寒い冬が過ぎ、新緑が眩しい季節になると、やたらあちこちがエネルギーに満ちあふれて、人も動物もやる気にみなぎってくる。気候が暖かくなるにつれて草木や昆虫などの新しい命が生まれ、人間もなんだか心がウキウキして、そのウキウキついでに新しく犬を家族に迎える家庭も多い。
大型連休に行楽地などに行って犬と一緒に観光している人を見かけて、「私も犬が欲しい」「ああやって一緒に散歩したい」と思う人が増えるのもこのタイミングだ(ショップの売れ行きも保護犬の引き取りも春〜初夏にかけて多くなる)。
犬を迎える(買う)となったら、多くの人がすぐに頭に思い浮かべるのはペットショップだろう。まさに彼らは、この時期は“かき入れ時”だ。しかし今どき、犬を「買える」ところはペットショップだけでないということもちゃんと知られてくるようになってきた。いまの日本では、大きく分けて3つの方法があるので、順に紹介していこう。
誰か知り合いで新しく犬を迎えたいという人がいたら、ぜひその人に読んでいただきたい。
ブリーダーから入手する
スーパーやデパートなどで売られているほかの“商品”と同じように、ペットショップにいる子犬達は長時間の流通を経てそこに運ばれてきているわけだが、もしも子犬にそんなストレスをかけたくなく、「モノ」であるかのように売られるその姿に抵抗があり、良い状況で生まれた健康な子犬を欲しいと思うのならば、まずあなたがやるべきことは、ブリーダーを探して繁殖現場を訪れてみることだ。
これから10年以上にわたって家族となる犬が生まれた、繁殖現場の広さや衛生管理・雰囲気などの環境と親犬の姿を、自分の目で見ておくのは大事なことだ(見せてくれず、見せない理由が正当なものでない場合は、そのブリーダーはやめたほうがよい)。子犬が、ブリーダーと親犬からどれだけの愛情をかけられて生まれ、育ったかをひと目見るだけで、それを裏切らない覚悟が生まれる。
もし決まった犬種を望むなら、その犬種にどれだけの情熱を持っているかでブリーダーの質は決まるといってもいい。純血種というものは、その“犬種として決まった姿”を追求するために同じ犬種内で(限りある遺伝子を組み合わせて)交配しなければならず、そのためミックス犬(雑種)と比べると疾患が多い。疾患すらも遺伝しやすい状況にあるわけだ。
犬種としての健全性をどこまで追求できるかがブリーダーの情熱であり、健康で美しい犬を望むのであれば、ここは絶対に見落としてはならない点である。つまり、性質のかけ離れた何種類もの犬種を正しくブリーディングするというのは大変難しいことで、誰にでもできるようなことではない(というか普通は無理だ)。まずは、一つの犬種に情熱を傾けているブリーダーと話してみるのがよいだろう。
保護犬を迎える
「犬は子犬から飼わないと家族に馴れない」というのは都市伝説のようなもので、犬のことをよく知っている人であれば鼻で笑ってしまう程度の話である。子犬を育てる楽しさはもちろん大変に素晴らしいものだが、それと「家族に馴れない」というのはまったく別の話。犬が家族に馴れるか馴れないかは、家族の犬に対する態度で決まり、犬の年齢で決まるわけではない。
むしろ成犬の方が子犬のときの苦労がなく(単に可愛いだけではない! 大変な苦労があるのもまた、子犬から育てるときには避けられないことだ)、ある程度、人との生活などの経験を積んでいるので落ち着きがあり、ライフスタイルに合った犬を見つけることができる。
そんな「自分に合った性質の犬」を探すのにぜひ足を運んでみたいのが、動物愛護団体の運営するシェルターや愛護センターだ。シェルターや愛護センターでは多くの犬たちが毎日新しい家族を待っている。施設に入ると、姿も色も大きさも異なるいろんな犬が柵越しに吠えてアピールする声にびっくりするかもしれないが、1頭1頭ゆっくり見ると、なんとなくその犬の愛嬌が分かってくる。
週末には、これら新しい家族を待つ犬たちを連れた「譲渡会」と呼ばれるイベントが全国あちこちの場所で開催されるので、どんな様子かを見るだけでも、近所で開催される譲渡会を見に行ってみるのもいいだろう。もちろん譲渡会では、スタッフの人達が親切丁寧に犬の特徴や性格を教えてくれ、相談に乗ってくれる。
ペットショップで入手する
ショーケースに入れられた子犬たちの愛らしい姿が店内に並べられ、多くの人の目を集めている。ゴールデンウィークともなると、家族連れであふれかえる。そのかわいらしさに惑わされて欲しくなってしまうのは、どうしたって避けられない。
店では子犬のコロコロとしたかわいらしさを前面にアピールし、店員も客の興味を見逃さず「抱っこしてみますか?」と話しかけてくる(そしてそれに負けてしまう人も多い)。この小さくて愛くるしい子犬が、アッという間に大きくなって、10年も15年も、長きにわたってずっと一緒に暮らすことになるということを、その場ではなかなか考えにくい雰囲気でさえある。
子犬のスペースには、これまたかわいらしい子犬用のベッドと簡素なトイレが所狭しと並べられ、一見すると家の中でもそれほど邪魔になりそうにもないように見え、まるで手を煩わせることなく簡単に買えるかのような錯覚にすら陥ってしまう。
子犬のかわいさについてまったく異論はないが、それはこれ、これはこれ。10年以上にわたる犬との生活のために、衝動買いはとにかくよくない。「目があった!」とか「こっちに寄ってきた!」とか、そういうアクションに騙されては(?)いけない。単に、子犬が周辺環境に興味を持って行動した結果にすぎない。自意識過剰にならず、衝動的に物事を決めず、まずは深呼吸してこの先の15年についてよく考えよう。
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以上、大きく分けて犬の入手ルートは3つあるわけだが、いずれの場合も、犬選びはとにかく時間をかけよう。焦って迎え入れた犬と折り合いが悪いと気がついた時には、犬も家族も、みんなが悲しい思いをすることになる。
ショップの店員やブリーダーのうまいセールストークに惑わされたり、保護犬を可哀想に思って衝動的に引き受けたりせずに、気になる犬のところへ何度も時間と手間をかけて足を運びたい。「時間をかけているうちにほかの人にもらわれてしまった」ということもよくあるが、それは残念でもなんでもない。“本当に縁のある犬”なら、きっとタイミングが合うはずだ。そう思って、家族として迎え入れるまでに少しでも犬と心を通わせておくことは、何よりもその先の生活において良い影響を及ぼすのだから。