図鑑
ロットワイラー
マスティフ系の落ち着きと、機敏な防衛能力を備えた警備犬。
犬の良さを生かすも殺すも飼い主次第
英名
Rottweiler
原産国名
Rottweiler
FCIグルーピング
2G 使役犬
FCI-No.
147
サイズ
原産国
特徴
歴史
ドイツ南西部に位置する、バーデン・ヴュルテンベルク州ロットヴァイル郡の街ロットヴァイル(Rottweil)。西はフランスのアルザス地方、南はスイスに隣接している位置にある。緑深い「黒い森」(シュヴァルツヴァルト)と呼ばれる森林地帯の東側の山麓にあり、ローマ時代から家畜商の集散地だった。ロットワイラー(Rottweiler)の犬種名は、この街の名前が由来である。つまり本来なら、カタカナ表記は「ロットヴァイラー」の方が正しい気がする。「ロットヴァイル・ドッグ」と呼ばれたこともあり、「ロッティー」という愛称もある。
ロットヴァイルは、ドイツ最古とされるローマ帝国時代のモザイクタイルが発掘されるなど、古くから栄えた街だ。昔々のローマ時代、ローマ軍が長い遠征に出るとき、一緒にウシの群れも連れていて、その家畜の護衛のためにマスティフ・タイプの犬を同行した。その犬たちが、ローマ軍とともにスイス側からアルプス山脈を越えてやってきて、このロットヴァイル地方で、ドイツの土地犬と自然に交配して生まれた。それが、ロットワイラーの先祖だ。
よっていちばん血が近いのは、隣接したアルプスの山々にいる、スイス・マウンテン・ドッグ&スイス・キャトル・ドッグの犬であり、犬種名でいうとバーニーズ・マウンテン・ドッグ(現地名:ベールナール・ゼネンフント)やグレート・スイス・マウンテン・ドッグ(現地名:グローサー・シュヴァイツァー・ゼネンフント)である。日本ではロットワイラーは黒くて怖そうな犬というイメージが持たれているが、バーニーズと従兄弟くらいだと思えば、少しは誤解がとけるだろうか。
ちなみに、オーストラリアン・キャトル・ドッグや
ウェルシュ・コーギー・ペンブローク などのキャトル・ドッグ(牧畜犬)は、FCIではGroup1に入るのだが、スイス・キャトル・ドッグの仲間はGroup1から除外されて、Group2に含まれている。Group2はモロシアン犬種(マスティフ・タイプの犬)などのグループで、ロットワイラーもここ。このグループ分けからしても、ロットワイラーとバーニーズなどのゼネンフントは近縁関係であることが示されている。
バーニーズはロットワイラーとは違って長毛種だが、体高・体重ともにほとんど同体格。日本では今のところ登録がなく、会えるチャンスがほとんどないグレート・スイス・マウンテン・ドッグは、体格に幅があるが一般的にロットワイラーより少し大きい。毛の長さは、短毛種でロットワイラーに近い。
話を戻そう。家畜の売り買いが盛んなロットヴァイルの街で、ロットワイラーは、家畜を追い立てたり、夜になると泥棒が家畜を盗まないように目を光らせたりしていた。また主人を護衛し、金品(ウシを売った売り上げ金など)を守る仕事もしていた。まだトラックや列車もなく、ウシも犬も人も、何日間も歩いて街へ移動していた時代だったから、持久力、タフさ、勇敢さ、自己判断力などを備えた24時間体勢で働くガードドッグは、生活を守る上で欠かせない相棒だったわけだ。
そのために、家畜の番犬/ガードドッグとして剛気で機敏で頑強な犬を、牛追い犬の中から選択して、豪傑な犬になるように地元の肉屋がつくっていったのである。ロットワイラーは「ロットヴァイルの肉屋の犬」とか「ブッチャー・ドッグ」(肉屋の犬)と呼ばれ、19世紀の中頃まで、家畜取引を中心産業とするこの街の発展に貢献した。
