図鑑
ミニチュア・ピンシャー
ちびっこだけどハイパーなBusy Dog。
大型犬を飼うくらいの気持ちで迎えるとちょうどいい
英名
Miniature Pinscher
原産国名
Zwergpinscger
FCIグルーピング
2G 使役犬
FCI-No.
185
サイズ
原産国
特徴
歴史
ピンシャーと名のつく犬種は、FCI公認犬種で5種いる。ドイツ原産のアーフェン・ピンシャー、
ドーベルマン (ドーベルマン・ピンシャー)、ジャーマン・ピンシャー、ミニチュア・ピンシャー。そしてドイツの隣国オーストリア原産の、オーストリアン・ピンシャー。この中で日本で出会える確率が高いのは、ミニピンの愛称で知られるミニチュア・ピンシャーかドーベルマンだろう。
ミニピンは、ブラック&タンの毛色が大型犬のドーベルマンと類似していることから、ドーベルマンを小型化した犬だと勘違いされやすいが、ドーベルマンよりミニピンの方が古い犬種であり、また作出されたルーツも異なる。
ミニピン(体高25〜30cm、体重4〜6kg)は、ジャーマン・ピンシャーの流れを組む。どうやら、ジャーマン・ピンシャーの中でたまたま産まれた小ぶりな個体が固定化されていったようだ。ジャーマン・ピンシャーは体高45〜50cm、体重14〜20kgの中型犬。スムースヘアで、被毛色はレッド、あるいはブラック&タンというのはミニピンと同じ(ドーベルマンにはレッドの単色はいない)。また反対に、ミニピンやジャーマン・ピンシャーでは、ドーベルマンにあるチョコレート&タンがFCIスタンダードで認められていない。
さらにミニピンにちょっと似ている犬種に、最近日本でもたまに見かけるトイ・マンチェスター・テリア(体高25〜30cm、体重2.7〜3.6kg。英名:English Toy Terrier。イギリスではイングリッシュ・トイ・テリアと呼ぶのに、なぜか日本とアメリカではトイ・マンチェスター・テリアと呼ぶ)とマンチェスター・テリア(体高38〜41cm。スタンダードに体重表記なし)という、イギリス原産のスムースヘアのブラック&タンの小型犬がいる。
マンチェスター・テリアは、ネズミ殺しのプロだ。ミニピンやジャーマン・ピンシャーも農場の犬で、ネズミ捕りや番犬として小さいながらも働いていたので、仕事内容としてはマンチェスター・テリア達と似ているのだが、親戚筋ではない。
ミニチュア・シュナウザー の紹介でも書いたが、ピンシャーはテリアではなく、シュナウザーと近い。本犬種は、FCIやJKCでは、第2グループ「ピンシャー&シュナウザーほか」の作業犬グループに分類されている。原産国ドイツでも同様。すなわちピンシャーは、第3グループの「テリア」ではない。
ただしAKC(アメリカン・ケネル・クラブ)でミニピンは、「トイ」グループに分類されている。ちなみにミニチュア・シュナウザーは「テリア」グループに分類。ついでにいうと、マンチェスター・テリアも「テリア」グループ。トイ・マンチェスター・テリアはAKCでは独立した犬種としての扱いがない。少々ややこしいが、とにかくピンシャーはテリアではなく、ヨーロッパ大陸で独自の発展をしてきた犬種である。
ミニピンは、原産国ドイツではZwergpinscher(ツべルグピンシャー)と呼ばれている。ツべルグとは「矮小、ミニチュア」の意味だ。そもそもピンシャーという名称は、一定の形や犬種グループを呼んだのではなく、毛質を指した言葉だった。当時はフランス語の「グリフォン」と同じく、ボサボサ毛のラフヘアのことをピンシャーと呼んだという。しかしその後ドイツ語圏では、ピンシャーは、ボサボサ毛のアーフェン・ピンシャーを除いて、みんなツルツルした滑毛種(スムースヘア)の犬のことを指すようになった。ドーベルマン・ピンシャー(=ドーベルマン)やミニチュア・ピンシャー、ジャーマン・ピンシャーなどだ(オーストリアン・ピンシャーにはスムースコートもいるし、もう少し長めのミディアム・コートも存在する)。
