図鑑
グレート・ピレニーズ
真っ白い巨大犬。
ほんとに強いから、どっしり堂々、他人に迎合しない
英名
Pyrenean Mountain Dog
原産国名
Chien de montagne des Pyrénées
FCIグルーピング
2G 使役犬
FCI-No.
137
サイズ
原産国
特徴
歴史
原産国フランスでの犬種名は、Chien de montagne des Pyrénées(シアン・ドゥ・モンターニュ・デ ・ピレネー)。フランスの地元では「グラン・パトゥ」(Grand Patou。古いフランス語で「大きな羊飼い」の意味)とも呼ばれる。英語名はPyrenean Mountain Dog(ピレニアン・マウンテン・ドッグ)。FCIではこのピレニアン・マウンテン・ドッグの名を採用している。でも、
なぜかアメリカのAKCと日本のJKCでは、Great Pyrenees(グレート・ピレニーズ)と呼んでいる 。少々解せないが、日本ではグレート・ピレニーズと呼ばれることが多いので、ここではその名前で紹介するが、ともかく犬種名は違えど同じ犬種である。
本犬種は護羊犬/牧畜番犬で、オオカミ、クマ、または泥棒から、ヒツジやヤギなどの牧畜を護る仕事だ。つまり、非常に防衛能力が高く、やるときは攻撃性も高く、警戒心に富み、家族以外に簡単に心を許さない。ヨーロッパにはピレニーズとよく似た白い大きな護羊犬がほかにもいるが、見た目、気質、仕事内容はほぼ同じだ。親戚関係なのか、気になるところである。
ドッグ・ジャーナリストの藤田りかこ氏の
「最新・世界の犬種大図鑑」 (リンク先は楽天市場)によると「ヨーロッパ中部では白い大型犬がヒツジの番をするのが伝統だ。他の色の子犬も生まれるのだが、白色が好まれる。番犬として白い犬の方が優れているという科学的な根拠はなく、羊飼いの間における一種の迷信であると考えてよい」とある。藤田氏も書いているが、白い犬だと黒っぽく見えるオオカミと間違えることがないからとか、白いヒツジの中で紛れてオオカミから気づかれにくいなどと言われるが、黒いヒツジやヤギやウシを護っていることもある。そしてヨーロッパ中部以外の護羊犬は、黒っぽい色の犬も護羊犬の仕事をしている。やはりその地域の人間の好みというか験担ぎ、伝統のせいなのかもしれない。
ともあれ、日本で見ることがほとんどない、そのヨーロッパ中部の白い大きな護羊犬を紹介しよう。
・マレンマ・シープドッグ (原産国名:Cane da pastore maremmano abruzzese / カネ・ダ・パストーレ・マレンマーノ・アブルツェーゼ。イタリア原産。Group1)
・クーバース (原産国名:Kuvasz。ハンガリー原産。Group1)
・スロバキアン・チェヴァッチュ (原産国名:Slovakian chuvach。スロバキア原産。Group1)
・タトラ・シェパード・ドッグ (原産国名:Polski Owczarek Podhalanski / ポルスキー・オフチャレク・ポダランスキー。ポーランド原産。Group1)
クーバースだけが、くりくりとウェーブした毛なので見分けがつきやすいが、あとは素人目にはほとんど同じように見え、大きさも雰囲気もよく似ている。交雑はあったのだろうか。スロバキアン・チェヴァッチュとタトラ・シェパード・ドッグは、隣接した国境付近出身。親戚関係にあったことは間違いないだろう。
そして、クーバースとスロバキアン・チェヴァッチュとタトラ・シェパード・ドッグは、全長1500kmに及ぶ広大なカルパチア山脈(スロバキア、ポーランド、ウクライナ、ルーマニアと、周辺のチェコ、ハンガリー、セルビアにまたがる山脈)でつながったエリアなので、牧畜の移動の際に混血した可能性は大きく、これも親戚筋の可能性が高い。
マレンマ・シープドッグは、イタリア中部の山岳地帯出身。地理的には隣接はしていない。またグレート・ピレニーズ(以下、グレピ)も、フランスとスペインの国境のピレネー山脈出身なので、ほかの犬たちと立地上、隣接していない。ただみんな大きな白い長毛の犬であることは同じだ。