ところが産業革命後に鉄道輸送などができるようになり、ロットワイラーがお役御免となった。荷車の牽引犬などの別の仕事もしたものの、ロットワイラーの数は次第に減っていき、20世紀初頭には絶滅寸前にまでなったという。しかし幸いその頃、警察犬や軍用犬としての才覚を見いだされ、1910年には警察犬として正式な承認を受けた。さらにガードドッグとしても人気が出て、1930年代にイギリスやアメリカに輸出された。1935年にアメリカのクラブで承認され、1966年にロンドンのケネルクラブに承認され、今では
ラブラドール・レトリーバー と同じくらい、ポピュラーに飼育されている。
それくらい優秀で、表情豊かな犬なので家庭犬としても魅力ある犬なのだが、かたやそのいかつい外貌や優れた防衛本能を利用して、ケンカを好むタイプの人がわざと人を襲撃するように訓練すれば、それもできてしまう犬なのである。そのため、咬傷事件などのニュースになりやすい危険な犬というレッテルも貼られることになった。それは欧米での飼育頭数の多さと、ロットワイラーの攻撃性を助長するよろしくない飼い主の多さのせいだと推察される。当たり前だが、すべてのロットワイラーが凶暴なわけではないのだ。
さて、日本にやってきたのはわりと近年になってからである。シベリアン・ハスキーやラブラドール・レトリーバーなどの大型犬ブームが始まったバブルの頃だろうか。公益社団法人日本警察犬協会の前身の団体が1932年に発足した際、警察犬指定犬種としたのは、
ジャーマン・シェパード・ドッグ と
ドーベルマン 、
エアデール・テリア の3犬種だった。その後、1958年にコリーと
ボクサー が追加、1984年にラブラドール・レトリーバーが追加、1992年に
ゴールデン・レトリーバー が追加され、現在7犬種となっているが、日本ではロットワイラーは警察犬指定犬種にはなっていない。
残念ながら日本では使役犬種としての優秀さより、「咬傷事件を起こす」悪いイメージの方が強いかもしれないが、それはロットワイラーに対する偏見だ。ただし、そうはいっても、誰でも気軽に飼える犬ではないのも事実。賢くトレーニング性能の高い犬ほど、扱うのは一筋縄ではいかないので、覚悟が必要だ。
外見
ロットワイラーをよく知らない日本人は「太った
ドーベルマン 」と勘違いするかもしれないが(ロットワイラーからみれば甚だ不本意。そもそもロットワイラーの方が歴史が古いし)、ドーベルマンと同じくブラック&タン(ブラックの地色に黄褐色のマーキング)のボディカラーをした、短い毛のマスティフ系の作業犬である。ドーベルマンにはブラック&タン以外に、ブラウン&タン(チョコレート&タンともいう。ブラウンの地色に黄褐色のマーキング)の色も認められているが、ロットワイラーはブラック&タンのみ。ドーベルマンはドイツにいた頑強な犬の闇鍋のような犬種だが、先祖犬の1つとして、ロットワイラーも入っている。
しかし、ロットワイラーに最も近い親戚筋はドーベルマンではなく、「歴史」の項でも書いたようにバーニーズ・マウンテン・ドッグ(現地名:ベールナール・ゼネンフント)やグレート・スイス・マウンテン・ドッグ(現地名:グローサー・シュヴァイツァー・ゼネンフント)だ。スイスのモロシアン犬種(マスティフ系)の犬である。どうりで、マスティフのようなどっかりした頭の鉢や幅広い頑丈なアゴを持っているはずだ。胴も太く、ウエストがきゅーと巻き上がってもいない。
ただ、生粋のマスティフ系の古代モロシアン・タイプのガードドッグーーたとえばボルドー・マスティフやマスティフ(=イングリッシュ・マスティフ)、ナポリタン・マスティフのように、巨大で重々しくはない。どっしりと寝そべって番をする犬ではなく、牧畜番犬らしい俊敏性も必要な犬なのである。スタンダードによると「ロットワイラーは大型犬と中型犬の中間くらいに位置し、頑強であり、重々しかったり、軽々しくはみえず、ひょろ長かったり、痩せたようにも見えない」とある。
