ただ、1時間を超えたインタビューを文字にしたらあまりにも長かったので、読みやすさを考えて3分割して掲載することにした。本記事は、その1回目にあたる。ピースワンコ・ジャパンという日本最大級の犬の保護団体が、何を考えて何を目指して活動しているのかを隅々まで聞くことができたので、ぜひともお読みいただきたい。
犬を救うということ。犬を譲渡するということ(2)ーーーピースワンコ・ジャパンが語る、犬の保護譲渡活動
犬を救うということ。犬を譲渡するということ(3)ーーーピースワンコ・ジャパンが語る、犬の保護譲渡活動
ピースワンコ・ジャパン公式サイト
ピースウィンズ・ジャパン公式サイト
GREEN DOG湘南 店舗公式サイト
dogplus.me(以下、dpm):
ちょうど前回(2014年12月10日)お話をお聞きしてから2か月が経ちましたが、保護犬譲渡活動はどんな感じですか?(編注:取材日は2015年2月9日)
ピースワンコ・ジャパン プロジェクトリーダー 大西純子氏(以下、大西氏):
昨年12月12日にオープンしまして、今日現在で9頭が“卒業”していきました。さらに、今日時点で新しいご家族が決まっている子も2頭いてお迎えを待っているだけです。
dpm:
じゃあ実質11頭が新しい家庭犬として巣立っていったわけですね。……普通はそんなにテンポよく決まるものなんですか? しかも年末年始を挟んだこの状況で。
大西氏:
冬場であるばかりか年末年始ですし、そもそも犬を飼おうとする方が少ない時期なんですよね。ペットショップさんなんかだと、クリスマスであるとかお年玉であるとか、そういうことで動くことが多いようではあるんですが。
dpm:
お年玉とかクリスマスって……。
大西氏:
シーズンならではの「特売セール」みたいなものもありますし。とはいえ保護犬はそういう風に動くものではないので、やはり一番出づらい時期ではあるんです。春とか秋になると「犬が飼いたいな」と思う方も増えて譲渡数が伸びる傾向とかもあります。
dpm:
春とか秋っていうのは、生活環境の変化とかが関係してるんですか?
大西氏:
気候だと思いますよ。
dpm:
気候……ですか?
はい。あったかくなってきたから、犬を連れて散歩がしたいなぁとか、行楽シーズンだし犬を連れてどこか行きたいなぁ、とか。またはそういう姿を見て自分もああいう風になりたいと思うのかもしれませんし、たぶんそういう感覚だと思います。
dpm:
あぁなるほど。意外にプリミティブな欲求なんですね。
大西氏:
そうですね(笑)。なにせ夏は暑いから散歩はツラいし、冬は寒いから散歩はツラいし、たぶんそういう環境的要因もあって譲渡数は落ちるんです。
dpm:
しかしそれにも関わらず、ここのピースワンコでは実質11頭が決まった、と。
大西氏:
そうなんです。この季節にこれだけの頭数が出ているというのは、結構すごいことです。
dpm:
要因はなんだと思われます?
大西氏:
実際に来てくださったお客様とお話をすると、まず保護犬に対する意識が非常に高いことに驚かされます。「次に犬を迎えるなら保護犬だと決めている」とか「以前も保護犬を迎えたので、次もまた保護犬を迎えたいと思っている」とか、そういう方がーーそうですね、例えばピースワンコの本拠地である広島なんかに比べると、圧倒的に多いです。子犬ではなく、性格も決まっていて、社会化もできている成犬のほうがいいという人が多いことに、私も驚いています。
dpm:
この成果は、やはりほかではあまり出ない数字なんでしょうか。
大西氏:
広島市の譲渡センターが開設したときには、これは4月にオープンして大変時期も良かったおかげもあって、1か月で15頭を送り出したという記録はありますね。
dpm:
15頭!
大西氏:
時期もよかったですし、広島県内のすべてのメディアが記事として取り上げてくださいました。民間のNPOがショッピングモールに譲渡センターを開設した、と。
dpm:
そういえばここの譲渡センターは、ほかのメディアの記事になりました?