しかし、グレピはGroup2(ピンシャー&シュナウザー、モロシアン犬種、スイス・マウンテン・ドッグ & スイス・キャトル・ドッグ、関連犬種)なのだが、前述のほかの白い護羊犬は、みなGroup1(シープドッグ & キャトル・ドッグ)なのだ。Group1は、わざわざ「スイス・キャトル・ドッグを除く」と注釈がある。スイス・キャトル・ドッグとは、バーニーズ・マウンテン・ドッグなどだ。スイス・キャトル・ドッグには白い犬はいない。
本来、Group1の方が、牧羊犬(
ボーダー・コリー 、
ジャーマン・シェパード・ドッグ など)や牧畜犬(
ウェルシュ・コーギー・ペンブローク など)の作業をしている犬で、番犬的な役割をする犬もいるとはいえ、小ぶりなのが多い。しかしオールド・イングリッシュ・シープドッグやコモンドールなど、大きな牧畜番犬もいる。
でもGroup2の方は、マスティフタイプの牧畜番犬が多い。スムースヘアの
ロットワイラー 以外は、たいてい長毛マスティフで、たとえばコーカシアン・シェパードやピレニアン・マスティフ、セントラル・アジア・シェパード・ドッグなどである。そういう視点から見ると、同じ白い巨大護羊犬でも、Group1のマレンマ・シープドッグやクーバースは、頭の鉢がマスティフ型のグレピよりほっそりしている。
どうであれGroup1もGroup2も、牧羊犬であっても護羊犬であっても両方とも「シェパード・ドッグ」とか「シープ・ドッグ」の名前がついているのでよけい混乱しやすい。ジャーマン・シェパード・ドッグのところでも書いたが、「シェパード」とは英語で「羊飼い」だ。そしてオールド・イングリッシュ・シープドッグやシェットランド・シープドッグといった「シープドッグ」(羊の犬)と名の付く犬、そしてラフ・コリー、ボーダー・コリーといった「コリー」と名の付く犬も、羊飼いの犬である。
仕事としては、ヒツジをまとめたり誘導したりする仕事で、シェパードもシープドッグもコリーも同じ。そして彼らとは仕事が異なり、ヒツジをオオカミなどから護る仕事の犬もまたシェパードやシープドッグと名前がつく(ヨーロッパ大陸で使われていた牧羊犬はシェパードと呼ばれ、イギリスの牧羊犬にはシープドッグやコリーの名称が使われているようだ)。
ちなみにピレネー地方には、ピレニアン・シープドッグという牧羊犬がいる。こちらは体高40〜48cm、体重12kgくらいの小さめの中型犬だ。白い大きなグレピが羊の群れを護衛し、ピレニアン・シープドッグが監視・誘導をする。コンビを組んで、仕事をすることが多かったという。ピレニアン・シープドッグは、現地で最もポピュラーで古くからいる犬で、古いだけにバラエティーもいろいろある。ともあれピレネー地方では、2種類の犬がヒツジのために分業していたということだ。
仕事内容、および外貌、気質からして、最もグレート・ピレニーズに近縁なのは、おそらく
ピレニアン・マスティフ (スペイン原産)である。どちらもピレネー山脈の山里の犬だ。グレピは、ピレネー山脈の北側のフランス領で発達したフランス原産の犬。ピレニアン・マスティフは、同じ山脈の南側、スペイン領で発達した犬である。この2犬種はほぼきょうだい犬のようなもの。
ただし、グレピよりもピレニアン・マスティフの方が少し頭骨が大きくてがっしりしており、外観も粗野でたくましい感じがする。またピレニアン・マスティフは、白地にグレー斑、白地に茶色斑のボディカラーをしており、全身真っ白は失格となる。全身白いピレネーの巨大犬は、グレピだけ。
さて、似た犬種の説明が長くなったが、本題のグレピの歴史について。グレピは、はるか昔からピレネー山脈エリアにいた犬である。そして14世紀、中世の時代には、お城の番犬としての仕事も任されていた。それはこの白い美しい姿ゆえだろう。グレピを番犬として飼うことは、領主たちのステータスだった。そして17世紀には、すでにコンパニオン(家庭犬)として、ルイ14世に飼育されている。
かたや本業の護羊犬としての仕事は、19世紀後半の頃、オオカミが害獣として乱獲され、一気に減少したため廃業寸前となった。そのため20世紀初頭には、オオカミだけでなくグレピまでも絶滅しかかった。そんな中かろうじてグレピは、コンパニオンやショードッグとして生き残ることになった。
