歴史
バーニーズ・マウンテン・ドッグ(以下、バーニーズ)の歴史を考えるときには、前後2ステージに分けて考えるべき。19世紀後半にほぼ絶滅しかかってほかの犬種に吸収されそうになったが、その後熱心なファンシャーにより復活されたのだ。
そもそもバーニーズは、
ロットワイラーと先祖が同じとされる。ローマ時代に、ローマ軍が長い遠征に出るときに一緒にウシの群れも連れていて、その家畜の護衛用にマスティフ・タイプの犬が同行された。そのときの犬が、両犬種のご先祖である。ローマ軍と共に、スイス側からアルプス山脈を越えてやってきて、ドイツのロットヴァイル地方で土地犬と自然交配して生まれたのがロットワイラーで、スイス・アルプス側で発展したのがバーニーズなどのスイス・マウンテン・ドッグ&スイス・キャトル・ドッグなのだ。
ロットワイラーと同じグループ2に含まれるスイス・マウンテン・ドッグ&スイス・キャトル・ドッグは4犬種で、スイス・ゼネンフントと呼ばれる。ゼネンフントとは「農場の犬」の意味。皆スイスの山村のファーム・ドッグ(農場で飼われていた犬)だ。ウシを追ったり、農場の番犬をしたり、ミルクを乗せた台車などを牽引する仕事をしていた。毛の長さは違うしサイズも異なるが、
毛色がトライカラーというのが共通点。スイス・ゼネンフントを大きい順に紹介しよう。
グレート・スイス・マウンテン・ドッグ(Great Swiss Mountain Dog)
- 原産国名:グローサー・シュヴァイツァー・ゼネンフント
- Großer Schweizer Sennenhund
großer(グローサーと読む。「大きい」の意)、schweizer(シュヴァイツァーと読む。「スイスの」の意)、ゼネンフント(農場の犬)。4犬種の中で最も体高が高い短毛種。遺伝的にロットワイラーと近い。長毛種のバーニーズとは、コート(被毛)の長さだけではなく、気質も異なる。番犬気質がより強く、自立的で、しつけるのは技術を要する。ロットワイラーと遺伝的に近いとされるのも納得だ。トライカラーの短い毛で、一見するとバーニーズの毛の短いタイプかと思えるが、そうではない。ヨーロッパに広く存在していた大型犬タイプの山岳犬/牛追い犬に近く、ガードドッグのような剛健さを持つ。
バーニーズ・マウンテン・ドッグ(Bernese Mountain Dog)
- 原産国名:ベルナー・ゼネンフント
- Berner Sennenhund
2番目に大きいのがバーニーズだ。4犬種の中で、このバーニーズだけが長毛種。ちなみに「バーニーズ」は「ベルナール」の英語読みで、ベルナールはスイスのベルン市(Bern)が由来だ。
アッペンツェル・キャトル・ドッグ(Appenzell Cattle Dog)
- 原産国名:アッペンツェラー・ゼネンフント
- Appenzeller Sennenhund
アッペンツェルは地名。4犬種の中で二番目に小さく、大きめの中型犬ほど。オーストラリアン・シェパードやビアデッド・コリーくらいのサイズ。短毛種。この犬だけ、黒&タン(黄褐色)&白のトライカラー以外に、レバー&タン&白のトライカラーもいる。
エントレブッフ・キャトル・ドッグ(Entlebuche Cattle Dog)
- 原産国名:エントレブーヒャー・ゼネンフント
- Entlebuche Sennenhund
エントレブッフ・マウンテン・ドッグとも呼ばれる(エントレブッフはスイスの村の名前)。4犬種の中でもっとも小さく、柴と紀州の間くらいのサイズの中型犬。ちょうどいい手頃なサイズに思えるが、牛追いとして機敏で活発でハイパーな犬なので、家庭犬としては非常に手ごわい。短毛種。
さて、スイスの4種のゼネンフントを紹介したが、2015年末現在、この中でJKCに登録されているのは、バーニーズとグレート・スイス・マウンテン・ドッグのみ。とはいえ、2014年の登録頭数は、グレート・スイス・マウンテン・ドッグは1頭。バーニーズは1463頭だ。
近年人気が定着している印象のある
イタリアン・グレーハウンドの登録は1776頭。バーニーズは東京都心ではそれほど道を散歩しているところに遭遇しないが、イタグレ並みに人気があるらしい。ちょっとびっくり。県別の人口(犬の数)などのデータもあるのなら、どの県でバーニーズが多いのか、知りたいところだ。
グレート・スイス・マウンテン・ドッグは、2013年にポーランドから日本初上陸したようで、まだ日本にはおそらく2頭ではないかと思われる(個人輸入した犬もいるかもしれないが)。それに比べてバーニーズは、スイス・ゼネンフントの中では(日本では)圧倒的に数が多く、ポピュラーな人気を博している。