日本人にとっては十分大型犬であるが(日本では、小型犬、中型犬、大型犬、超大型犬の4段階か、超小型犬も加えて5段階で表現されることが多い)、世界的には犬種サイズは3段階(小型犬、中型犬、大型犬)なので、ロットワイラーは、中型犬〜大型犬の中間とされる。ともあれロットワイラーは、マスティフほど重々しくなくコンパクトであり、ドーベルマンほどスリムでシュッとしていない。その中間くらいである。
体高には幅がある。犬種スタンダードに、わざわざ2cm刻みで細かく分けてある犬種もめずらしい。
<オス> 61〜68cm
・61〜62cm 小さい
・63〜64cm 中くらい
・65〜66cm 大きい。理想体高
・67〜68cm 非常に大きい
<メス> 56〜63cm
・56〜57cm 小さい
・58〜59cm 中くらい
・60〜61cm 大きい。理想体高
・62〜63cm 非常に大きい
スタンダードの体重
・オス:50kg
・メス:約42kg
体高が5cm以上違うのに、スタンダードの体重には幅がないというのもちょっと不思議ではある。
ただ、日本では遺伝子プールが少ないせいか、実際に見かけるロットワイラーはスタンダードから逸脱しているものも見られる。子犬を譲り受ける場合は、両親犬や親戚犬のサイズを確認した方がよい。ファンシャーの話では、ヨーロッパ・ラインの方が大きめで50〜60kgになる場合もあり、かたやアメリカ・ラインは小ぶりで、オスでも30〜40kgくらいの場合もあるそうだ。
いずれにせよ、マスティフ系の犬らしく性差ははっきりしている。基本的にオスは大きく、ごつい。メスは小さめで、表情も柔らか。失格事由に「極端な反対性相。すなわちオスのようなメス、メスのようなオス」はNGと書いてあるので、このオスらしさ、メスらしさは、重要なポイントである。また重要な比率として、「体長は最大で体高を15%超えてはならない」とある。胴長すぎてはいけないわけだ。
頭部の、ストップ(マズルとスカルの境の段差)はとてもはっきり分かる。鼻は丸いというより幅広で、比較的鼻の穴も大きい。そして鼻の色はつねに真っ黒。マズルはスカル(頭蓋骨)に対して長すぎたり、短すぎたりしない(つまりマスティフ・タイプほど鼻は短くない)。真っ直ぐな鼻面で付け根は幅広く、先にいくにしたがって程よく細くなる。しかしドーベルマンのように細く長いマズルではない。
また頭部の皮膚は、全体的にぴったりと張り付いている。警戒時には前頭部にわずかな皺が見られることもある。あの警戒咆哮で唸ったときに見せる、眉間の皺だ。怖さ倍増である。
中くらいの大きさの耳は、垂れていて三角形で、耳の間は幅広く離れていて、高い位置に付く。耳は頭部に接して前方に垂れているので、スカルがよけいに広がったように見える。
目は中くらいの大きさで、アーモンド型。色はダーク・ブラウン。まぶたはぴったりしている。イエローアイや、左右で異なる目の色は失格。また眼瞼内反(まぶたが眼球側に巻いている状態)、眼瞼外反(まぶたが外側にめくれている状態)も失格である。
首は強く、かなり長く、筋肉質。すっきりしており、デューラップ(喉の下の皮膚のたるみ。ゆるんで垂れ下がった喉の下の皮膚。ボルドー・マスティフなどの喉の下にある、たるたるしたひだ)やスローディネス(デューラップほどではない、喉の下のたるみ)は見られない。
アゴは頑丈なシザーズ・バイト(上顎の切歯が下顎の切歯にわずかに触れる、ハサミのような咬み合わせ)。完全な歯列(42本)を持つ。オーバーショットやアンダーショットは失格だし、ライ・マウス(アゴが片方にねじれて歪んだ口)も失格。切歯、犬歯、前臼歯、臼歯の1本の欠如も失格。アゴと歯に関するルールがはっきり明記してあるのが、いかにもガードドッグらしい。強靱なアゴと歯はロットワイラーらしさの象徴で、大事な商売道具だといえる。