かたやボサボサのラフヘアやワイヤーヘアだったワイヤー(ラフ)ヘア・ステーブル・ピンシャー(直訳すると「ボサボサ毛の農家のピンシャー」)は、今ではスタンダード・シュナウザー(ドイツ原産。体重14〜20kg。日本ではほぼ見ない)と呼ばれ、ワイヤー(ラフ)ヘア・ミニチュア・ピンシャー(訳すると「ボサボサ毛の小さなピンシャー」)は日本でもよく見かけるミニチュア・シュナウザー(ドイツ原産・体重4〜8kg)と、名前が変わっていった。
小型のシュナウザーの犬種改良は、ドイツのフランクフルトで19世紀末から始まったとあるが、その頃は「粗毛のミニチュア・ピンシャー」と説明されていた。つまりミニピンのボサボサ毛=ミニチュア・シュナウザーということ。ただ現代では、サイズ的にミニピンの方が、ミニチュア・シュナウザーよりひとまわり小さい。
そうした歴史からピンシャーは、シュナウザーと体躯構成や頭蓋骨の形は類似している。シュナウザーを丸刈りにすると、若干のプロポーションの差はあれど、顔の形や体つきが見事にピンシャーになるという。性質的にも、ミニピンとミニチュア・シュナウザーは似ていると言っても過言ではないだろう。そのせいか、どちらの犬も遊び好きでせわしない「Busy dog」と呼ばれたりする。
さてミニピンは当時、農場の犬として小さな犬は役に立たないとされていたが、サロンの貴族の女性の間で装飾的な地位を得て人気が出始めた。そのためさらに小型化し、ポケットサイズにしようとしたため、健康面などに弊害がでたらしい。そこで無理な矮小化はやめて、もう少し大きめのサイズとなり固定された。超小型犬特有の(チワワのような)お椀をふせたような形の丸い頭や、小さくとがったマズル、出目などは避ける繁殖がなされた。
ついでにいうと、これまたミニピンによく似て小さいプラシュスキー・クリサジークというチェコ共和国原産の犬がいる。プラシュスキー・クリサジークはFCI未公認犬種だが、体高20〜23cm、体重2.6kgほどで、ミニピンよりさらに小さい。チワワより体高が低くて、世界一小さい犬といわれている。
毛色はブラック&タンが多いが、ブラウン&タンもいるし、レッド、イエロー、マールもいる。ブラウン&タンやイエロー、マールはミニピンにはない色だが、本流のブラック&タンとレッドは同じだし、毛の長さも基本はスムースヘア(ただし最近、セミロングくらいも犬種クラブで認められた。小さくするためにチワワの血を入れたのかと推察したくなるが、詳しくは不明)。ともあれチェコもまたドイツに隣接する国であり、しかもプラシュスキー・クリサジークはドイツに近い西部のボヘミアのエリアで貴族に可愛がられていたという立地の近さ。そしてプラシュスキー・クリサジークの意味は、「プラハのネズミ捕り犬」。ミニピンとのつながりはあるかもしれない。
さてミニピンは、日本には高度経済成長期の頃、昭和40年代にやってきて、当時のお座敷犬御三家
マルチーズ 、
ヨークシャー・テリア 、
ポメラニアン ほどではないにしろ、その時期に普及した。愛らしいぬいぐるみのような小型長毛種を好む日本人が多いなか、凜々しいスムースヘア・タイプで、室内飼育の座を勝ち得た最初の犬といえるかもしれない。
外見
5kg前後の小さなボディながら、しなやかなバネと美しい筋肉を保ち、凜々しい立ち振る舞い。可愛さと精悍さの両方を兼ね備える、魅力のある犬。
スタンダードは、サイズ以外は基本的にジャマン・ピンシャーと同じ。つまりジャーマン・ピンシャーを縮小コピーした形だ。極小犬が陥りがちな、アップルヘッド(丸い頭)や尖ったマズル、出っ張った目玉にならぬよう配慮した繁殖管理がなされ、矮小した外観という欠陥は持っていない。