バーニーズがJKCに初めて登録されたのは1987年、ちょうどバブルの頃だ。珍しい大型犬/超大型犬が、こぞって日本に渡ってきた時期である。ちなみにバーニーズがヨーロッパからアメリカに渡ったのは1926年、AKCに公認されたのは1937年とのこと。
日本に渡来して割とすぐ、何がきっかけだったのかは分からないが、バーニーズはいっとき日本でも人気が高まり、犬雑誌の漫画連載の主人公に抜擢されたりして、今より多く見かけた時代があったように思う。バブルが終わり、経済が低迷してくると大型犬人気も落ち着くので、バーニーズのような大きな犬は、今は本当のファンシャーだけが愛好している時代に突入したと思われる。
さて原産国のスイスでは1800年末まで、バーニーズは農場の犬として普通に存在はしていたものの、注目されることはなかった。イギリスで始まったドッグショーのブームで、ヨーロッパのそれぞれの土地の純血種に目が向けられた1870年ごろには、黄色の頬を持つスイス・ゼネンフント達はほとんど絶滅しかかっていたという。わずかに残っていたトライカラーの番犬&牛追い犬で、ロング・コートの犬を集めて存続させたらしい。それが1890年代の話だ。
ドイツ語の資料によるとバーニーズは、スイス・ベルンの南方にあるシュヴァルツェンブルグ(Schwarzenburg)地方の農家の犬とある。どのくらい古くからいるのか誰にも分からないそうだ。 この地方にはDürrbach(デュルバッハ)という川が流れていることから、この3色の農家の犬を「Dürrbachhund」(デュルバッハフント)あるいは「Dürrbächler」(デュルベヒラー)と呼んだ。
1899年に犬学協会BERNAがベルン州に創立され、1902年にショーを開催したときに3頭のバーニーズが出た。その後、1904年にベルンで開かれた国際ドッグショーでは6頭のバーニーズが出陳し、そのうち4頭は賞を取り、スイスのスタッドブックに登録された。これによりブルグドルフ地方においてバーニーズは犬好きから注目を受け、純血管理を行うようになったとのことだ。
1907年、ブルグドルフのブリーダー達は犬をルツェルンのショーに出し、スイス畜犬協会の会報誌にてその報告がなされた。 同年11月にはSchweizer Dürrbachklub(スイス・デュルバッハクラブ)がブルグドルフのブリーダーたちによって創立され、翌年にはスイス畜犬協会の25周年記念ショーにおいて22頭のバーニーズが出陳した。
それまでバーニーズは、昔どおりDürrbachhund(デュルバッハフント)の犬種名でショーに出てスタッドブックにも登録されていたが、1913年にスイス畜犬協会からの要請により、Dürrbachhund(デュルバッハフント)から「Berner Sennenhund(ベルナー・ゼネンフント)」へと改名された。しかし、ベルンの人達にとっては、いまでもDürrbächler(デュルベヒラー)のままであるそうだ。
バーニーズはいまや農場の犬から世界へ飛び出し、優しくほがらかな良き家庭犬として、また漆黒と鮮やかなタン(黄褐色)とそれを際立たせる白のトライカラーの美しい長毛のショードッグとして、欧米諸国でも継続して人気のある犬である。
外見
ジェット・ブラック(漆黒)&リッチ・タン(濃い黄褐色)&クリーン・ホワイトの3色に彩られた、ブラック&タン&ホワイト・マーキング(トライカラー)の長毛種。
もう少し詳しく書くと、頭部や胴体の上側は、黒々と艶のあるジェット・ブラック(漆黒)。そして、あとの2色のマーキングが入るところは以下のとおり。
<リッチ・タンのマーキング>
・頬
・目の上
・すべての四肢
・胸の一部(白と黒の間に少し)
<ホワイトのマーキング>
・頭部には左右対称で。
ブレーズ(両目の間から鼻梁まで、顔の真ん中を通る白いライン)は、そのままマズル・バンド(マズルをぐるりとまわる白)と合流する。ホワイトのマズル・バンドは口の端を過ぎてはならない。またブレーズは、目の上の麻呂眉のようなリッチ・タンにかぶってはならない。
・喉や胸。適度に幅広く、途中で途切れてはならない。
・さらに理想をいえば、ホワイトの足。尾の先端にもホワイト。
・うなじにある小さな白斑、肛門にある小さな白斑は許容される。
(スタンダードにはホワイトの足としか書かれていないが、いろいろな写真などで調べてみる限り、ホワイトは足先に入る。足は、上の方が黒、中間にタン、そして丸い小さな白い靴を履いているようにホワイトが入るのが理想だと思われる)
ちなみにスタンダードに表記はないが、しっぽの毛の色が気になって調べてみたところ、通常は全体が黒で、先が白、さらに肛門近くがタンの配色である。しっぽの先端まで黒いものもいる。