そもそも長毛マスティフ・タイプの護羊犬は、正直に言って対人・対犬にも攻撃性が高く、警戒心も高く、一般のコンパニオンとしては難しい。チベタン・マスティフ然り、コーカシアン・シェパー然り、家庭犬として扱える犬ではないのだ。そのためグレピ以外の同様のタイプ(護羊犬)の犬種は、国際的にみても家庭犬として愛好されている犬ではない(一部のファンシャーは家庭犬として飼っているけれど、いくらなんでもそれは本流ではない)。
その中で、グレピは特別な犬種といってよいだろう。そうなった理由は、フランス貴族に古くから門番犬として抜擢されたからだと推察され、決してほかの白い犬に比べて特別マイルドな性質だったからではなさそうだ。グレピは、今もヨーロッパのみならずアメリカや日本で、ショードッグやコンパニオンとしても人気がある。日本でマレンマやクーバースのことは知られていないのに、グレピだけが認知されているのはそういうことだろう。
一方現代では、別の面白い現象が起きている。今ではオオカミやクマなどはヨーロッパで保護されるべき野生動物となっており、牧畜を生業とする人も、害獣として殺すことができず、共生の道をとることが必要となっている。そこでグレピはEUの財政支援を受けて、護羊犬として山に再就職し始め、成果をあげているとのこと。今後の動向が楽しみだ。
さて、グレピがアメリカに紹介されたのは1930年代。1933年にAKCに登録された。そのあと戦後にアメリカ・ラインの犬が日本に輸入されたようだ。グレピがJKCに初めて登録されたのは1961年とのこと。本場フランス・ラインの犬は、直接フランスから、あるいはカナダ経由で、昭和後期に日本に紹介されたらしい。先にアメリカからやってきたから、日本語のスタンダード・ブックにグレート・ピレニーズの名前が記されたのかもしれない。
蛇足だが、私たち日本人の多くが初めてこの犬種を知る大きなきっかけとなったのは、TVアニメ
「名犬ジョリィ」 (1981〜82年)の力が大きいだろう(作中では「ピレネー犬」と紹介されている)。ジョリィのおかげで本犬種の認知度が高まり、グレピは日本で一時的にちょっとしたブームになった。昭和50年代後半の頃、グレピの犬舎や牧場のようなものが増えたという。テレビの影響で急に流行犬種として祭りあげられるのは、今も昔も変わらぬ、とても残念な日本の犬文化である。まぁジョリィに罪はないのだが。
さらに蛇足だが、この日本のアニメは、1983年にはフランス語圏でも放映された。もともと「名犬ジョリィ」の原作は、1965年に発表されたフランスの児童文学小説「アルプスの村の犬と少年」(原題:Belle et Sébastien。セシル・オーブリー著)。本国フランスでは小説をもとにテレビドラマシリーズも製作され、1965〜1970年にかけて大ヒットしている。ちなみに原作での犬の名前はジョリイではなく、原題どおり「ベル」。メスである。
そして2013年のクリスマス・シーズン、「ベル&セバスチャン」が
実写版で映画化 され、ヒットした(日本では2015年秋に上映)。さらにフランスでは2015年末に続編映画
「Belle et Sébastien:I’aventure continue」 が公開される。半世紀経った今でも、ずっとこの物語は色褪せることなく、国民に愛されているようだ。それだけグレピは認知度が高く、フランスにとって自慢の美しい犬なのだろう。
外見
白くて大きな超巨大犬。体高は、オス70〜80cm、メス65〜75cm。性差があり、オスの方が一回り大きい。スタンダードに体重表記はない。アメリカ・タイプの方がどうやら体格は小さいようで40〜55kgの犬が多く、フランス・タイプは55〜70kgくらいで、70Kgを超える犬もいる。ピレニアン・マスティフの場合は体高に上限がなく、プロポーションが同じ場合、大きければ大きいほど評価が高いが、グレピの場合は、体高制限がある。2cmを超えるオーバーサイズ、アンダーサイズは失格だ。
