広島の保護団体が、なぜわざわざ神奈川で拠点を作るのか、この活動を通して目指す先はどこなのか。短い時間のインタビューではあったが、そのあたりを聞くことができた。この規模の団体が何を目指して活動をしているのか、ぜひ目を通してほしい。また、本インタビューの2か月後には、長い時間を取っていただき、活動についてすみずみまで聞くことができた。そちらの記事も、合わせてお読みいただきたいと思う。
ピースワンコ・ジャパン公式サイト
ピースウィンズ・ジャパン公式サイト
犬を救うということ。犬を譲渡するということ(1)ーーーピースワンコ・ジャパンが語る、犬の保護譲渡活動
dogplus.me(以下、dpm):
なんかとてもお忙しそうにしているところにお時間取ってもらってすみません。よろしくお願いします。早速なんですが、ピースワンコさんって、東京にこういう拠点を作るのは初めてのことなんでしょうか。
ピースワンコ・ジャパン プロジェクトリーダー 大西純子氏(以下、大西氏):
そうですね。母体であるピースウィンズ・ジャパンの事務所はありますけど、犬の施設は初めてですね。
dpm:
ピースウィンズ・ジャパンはものすごい規模の団体ですが、その中の1プロジェクトであるとはいえ広島の団体が東京に拠点を作るって結構すごいことですよね。
大西氏:
今回、GREEN DOGさんとのご縁があり実現できました。
dpm:
広島にはいま何頭くらいいるんですか?
大西氏:
日々増えたり減ったりするので、“およそ”ですが、160頭くらいでしょうか。広島のキャパは200頭まで収容可能なので、まだちょっと余裕はあります。
dpm:
さすがに結構な数が受け入れ可能なんですね。次は牧場を作るとかお聞きしましたし。
大西氏:
あ、それは単なる牧場というわけじゃないですよ。「命をいつくしむ」ということをコンセプトにしたテーマパーク……いやテーマパークというとちょっと違いますね。子供達が体験学習をできる場を、ピースワンコ・ジャパンのシェルターがある公園内に地元のみなさんが作ってまして、それをピースウィンズも支援しているという形です。
dpm:
ピースワンコの理念にも通じる施設なんですね。
大西氏:
ええ。犬の命についてはもちろんですが、牛の命やヤギの命、植物の命……そういうものをいただいて自分達が生きているんだということを学ぶところを作りたいんです。ドイツのティアハイムに習って。
dpm:
なるほど、模範はティアハイムですか。
大西氏:
なので名前も「ティアガルテン」にしました(ティア=動物、ガルテン=庭/農園)。
若くて元気な子は神奈川の人に。終生面倒を見るべきだと判断した子は広島に
dpm:
GREEN DOG湘南にピースワンコの施設ができると聞いて最初に思ったのは「わざわざ広島から連れてくるのかな?」ということだったんですが、実際連れてきてるんですよね。
大西氏:
そうですね、みんな連れてきました。クルマだとちょっと長い道のりですが。あとは、私もそうですが、常時東京と広島を行き来しているスタッフがいるので、預かり手荷物として飛行機移動をしています。
dpm:
しかしなぜわざわざ広島から神奈川の店舗に? ピースワンコの本拠が広島にあることは重々承知しつつも、神奈川の店舗であれば、関東近郊の保護犬をまずマッチングしてほしいかな、と個人的には思ってしまうのですが。
大西氏:
確かにそこは疑問に思われるかもしれませんね。
いま神奈川県は、犬猫の殺処分が止まっているんですね。それはそもそもの収容数が少ないということもありますが、保護団体さんや個人のボランティアの方々ががんばってくださっているということが大きいと思います。
dpm:
お膝元の広島県はかなり芳しくない状況ですしね。
大西氏:
そうなんです。毎年処分数のワーストランキングに入ってるといいますから……。ですのでこういう言い方もちょっと変なんですが、神奈川の方々に少しご協力いただきたいと思いまして。
dpm:
協力、ですか。
大西氏:
私達が神奈川の皆さんに協力できることとしては、終生誰にも譲渡できず、面倒を見てもらえないであろう老犬であるとか、長期的な治療が必要な病気の犬であるとか、そういう犬達を広島に連れて帰り、私達の施設で終生暮らしてもらうようにすることがまず考えられます。
dpm:
一種の「バーター」ですね。
大西氏:
そうですね。若くて元気な子は神奈川の方に譲渡して幸せにしていただいて、なんらかの理由で里親さんを見つけるのが難しそうな子は、広々とした広島の田舎で(笑)余生をのんびりと暮らしてもらって、最後までキチンと見送ってあげたい、ということなんです。
dpm:
なるほど、理解できました。でもそういうバーターはいいですね。少ないリソースで、より多くの命がハッピーになれる気がします。
大西氏:
そう期待しています。神奈川県の動物保護センターの方にも素直にそのままお話をさせていただいていて、神奈川の団体譲渡登録に関しても、いま申請をしているところです。
引き出して保護するだけには留まらないさまざまな取り組み
dpm:
しかしそういうのって、団体さん同士でうまく話をつけて進められないものなんでしょうか。実は行政側と話を通したほうがすんなり進んだりします?