色と配色のパターンに関して「欠点」として細かなルールがあるのも、バーニーズの特徴だ。まず配色において欠点とされるものは以下のとおりである。
・頭部にホワイトがないもの
・大きすぎるブレーズや口の端を明らかに過ぎたマズル・バンド
・うなじの大きな白斑(直径6cmを超えるもの)
・肛門部の白斑(最大6cmまで)
・ホワイトのカラー(襟巻きのように首を白が一周しているもの)
・頭部や胸にある左右非対称のホワイト・マーキング
・前肢にある白が、接地面からパスターン(中手。上のくりくりした肉球のような手根球のところまで)の真ん中を越えているもの。つまり、小さな丸い白い靴ではなく、白いブーツのようになっているもの(茶色いブーツでつま先部が白いのがよい)
・本来は白い胸に、黒の小斑(ティッキング)やストライプがあるもの
・汚れ白(色素形成の強い斑点)
・漆黒のはずのブラックに、わずかにブラウンかレッドの混じったもの
色に関してはかなり細かいルールが多い。ドッグショーに勝ち残ってきたバーニーズを観戦するときは、ばっちり左右対称のきれいな犬ばかりだが、外国の写真などを見比べると、たしかに頭部のホワイトが左右非対称だったり、マズル・バンドの大きさがまちまちだったり、足先のホワイトが長靴下になっていたり、いろいろなバーニーズがいることが分かる。もちろん家庭犬としては何の問題もないが、次世代を担う子犬を残す繁殖犬としては外したほうがよい、ということだ。
そして色の「失格」(=バーニーズとして血統書が出ない。繁殖犬として使えないもの)は、
・トライカラー(3色)以外の被毛
・被毛の主要の色がブラックではないもの(=黒の範囲が狭いもの)
ついでに、片目または両目がブルー・アイのもの(ウォール・アイとも言う。片目がブルー、片目がブラウン)も失格だ。
現在、日本のインターネットで子犬を売買するための情報サイトでは、「ブラックラスト」や「ブラックラスト&ホワイト」という表記で売られているものもいる。ラスト(rust)とは錆びのことで、その名のとおり錆色/光沢のある赤茶色のことらしい。そこでアメリカのAKCのスタンダードを調べてみると、そちらではBLACK RUST&WHITE(ブラック&ラスト&ホワイト。つまり黒&錆色&白)と、BLACK TAN&WHITE(ブラックタン&ホワイト。つまり黒&黄褐色&白) の2つの色がよしとされている(後者のみFCIと同じルール)。
さらにびっくりしたのは、望ましくはない毛色/理想ではない毛色ではあるが、ミスカラーや失格とまではいえない色として、BLACK&RUST(黒&錆色。つまり白なし)、BLACK&WHITE(黒&白。ボーダー・コリーのような色なのか?)、RUST&WHITE(錆色&白。つまり黒なし)をも許容している点だ。いろいろ探してはみたが、トライカラー(3色)ではないバーニーズの画像はそう簡単に見つからなかったので、アメリカでもそれほど数はいないのかもしれない。ブラック&タン&ホワイト・マーキングの犬を作出するうえで、ときどき2カラーの犬が生まれることもあるということだろうか。
繁殖に使う犬としては推奨されないが、家庭犬として飼うのならこちらも問題はない。ただ、繁殖屋や販売業者が、逆に「レアカラー」などと珍重して販売文句にするかもしれないので、そこは注意が必要だ。繰り返しとなるが、国際標準のFCI基準では、ブラック&タン&ホワイトの1カラーのみしか認められていないことを知っておこう。
毛の色についての話が長くなったが、毛質はご存知のとおり長毛である。光沢があり、直毛か、あるいはわずかにウェービー。明らかにカールしている被毛は欠点となる。また短い被毛で、ダブルコートではないものは失格。
次に体格について。バーニーズは国際的には「中型より大きめ」と言われる。日本人にとっては十分大型犬であるが(日本では、小型犬、中型犬、大型犬、超大型犬の4段階か、超小型犬もくわえて5段階で表現されることが多い)、世界では犬種サイズは3段階(小型犬、中型犬、大型犬)なので、バーニーズは中型犬より大きめに入るのである。日本標準で言うならば、バーニーズは大型犬(
ゴールデン・レトリーバーなど)より大きめで、超大型犬(
グレート・ピレニーズなど)ほど大きくはない、というと分かりやすいだろうか。
体高は、
オス:64〜70cm(理想サイズ:66〜68cm)
メス:58〜66cm(理想サイズ:60〜63cm)
オスの方が一回り近く大きい。ちなみに系統的に近い