チワワ とミニピンの顔を見比べると、頭の形、マズルの長さや太さ、目の形や付き位置などが全然違う。ドッグショー会場で、入賞した犬同士を比べてみると違いがよくわかる。あくまでもミニピンは、精悍なジャーマン・ピンシャーの小型版なのだ。
ただ、耳の形だけはジャーマン・ピンシャーの縮小コピーでないことがある。ジャーマン・ピンシャーはV字型の垂れ耳だが、ミニピンは垂れ耳と立ち耳、両方が産まれる。垂れていても立っていてもミニピンはどちらでもよい。ただショードッグなどでは、垂れ耳の子は断耳して立ち耳にしていることが多い。
ただ動物福祉の観点から、ヨーロッパでは断耳・断尾を禁止する国が増えている。尾っぽもいまの日本では、ブリーダーのところですでに生後1週間以内に断尾されることが多いが、家庭犬として迎えるのなら、断耳や断尾はする必要はない。むしろ切らない犬も増えてきており、今後主流になってくると思われる。
重要な比率として、体躯構成は体長:体高=1:1で、できるだけスクエアに見えることがよい。そして、頭部の長さ(鼻先〜オクシパット<後頭部>):トップライン(キ甲〜尾の付け根)=1:2。
スタンダードでは、体高はオス/メスともに25〜30cm、体重はオス/メスとも4〜6kg。適切な栄養や運動を与えても、このサイズに育たない個体が産まれてしまうこともあるが、ミニピンという犬種の健全性を保つためには、そういう犬を次に繁殖犬として使うことは避ける。正しいブリーダーであれば当然のことであるが、「可愛い」「こぶり」「抱っこしやすい」などと「極小ミニピン」を珍重して売るケースも見受けられるので注意が必要。体高で2cmを超えるオーバーサイズおよびアンダーサイズは失格となる。
目はダーク(暗色)でオーバル(卵形)。アイラインは黒。首はカーブして、短すぎない。喉の皮膚はひだはなく、ぴったりしていて、デューラップ(垂れ下がった喉の下の皮)やスローティネス(デューラップほどではないが弛緩した皮)はない。鼻は黒。
ミニピンは歩き方も特徴的で、これも大事な犬種らしさ。ハックニー馬のように前後肢を高く上げるハックニー歩様である。ドッグショー会場などでラウンドするミニピンを見ると、ほかの犬にはない独特な馬のような足の上げ方を見ることができる。
皮膚はたるみがなく、ボディ全体にぴったりとつく。被毛は短く密生し、滑らかで体にぴったり生えていて、ハゲむらはなく、光沢がある。
毛色に関しては、各団体でスタンダードが違う。これが混乱をきたす要因といえよう。
ミニピンにおけるスタンダードは、原産国および日本も加盟しているFCI(国際畜犬連盟)で認められる色と、JKC(ジャパン・ケネル・クラブ)、AKC(アメリカン・ケネル・クラブ)が三者三様で異なっている。ほかの犬種では見られない、統一感のなさが気になるところだ。
【FCIのスタンダード】 3色
・ディア・レッド (赤鹿色)の単色
・ブラウン (レデッィシュ・ブラウン<赤みがかった茶色。ハンガリアン・ビズラのような色>〜ダーク・レッド・ブラウン<暗褐色>までの茶色の色調)の単色
・ブラック&タン (黒&黄褐色)
【JKCのスタンダード】 4色
・ディア・レッド (赤鹿色)の単色
・ブラウン (レデッィシュ・ブラウン<赤みがかった茶色。ハンガリアン・ビズラのような色>〜ダーク・レッド・ブラウン<暗褐色>までの茶色の色調)の単色
・ブラック&タン (黒&黄褐色)
・チョコレート&タン (ブラウン&タン)
【AKCのスタンダード】