大西氏:
団体さんとのお話はこれからですね。私達も、まだあまりこのあたりの団体さんについてよく分かってないですし、知っている方も少ないので、まずは分かりやすい行政からと思いまして。また行政からは、協力団体さんをご紹介いただこうと思っています。
dpm:
私は他業種出身なので、怖いもの知らずで素直に聞いてしまうんですが、保護団体さんって横のつながりが割と希薄なように思うんですよね。みなさんあんなにがんばっているんだから、もっと連携して動いて、最大限の効果を生めるようにすればもっといい方向に動くんじゃないのかな、と端から見ていて思ってしまうんです。
大西氏:
それについては私達も経験としてよく理解しています。私達だけが、広島でどんなにがんばっても、良い結果は生まれないんですね。
dpm:
生まれない……というよりは、より大きな成功が非常に難しいですよね。
大西氏:
はい。やはり横の連携というものはすごく大事なので、広島のほうでは少しずつではありますけれど、同じような活動をしている団体さんや、あるいは個人の方達と協力しながら、活動を進めていっているところです。そうじゃないと広島は変われないと思います。
dpm:
ほかの団体さんとは、例えばどういう協力体制を敷いてるんですか?
ピースワンコの場合は、例えば「犬猫みなしご救援隊」さんと協力体制を敷いているんですが、救援隊さんは猫を得意としている団体さんなんですね。一方ウチはご存じのように犬を得意としている団体です。
dpm:
あ、なるほど。
大西氏:
私どもが保護した猫に関しては、費用をお支払いして救援隊さんにお預けする。また、猫のTNR活動*にも協力します。逆に、救援隊さんが保護した犬で「これはちょっと難しいかも」と思ったものは、ピースワンコがお引き取りする。そういう連携ができています。また、一緒に啓発活動イベントを開催したりもしました。
※TNR活動:T=トラップ(Trap)、N=ニューター(Neuter)、R=リターン(Return)。罠で捕まえて避妊去勢手術をして、元いた場所に戻すという地域猫活動。平成9年(1997年)に横浜市磯子区で始まった。
dpm:
団体同士がお互いの強みを生かした連携としては理想的に思えますね。
大西氏:
あと個人ボランティアさんなんかでも、例えば愛護センターから引き取りをしたい犬がいるんだけども、自分のところはもう限界で迎えられない……などといった場合、依頼を受けて引き出すこともあります。ピースワンコで1回預かって、健康状態などを確認して基本的なトレーニングをして、そのあとで、その方に里親募集をしてもらうという協力や、飼育費用の募金を募っていただいたり。
dpm:
さらりとしゃべっていますが、結構すごいですね。……しかし、それだけの活動をする原資は一体どこから?