尾は、日本ではショードッグでも家庭犬でも、慣習として(アメリカにならって)断尾をしている。しかし現在多くのヨーロッパ諸国では、動物福祉の観点からすでに断尾はされていないので、自然のままの長いしっぽの犬の方が普通になっている。自然な状態だとアッパーライン(体の上側のライン)の延長と同じ高さである。休息時は垂れ下がることもある。キンク・テイル(根元の方からよじれるように曲がった短い尾)やリング・テイル(アフガン・ハウンドのように根元を高く上げて、全体もしくは一部が輪っか状になった尾)は失格。
歩様は特徴的で、スタンダードに「ロットワイラーはトロッティング・ドッグである」と記されている。トロットとは、速歩で、リズミカルにつねに対角線上の2本の足で地面を蹴る走り方だ。
被毛はショートヘア(短毛種)。ラブラドール・レトリーバーや
ビーグル と同じような長さの毛で、ドーベルマンや
ボクサー のようなごく短いスムースヘア(滑毛種)ではない。上毛と下毛があり、密生している毛。アルプスに近いエリア出身の犬だからか、意外と寒さには耐えられるそうだ。その代わりというわけではないのだろうが、暑さには弱い。日本の高温多湿な時期は熱中症に注意しよう。
また下毛があるということは、短い毛が結構抜け落ちるということでもある。3cmくらいの抜け毛がバラバラと落ちるので、部屋や自動車内の定期的な掃除は必要だろう。またシャンプー後には(どの犬でもそうだが)抜け毛が激しいし、短毛種とはいえ思ったより乾きにくいかもしれない。とくに後ろ足の毛がやや長めなので、寒い季節に洗ったときは気をつけて乾かしてあげよう。
前述のように毛色はブラック&タン。基本がブラックで、鮮明なタン・マーキング(黄褐色の斑)が、目の上(麻呂眉)、頬、マズル、喉、胸、足、尾の付け根下に入る。このタン・マーキングは、重要なロットワイラーらしさの1つ。典型的なタン・マーキングが入らない犬は失格となる。
バーニーズ・マウンテン・ドッグのような、白い斑が入ったトライカラーも失格となる。ついでに言うと、バーニーズの場合は白がないと失格になる。キンク・テールやリング・テイルの失格、眼瞼内反、眼瞼外反の失格など、同じようなルールがロットワイラーとバーニーズにあるのに、色に関してはきっちり相違がある。また被毛の長さや毛質に関しても、ロットワイラーなのに非常に長めの毛やウェービーな毛は失格となる(バーニーズは長毛種で、直毛かわずかにウェービーである)。
さらに補足だが、近縁のグレート・スイス・マウンテン・ドッグ(短毛種)は、今はバーニーズと同じくトライカラーのみが認められているが、昔はブラック&タンがいたという。それが選択交配されて、いまのトライカラーだけが残った。数百年前のロットワイラーとグレート・スイス・マウンテン・ドッグは、かなり近い親戚筋だったと思われる。
毛色
なりやすい病気
遺伝性
若年性白内障
股関節形成不全
肥大型心筋症
大動脈弁下狭窄症
先天性
その他
魅力的なところ
ハードで無骨でカッコよく、頼もしい。
お屋敷や工場などでガードドッグが欲しい場合は適任。
よく警戒し、侵入者に対してはよく吠え、テリトリーを守る。
警戒咆哮はするけれど、よけいな無駄吠えはしない。
テリトリー意識は強いが、過敏ではない。びびりではない。
訓練性能は高い。
イタズラ好き、遊び好きではないから悪さは少ない。
落ち着いている。
ガンドッグほど長時間は走り回らない。
歩く散歩でOK(ただし長距離)。