ロットワイラーの体高はオス:61〜68cm(理想サイズ:65〜66cm)、メス:56〜63cm(理想サイズ:60〜61cm)なので、ほぼ同体格である。ただロットワイラーは短毛種、バーニーズは長毛種なので、バーニーズの方が大柄に見える。バーニーズを濡らすと、ロットワイラーと同じくらいになるはず。
スタンダードに体重表記はないが、オスで40〜55kgくらい、メスで32〜45kgくらいだ。ロットワイラーのスタンダードで記されている体重は、オス:50kg、メス:約42kgなので、体重的にも同じくらいといえる。
ただバーニーズは、ファンシャーの話によると、性成熟するのに時間がかかるという。胸幅が厚くなり、どしっとした完成された体格になるのは5歳ごろだと言う人もいた。たしかに2〜3歳のバーニーズはまだ体も心もお子ちゃまっぽいところがある。ちなみにファンシャーの間では「性成熟していないのに繁殖させると、親より大きな子にならない」という経験則があるそうだ。
にもかかわらず、お金儲け主義の“自称ブリーダー”やパピーミルだと、こんな大きな犬に5年間もタダメシを食わせるつもりはないため、1歳やそこらから繁殖に使う。そのせいだろうか、一時的なブームの頃のバーニーズは、ゴールデン並みに小さいサイズの犬が多かった。
今ではブームも落ち着いているので、そんな事態は収束していると願いたいが、やはりまだインターネットでは安易に売買情報が流れ、子犬を“うっかり”買えるシステムのままだし、いまだにホームセンターなどのペットコーナーでバーニーズの子犬が窮屈そうにケージに入れられていることもある。親犬のサイズが自分の目で確認できない買い方だと、スタンダードから大きく外れた犬に成長する可能性は高い。
また、話はサイズだけでなく、重要な比率というものもある。犬種スタンダードには、「体高:体長=9:10」「理想的な胸の深さの比率は、体高:胸深=2:1」とある。ほかのマスティフ・タイプの犬は胴が長いことが多いが、バーニーズの場合はボディ全体がコンパクトに詰まっている。また胸の深さが貧弱でもいけないし、足が長めのひょろ長い体型でもいけない。
頑丈な頭部であるが、大きすぎもよくない。スカルは、前から見ても横から見てもわずかに丸みをおびている。鼻や唇はブラック。スプリット・ノーズ(左右に分かれて見える鼻)は失格となる。
噛み合わせは、シザーズ・バイト(口を閉じたとき、上顎の切歯が下顎の切歯にわずかに触れる、ハサミのような咬み合わせ)が基本だが、ピンサー・バイト(レベル・バイトと同義語。上下の切歯の端と端がきっちり咬み合う咬み合わせ)は許容される。目の色は、ダーク・ブラウンのアーモンド型。ゆるい眼瞼は欠点となり、眼瞼内反、眼瞼外反は失格。
ボディのトップラインは、首からキ甲(肩の最高点)にかけてなだらかに下り、キ甲の後ろからは真っ直ぐ、平ら。反ったり、腰に向かって下がってはいけない。
胸は広く深く、肘まで達している。そこに豊かな白い毛が覆うので、ますます立派に見える。バランスのよい体型、鮮やかな3色、そして自信に満ち、いつでもごきげんさんな様子は、この犬の魅力だ。
毛色
まとめ
優しく明るいよき家庭犬だが、咬傷事故も起きている。覚悟して迎える
大きな犬だが、性格はほがらかで陽気、若いときはイタズラ好きでお茶目な面もあり、欧米でよく見られる家庭犬。対人・対犬ともにフレンドリー、あるいはあまり気にしないタイプで、いざこざも起こしにくい。バーニーズの天真爛漫さ、寛容さに惹かれ、バーニーズばかり数頭飼っているおうちもあるし、バーニーズと他犬種(
ゴールデン・レトリーバーや
グレート・デーンなど)と一緒に暮らしているおうちもある。スイス・ゼネンフントの4犬種の中で、バーニーズだけが世界中でコンパニオンとして愛されているのは、3色の長毛の美しい姿と、適応力に富んだ性質がセットになっているからだろう。
本来のバーニーズの気質が備わった犬なら、子どもにも優しく、任せて安心。他人に対して攻撃心をむき出しにするような犬ではない。しかし、世界的に人気犬種となり乱繁殖が行われてしまったせいなのか、あるいは、もともと昔からそういう血統があったのかもしれないが、ときに攻撃性の強い個体がでる。そういう犬は繁殖犬として失格だと犬種スタンダードにも明記されているのだが、確実に繁殖ラインから外されているかどうかはいまの日本では分からない。
また過度にシャイな性格、おどおどした性格も、臆病さが転じて噛みつくことがあるので繁殖犬としてふさわしくない。シャイな小型犬が咬むのももちろん問題だが、バーニーズのような大型犬ともなると「狂暴な大きな犬に襲われた」と社会的責任が倍増する。小型犬でも正しい訓練は必要だが、大型犬、超大型犬となると失敗は絶対に許されない。気やすく迎えていいわけはない。