大西氏:
それが、dogplus.meと朝日新聞の湘南エリア版だけなんですよ。
dpm:
えええ……。大変将来性のある試みだと思うんですけど……。
大西氏:
まぁでもそれは、ここ湘南T-SITEのプロモーション施策によるところもあって、あまり積極的にパブリシティ活動をしていないのか、横浜あたりまで含めたこの近辺の方で、そもそもこの湘南T-SITEのことを知らない方というのも結構いらっしゃるようなんですね。
dpm:
なんというもったいない。メディアデーには、あれだけの数のメディアが来ていたのに。
大西氏:
そうですよね。もっと湘南T-SITEそのものを広めてもいいと思うんです。
保護犬譲渡は、杓子定規なルールで物事を決めないことが大事
dpm:
……でも逆に考えると、あまり知られていないというその状況で、年末年始を挟んだ冬という時期に11頭もの成果を出したというのは、やはりすごくないですか? みなさんが保護犬に積極的だという理由以外にも、何か思いつきませんか。
大西氏:
そもそも神奈川県には多くの保護団体さんがいらっしゃって、みなさんがとてもがんばっていらっしゃる地域だと思います。その状況で、あとから入ってきた私達の犬がこれだけ出て行くというのは、私達が保護犬を保護するだけではなく、その子達の健康状態を良い状態にして、さらに社会化であるとかしつけであるとか、さらに個体によってはトレーニングを入れている子もいます。犬を「いい状態」にしているといいますか。そういう部分も少しはあるのかな? と。
dpm:
あぁなるほど。
大西氏:
ですのでみなさんが最初にここに来ておっしゃってくださるのは「おとなしいんですね」「いい子なんですね」とかで、まずみなさんは驚かれるんです。
dpm:
「落ち着いてますね」とか
大西氏:
ええ。迎えてくださった飼い主さんが、今後の生活に困らないような状態にして、さらに私達も、迎えていただいたあとで適切なアドバイスをさせていただいたりとかアフターフォローまでやらせていただくことにしてるんです。そういうことも、キチンとお伝えしますし。
dpm:
言葉が誤解を招きそうですがあえて言うならば、ビジネスで言うところの「いい商品」を仕上げて「いいお客」に買っていただくわけですしね。いえ、もちろん利益目的の金銭授受はありませんが。
大西氏:
はい、そうです。保護犬活動とはいえそういう観点は基本だと思うんです。
dpm:
そこはまったく同意です。
大西氏:
あと、私はいま単身赴任(笑)でここにいるんですが、借りている賃貸マンションも、もちろんペット可のところを借りているんです。それで、保護犬だったり自分の犬を連れて帰り、よく散歩させて道で会う人達とお話させていただくんですが、「実は自分も保護犬を迎えたかった」という人が結構いらっしゃるんですね。
dpm:
「迎えたかった」と言っているということは今は違うんだと思いますが、それはなぜ保護犬を迎えなかったんでしょうか。
大西氏:
その飼い主さんの年齢が高齢なのでダメだとか、留守番の時間が長いとか、そういう理由で愛護センターや保護団体さんに断られてしまうそうなんです。だから仕方なくショップで子犬を買うという……。
dpm:
あー……なるほど。確かに飼い主の条件に厳しいところも多いと聞きますね。でもそれって、言い方が難しいんですが「もったいない」感じもしますよね。もちろん、一度不幸になった犬をさらに不幸にするわけにはいきませんから、ある程度キッチリと条件を付けてフィルタリングすることは非常に大事なことだとは思いますが、そんなに厳しい条件ばかりを出して、広げるべき門を狭くしても誰もハッピーになれないのでは。
大西氏:
そうなんですよ。もちろん、今回里子に出した11頭のご家族のみなさんの中にも、多くの保護団体さんが理想とする「40〜50代のご夫婦で、小さい子供がいなくて、お母さんが専業主婦で、犬を飼ったことがある」というような方もいらっしゃいます。
dpm:
ということは「そうじゃない」方もいらっしゃるんですね。
大西氏:
例えば、「70代男性のお一人暮らし」には、7歳の非常に落ち着いた柴犬を譲渡しました。「60代半ばを超えたご夫婦お二人」には、ある程度ゆっくりのんびり暮らしたいとのことで、5歳の子をもらっていただいたりとか。