家庭内でバタバタしない。
毛の手入れは簡単。
正しい社会化、正しい訓育をしていれば、ちゃんとよい家庭犬になる。
よい血統とよい教育があれば、子どもの相手も忍耐強く勤める。
正しい犬なら、癇癪持ちだとか、弱い者いじめが好きなわけではない。
大変なところ
領土防衛心が強い生粋のガードドッグ。扱いは難しい。
侵入者は容赦しない。攻撃性高い。
荒っぽいところがある。他犬への攻撃性が高い犬もいる。
反抗的なところがあるので、トレーニングは技術が必要。
体も心もタフで自主性があり、自信に満ちているので、それ以上に飼い主がタフで、精神的にも強くないと扱えない。
筋肉隆々。体重もある犬なので、飼い主に相当の腕力、体力必須。
毎日長距離歩く運動が必要。
世界有数の護衛犬、警備犬。いざというときは最強。事故が起きないようにする社会的責任は大きい。責任感のない人は飼ってはいけない。
意外と暑さに弱い。配慮が必要。
欧米では人気犬種のため、乱繁殖で性質が不安定な犬がいる。
臆病でシャイで、神経質で攻撃的な犬だったら、相当に大変。
日本では遺伝子プールが小さい。気質も肉体も健全な犬を探すのは大変。ブリーダー探しは慎重に。
心臓病、股関節形成不全などの遺伝性疾患が割と多い。
骨関節の病気があるといけないので、子犬〜若犬期、運動のやりすぎにも注意。自由運動を多く取り入れた方がいい。
大型犬なので、病犬や老犬介護は大変。
(犬のせいではないが)日本人の多くは、黒くて大きな犬は怖がる傾向にある。よい子であっても誤解を受けやすい。気を遣う。
まとめ
絶対に軽い気持ちで飼って(買って)はいけない
欧米では、とても人気のある犬で、ガードドッグ(護衛犬、警備犬)としてでなく、家族の一員としても選ばれている犬である。
とはいえ、アメリカの動物行動学の専門家によると、ロットワイラーは「警備犬として非常に高く評価されている犬種の1つ」で、同じ性能を持つのは、
秋田 、
ドーベルマン 、
ジャーマン・シェパード・ドッグ だとされる。この顔ぶれを見るだけで、本犬種が最強のガードドッグであることは一目瞭然だろう。
犬と暮らす文化・伝統が長く、トレーニングすることがごく当然のこととして根付いている欧米人ならいざ知らず、自分でトレーニングする技量もなく、ましてやトレーニングとは何か本質を理解できていない人が飼ったら、こうした犬たちは社会への脅威にもなりうる。
安易にうっかり手を出すと犬が不幸になるし(咬傷事件を起こせば殺処分される可能性は高い)、飼い主も不幸になるし(誰かを噛み殺したり、ケガをさせたら賠償責任を追う。悪質な場合は逮捕もあるだろう)、近所にとっても迷惑極まりない。
ロットワイラーは、日本では普通にちょくちょく会える犬ではないのに、その割には咬傷事件でニュースとなってしまう頻度が高い犬である。これは非常に残念な現象だ。たしかにアメリカでもロットワイラーの咬傷事件は起きている。しかし、雑種犬、ピットブル、ジャーマン・シェパード・ドッグ、
ラブラドール・レトリーバー (優しいラブまで!)も咬傷事故を起こした犬種として名前が並んでいる。つまり、飼育頭数(人口)が多い犬種は、それだけ事件が起きる機会は多くなりやすい。けれども日本の場合は、飼育頭数が多くないのに、ロットワイラーがニュースを賑わせる回数が多い気がする。
つまり原因は、ロットワイラーの気質の問題だけのせいではない。管理もできないしトレーニングもできないのに、ロットワイラーを購入してしまった人間の責任なのである。さらに言えば、ロットワイラーのスタンダードに明記がある習性・性格についてへの配慮がなく、ただ外貌がカッコイイとかチャンピオン犬の子どもだといって、子犬を産ませて儲けようとする繁殖業者がいることも問題だ。