とくに2014年には立て続けに、バーニーズの咬傷事故が相次いだ。
・2014年2月、福岡県朝倉市の筑後川河川敷で、バーニーズ3頭を放して運動させていたところ、そのうちの1頭(性別不明)が、近くを歩いていた女性と、その孫の小学2年の女児、幼稚園児の男児の顔などを咬み、子どもたちが入院するほどのケガを負わせた。孫を助けようとした女性も足などを咬まれ、軽傷を負った
・2014年5月、福岡県北九州市で、飼い主の留守中、自宅のサッシ窓の錠をバーニーズ(性別不明)が自ら外して外に逃げ出し、近くの駐車場で女性に噛みつき、両腕に2か月の重傷を負わせた
・2014年9月、和歌山県御坊市で、自宅近くの広場でノーリードで遊ばせていたメスのバーニーズが、近くで遊んでいた小学2年の女児の顔などに噛みつき、左目の裂傷や左腕骨折の重傷を負わせた
大型犬を愛する多くの愛犬家たちは、これらのニュースを聞いて「あの優しいバーニーズが!?」と驚くとともに、犬種に関係なく飼い主の責任を痛感し、社会の脅威になってはならないと強く肝に銘じたことと思う。
バーニーズの名誉のために何度でも言うが、本来の彼らは、心優しく、天真爛漫で、フレンドリーないいヤツである。取材で数多くのバーニーズに会い、撮影し、隣で飼い主と長話をしたりしてきたが、17年近い取材生活で、攻撃的なバーニーズには一度も会ったことがない。幼児と一緒に暮らしているバーニーズも多くいる。猫やほかの動物と仲良くやっている家庭もある。バーニーズばかりを2〜3頭多頭飼育しているファンシャーも意外と多い。それだけ問題も少なく、こんな大きな犬なのに複数飼いたいと思ってしまうくらい、のんびりした犬だということだ。
実際、複数いても大丈夫な、言うことをよく聞く安定した性格の犬である。動きもゆったりで、長距離散歩は得意だが、全速力で走りたいと騒ぐ犬でもないから、慣れた人なら高齢者でも扱える(ただし3歳くらいまでは超やんちゃ)。なぜそんな気の優しいバーニーズが、咬傷事故を起こしてしまったのか、いまも信じられない気持ち。
しかし、事実として立て続けに咬傷事故が起きたとなると、攻撃性の高い血統が日本で繁殖されているのではないかと疑うし、軽い気持ちでノーリードにしてしまった飼い主の危機管理能力の低さにも問題があると思う。
もしも日本で攻撃性の高いバーニーズが増えているとしたら、由々しきことである。世界のバーニーズ・ファンシャーにとっても許せない、不名誉なことだ(ただし欧米でも一時期、突如攻撃する犬が増えた。過去の失敗を繰り返してはならない)。真のブリーダーであれば、攻撃性のある血統は必ずラインからはずし、その気質を後世に残さないように務める。それがこの犬種の未来のために不可欠なことだ。
飼い主側にできることは、バーニーズと平穏に暮らしたいと願うなら、正しいブリーディングに本気で取り組むブリーダーを本気で探すことと、そういう、バーニーズの未来のために頑張っているブリーダーを応援すること。自分が子犬を譲り受けるときは、親犬や親戚犬に直接会い、外貌の美しさだけでなく、気質の確認を行うことが重要である。攻撃性の高い犬を自分で飼うということは、賠償責任を含んだ、経済的/社会的な責任が大きくのしかかるということなので、おろそかにはできない。
攻撃性、臆病さのない健全な心を持つ子犬と無事に出会えたのであれば、次は社会化トレーニングを始めとした正しい訓育を頑張ろう。バーニーズは、若犬期に威張るようなそぶりを見せる反抗期がくるかもしれないので、飼い主が一貫した主導権をもつ必要もある。でも人が大好きで、飼い主とよくコンタクトをとる犬なので、オビディエンス(服従訓練)も得意。機敏にコマンドに反応し、すばやく行動するタイプではなく、のんびりのほほんとしているように見えるが、ちゃんと次に自分がするべきこと、飼い主に望まれていることは分かっている。
ただし、大型犬〜超大型犬くらいのビッグサイズだし、
ロットワイラーの親戚筋の犬なので、アゴの力は本気を出したら強靱。犬は犬なので、優しいジェントルなバーニーズであっても「100%うちの犬は大丈夫」と油断することなく、気を引き締めて管理することが欠かせない。
たとえば普段は人間を攻撃するなんて考えられない犬だったとしても、雷など何かに驚いてひどく興奮したときなどは、パニックになってどんな行動にでるか分からない。また悪気はなくとも、食いしん坊のあまりに人間が手に持つ食べ物をバクリを奪おうとして、結果的に手に「噛みついた」「大きなケガを負わせた」ということもありうる。そうならないように日頃のトレーニングが大事であるが、とにかく油断はしないこと。またどの程度の性差があるのかよく分からないが、小さめのメスでも軽視せず、きちんと訓育しよう。