dpm:
一般的な保護団体の事前チェックからすると、かなり融通を効かせている感じですね。
飼い主の年齢が高いからダメだとか、お留守番の時間が長いからダメだとか、単にそういう理由で決めるものじゃないと思うんです。例えばレストランのオーナーシェフの方なんかは、確かに「お留守番の時間」は長いんですが、その店はランチをやっていないので夕方まで時間がある方だったんですね。もちろん夜はお忙しいので、夕方から夜まではお留守番の時間になってしまう、と。
dpm:
あ、なんか分かりました。
大西氏:
ええ。昼間明るいうちにしっかり犬と過ごして遊んでもらって、夜になったら犬はもう寝てるという生活になるわけです。なので問題はないだろうということで、その方にももらっていただいたりとか。
dpm:
杓子定規な数字やルールの話をするのではなく、飼い主や犬が置かれるであろう状況そのものを重視するわけですね。
大西氏:
保護犬をもらいたいという方がいたら、その方のライフスタイルにマッチした犬をセレクトして紹介することが大事だと思うんです。あと、ご自宅も訪問して拝見します。ご自宅というよりは「周りの環境」ですね。お隣さんは犬が嫌いじゃないかとか、散歩がキチンとできる場所であるかとか。あとは以前飼ってらっしゃったような場合は、どの動物病院にかかっていたかを聞いて、その病院について調べます。
譲渡した保護犬に“万が一”のことがあったら、再度引き取ります
dpm:
病院って当たり外れ大きいですしね……。
大西氏:
それは否定できません。以前通っていたという病院があまりによろしくない場合には、「こっちのほうがいいかもしれません」というオススメもします。私達としても、やはりもらわれていくからにはいい病院にかかってほしいと思いますし。
dpm:
そのあたりは相当念入りに考えて判断しているということなんですね。
大西氏:
そうですね。例えば保護犬がまだ子犬で、これから人と密接な関係を築き上げていくことが必要で、しつけが大事で、トレーニングが大事で……というような場合は、私達もやはり理想的な飼い主さんを探すことになると思います。
dpm:
それはそうですよね。犬にとってそれが最善ですし。
大西氏:
はい。でもそうではなくて、私達のところである程度のトレーニングが出来ていたり、あるいは以前誰かに飼われていてちょっと年齢がいっているような犬の場合であれば、それ相応の見合った飼い主さんがいると思うんですよね。例えば「高齢者には高齢犬」という場合などもそうですが、そのほうがペースが合っていいんですよね。
dpm:
私の身の周りのお年寄りからも、犬を飼いたいけどもうこの歳だから(=自分が先にいなくなってしまうかもしれないから)残念だけど諦めている、という話をよく聞くんですね。たぶんショップでパピーを買ってくることを念頭に言っているんだと思いますが、そういう人もぜひ保護犬を迎えてほしいですよね。
大西氏:
その問題は意外に大きくて、「もし自分に何かあったときに可哀想だから」というので本人も気が引けてしまいますし、そういうリスクを抱えることになるので、多くの保護団体さんも「お年寄りには申し訳ないけどお渡しできない」という立場を取っているんだと思います。
dpm:
その部分についてピースワンコはどうお考えなんですか?
大西氏:
まず後見人を立てていただきます。その方が飼えなくなった場合に、どなたか別な方に飼っていただくようにしておくわけです。名前と住所もちゃんといただきます。
dpm:
なるほど、最初から決められているんですね。
大西氏:
はい。でもこれはお年寄りの場合に限りません。どんなご家族の場合でも、いただくことになっています。何が起こるかは誰にも分かりませんから。
dpm:
引き受け時に書いた後見人の方の事情が変わって、引き取りが無理になってしまう可能性もあると思うんですが、その場合はどうなるんでしょうか。
大西氏:
そのときは「引き取り」という形で、もう一度私達に戻してもらいます。
dpm:
一度譲渡した保護犬を、もう一度引き受けるということですか?
