1969年生まれの佐久間氏は、2000年という節目の年にーーまさにインターネットが広く世間に普及して文化として華開こうとした年だーーWebでビジネスを始めることを目指して創業。その後、実店舗での展開を神戸店から始め、六本木、代官山、湘南と順調にその足跡を残してきた。GREEN DOGという販売店がここまで来たのは、ひとえに佐久間氏と、遠藤氏のようなスタッフ達の頑張りによるものだが、やはり佐久間氏の「ポリシー」を抜きには語れないだろう。
“数売ってナンボ”ではないその首尾一貫した姿勢と商品選びのポリシーは言うまでもなく、犬のQoLにまで踏み込んだサービス設計は、犬との健全な生活をもっと楽しみたいと思っていたユーザー層にぴたりと合致した。そんな、「いま飼われている犬達」を幸せにすることに成功しつつある佐久間氏の次なる野望は、殺処分ゼロをペット業界からアプローチして、「いま飼われていない犬達」をも幸せにすることだ。
その思想が垣間見え、かつそれがキチンと、店長である遠藤氏に伝わっていることが見てとれる談話を、ここに掲載しよう。
GREEN DOG公式サイト
GREEN DOG湘南公式サイト
dogplus.me(以下、dpm):
4店目の実店舗開店、おめでとうございます。昨日調べてて知ったんですが、店舗ってほとんど全部12月に開店してるんですよね。これって何か意味があるんでしょうか。
株式会社カラーズ代表取締役社長 佐久間敏雅氏(以下、佐久間氏):
よくご存じで(笑)。でも何も意味はないですよ、たまたまそうなんです。
dpm:
思わずカラーズ(GREEN DOGを運営する母体の会社)の決算月まで調べちゃいました(笑)。
佐久間氏:
なんか関係ありそうだ、って?(笑) まぁ真面目な話をすると、ここ最近の2店舗はT-SITEのオープンに合わせているので、ホントに偶然ですね。
dpm:
なるほど。確かにT-SITEには両方出店してますし、ということは当然、次の柏も出店……ですか?(編注:2016年秋には、千葉県柏市の「柏の葉」にT-SITEがオープンする予定)
佐久間氏:
いやあ、具体的にはまだ決まってません。
dpm:
千葉県の人はきっと期待してますよ。しかしGREEN DOGって元々Webが中心の販売店なんですよね。あんまり知られていませんが。
佐久間氏:
そうなんですよ……ってよく知ってますね(笑)。まぁビジネス規模の話であれば、今でもWebのほうが中心ですけど。
dpm:
元々はどちらを中心にしようと思ってたんですか?
佐久間氏:
創業時は実は“店舗”のほうが頭にありましたね。お店を開こう、って。とはいえ創業当時ですからそんなにお金もないですし、リスクの問題もありますし、なにより創業の2000年当時は、まさにこれからネットの文化が華開こうというタイミングでしたし。
dpm:
2000年当時は、確かにそうですね。まだWebもいまほど百花繚乱ではなかったですが、まさに“今からWebの時代が来るぞ”という空気がビリビリしているそういう時代でしたね。
佐久間氏:
ですよね。なので、そういう諸々の事情でネットから先に始めたんです。
dpm:
とはいいつつもう4店舗目です。神戸、六本木、代官山……と来て、この藤沢はGREEN DOGとしてはちょっと毛色が違う店舗に思えます。“都市部”ではなくて非常に自然に近しい位置にいるというか、いままでの3店舗に比べてもっと“身近な”イメージというか。こういう店舗にしていこう、というイメージは何かありますか?
佐久間氏:
今までも「その土地に合うお店作りを」というのは実は意識してやってきているんですが、なにせ私は田舎育ちなので……。
dpm:
何を言ってるんですか(笑)。
佐久間氏:
いやあ、湘南という言葉から想像するものがちょっと貧困なんですよね(笑)。でもまぁ、そうですね……街と自然がうまく交わって一体化していて、人々がゆっくりした時間を過ごしている、そんなイメージだったんです。
dpm:
なるほど、なんとなく分かります。
佐久間氏:
まぁ勝手な解釈なんですけどね(笑)。でも実際に来てみたら、あながち間違ったイメージでもなさそうだということで、ゆっくりした時間を過ごしていただけるような、そういう場所になればいいな、と思っています。
その時点で最良と呼ばれるフードは扱っておきたい
dpm:
品揃えなんかは既存店舗とはあまり変わりませんね。逆に安心ですが。
佐久間氏:
そうですね。あまり変えていませんが、より一歩、ナチュラルだとかオーガニックだとか、そういう方向での品揃えを今後強くしていきたいな、と。
dpm:
ということは、今後は新しいフードなんかも置かれることになるということですか。
佐久間氏:
そうですね。むろん鋭意検討を進めています。
フードもどんどん新しい商品が出てきますしーーって、もちろん新しければいいってものでもないんですが。でも新しい商品は、得てして最新の栄養学であったりとかそういうものが反映されていることもありますし、やはりその時点で最良と呼ばれるものは扱っておきたいですね。
dpm:
なるほど。
佐久間氏:
なんというか、そういう新しい良い商品を、私達が紹介していける立場でありたいな、と思ってもいます。
dpm:
世の中にはこんなに知られていないフードがあるのか……と、dogplus.meのデータベースを入力しながら思いました、確かに。
ありますよねえ。普通の方だと見たことも聞いたこともないようなフードも多いと思うんですよね。
dpm:
そういう中にも、良い製品は多くあるわけですし、そういうものが埋もれちゃうのはちょっともったいないですよね。
佐久間氏:
本当にそう思いますね。我々もがんばっていこうと思います。
dpm:
dogplus.meを作るときに、フード屋さんとご挨拶をすると「GREEN DOGに置いてもらえました」と誇らしげにおっしゃることも多くて、あぁGREEN DOGに置かれることはステータスなんだなぁ、と。
佐久間氏:
いやあ嬉しいですね。ありがとうございます。
dpm:
商品取り扱いを決めるときの「基準」って何か明確にあるんですか?