ただ厳しい雪山仕様の厚い被毛をまとっているので、実際の体格よりも大きめに見えることはよくある。日本のショーリンクで見かけるアメリカ・タイプの、ショードッグとして毛をフワフワに美しく仕上げられた姿は毛量たっぷりで、一回り以上大きく見える。
そもそも、1897年にフランスのド・ビラント伯爵がこの犬種の詳細を記し、その10年後に最初のブリード・クラブが設立。そして1923年にフランス中央畜犬協会に公式スタンダードが登録申請されており、現行のスタンダードはこのスタンダードにほとんど近い。しかし、本来の原産地でのいわゆるピレネー・マウンテン・ドッグ(=グレピ)と、いま日本の(おそらくアメリカでも)ショーリンクを走るグレピの外貌は、別犬種かと見間違うほどである。
アメリカ・タイプは、大きな白いクマのぬいぐるみのように、丸っこい印象。かたやフランス・タイプは、体長・体高も長めで、四肢が長い印象を受ける。山岳地帯をガンガン踏破するには、本来のフランス・タイプの方が作業に適している。体重もアメリカ・タイプより大きいのだが、全体が大きく、長く、スラリとしているので、太った感じはせず、粗野でたくましい。骨関節も健全に違いない。スタンダードにも「防衛能力を発揮するために力強く敏捷であること」と書かれている。グレピは鈍重であってはいけないのだ。
日本で多く見かけるのは、アメリカ由来のショードッグ家系が多いが、前述した映画「ベル&セバスチャン」を見ると、古きよきスラリとした、力強さと敏捷性を兼ね備えたフランス・タイプを見ることができ、興味をそそる。
そんなわけで、アメリカタイプとフランスタイプはずいぶん外貌に差があるけれど、スタンダードは一緒である(これが不思議)。
重要な比率として、
・スカル(頭蓋。頭の鉢)の最大幅=スカルの長さ
・マズルは、スカルよりわずかに短い
・体長は体高よりわずかに長い
・胸深は体高の1/2、もしくはそれよりわずかに浅い
頭は、体のサイズに対して大きすぎず、頭部の両側はいくぶん平ら。スカルはわずかに丸みを帯びている。オクシパット(後頭部)の突起が明確にある。後部スカルはオーバル(卵形)。ストップ(前頭部とマズルの接続部 のくぼみ)はゆるやかである。マズルはスカルより少し短く、幅広く、先端に向かって徐々に狭くなる。マズルを上から見ると、先端を切り落としたV字型に見える。目の下のふくらみは充実している。
目はやや小さめのアーモンド形。いくぶん斜めについている。色はダーク・アンバー・ブラウン。眼縁は黒。そして鼻は真っ黒。また鼻、目縁、唇の色素が十分でないもの、明るすぎる目は欠点。目縁がピンク色だったり、黄色い目、真っ黒でない鼻の場合は失格。繁殖犬として使えない。
耳は目と同じ高さに付き、やや小さい。三角形で、先端は丸みがある。平常時は頭部に沿って平らに垂れているが、警戒時には少し高く持ち上げる。
首は力強く、わずかにデューラップ(喉の下の皮膚のたるみ)がある。ボディのトップライン(背腰部)はしっかりと保持され、がっしりと、水平がよい。サドル・バック(背が長すぎたり、キ甲の後ろがくぼんだ背)や、スウェイ・バック(キ甲から腰骨までの背線がたるんだ背)、前方に沈んでいる背は欠点で、よろしくない。
密な毛で覆われ、プルーム(羽根飾り状の毛)に包まれた尾は、普通は垂れていて、けっこう長めで、少なくとも飛節まで達する。リラックスしているときは低く保持して、先端はフックを形成するのが好ましい。警戒時には輪っか状になり(ピレネー地方の人々の表現では「arroundera」=車輪を作る、の意)、しっぽを高く持ち上げて背中の上に巻き上げ、先端が腰に接する形状になる。つまりグレピが、しっぽを高く丸く持ち上げているときは、バリバリ警戒態勢、臨戦態勢に入っている可能性が高いということだから(または興奮状態)、「ごきげんでしっぽを持ち上げている」と勘違いしないように。よそ様の犬に軽々しく近寄らない方がいい。