そして、(どの犬でも同じではあるけれど)飼養管理責任が大きいガードドッグ・タイプの犬をこれまた安易に素人に売るペットショップや偽ブリーダーも罪深い。「レアな犬種。注目度No.1」「警察犬になる賢い犬」と値札の横に書かれてあって、日本の大手チェーンのペットショップの小さなケージに入れられていた子犬のロットワイラーを見たことがある。こんな大変で責任の大きい犬を誰がこんな店頭で手軽に飼うんだろう、と思った。空恐ろしいことだ。
繁殖業者→販売業者→購入者(=飼い主)というルートで犬を入手するのではなく、本物のホビー・ブリーダー(繁殖でお金を儲けているのではなく、ロットワイラーが大好きでライフワークとして繁殖を手がけている人)から直接いろいろとアドバイスをもらいながら譲ってもらうことが重要だ。むろん、どの犬種でもそれが理想である。
しかし、大型犬を飼養することに慣れている外国でも問題は起きている。ガラの悪い人たちが、自分の強さを誇示するために、ロットワイラーを選ぶことがある。そういう場合は、相手を脅したり、びびらせたりするために飼うので、わざと攻撃性を高めるような育て方をする。ロットワイラーは、軍用犬や護衛犬になる賢さと身体能力があるから、飼い主の期待に添った優秀な用心棒になることは可能だ。でも飼い主に誉められるために身につけた能力は、反社会的であれば、ロットワイラー自身の評判を下げることになる。悪いのはやはり犬ではない。
すべては飼い主次第である(繁殖業者・販売業者の責任も大きいが、どこから子犬を譲ってもらうかは飼い主の判断。儲けが出ないと分かれば業者は廃業するだろう)。
本当はいいところがいっぱいある、チャーミングで気のいい犬
動物福祉が進んでいる国であれば、ダメな飼い主や繁殖業者は世論から淘汰されるので、本来のロットワイラーの長所をうまく伸ばしてもらっていることが多い。本犬種はマスティフ由来であるため、アゴの力は強いし、精神力も強いから、いざというときの攻撃性は高い。しかし半面、マスティフ由来であるからこそ、肝っ玉が座っていて物事に動じず、心が広く、本当に強いからこそ弱きに優しく、子どもの相手も忍耐強くしてくれる犬だ。
家族の子どもを誘拐しようものなら、体を張って全力で阻止するであろう信頼のおける仕事熱心な犬である。しかし裏を返せば、家族を攻撃する者やテリトリーに侵入する者には容赦ないので注意も必要。宅配便や来客に対してそういう態度をとらないように、トレーニングすることが欠かせない。もちろん賢い犬なのでトレーニングをすれば覚えるが。
基本的に、家族以外の人に対してはラブラドール・レトリーバーほど人なつこいタイプではないけれど、なるべくフレンドリーな家系を選び、若いときから社会化トレーニングをたっぷり行い、老若男女いろいろ人から可愛がってもらう練習をして、そしてオビィディエンス(服従訓練)をしっかりやって飼い主との信頼関係ができている犬ならば、誰彼かまわず唸ったり、噛みつこうとする犬にはならない。
日本に赴任してきたアメリカ人が一緒に本国から連れてきたメスのロットワイラーに会ったことがあるが、ラブラドールのように人なつこく、朗らかでエヘエヘと笑っていて、いくらでも撫でさせてくれる犬だった。育て方や血統によるものが大きいと思うが、なんてチャーミングな犬なんだと驚いた。欧米でロットワイラーが人気があるのは、強面の番犬としての需要ばかりではなく、こういうコンパニオンとしての魅力があるからなのだと再認識した。
ちなみに、犬種スタンダードに記されている、繁殖犬として失格となる性質は以下のとおり。
・心配性
・シャイ
・臆病
・ガン・シャイ (鉄砲の音など大きな音に対して怖がること)
・狂暴
・過度に疑い深い
・神経質