佐久間氏:
あそこに……。(と言って店に展示してあったボードを指す)
はい、あれは拝見しました。あれが基本的な考え方、ということですよね。
佐久間氏:
そうですね。実はあれ以上に遥かに細かいクライテリア(判定基準)がありまして、それを弊社の商品担当が、一つずつ吟味して、メーカーさんにも情報を開示していただきながらチェックしていくという手続きを取っています。
dpm:
その感じだと、だいぶ細かそうですね、その判定基準は。
佐久間氏:
かなり細かいですね。正直なところ、メーカーさんにもかなりのご負担をかける形になってしまうので、いつも感謝しております。
dpm:
資料だったり分析表だったり?
佐久間氏:
はい。ああだこうだと注文が多いんですよ(笑)。
犬を迎える選択肢として、“保護犬”を押していく
dpm:
さて湘南店の特徴はなんといっても「保護犬譲渡コーナー」ですが、ピースワンコ・ジャパンさんとの試みは、大変新しいチャレンジですよね。
佐久間氏:
お互いのやりたいことが完全に一致したので、トントン拍子で進んだ話なんです。かねてより、保護犬との出会いの場というものを、もっと人目に付く場所に作っていきたいと思ってまして。そんな中、ホントにたまたまこの湘南店の案件が持ち上がっていたので、これだ、と思ってお誘いした感じです。
dpm:
神戸のほうでもARKさんと里親募集会のようなことをやってますが、あれとはまた違った取り組みになりますね。
佐久間氏:
そうですね。やはり「常設」というのが一番大きいポイントだと思います。いつ来ても、保護犬がここにいるという状態。
dpm:
保護犬って、相当な気合いがないとやはり会いに行けないんですよね。そういう意味でこのチャレンジはすごく大きい意味があるなぁ、と。
佐久間氏:
買い物帰りにふらりと寄ってくれた人でも、「あぁ犬ってこんなに捨てられてるんだ……」とか認識を持っていただけると思うんです。それで犬を飼おうとしたときに、生体販売しているショップで買うだけじゃなくて、保護犬を迎えるという選択肢もあるんだ、と気付いてもらうためには、こういう場所にあったほうがいいですよね。
dpm:
小さな第一歩かもしれませんが、素晴らしい社会貢献ですよね。
佐久間氏:
これが定着すれば本当に嬉しいんですけど。
dpm:
実店舗に保護犬がいて会えるって、日本初の試みじゃないですか? 一部イオンペットさんで似たようなことをやってらっしゃいますが。
佐久間氏:
そうですね、日本初と言ってもよいのでは、と思っています。なにより「生体販売をやらずに保護犬だけを紹介していく」というのがミソかな、と。犬を迎える選択肢として“保護犬”を押していくという。
dpm:
確かにおっしゃるとおりですね。ここで結果が出れば、GREEN DOGさんのほかの店舗にこれを広げていくというのは難しいですかね?