ちなみに、前述の福岡県朝倉市の事件では、咬傷事故を起こした1頭は、「犬は駆け付けた救急隊員らが取り押さえた際に死んだ」と報道にある。どのような状態で死亡に至ったか詳細は不明だが、他人にケガを負わせたことは重大な過失であることに間違いなく、ケガをされた人の恐怖や痛さを思うと軽々しいことは言えないが、仮にこの犬が普段はそんな攻撃性の欠片もないような犬だったとしたら……これは死んでしまったバーニーズにとっても飼い主にとっても不幸な事件である。愛犬を守るためにも、飼い主は人に迷惑をかけない正しい飼い方をしなくてはいけないと強く思う。
短命な犬。遺伝性疾患も多い
出典が明らかではないのだが、バーニーズの寿命について、“生後3年で若犬、3年経ったら良犬、その後3年で老犬になり、それから先は神からの贈り物”という諺がスイスにあるという。つまり天寿は9歳くらいということか。一般的には、超大型犬になるほど寿命は短いというのが通説。でもいまは獣医療も日進月歩で進んでいるから、昔よりどんどん長生きの犬は増えている。
しかし日本のファンシャーによると、バーニーズの寿命は平均6歳くらいだと言う。早ければ4〜5歳で死んでしまうこともあるらしい。これはあまりに早いお別れだ。
死因はガンが多い。2頭に1頭はガンで死ぬ、と言われるくらい。しかし国際的な文献だと、バーニーズに多い疾患はガンは骨肉腫しか掲載がない。にもかかわらず、日本でなぜこれほどガンが多いのか。とくにバーニーズでよく聞くのは、悪性組織球症というタチの悪いガンである。これは発症後平均2か月くらいで死亡すると言われる、進行が早くて、助かる見込みの低いガンだ。
考えられるのは、日本の数少ない遺伝子プールの中で(ショードッグのチャンピオン犬などの優秀な犬に)ガン体質のものがいたという可能性。日本という限られた島国の閉鎖的な環境下で、同血統の子孫が増えていったため、数年後爆発的に日本でガンのバーニーズの存在が表面化したのかもしれない。
やはりこれは良識のあるブリーダーが、ガンを淘汰するよう、繁殖管理を使命感を持って頑張るしかない。6歳の寿命というのは、あまりに短く、あまりに辛い。普通の犬の寿命の半分くらいではないか。なるべくガンにならない家系を確立し、長生きするバーニーズを作出するよう頑張ってほしい。
またバーニーズの骨関節の遺伝性疾患として、これまた国際標準では、股関節形成不全しか掲載がないのだが、日本では肘関節形成不全の犬も多い。そして遺伝性かどうかはっきり分からないが、家族性が報告されている離断性骨軟骨炎という病気にもなりやすいらしい。これも前述のガンと同じく、日本に輸入されたバーニーズの中にその病気の遺伝子を持つ犬あるいは体質の犬がいて、その家系をどんどん繁殖させてしまったから、孫子にその病気が多発したと考えられる。
股関節形成不全や肘関節形成不全については、繁殖犬として適格かどうか、レントゲンを撮り、検査機関に送り、評価を受けることができる。もし異常が見つかった場合は、残念だがどんなにタイトルをたくさん持っている犬だとしても、その犬は繁殖ラインから外す。そうした取り組みを続ければ、遺伝性疾患を淘汰に近づけることができる。長い目でみれば、それこそがバーニーズという犬種の未来を守ることになり、そしていつかバーニーズを飼ってみたい人のためになる。そういう予防・対策をきちんとしているブリーダーを探そう。反対に、繁殖犬の事前検査をすることもなく、ましてや遺伝性疾患について勉強もしていないような繁殖屋(自称ブリーダー)や親の健康状況が把握できないショップからの入手はリスキーだ。
さらに言うと骨関節の病気は、痛がったり、足を引き摺ったり、歩行が難しくなっていくので見ているのも辛い。大型犬だけに介護も大変だ。女性一人や高齢者だけでは、抱きかかえることもほぼ不可能な体重なので、動物病院に行きたくてもクルマに乗せることすら苦労したりする。段差を越えることが厳しくなるので、生活環境の見直し、スロープの設置が必要になることもある。
また大型犬〜超大型犬は、日頃から小型犬に比べると獣医療費が高い(投薬は体重換算なので)。そのうえバーニーズは、ガンや骨関節などの病気、そのほか眼瞼外反、甲状腺機能低下症なども日本ではよく見られるので、人生(犬生)を通じ、獣医療費はたくさんかかる犬種だと覚悟して、経済的、体力的、時間的に余裕のある飼い主が望ましい。病後/老後のことも見据えて、この犬種を迎えるかどうかよく熟考しよう。
3歳くらいまでは超やんちゃ!