つまり上記にあげた気質の犬は、ロットワイラーとしてふさわしくないのである。絶対に繁殖に使ってはならない。
むしろドーベルマンやジェーマン・シェパード・ドッグの方が、犬種の成り立ちや昔の仕事内容からしても、ピリリと反応できる感受性の高さが必要とされていた分、ロットワイラーより敏感で繊細である。3犬種ともドイツ原産であるが、ドイツの人の話では咬傷事故案件はドーベルマンやジェーマン・シェパード・ドッグの方がよく聞くそうだ。それはロットワイラーの方が気持ちがどっしりしていて、寛容で、小さいことは気にせず、ある意味大ざっぱな部分があるからではないかと思う。マスティフ特有の頑固な石頭ぶりや、気性の荒さを感じることもないらしい。やはり血統管理は重要である。
ブリーダー探しは真剣勝負。なるべく性格の安定した犬を迎えよう
どうしてもロットワイラーと暮らしたいというのであれば、まずはよいブリーダーを探そう。「ロットワイラーは初心者でも飼えます」などと言う人はまずやめておく。本当の大変さをきちんと教えてくれ、トレーニングのことや遺伝性疾患などについて生涯にわたり相談に乗ってくれるブリーダーを探すことが望ましい。
ただ日本には専門犬舎が少ないので、よいブリーダーを探すのは大変だと思う。さらに日本では遺伝子プールが少ないので、血が濃くなっている心配もある。ドイツのように、性格面も、健康面も健全な犬が多ければよいが、ただでさえ責任重大な事件に発展しかねない犬種だけに、ブリーダー選びは真剣にしないといけない。
小型犬であってもシャイで神経質な犬は飼いにくいが、50kg級の犬でそんな性質だったら本当に手に負えない。ましてや残念ながら日本では、トレーナーと名乗っているくせに、ロットワイラーのような大型犬を断る人も多いという。子犬を迎える前に、トレーナーを確保する準備をしていた方がいい。
オスとメスであれば、オスの方が一回り体格も大きく筋肉も発達しているので、力が強い。またオスの方がテリトリー意識が強く、防衛本能、闘争本能も高い。どうしてもロットワイラーと暮らしたいけれど、心配だというのであればメスを考えてみることを勧める。オスよりも人なつこく、性質がマイルドなので扱いやすいだろう。そして体格も一回り小さいから、コントロールしやすい。
ショートヘアだが、暑さは苦手
毛の長さはドーベルマンやボクサーのようなスムースヘア(滑毛種)ではなく、ラブラドールやビーグルなどのようにスムースよりちょっと長めで、ダブルコートのショートヘア(短毛種)。シャンプーは自分でできる。おめかしするのにお金はかからない。ただ、結構毛は抜ける。
ドイツの中でもスイスに近い地方の出身のせいか、意外と耐寒性はあるらしい。寒がりでないのは助かる半面、暑さに弱い。日本の夏はエアコンが必要だろう。夏の旅行・お出かけで車内に置きっ放しにするのは危険。体力のありそうなタフな顔はしているが、熱中症にはなりやすい。十分注意する。
全力疾走型運動もするけれど、長距離歩き散歩が得意
牧羊犬やガンドッグに比べると、体の作りおよび昔の仕事内容からして、野山や草原を1日中駆け回るタイプではないため、自転車引き運動のような長距離爆走は必要ない。また股関節形成不全など骨関節の病気の可能性がある犬の子犬期や若犬期に、過度な運動はよくない。本人(本犬)の自由な意思で、ダッシュしたり、トロットしたり、立ち止まったり、休憩できる自由運動を取り入れるようにしよう。もちろん若い時期は体力があり余っているため、はしゃいだり、駆けっこもするが、4〜5歳にもなればそこそこ落ち着く。