佐久間氏:
いや、可能性はゼロじゃないと思いますよ。ただ、なにぶんあまりにも初めての試みなので、まずはここでの実績を作るのが先決ではありますが。
dpm:
非常に応援しています。ぜひ定期的に結果を教えてください。本日はお忙しい中ありがとうございました。
湘南店 店長の遠藤さんにも話を聞いてみよう
dpm:
店長就任おめでとうございます。遠藤さんって元々ドッグトレーナーですよね。いつごろからGREEN DOGで働いてるんでしょうか。
GREEN DOG湘南店長 遠藤和義氏(以下、遠藤氏):
入って6、7年くらい……かな? 2008年からここにいるのでそうですね、それくらいだと思います。最初は神戸の本社のお客様コールセンターみたいなところで、しつけとかの相談を受けてまして。週末だけ、神戸の実店舗でしつけ教室をやってました。
dpm:
で、代官山のオープンのときに参加してそこでもしつけ教室をやって……。
遠藤氏:
そうですそうです。
dpm:
端から話だけ聞くと、トレーナーの方が戦略店舗の店長をまかされるというのは、それなりに大きなキャリアのステップアップじゃないかと思ってるんですが、そのあたりってどうなんでしょうか。
遠藤氏:
うーん……。たぶんですけどね、単純に人材不足じゃないですかね。誰もいないし遠藤やれば? みたいな(笑)。
dpm:
いや、そんなバカな(笑)。
遠藤氏:
まぁ真面目な話をすると、これでも割と古株のほうですし、店舗経験もそれなりにあるから……なんだと思います。
dpm:
確かに店舗経験は大事ですよね。ここのほかのスタッフの方達はどんな感じなんですか?
遠藤氏:
まだ入って間もない感じですね、みんな。
dpm:
ということは、新たにこのあたりで新規採用したんでしょうか。
遠藤氏:
そうですね、横浜とか茅ヶ崎とかそのあたりを中心に神奈川県の方達を。
dpm:
本家……というと変ですけど、本社筋から来てるのは遠藤さん一人?
遠藤氏:
そうですね、そうなります。
dpm:
トリマーさんとかも盛大に募集かけてましたよね。
遠藤氏:
トリマーさんって、いま業界的に大変不足してるんですよね。新卒の方の応募はありがたいことに結構あるんですけど、いわゆる「技術者」としての場数を踏んだトリマーさんがなかなか見つからなくてですね。
dpm:
需要と共有のバランスが悪いんでしょうか。いやさすがにそれはないか。
遠藤氏:
詳しく調査してないのでハッキリとした理由は分からないですが、単純に時期が悪かったというのはあるかもしれませんね。トリマーさんにとってこの時期は“かき入れ時”ですから。
dpm:
あ、確かにそれはそうですね。この時期に移動する人はいないか。では腕に覚えがある方は、ぜひGREEN DOG湘南店に一報を、ということで。
遠藤氏:
はい、ぜひお願いします(笑)。
dpm:
あと、やはり遠藤さんが店長ですし、しつけ教室が期待されるところなんですが、それが店舗メニューに見えないのがちょっと気になってます。周りには1000軒もの住宅が建ち並ぶ予定ですし、ぜひともそこは。
遠藤氏:
スタート時はまだちょっと準備できてないんですが、ゆくゆくはやりたいですね。単に、場所がなかなか確保できないんですよ。店舗もこのとおり、そこまで広いわけでもないですし。
dpm:
まだそのへんに空き地いっぱいありますし、そのへんを使う……わけにはいかないか。そういえば、できると言われていたドッグランはどうなりましたか? 昨日(取材日前日の12月9日)の時点では情報がまだなくて、もしかして流れちゃったのかな、とちょっと心配だったんですが。
遠藤氏:
出来ましたよ。まさにいま準備を進めてまして、店舗の正式オープンと同時になんとかあけることができそうです。ギリギリ……なのでちょっと分かりませんが(笑)。
dpm:
あ、それならよかったです。(編注:12月19日時点では、まだ残念ながらオープンしていない模様。しかし「もうまもなく」とのことなので、近場の人は期待していよう)
遠藤氏:
ちょっとバタついちゃってたんですよね。フェンスは出来たけど水道が引けてないとかいろいろあって。
dpm:
なるほど。
dpm:
……なんだか急に店内が慌ただしくなってきたので、最後の質問をさせてください。湘南店を、どういうお店にしたいですか?
遠藤氏:
え。……すごく難しい質問ですね、最後に(笑)。
ええと、これは個人的な思いなんですが、動物福祉と、我々のような業界ビジネスを両立させていきたいと思ってるんですね。やはり日本の場合って、動物福祉と営利ビジネスというものは相容れないものというイメージが強いですし。
dpm:
確かにそうですね。本来その両者は共に影響しあって発展すべきだと思うんですが、お互いに触れてはならないタブーのようになってますよね。
遠藤氏:
ええ。そこは本当は両立できるんだ、という事実を作り上げていきたいです。むろんいきなり大きなことは難しいですし、最初の段階ではピースワンコさんに入っていただきましたけど、だからって「保護犬の里親を探してるから動物福祉なんだ」という簡単なものじゃなくて、我々のようなペットビジネスにいる者や、一般の飼い主さんも含め、そういう意識を高めていけるような、そういう大きなムーブメントにしていけるお店にしたいな、と思っています。
……って、取材ってなんだか緊張しますねえ。
dpm:
いえいえ。素晴らしい回答をありがとうございます! これからも期待しています。お忙しい中ありがとうございました。
*2014年12月10日収録*