でっかいくせに、自分のサイズの自覚があるとは思えない暴れん坊気味の天真爛漫さ。とくに2〜3歳くらいまでは、すごいやんちゃで手を焼くケースが多い。3歳を超えて落ち着いてくれば、動きもゆったりしてくるが、とにかく若犬の頃のバーニーズは大変だ。悪気なく体当たりしてきて、飼い主さんが転倒して骨折したとか、リビングの家具を壊したとか、伝説は数知れず。本人(本犬)は暴れているつもりがなくても、とにかくいい意味でも悪い意味でも天真爛漫で大ざっぱ。日々のトレーニングの継続もさることながら、飼い主の忍耐力が試される。バーニーズに負けないくらい、大らかで、小さいことは気にしない飼い主さんの方がいい。
また、家庭内でふざけてはしゃぐ(=暴れる、とも言う)のは、運動不足、刺激不足が原因かもしれない。若いうちはとにかくエネルギーがダダ漏れ。タフな農場の犬だったのだから、近所を少し歩いたくらいでエネルギーが消費されるはずがない。長距離散歩を毎日2時間くらいすれば、疲れて少しはいい子になって、早寝してくれるかもしれない。ヤンチャ過ぎて、イタズラばかりで困ったときは、まず運動が足りているか、刺激が足りているかを見直してみよう。オビィディエンス・トレーニングのような、頭を使わせてみるゲームをさせるのもよい。頭を使うと、犬はけっこう疲れるものだ。適切なトレーニング方法が分からないときは、プロのトレーナーに相談してみよう。
また、重い荷車を引く作業犬としても使われていた犬なので、「引っ張る」のも得意。その調子で、飼い主をグイグイ引っ張ると大変なことになる。散歩中の悩みがあれば、飼い主が転倒してケガをする前に、これもトレーナーに矯正方法を早めに教えてもらおう。犬が悪いのではない。彼らは悪気などはない。ちょっと普通の犬より力持ちで、パワフルで、散歩が楽しみで楽しみで仕方ないだけ。でも、教えたら必ず分かってくれる犬だ。
ちなみにヨーロッパでは、この「引っ張る」才能を活かして、カート・スポーツ(荷車をひく競技)があるという。スピードを競うのではなく、いかに飼い主のコマンド(指示)どおりに荷車を引くかというオビィディエンス・スポーツとのこと。日本でもこういうドッグ・スポーツが上陸すれば、バーニーズのエネルギー発散の場となり、またトレーニングを通じて飼い主との関係が深まるよい機会となるだろう。
飼育放棄されるバーニーズが多い
日本における大型犬〜超大型犬サイズの中では、バーニーズは毎年登録頭数が多い方だ。ショードッグとして見栄えのいい犬種だから、ほかの犬種よりブリーダーが多いのかもしれないし、「一度バーニーズと暮らしたら、次もバーニーズ(しかも多頭飼い)」と固定のバーニーズ・ファンシャーがいるからかもしれない。
そういう本物のファンシャーなら、バーニーズのいいところも苦労するところも分かって迎えているから大丈夫だと思うが、実は、バーニーズは飼育放棄されることの多い犬種である。
犬を捨てる人の気持ちは分からないし分かりたくもないが、バーニーズの気質や体格や疾患の多さなどから推察するに、「子犬の頃はぬいぐるみのように可愛かったのに、こんなに大きくなるとは思わなかった」「こんなに力が強い犬は散歩に行けない」「イタズラばかりでリビングが壊される」「やんちゃ過ぎて、もう手に負えない。落ち着くまで待てない」「獣医療費がかかりすぎるから、もう新しい子犬を買った方が安い」「足を悪くしたため、介護が大変」「引っ越しをするが、次の住まいでは、こんな大きな犬は飼えない」などだろうか。
そうしたことを「想定外だった」と言って、捨てる理由にしないでほしい。飼う前にちゃんと調べれば、こうしたことはすべて当たり前の想定内のことである。飼い主が大好きな、可愛い天真爛漫なバーニーズを飼う前に、よくよく考えてから迎えてほしい。
スイス・アルプス出身。雪遊びは大好き、暑さには弱い。毛もよく抜ける