強健な四肢。特徴的なのは、後肢のそれぞれの足に2本ずつ、しっかりとしたデュークロー(狼爪)があること。前足にも、ときどきそれぞれ1本または2本のデュークローが見られる。後肢にデュークローがない、または1本しかない、または2本あっても退化したデュークローしかない場合は失格となる。
被毛は、雪深い寒い気候に耐えられる、非常に密生した毛。かなり長毛で、しなやかだが、肩と背の毛はやや粗め。尾と首の周りはさらに毛が長くなり、わずかにウェービー(波状)である。キュロット(大腿の後ろ側の長く豊富な被毛)はよりきめ細かく、よりウーリー(羊毛状)で密生している。
分厚い毛なので、抜け毛はすごい。換毛期(春と秋)、とくに冬毛の抜ける春の換毛期は、尋常でないほど抜ける。また都会で室内飼育している場合は、冷房完備(暖房の必要はない)で快適な暮らしをしていると、はっきりとした換毛期がなくなり、年中大量に抜け続けることも珍しくない。部屋の掃除機かけは日課となるだろうし、ファンシャーの話によると、掃除機の寿命も短いらしい。ついでに言うと、マスティフ・タイプの犬はよだれもよく垂れるので、拭き掃除も必須。
またヨーロッパの雪山仕様なので、当然、日本の高温多湿な夏にはすこぶる弱い。春先から秋まで冷房をつける覚悟が必要だ。エアコンもフル稼働なので、電気代も非常にかかる。同じくヨーロッパ原産の長毛マスティフのためにエアコンをフル稼働していたらコンセント付近から出火し、火事になった話を取材で聞いた。電化製品の寿命やコンセントのチェックなど、火事にならないように十分注意をしてほしい。
ブラッシングをこまめに行うことも必須。とくに耳の下、脇、股などの被毛がこすれる部分はもつれやすいので、毎日ブラシを通そう。毛の手入れはかなり大変なので覚悟が必要だ。しかも体表面積が大きいので、ブラッシングする面積も広いし、抜ける面積も広い。
同じくシャンプー&ドライも大変だ。1〜2か月に一度のシャンプーは気合いが必要。慣れてくると2時間くらいでできるようにはなるらしいが、とにかく大変。シャンプー後にはめちゃめちゃ毛も抜ける。トリミングサロンに外注している家庭もあるが、サロンによっては、グレピが乗るトリミングテーブルがない、バスがない、などの理由から断られることも少なくない。とにかく抜け毛問題に寛容な飼い主だけが飼える犬といってよい。
また白い被毛は汚れが目立ちやすく、目の下に涙やけができたり、よだれで胸の毛が薄茶色に焼けたりしやすい。食後は口の周りを拭き取る、よだれも拭き取るなど、白さをキープするためにこまめに手をかけてやることも必要だ。
被毛のカラーは、ドッグショーでは真っ白の雪の精のような犬が多いけれど、白以外もOK。ボディにいくつかの斑が見られることもある。とくにアナグマ色のパッチ(斑)は大変好ましいとされる。
・白
・グレー (アナグマ色)
・薄いイエロー
・ウルフカラー
・白地にオレンジ色の斑 (頭部、耳、尾の付け根など)
・白地にアナグマ色の斑 (頭部、耳、尾の付け根など)
毛色
魅力的なところ
とにかくでっかくて、威風堂々とした外貌。
白い巨大犬が好きな人には最高。
長毛マスチフ好きにとってはたまらぬ存在感、包容力。
飼い主思い、家族思い。忠実。
正しい犬なら、自分の強さがよく分かっているから、物怖じしない。堂々としている。
最強の番犬になる。
自己判断能力も高く、独立心も高く、分離不安にはなりにくい。
飼い主との絆がしっかりしていれば、子供にも忍耐強く付き合う。
野山を駆け回って運動するタイプではない。歩く散歩でOK(ただし長距離)。
室内でもバタバタせず、悠々としている。
大変なところ
とにかくデカイ。食費、獣医療費、自家用車代など経費が多くかかる。
住環境もそれなりの広さが必要。風呂場もクルマも大きくないと困る。
毎日の排泄物も当然でかい。
体重もあるので瞬発的な力はすさまじい。飼い主に相当の腕力、体力必須。
タフな筋肉質の犬なので、毎日長距離歩く運動が必要。
精神力も強いので、それ以上に飼い主の心が強くないと従ってはくれない。
マスティフだけあって頑固で自主性が高い。しつけにはコツがいる。
超大型の護羊犬だけに、いざというときは最強。事故が起きないようにする社会的責任は大きい。責任感のない人は飼ってはいけない。