AKCで認められている毛色には、「S」タイプと「A」タイプがある。JKC学術教育課犬種標準担当の方に教えてもらったところ、「S」とはスタンダードで認められた毛色/理想とする毛色。「A」とは、ミスカラーや失格とまではいえないが、望ましくはない毛色/理想ではない毛色。血統書は出て純血とは認められるしショーに出ることもできるが、おそらく入賞は望めないであろう毛色、とのことである。「S」タイプがいわゆるスタンダードカラーで、「A」タイプは準スタンダードカラーとでもいえばよいのかも。
<Sタイプ> 6色
・ディア・レッド (赤鹿色)の単色
・スタッグレッド (牡鹿色<赤に黒の差し毛が背中に入る色>)の単色
・ブラック&タン (黒&黄褐色)
・ブラック&ラスト (黒&レンガ色)※ラスト(錆び)=タンより赤みが強い褐色
・チョコレート&タン (チョコレート色&黄褐色)
・チョコレート&ラスト (チョコレート色&レンガ色)
<Aタイプ> 7色
・ブルースタッグレッド (青みがかった灰色に黒の差し毛が入る色)の単色
・チョコレートスタッグレッド (チョコレート色に黒の差し毛が入る色)の単色
・フォーンスタッグレッド (イザベラとも呼ばれる薄い栗毛色に、黒の差し毛が入る色)の単色
・フォーン&タン (イザベラとも呼ばれる薄い栗毛色&黄褐色)
・フォーン&ラスト (イザベラとも呼ばれる薄い栗毛色&レンガ色)
・ブルー&タン (青みがかった灰色&黄褐色)
・ブルー&ラスト (青みががった灰色&レンガ色)
さらに
<Aタイプ> として容認されているもの。
・被毛色と同じ色の鼻の色 (Self-colored nose) ※スタンダードの鼻の色は黒のみ
・1/2インチ(約12mm)以下のホワイトのぶち (フロストと呼ばれる12mm以下の小さなぶちや白い毛が混じっている) ※12mm以上は失格
このようにアメリカでは、国際基準や日本基準よりも、多くの被毛色や小さな白斑の存在、黒以外の鼻の色を認めている。その影響なのか、日本でもブルーやイザベラ系などの変わった毛色の犬を珍重し、高価な値段で販売されていることもあるが、JKCでは「ブルー&タン」「ブルー」「フォーン」などはスタンダード外なので純血種として認められないし、繁殖犬として不適格である。健康に問題のある子犬が産まれる可能性もある。健全な繁殖を無視し、利益追求のために犬を産ませている動物福祉に反した業者がいなくなるよう、飼い主側にも見極める力が必要だ(本原稿で示している毛色は、FCIに準拠している)。
また基本的なことだが、何度も言うようにミニピンは力強い農場の犬ジャーマン・ピンシャーの小型版なので、筋肉たくましい犬であることが大事。上腕は力強く、たくましく、腰は強固で、大腿にはしっかり筋肉がついている。ところが、残念なことに日本では、散歩時間が短く、運動が足りず、抱っこ犬のように扱われている犬をよく見かけるし、ペットショップ用にパピーミルで繁殖された犬の中には虚弱な犬もいるようで、弱々しいミニピンも少なくない。犬種全体の健全性だけでなく、個体の健康面も心配だ。
本来のミニピンは、活発で、元気がよく、自信に満ちた表情をしている。その快活さの源は、健全な肉体、健全な筋肉。運動要求量は、小型犬の中でトップクラスといわれるので、それに見合った運動をしっかり与え、健康に育ててほしい。
ごく短いスムースヘアなので、手入れは簡単。ただ短い毛がパラパラとけっこう落ちる。2〜3日に1回、皮膚の血行促進を兼ねて、豚毛ブラシやラバーブラシでブラッシングをしよう。毛は短いし体も小さいので、シャンプーも簡単だが、洗いすぎると必要な脂分まで奪ってしまい、被毛の光沢がなくなるので、洗いすぎにも注意。シャンプーは2〜4週間に一度くらいの頻度でよい。汚れやニオイが気になったときは、ホットタオルで全身を拭くだけでも清潔さを保てる。垂れ耳の場合は、立ち耳より汚れやすいので、よくチェックすること。
