、あまり吠えない。鳴き声のトラブルは少ない。集合住宅でも飼育しやすい。
短い毛は抜けるが、手入れは楽。
子どもにも寛容。
運動欲求もほどほどなので、高齢者の散歩のお伴にもよい。
大変なところ
短頭種に多い病気は同じくかかりやすい。
皮膚トラブルは多い。
皺の拭き取りは欠かさずに。
少々頑固なので、トレーニングには根気が必要。
肥満になりやすい。可愛い顔のおねだりに注意。
キャリーバッグで公共交通機関に乗るのは割と厳しい重さ。
暑さに弱い。熱中症に注意。夏期の散歩は早起き必須。
寒いのも苦手。
いびきを愛せない人には厳しい。
まとめ
自分がちゃんとある、特異な性格
わりと独立心があるしっかり者で、自分という「個」を持っている。他人に媚びずマイペース。そのくせ、飼い主に対しては急に甘えたり、はしゃいでついて回ったりなど、意表を突いた行動をとる。そんな不思議な魅力がある犬なので、一度パグを飼うと、もう次もパグしか考えられないという、どっぷりパグ・ファンシャーも少なくない。
また、小型犬の中では珍しく落ち着いた性格で、キャンキャン文句を言ったり、ほかの犬にいちゃもんつけたりもしない。ほかの犬を気にしないので、一緒に遊ぶこともあまりしない分、喧嘩もしない。そのため、パグを多頭飼育している家庭も多く見かける。
天真爛漫なごきげんさん
マスティフ系の血の名残りか、ちょっと頑固で融通が利かないこともあるが、家庭犬としてのトレーニング程度なら問題なくこなす。やる気はそんなにないため、トレーニングに真面目に取り組むことはないが、裏を返せばそれは要求が少ないということでもあり、むしろ初心者には扱いやすい。サイズも
フレンチ・ブルドッグ ほど大きくないし、
トイ・プードル やテリアのようにガチャガチャしていないので体格的、身体能力的にも扱いやすく、総合して初心者でも飼育しやすいといえる数少ない犬種といえる。
小さいことは気にしない、天真爛漫で大らかな性格なので、人間の子供に対しても気にせず親切。小学生が抱っこするには少々重たくごろっとした体型なので、子どもが無理矢理抱っこして犬に迷惑をかけることも少ない。子どもが手荒く扱って落下させるような事故や、そういう経験から子どもが怖くなって恐怖心から咬むようになる事件もあまり聞かない。
ヨーロッパでは「領主の館で甘やかされて暮らすうちに精悍さは減少し、体重は増加。おばあさまたちのお伴を務めるトロい犬との悪評が立てられた」「ものぐさな肥満児」との辛辣な表記もあるが、でもそれは人間がそう甘やかしただけであり、決してパグ自身はものぐさではないし、食い意地が強くて盗み食いをしまくるようなあさましい性格でもない。そうさせているのは飼い主側である。ただしあの愛らしい黒い大きな目で、首をかしげる仕草をされると、誰でもつい食べ物をあげたくなる。心を鬼にして、おねだりを拒否できるか、それは飼い主の意志にかかっている。
都市部のコンパニオン向き
暑さ/寒さには弱いのでそこには注意が必要だが、筋肉隆々でけっこう頑健だから、壊れやすいということはない。そのくせ、猟犬タイプの犬を小型化したプードルやスパニエル系、テリア系ほどの運動欲求はないので、女性や高齢者、体育が苦手な人でも付き合えるタイプ。都市部のコンパニオンとして向いている。とはいえ、むろん散歩に行かなくていいというわけではない。パグは割と太りやすい犬である。また筋肉もある犬なので、散歩ももちろん好きである(暑い時間は除く)。かつて、アジリティー競技大会常連のパグに会ったことがあるが、脂肪を削ぎ落としたスリムな体でびっくりした。しかもその小さな弾丸は、機敏にハードルなどを軽々とジャンプし、すばやく駆けていった。個体差と環境差で、それだけ変われるものだということだ。やる気のある、トレーニング性能と運動性能の素晴らしいパグも存在するのだ。
だから、いくら要求の少ない聞きわけのよいパグだったとしても、犬であるから、毎日の十分な散歩は与えてほしい。散歩は運動のためだけではなく、もちろん排泄のためでもなく、パグの心の好奇心を満たすためにも、飼い主との楽しい時間をともに過ごすためにも必要な時間だ。
暑さ、寒さに弱いのは鼻ぺちゃ犬の宿命
短頭種は、パグでもフレブルでもボストン・テリアでも
ボクサー でも、犬種的に気管が狭窄していたり閉塞気味な犬も多く、体内の熱を外へ送り出すラジエーター機能の効率が悪い。そのため暑さにめっぽう弱い。あれよあれよという間に熱中症になり、急に絶命するケースもあるので油断できない。パグの飼い主は、夏場は夜明けのまだ涼しい時間帯に朝の散歩に行き、夜はアスファルトの熱も冷めた遅い時間に散歩に行くように頑張れる人でないといけない。また夏場は飛行機にも乗れないので、ゴールデン・ウィークやお盆休み、夏休みなどの暑い季節に、飛行機で帰省や旅行に行きたい人は不適。
また、キャリーバッグやバギー(犬用乳母車)の中も案外熱がこもるものなので注意が必要だ。さらに外出時だけでなく、留守番時も温度・湿度管理には細心の注意を払うこと。とくに近年のマンションや家屋は気密性が高いので、家だからと安心していると、会社から帰ってみると家の中で熱中症になっていたという例もある。
ましてや、外出時にクルマの車内に犬だけ残すようなことは絶対にやめてほしい。ほかの犬種でももちろん危険なことだが、パグなどの短頭種、そして気管や心臓に持病のある犬は、とくにその危険度は高く、熱中症になるスピードが速い。
しかも短頭種たちは、寒いのもとても苦手。スムースヘアだということもあるが、同じようなスムースヘアの犬種の中でもどうやらとくに寒がりのようである。冬場でも夏場でも、室温管理は気を遣う。また冷暖房をつけていても、サークルやバリケンの中には入れず、犬が自分で快適温度の場所へ自由に移動できる空間を用意してあげてほしい。
このページ情報は,2015/03/05時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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