ただ自由運動が大事とはいえ、日本ではノーリードにできる環境が少ない。しかもロットワイラーはドッグランで、みんなと仲良くできるかどうかも分からない。とくにオスはテリトリー意識も強いので、同性同士の諍いが勃発しやすい。そういう場合は、無理してドッグランに連れ出す必要性はない。それに、それほど遊び好きなタイプでもないので「ずっとボールを投げて!」という犬でもないだろう(若いときは除くとして)。
運動パターンやほかの犬への態度は、秋田犬とほぼ同じだと思えば想像しやすいかもしれない。
でもやっぱり普通の人間が歩く速度と距離だけで、このタフな犬の運動量を満たせるとも思えないし、自由運動で瞬発力を支える筋肉をつけることも大切だ。誰もいない時間を見計らってドッグランに行くとか、だだっ広い原っぱでロングリード・トレーニングを行うなどの工夫をしよう。
また、もともとの仕事を想像すれば分かるように、長距離歩いて移動することはとても得意だ。タフで疲れ知らずで、持久力系の運動はお手の物。なにしろ筋肉隆々のたくましい大型犬である。近所をちょこっと歩いて済ませるような散歩で満足するわけがない。マラソンや登山など持久力系の運動が得意な飼い主だと、ロットワイラーはきっと喜ぶ。
どの犬種でも同じだが、運動欲求や知的欲求を満足させないと、問題行動を起こしやすくなる。ましてやロットワイラーだ。運動不足や退屈のストレスのはけ口が、他人に向かって吠えるなどの威嚇行動や攻撃行動に転嫁したら、それこそ大変。万が一にでも咬傷事故になったら、犬や自分の財産を守れるかどうかも危うくなる。そんなことは絶対に避けねばならない。損害賠償など金銭的な問題もでてくる可能性もあるし。
オビィディエンスのトレーニングは、飼い主との絆を深めるだけではない。頭を使うことは、犬が結構疲れることで、メリットが大いにあるのだ。頭を使わせ、体も使うようなゲームやトレーニング(犬にとってはトレーニングは遊びでもある!)を一緒にたくさんするようにしよう。分からないことがあったら、どんどんトレーナーに相談してみよう。たしかに小型犬しか扱えないようなトレーナーもいるが、きちんと大型犬を扱えるトレーナーもいる。諦めずに探してほしい。
遺伝性疾患が多め
欧米で人気犬種であることが影響してか、股関節形成不全や肥大型心筋症、若年性白内障といった遺伝性疾患が割とある。また骨肉腫(ガン)や若年性腎疾患など、遺伝性ではないと思われているが、犬種特有で多い病気もある。
遺伝性疾患の場合は、徹底的に血統管理を行うことにより、発症数を減らすことができる。両親犬はもちろん、親戚犬にそういう遺伝性疾患がないかどうか、きちんと検査し、繁殖ラインから外している、正しいブリーダーのもとから子犬を譲り受けることにより、リスクが軽減される。
また遺伝性でないと言われてはいるが、骨肉腫はその名のとおり骨のガンで、断脚(足を切断)することになったり、死亡することにもなる怖い病気である。心臓に関する病気もそうだ。50kg級の大型犬なので、足を切断したり、一生投薬が必要になるようになると、獣医療費も莫大になるし、介護も重労働である。親戚犬が、どういう死因で亡くなっているのか、病気の淘汰や予防のためにどういう対策をとっているのか、きちんと説明できるブリーダーを探そう。そういう真摯なブリーダーであれば、スタンダードに即した外貌の理想像の追求だけでなく、気質と肉体の健全性に関してもきっと真面目に取り組んでいるとも思う。
生き物なので病気のリスクをゼロにはできないけれど、ロットワイラーの犬種の未来までも見据えて、きちんと取り組んでいるブリーダーが日本に増えることを願う。
このページ情報は,2015/12/21時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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