自分でシャンプーできる犬で、トリミングサロンに行く必要はないが、耳掃除、爪切り、肛門嚢しぼりは、スムースヘアの犬でも必要なので、やり方がわからない人は、獣医さんにワクチンなどを打ちに行ったついでに相談し、教えてもらおう。放置していると病気やケガの原因となるときもあるので忘れずに。
毛色
魅力的なところ
明朗、快活、わんぱく、ひょうきん者。
遊び好き、好奇心強い、頭の回転速い。
自分で考える賢さ、自立心がある。
独特の足さばき、軽快な動きが可愛らしい。
飼い主とコンタクトをとるのが大好き。
知らない人にはそっけなく、飼い主だけに忠実なところもたまらない。
活動的で遊び好きなので、ドッグスポーツなども得意。
小型犬でも優秀なアラームドッグ(番犬)になる。
大型犬に負けず劣らずの活動量と精神力があり、手応えのある楽しい犬。
キャリーバッグなどで公共交通機関に乗れるサイズ。
毛の手入れは簡単。グルーミング代にお金がかからない。
遺伝性疾患は少ない。意外と丈夫でご長寿な犬が多い。
大変なところ
活発すぎて、落ち着きがない。静かな暮らしを望む人には向いていない。
日本には神経質、びびり、過敏、興奮が高いタイプもいる。このタイプは飼いにくい。
日本ではパピーミル出身が多いせいか、繊細で依存心が強く、適応力の低いタイプもいる。
前足をバタバタさせて要求したり、文句が多い犬もいる。
学習能力は高いけれど、気が散りやすいので、トレーニングは根気よく。
強気で興奮しやすいので、子どものいる家庭では不適。噛まれる可能性あり。
頭が良すぎて手ごわい。ビギナーにはお勧めできない。
小型だが超活発だし、ちょこまかと機敏なので、経験者以外の高齢者の伴侶には難しい。
領土防衛、警戒心が強いので、よく吠える。集合住宅では要検討。
活発で好奇心旺盛なので、インドア派の飼い主には不向き。
トレーニング性能はよいが、優しすぎる飼い主だと主導権を握られる。
小動物に反応しやすい。ハムスターやウサギとの同居はやめておく。
寒さは苦手。
まとめ
運動量は小型犬トップ級。一緒に走り、遊んでくれる飼い主がいい
JKCの犬籍登録頭数で、ここ10年(2014年末現在)ほどの間、ずっと15〜20位あたりにつけている、日本でポピュラーな小型愛玩犬。同じご先祖のミニチュア・シュナウザーより登録頭数が少ないものの、割とよく見かける犬種だ。
チワワ や
ミニチュア・ダックスフント のような一過性の人気犬種にならなくても、昭和の高度経済成長期の頃からコンスタントに日本に定着している。
バスや電車で移動できること、場所をとらないコンパクトサイズ、明朗活発で遊び好きで見ていて飽きないお茶目さ、飼い主に情愛こまやか、手入れの簡単なスムースヘアなど、魅力が小さな体にぎゅっと詰まっている。また、小さいくせして自分は小さいつもりも負けるつもりもない勇敢さや防衛本能があり、郵便屋さんや宅配業者などにいっぱしに吠えかかる。番犬というかアラームドッグには最適。昔は
ドーベルマン を飼っていたが、高齢になったため、もうドーベルマンは選べない、でも来訪者の存在を教えてほしい、犬らしい活動的な手ごわさがないとつまらない、という大型犬経験者には、ある意味ちょうどいいパートナー。
裏を返せば、いちいち吠えたら困る集合住宅に住んでいる人は要検討。そして犬を飼った経験がない人も要検討。自分は散歩が好きではないとか、アウトドアにいる時間は極力減らしたいという人、犬のトレーニングはしたことがない人、そして小さな子どものいる家庭は、なぜそれでもミニピンがいいのか、最初から考え直した方がいい。