子犬のときはぬいぐるみのように可愛いので、間違ってうっかり飼ってしまい、あとで捨てる人がいる。
大きすぎて動物病院やトリミングサロンで断られることがある。
寒冷地仕様のダブルコートの犬なので抜け毛は非常に多い。
ヨダレがでる。
暑さに弱い。地域によっては春の終わりから晩秋まで冷房費がかかる。
暑さに弱いので、冬以外の時期の日々の散歩、外出、旅行は気を遣う。
日本にいる血統は気が小さく、吠えやすいのもいる。
もし臆病でシャイで、このサイズで攻撃行動にでたら相当に大変。
気質も肉体も健全な犬を探すのは大変。ブリーダー探しは慎重に。
日本には股関節形成不全などの遺伝性疾患の犬も多い。
超大型犬なので、病犬や老犬介護は非常に大変。
まとめ
でっかいシロクマのような包容力。でも、ぬいぐるみではない
大きくて真っ白な体、ふわふわの毛、太い足など、やっぱり可愛い。よく目立つ、素晴らしい犬。ショーで花形になるのもよく分かる。ほかの護羊犬の中では特別に、ヨーロッパやアメリカで、宮廷の犬やショードッグやコンパニオンとしての道に歩んできた、選ばれし犬種であることも納得の美しさである。
ましてや子犬の頃は、まだ抱っこできるサイズだし、真っ白い体、真っ黒いお目目とお鼻で、ぬいぐるみのようで本当に可愛い。一発でノックアウトされてしまう気持ちもよく分かる。また普通、日本人は大きな犬は怖がることが多いのに、純白に弱いのか「可愛い」という感情が湧いてくるようだ。
しかし、その衝動的な感情による物欲、所有欲のために、どれだけ日本の野山に捨てられるグレピがいたことか。これはTVアニメの影響で一時期グレピを扱う繁殖業者が日本に増え、ペットショップでもこの超大型犬の子犬が陳列されて、口車に乗せられて、購入してしまった人が多かったことを意味する。白い子グマのようなぬいぐるみは、半年もしないうちに、抱っこはおろか、飼い主の方が乗れそうなくらいの巨大な体に成長する。「こんなに大きくなるとは思わなかった」「こんなに大きかったら目立ってしまうのでアパートで飼えない」(当たり前だ。そもそも小型犬でもペット飼育不可の集合住宅で飼ってはいけない)、「力が強すぎて、女性の力では引きずられる」「食費やフィラリア予防薬などが高く、経済的に飼いきれない」「性格がきつすぎて、飼えない」……などといって、手放されることが多かった。別荘地の奥の山中で、マズルを針金でぐるぐる巻きにされて、鎖で木にくくりつけられていたグレピの話も聞いた。そんな非人道的なことが平然とできる飼い主が実際にいたのだ。
捨てることはしなかったものの、家を引っ越すしかなくなり、貯金を使い果たし、トレーニングも頑張り、最終的に最高のパートナーとして育てた人を取材したこともある。でもご本人も「こんなはずではなかった」「だから捨てる人の気持ちも実は分かる」「あのときの自分の甘い考えをすごく反省している」と言っていた。それでも諦めずに頑張り、犬を見捨てることなく守りぬいた人もいるんだから、初心者は絶対にグレピを飼ってはいけない、とまでは言えないけれど、とにかく犬も飼い主もハッピーエンドになるためには、
相当の気合いと根性と忍耐力と経済力と体力と時間がないとダメ なのだ。
人間の大人並みの、体重50〜70kgになるような超大型犬になることをまず理解しているのか。後ろ足で立ち上がると、身長170cmの男性よりも大きいような犬である。そんな大きな犬、ましてやヨーロッパの山中を1日歩き続けても平気な体力と持久力があり、引っ張る力が強く、しかもオオカミやクマを撃退できる強い精神力と攻撃力を持つ犬である……という基本的なことを分かっているのか。それでもこの犬が欲しいのか、自分に飼いきれるのか、よく自問自答してから決心をしてほしい。
普通の人間の心を持っているならば、「犬を捨てに行く」「マズルを針金でぐるぐる巻きにする」など自分の心も痛くなるはずだから、これは犬のためだけでなく、自分自身のためでもある。
日本の夏はきつい。冷涼で、湿度の低い雪山暮らし向き