個人の方のご寄付だったり、ワンだふるサポーターだったりといろいろあるんですが、最近一番効果が大きかったのは、やはり「ふるさと納税」でしょうか。大変助かっています。寄付をしてくださった方に感謝しております。
dpm:
あの制度は、初めて見たときにいい意味で「これはやられた」と思いました。自分の税金が、言うならば「ほぼ全額が犬のために使われる」ことが保証されているわけで、これほど心地よく納税できることはほかにはあまりないですね(笑)。
大西氏:
そうなんです。寄付となるとやはり個人の方の“持ち出し”になりますので、なかなか難しいことも多いと思うのですが、ふるさと納税は、税金の一部をこちらに回していただくという制度なので負担がほとんどなく、共感を得られやすいのだと思います。「ふるさとチョイス」というサイトでも大きく掲載していただいて、驚くほど支援が広がりました。
dpm:
いろいろやってらっしゃいますね、さすがに。
大西氏:
あと最近は「ワンだふるファミリー」という新しい制度も作りました。これは、終生ピースワンコで過ごしていくであろうという老犬や、病気のある子達を支援していただく、バーチャル里親のようなものです。
dpm:
あのページ拝見したんですが、犬一頭一頭についている紹介文を読んでるとちょっと悲しい気持ちになってきます……。いまここに来てるチワワも、あのページに入ってるんですね。
大西氏:
はい。彼は10歳くらいなんですが、飼い主から引き取りました。犬を先に飼っていて、その後お子さんが生まれて犬アレルギーが出て喘息がひどくなったという理由です。気が強くて咬むので、誰でも触れるわけではなく、ウチのスタッフの一人(先日の記事に登場した安部さん)だけはお世話ができるんですが、ほかの人ではちょっと難しく、年齢も年齢だし里親さんを見つけるのは難しいと思いました。
犬を飼いたいと思ってる方の意識改革をしたい
dpm:
しかしピースワンコさんくらいの規模があってヒューマンリソース(=人的資源)もあるのであれば、犬を引き出して里親を探すであったり、終生飼育するであったり、そういうレイヤーから一歩上に進んだりはしないものなんでしょうか。
大西氏:
とおっしゃいますと……?
dpm:
これは、決して失礼な意図がある質問ではないのでそのように聞いていただきたいんですが、里親募集であったり保護センターからの引き出しであったり、そういう活動をしている団体さんや個人さんは本当にすごいと思います。私にはできないことだし、頭が下がる思いでいっぱいです。でもそれって「あふれた水をすくってる」わけであって、未来につながる、抜本的な状況の解決にはならないのではないか、と。
皆さん、やってらっしゃる活動はとても素晴らしいことなのに、いまのままだと最後は単なる消耗戦になって、「犬のために何かしたい」と強く思って実際に活動している、意識の高い人から順番に疲弊して脱落していくという、誰のためにも大変よろしくない状況だと思ってるんです。
大西氏:
そうです。まさにそうなんです。そこなんです。
例えばこうやって、GREEN DOGさんと一緒にやらせていただいているのも、「これからの犬の飼い方」や、ペットの犬達を取り巻く環境そのものを変えていかないといけないと思っているからです。ペットショップなどでの販売規制などもそうですし、例えばブリーダーのちゃんとした“認定化”であったり、あともちろん、犬を飼いたいと思っている方々の意識改革ーー犬を飼う覚悟、迎え入れる選択肢の1つとして保護犬を考えること、それも合わせてどうにかしなくてはならないと思っています。
dpm:
やはりそういう方向にも向き合ってるんですね。
大西氏:
犬を取り巻く環境の話になるとやはり“ドイツ”なんですが、ドイツのいいところを見て、それをアレンジして日本に当てはめて……ということをやっていきたいですね。法律に関しても、例えば免許制度などに関しても、やはり日本に合うやり方があると思うんですよね。それを模索しながらのアクションになると思います。
dpm:
ドイツは確かに犬を取り巻く環境が素晴らしいですが、そのままは持ってこれませんしね。
大西氏:
そうですね。なのでまずはこういうアンテナ的な場所を作って、実際に保護犬に会える場所を作るのは、まずは一番効果的かな、と思います。