ミニピンは体重5kg前後の小さい犬だが、大型犬に負けないほどエネルギッシュ。愛玩犬、抱き犬として選んだら、お互いが不幸になる。ほかの小型犬と比べても、せわしなく、いつも動き回り、跳ね回っているし、何かおもしろいことはないかと好奇心旺盛にアンテナを張っている。屋外にいても、室内にいても、そのテンションは変わらない。いつでもハイパワーで、ちょっとひょうきん者の、落ち着きのない「Busy dog」なのだ。そのハイパーぶりを「やんちゃで腕白なところが楽しい」と愛し、「毎日一緒にいっぱい遊びたい」「小型犬でもマラソンやハイキング、キャンプに連れて行ける犬がいい」と思う人には向いている。
反対に、そのミニピンのありあまる元気さを満たしてあげなければ、当然、問題が勃発する。ただでさえテリトリー意識が強く、よく吠える犬なのに、イライラしてもっと吠え癖がついたり、家庭内暴力(唸る、噛む、壊すなど)が日常化してる家庭もある。それはミニピンのせいではない。ミニピンという犬種を誤解している結果だ。あるいはストレスが溜まり、やることがないため、食いしん坊になり、デブになるミニピンも少なくない。盗み食いや拾い食いに走る犬もいる。
ついには、運動不足やコミュニケーション不足などのストレスが原因で、自分のしっぽを噛んだり、しっぽを追いかけてクルクル回る犬もいるという。こうなると人間でいうところの心身症、自傷行為といった異常行動。動物行動カウンセリングと治療ができる専門家に診てもらうことが必要だ。
ともあれ、活動量を満たすだけの運動、犬としっかりコミュニケーションをとる時間を維持すること、そして子犬の頃から、まじめに根気よく、社会化トレーニングを行い、いいことと悪いことを規律を持って教えることが大事。やればちゃんとできる犬だが、優しすぎて優柔不断な飼い主や、トレーニング方法の分からない人だと「小さなデビル」になりかねない。家族を噛むなどの大きな事件になってからトレーナーに相談をする家庭が多いが、小型犬だと思って甘くみてはいけない。デビルに育ってからだと、それだけトレーニングは難航し、時間もかかる(そしてお金もかかる)。
犬種改良のルーツは違うけれど、「小さなドーベルマン」を選ぶくらいの覚悟で迎えた方がいい。また「大型犬を選びたいところだが、諸事情により小型犬にしないといけない」という経験者にとっては、実に骨のある、やりがいのある犬だ。
手入れは簡単。体も丈夫な健康優良児
滑らかな光沢のあるスムースヘア。毛は短いし体も小さいから、日々のブラッシングや月1〜2回のシャンプーは簡単。タオルドライしてもすぐに乾くから、ドライヤーの出番もないかもしれない(冬は寒がるといけないのでちゃんと乾かしてあげよう)。トリミングサロンに通う時間やお金がかからないのは、ミニピンのいいところ。
ただし、短い毛はパラパラよく抜ける。「スムースヘアは毛が抜けない」とお店で言われるかもしれないが、それは完全なる間違い。無毛の犬でないかぎり、多かれ少なかれ犬なので毛は抜ける。またスムースヘアの短い毛は、布製のソファーなどに突き刺さり、掃除機をかけてもなかなかとれないことがある。とはいっても、体表面積も小さいから抜ける量もたいしたことなくて、毛のことが問題になることは少ない。
また、レッグペルテス症などはあれど、ほかの犬種に比べて遺伝性疾患が少ないのもミニピンの魅力。やんちゃが過ぎて骨折する例も聞くが、しっかり運動をしている犬は筋肉隆々で、骨を折りそうにない健康優良児もいる。近所で、毎日自転車で走っているミニピンを見かけるが、やる気満々で走っていて、子鹿のように跳ねていて実に可愛いし、表情が充実感に溢れている。寒がってるから散歩に行かないとか、小型犬だから走らせなくてもいいとか、そういう暮らしをさせてはいけない犬だ。運動をたっぷりしている犬は、生活に満足し、問題行動も少なくなる。