日本でも冷涼な気候の北日本や山岳地なら、屋外飼育も不可能ではないかもしれないが、とにかく夏の温度の高さだけでなく、湿度も問題。高温多湿な環境では、抜け毛もいっそう激しくなる。皮膚が弱い犬種というわけではないが、湿度が高いと皮膚が蒸れて、日本では皮膚炎になる恐れがある。梅雨時期から秋の長雨の頃までは、蒸れないように、しっかりブラッシングをして、よけいな毛を除去することが皮膚の健康を守るために必要だ。そうすれば室内に散らばる毛を減らすことにもなる。
それほどからみやすい毛ではないけれど、毛の手入れはとにかく大変。また白い犬なので、汚れも目立ちやすい。散歩から帰ったら、汚れやホコリを払うためにも毎日ブラッシング・タイムを設けているとファンシャーは言っていた。
またこれだけ雪国仕様の被毛ということは、犬の快適温度が、我々日本人とは大きく異なるということ。彼らにとっては日本のゴールデン・ウィークはもう“暑い”。エアコン冷房はすでにこの頃から始めないといけない。湿度の高い梅雨時期、気温の高い真夏は、24時間ノンストップで連日エアコンで冷やし、除湿をしてあげること。
冷房を切るのは11月の晩秋くらい とのことだ。
人間が「肌寒くなってきたからそろそろ暖房を入れよう」というくらいの気温か、それより寒いくらいが、グレピにとっては快適温度。なので暖房はほぼ不要である。つまり飼い主は、家の中でもダウンの上着を着込むような生活を余儀なくされるわけだ。この快適温度の違いを我慢してでも、それでもグレピをはじめとする長毛マスティフと暮らしたい! と切望する強者の飼い主限定。
当然だが熱中症にもなりやすい。夏、コンクリート敷きの場所につないでおくなどは、殺人(殺犬)行為である。車内に閉じ込めるなど言語道断。温度・湿度の管理は、油断なく行うこと。また車内でバリケンに入れると、自分の体温でバリケン内が熱くなり、これまた熱中症の危険が高まる。車内のラゲッジが狭くても同じ。犬がハアハアしてないか、よだれがいつも以上に多くないか、などをよく観察をしてほしい。グレピにとって暑い季節の、旅行や帰省などの移動も制限が多くなるのでそのつもりで。
護羊犬、ガードドッグの気質を理解。事故を起こさないように
本来のグレピは、オオカミなどを撃退するのが仕事なわけだから、体力、筋力、瞬発力に加えて、精神力も強固である。本当に強い犬は、いちいち吠えない。動じないで、堂々としている。テリトリー意識が強いということは、敏感で神経質な面もあるが、誰彼かまわずすぐ噛みつくわけでなく、ちゃんと見極める能力もガードドッグにはある。
しかしファンシャーの話によると、日本国内のグレピは気が小さく、神経質で、よく吠える血統もいるらしい。日本の遺伝子プールの少なさのせいなのか、あるいは輸入した血統の中に性質に問題のあるものがいて、それを国内でたくさん繁殖させてしまったからなのか、はっきりとした原因は分からないが、それが小型犬であっても、シャイで神経過敏な犬は、落ち着きがなく、怖さのあまりに噛みつくという行動にでやすく飼育は難しくなる。ましてや大型犬がその性質になってしまうと、危険度が小型犬の非でなく、飼いづらいのは明らかだ。
性格は
「遺伝半分・環境半分」 で形成される。まずは遺伝的要因を排除するため、シャイや臆病、気が小さい犬は繁殖に使わず、スタンダードにあるように「穏やかで、護衛するものに対する意識が高いこと」「独立心が強く、率先して行動する」という、心の強い母犬や父犬から生まれた子犬を譲り受けることが重要だ。
次に、血統的に気質が安定した犬でも、飼い主の飼い方次第(環境的要因)で性格はゆがむ。社会化トレーニングとともに、人間社会で生活する規律をきちんと教えよう。独立心や自主性が高い犬ということは、自分の意見をそう簡単に曲げないし、グレピはスタンダードにも「主人に対して、いくぶんかの自己の判断を要求する」とわざわざ書いてあるくらいだから、頑固で、要求を貫こうとするタイプに違いない。これはけっこう手強く、素人にはとうてい難しい。