日本でも冷涼な気候の北日本や山岳地なら、屋外飼育も不可能ではないかもしれないが、とにかく夏の温度の高さだけでなく、湿度も問題。高温多湿な環境では、抜け毛もいっそう激しくなる。国際的に見て皮膚が弱い犬種というわけではないが、湿度が高いと皮膚が蒸れて、日本では皮膚炎になる恐れがある。梅雨時期から秋の長雨の頃までは、蒸れないように、しっかりブラッシングをして、よけいな毛を除去することが皮膚の健康を守るために必要だ。そうすれば室内に散らばる毛を減らすことにもなる。
毛の手入れは、ゴールデン・レトリーバーよりも少し手間がかかる程度。ピンブラシで毎日ブラッシングをする。豊富なダブルコートの下毛にホコリや葉っぱなどのゴミをつけて帰ることも多いので、散歩のあとは丁寧に取り除こう。とくに室内飼育をしているのなら、部屋に汚れを持ち込まないために必須。
また、耳の後ろ、脇、しっぽとお尻など、毛と毛がこすれる部分は絡みやすいので、よくとかす。こうした日々のひと手間が、いつもきれいでさっぱりとしたバーニーズに見えるかどうかの差となるのだ。なおシャンプーは自分でできる。厚いダブルコートなうえに大きいので、乾かすのは少々時間がかかるが。
また、これだけアルプス仕様の被毛ということは、犬の快適温度が、我々日本人とは大きく異なるということだ。彼らにとっては、
日本のゴールデンウィークはもう暑い。エアコン冷房は、すでにこの頃から始めないといけない。湿度の高い梅雨時期、気温の高い真夏は、24時間連日エアコンで冷やし、除湿をしてあげること。
冷房を切るのは11月の晩秋くらいらしい。人間が「肌寒くなってきた。そろそろ暖房を入れようか」というくらいの気温か、それより寒いのが、バーニーズにとっては快適温度。だから、暖房はほぼ不要である。よって飼い主さんは、家の中でもダウンの上着を着込むような生活を余儀なくされる。この快適温度の違いを我慢してでも、それでもバーニーズをはじめとする長毛マスティフと暮らしたい!と切望する強者の飼い主限定。
当然、熱中症にもなりやすい。夏、コンクリート敷きの場所につないでおくなど殺人(殺犬)行為である。車内に閉じ込めるなども言語道断。温度・湿度の管理は、油断なく行うこと。また車内でバリケンに入れると、自分の体温でバリケン内が熱くなり、これまた熱中症の危険が高まる。車内のラゲッジが狭くても同じ。犬がハアハアしてないか、よだれがいつも以上に多くないか、などをよく観察してほしい。バーニーズにとって、暑い季節の旅行や帰省などの移動も、制限が多くなるのでそのつもりで。
若いときは全力疾走もするけれど、長距離歩き散歩が得意
牧羊犬やガンドッグに比べて、体の作りおよび昔の仕事内容からして、野山や草原を1日中駆け回るタイプではないため、自転車引き運動のような長距離爆走は必要ない。また股関節形成不全など骨関節の病気の可能性がある犬でもあるので、過剰な運動もよくない。本人(本犬)の自由な意思で、ダッシュしたり、トロットしたり、立ち止まったり、休憩できる自由運動を取り入れるようにしよう。もちろん若い時期は体力があり余っているため、はしゃいだり駆けっこしたりもするが、5歳にもなればたいてい落ち着く。
ただ自由運動が大事とはいえ、日本ではノーリードにできる環境が少ない。幸いバーニーズは、ほかの犬がいてもあまり気にしないというか、ケンカが勃発することは少ないようなので、ドッグランを利用しやすい犬種ではないかと思う。大型犬〜超大型犬もOKの、なるべく広大なスペースを有するドッグランを探してみよう。そういう情報は、バーニーズ・ファンシャーが多く持っていると思うので、同犬種を飼養している犬友達を作るのが一番良い。
また、もともとの仕事を想像すれば分かるように、長距離歩いて移動することはとても得意。タフで疲れ知らずで、持久力系の運動はお手の物だ。ハイキングなどのお伴にもよい。ただし、骨関節の病気がある犬に無理はさせないようにする。また暑い季節のレジャーは熱中症対策もお忘れなく。