裏を返せば、ミニピンなのに運動をしたがらない犬は、骨関節や内臓に異常があるのかもしれない。一度、動物病院で検査することを勧める。あるいは、社会化不足で、環境適応能力が乏しく、臆病すぎて外が怖いために動けない可能性もある。その場合はトレーナーに相談し、ゆっくり社会化トレーニングをしていく必要がある。ちなみに犬種スタンダードでは「シャイ、攻撃的、狂暴、非常に疑い深い、神経質な性格」は失格と記される。そういう犬は繁殖に使ってはいけない。
心身ともに健康な犬を後世に残していくことが重要だが、ペットショップに卸しているパピーミル出身の犬は、遺伝性疾患の淘汰を考える繁殖管理をまったくしていないので注意。レッグペルテス症は小型犬種に多い骨関節の病気で、日本ではペットショップで買われた犬に数多く発症している。どの犬種でも同じではあるが、跳ね回るのが大好きなミニピンに、動くたびに足が痛いなどの思いはさせたくないものだ。ミニピンの購入を検討する際には、両親犬が繁殖前に遺伝性疾患のチェックを受けているか、親戚犬にどんな病気がでているかなどを正直に教えてくれる、正しいブリーダーを探すことを勧める。
本来のミニピンは、病気も少なく、ご長寿な犬が多い。マズルまわりが白髪で白くなった老ミニピンの可愛さはひとしおだ。ご長寿犬になることを目標に、10年後、15年後の飼い主側のライフスタイルも想像して迎えてほしい。
好奇心が強く、すばしこいので、脱走や誤飲に注意
元気でエネルギッシュな犬なので、ドッグスポーツ、飼い主のジョギングのお伴、ハイキング、キャンプなどのアウトドアの参加も喜んでこなす。そういうアクティブな飼い主向きだ。
ただ、その俊敏性、すばしっこさ、そして好奇心の強さ、気の散りやすさがあるので、脱走や失踪も多いと聞く。宅配業者が来たときに、ドアを開けたら猫のようにするりとすり抜けて玄関から脱走したり、ドッグランのフェンスの隙間から脱走を図ろうとしたりする。また、スズメなど小動物への衝動などが本能的にあるので、パッと予想外の動きをすることもある。小さい犬なので力が強いわけではないが、散歩のときは気を抜かないで歩こう。
また、好奇心が強く気が散りやすいということは、何かに夢中になると、追いかけてしまう可能性があるということ。基本、サイズに関係なく、どの犬でも日頃から呼び戻しの練習はしておいた方がいいが、ミニピンはドッグランなどの囲いのあるエリアで遊ばせるか、ロングリードを使った方が安全といえる。万が一のために、マイクロチップや迷子札の常備も忘れずに。
また、家庭内でサークルに長時間入れっぱなしというのは動物福祉に反するが、来客時に一時的に入れるなどの使い方をする家庭はあると思う。しかしミニピンはジャンプ力がすごいので、巧みにジャンプして脱走することがあるそうだ。天井も囲われた屋根付きのケージやバリケンにした方が無難。もしかしたらドッグランでも、小型犬用のランの場合、それほどフェンスが高くない場所もあるかもしれないが、それだとミニピンは脱走してしまうかも。自分の犬の体力や実力を知っているのは飼い主だけなので、油断をしないようにしよう。
さらに、好奇心が強く、探究心が高いので、うっかり誤飲も多いらしい。クリップや硬貨、薬などを飲み込まないよう、リビングなど犬が暮らす場所は整理整頓しておくことが望まれる。飲み込んで、ウンチで出てこなかったら開腹手術になってしまうので、手抜かりのないようにしたい。
そして前述したように、ミニピンは小動物に反応しやすい。昔は、農場でネズミを捕殺していた犬だから、意外とアゴも強い。ハムスターや小鳥、ウサギとの同居はやめておこう。
このページ情報は,2015/10/30時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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