dpm:
しかもこんなに明るくてキレイな場所で。
大西氏:
やはりみなさん保護犬を迎え入れたくても「愛護センターにもらいに行くのが怖い」と言う方も少なくないんですね。薄暗い悲惨なイメージというものもあるかもしれませんが、やはりその犬の素性も分からないですし、健康状態も分からないです。そもそも人に慣れているのかどうかも分からないですし……。
dpm:
そしてそれを乗り越えてもらってきても、あまりに苦労してまた捨てられるということにもなりかねませんよね。
大西氏:
ええ。それは本当によくないことなので、やはり私達のような団体が間に入ってワンクッション挟むことも大事なんじゃないかな、と。それで出来ることならば、保護センターのようなものはその役目を終えて、私達が目指しているそういう施設が日本各地に出来てくれば、殺処分そのものをなくせるんじゃないかな、と思っています。
dpm:
そうはおっしゃいますが、ピースワンコさんがここまで来るには、相当な努力の蓄積があるのでは。
大西氏:
もちろんです。私達が、今までいろんな模索やさまざまな仕組み作りをしてきているわけですが、自治体であるとかほかの団体さんとかが、いいと思うところがあればぜひ真似をしていただいて、さらに改善してより良い仕組みにしたいと思っています。もちろん、ノウハウは全部お伝えします。
dpm:
……それはすごい。
大西氏:
いろんな団体さんや個人さん、また行政なども含めてみんなが願う「殺処分ゼロ」は、私達だけが成功すればいいものではないですし、そもそもそれだけじゃどうにもならないものなんです。皆さんに“成功”してもらわないとならないんです。
ですので「そのやり方じゃダメだ」「こっちのほうがもっと効果があった」など、もっとみんなで切磋琢磨してやっていけたらいいな、と思います。
dpm:
団体さんが集まって話をするサミットみたいなものはないんですか?
大西氏:
それやりたいですよね! ホントやりたいです。
dpm:
日本全国の団体さんが集まってやるわけにはいかないでしょうから、せめて「各都道府県代表」みたいな大きいところだけでも、そういう場があればいろいろと前に進むこともありそうに思うんです。
大西氏:
広島では、今年の秋の動物愛護週間に「広島動物フェスティバル」というものを開催して、私達団体とか、愛護センターの所長さんとか、県の職員の方とか、そういう方達が一堂に集まってシンポジウムをやったんですよ。なんとか広島を殺処分ゼロにしたいということで。
dpm:
“動物愛護”っていうと、一般の方から見たら正直なところちょっと「暗いイメージ」があると思うんですよね。なのでそういう官民一体で、何かを変えていければいいですね。
そうなんですよね……現実は厳しいツラいこともありますが、そのイメージを変えたいです。ピースワンコのWebサイトを見ていただければ分かるんですが、ピースワンコのメインカラーをスカイブルーにしているのも、そういう理由です。
神石高原町(じんせきこうげんちょう)の空がホントに素晴らしく青くて、そこで走り回っている犬達は全然不幸じゃないんです。なんらかの理由で不幸になった犬達ですが、全然表情が“可哀想”じゃないんです。そういうモノをいろいろ含めて、できる限り明るくやっていきたいですね。
dpm:
ドイツのティアハイムも、割と明るい感じの施設だと聞いたことがあります。
大西氏:
はい。どこへ行っても明るくて暖かい感じですし、なにより気軽に行けるんですね。そういう雰囲気がいいなぁ、と思います。犬を飼う気がなくて行ってもいいんです。ちょっと触ってみたいとか、子供に初めて犬を見せたいとか、そういうときに使われたりもしています。犬って怖くないんだとか仲良くなる術など、そういうことを学べる施設でもあるんですね。そういうものをまずは目指していきたいです。
dpm:
今後のさらなる活躍に期待しています。お忙しいところありがとうございました。
ピースワンコ・ジャパン公式サイト
ピースウィンズ・ジャパン公式サイト
犬を救うということ。犬を譲渡するということ(1)ーーーピースワンコ・ジャパンが語る、犬の保護譲渡活動
*2014年12月10日収録*