また1歳を超えた頃、成犬として成熟するかしないかのあたりで、反抗期のように、飼い主に対して挑戦してくるというか我の強さを押し通してみるなどの態度を見せる。そのときに忍耐強く、一貫性のある態度で対応しないといけない。でも自尊心も高い犬なので、ぶったり、大声で怒鳴るなどをすると逆効果。判断能力、観察力の優れた頭のいい犬である。飼い主は、犬より堂々と毅然とした態度で、強い精神力を見せれば、ちゃんと犬は理解する。
自分でトレーニングできそうにないと思ったら、早めにトレーニングのプロに相談すること。ただし、最近の日本のトレーナーは小型愛玩犬しか扱えない人もいるので、トレーナーを探すときはグレピかそれに類するマスティフ・タイプの超大型犬の経験があるかを確認した方がよい。グレピ・ファンシャー同士のネットワークで、トレーナーを探すのも有効だ。
とにかく忘れてはならないのは、この犬は
オオカミやクマとも対等に闘える精神力と牙を持っているという点 。警戒心・攻撃心を秘めることがこの犬の任務であり、才能なのである。つまり、この強さが間違った方向に発揮されてしまうと、非常に深刻な大事故になることは容易に想像がつく。犬の攻撃性は、小型犬であろうが超大型犬であろうがサイズに関係なく飼い主がコントロールできなければいけないけれど、残念ながら日本ではまだまだ犬への理解度が低いこともあり、大きな犬に対して過剰な恐怖心を抱いている人は多い。大きな犬を飼養するということは、社会的責任が大きくなるのだ。また当然相手に与えた恐怖やケガが大きければ大きいほど、万が一の事故の際の賠償責任も高額になる懸念もある。
ただ「白くて大きくて可愛い」「名犬ジョリイの犬だから、みんなに自慢したい」などという気持ちで飼える犬ではない。本気で覚悟をして、本気で勉強して、本気で自分の体力もつけて、経済力も蓄え、住環境などを整えた上で、この素晴らしき犬を迎えていいかどうかをよくよく検討してほしい。
動物病院やトリミングサロンで断られる心配あり
カットは必要のない犬種なので、シャンプーは自分でできる。けれど、頭からお尻までが120cmを超えるような巨体の持ち主。小さなお風呂場で洗うことは厳しい。また体表面積も大きいので、洗うのもけっこう時間がかかる。
トリミングサロンにお願いすると、サイズが大きいだけにシャンプー&ドライだけで2万円前後はかかるだろう。お金を払えばなんとかなるならよいけれど、この犬の入るサイズのシンクがなければお店側から断られる。というか相当に大きなシンクが必要なので、むしろ断られる店の方が多い気がする。超大型犬の扱いになれたサロンが近くにあればラッキーだ。
犬の老後を考えても、超大型犬の長毛種は、下痢や尿漏れなど下の世話で毛が汚れたときの日々のケアも想定しておいた方がよい。
あまりの大きさのために断られるのは、トリミングサロンだけではない。動物病院でも、診察台に乗らないから診察を断られることがあるそうだ。なんとか治療はしてもらえても、犬舎(ケージ)がないために入院はできないと言われることもある。
また超大型犬を治療した経験不足を理由に断られることもあると聞く。経験がないのに無理して麻酔や手術をして死亡事故になるほど辛いことはないので、ある意味治療拒否されるのはお互いのためかもしれないが、とにかく超大型犬は日本では特別な存在となることがあるので、まずその心の準備はしておいた方がよい。子犬期こそすぐ下痢したり、免疫が低くて病気になりやすかったりするので、子犬を迎える前から、近所に超大型犬の治療も引き受けてくれる動物病院があるか、事前に下調べしておく。ブリーダーやファンシャーから情報を得ておくことも大事だ。
このページ情報は,2015/12/07時点のものです。
本犬種図鑑の疾病リストは、AKC Canine Health Foundation、Canine Cancer.com、Embrace Insurance “Pet Medical Conditions”などを筆頭に、複数の海外情報を参考にして作られています。情報元が海外であるため、日本の個体にだけ強く出ている疾患などは本リストに入っていない可能性があります。ご了承ください。
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