大西氏:
はい、再度引き取ります。引き取った子が、もう一度家族を探せるようであればまた探しますし、もしそうではなく、だいぶ高齢犬なので次を探すのは厳しいかな……と思ったら、私達の広島のシェルターで、のんびりと余生を暮らしてもらいます。
dpm:
……なんというか、すごいですね。そこまでやっているとは、正直思っていませんでした。保護/譲渡した犬に対する責任の取り方が徹底してますね。
大西氏:
でも高齢者の方に保護犬をお譲りすると、大変丁寧にかわいがって愛情を持って育ててくれるばかりか、その方自身も元気になっていくのが一番嬉しいですね。
dpm:
確かにそれはありますね。アニマルセラピーは日本ではあまり市民権がないですが、犬を飼ってるお年寄りが元気なのを見ると、そういう効果はやはり少なからずあるんだろうと思います。
大西氏:
そうですよね。朝起きて「散歩に行かなきゃ」って思ったり、フードがなくなったら「早く買いに行かなきゃ」って思ったり。
dpm:
生活に“フレームワーク”が出来るんですよね。やらねばならないことが出来るのはいいことだと思うんです。
大西氏:
「犬との会話」もできるし、笑顔も増えるし、きっとそれは長生きにもつながると思うんです。犬も、人も。
引き渡したらハイおしまい、にはしたくない
dpm:
先ほど病院を紹介することもあるとおっしゃってましたが、例えばこの湘南T-SITE近辺でもらわれていった保護犬も、聞けばいい病院を紹介してくれるんでしょうか。
大西氏:
しますよ、もちろん。
小犬も成犬もシニアも、分け隔てなく最良の形を目指して保護活動が遂行されていく。小犬の譲渡が決まりやすいのは全国共通だが、成犬もシニアも決まっていくのが、ピースワンコ・ジャパンの特徴だ |
意図的にすごく悪意に満ちた物言いをするんですが、その病院に行くことによって、ピースワンコは何か“メリット”が生じるんでしょうか。
大西氏:
何もないですよ(笑)。ピースワンコからもらわれていった保護犬だということが分かれば、割引サービスを受けられるので、飼い主さんにとってはメリットがあるとは思いますが。……あえて私達にメリットがあるとすると、その提携病院からは「○○ちゃん来ましたよ。元気そうでしたよ」みたいな軽いフィードバックが、私達のほうに寄せられることでしょうか。
dpm:
なるほど。ピースワンコならではの「責任の取り方」の一環ですね。
大西氏:
ワクチンはちゃんと打ってますよ、狂犬病注射もしてますよ、フィラリアの薬も出しましたよ、すごく飼い主さんを信頼して幸せそうに元気にやってますよ……そういう情報です。私達はそれがすごく知りたいんです。もらわれていった犬が幸せでやっているのかどうか。でもそれを一人一人に確認して回るわけにもいきませんし、そんなことされても困るでしょうし。ですので、いい近況報告のネットワークを持つために動物病院を紹介することにしているんです。
dpm:
飼い主のプライベートに踏み込んでいくわけでもなく、手間をかけさせるわけでもなく、割といい手法に思えますね、確かに。
大西氏:
病院からの情報は確かに嬉しいのですが、ピースワンコの譲渡施設はこういう雰囲気なので、みなさん気軽に遊びに連れてきてくれることも多いんです。譲渡後が分かるという意味では、それが一番嬉しいですね。
dpm:
確かにここなら「ちょっと久々に連れて行ってみよう」という気になります。
大西氏:
「あなたホントにちゃんと飼ってますか?」って監視するようなことはしたくないですし、もちろん飼い主さんだって望んでいないと思います。でも私達はやはり、もらわれていった子の近況がとても気になるんです。なので遊びに来てくれるのは本当に嬉しいですね。
dpm:
こういう明るい雰囲気だと、ふらっと立ち寄って世間話なんかもしやすそうですしね。
大西氏:
はい。「いまこういうことでちょっと困ってるんです」みたいなことも聞きやすい環境にしようと心がけています。どんな些細なことでも聞いてほしいですね。
dpm:
職員の方には申し訳ないですが、愛護センターに遊びに行く気にはなれませんしね……。広島もまったく同じ手法ですよね?
大西氏:
もちろんです。広島には広大なドッグランもありますし、ピースワンコから譲渡された場合はドッグランの回数券もサービスで付いてきますから、ぜひそれを使って遊びに来ていただきたいですね。私達も、ピースワンコの犬を通じて飼い主さんと“お友達”になりたいんです。
dpm:
引き渡してハイ終わり、というわけではなく。
大西氏:
ええ。長くお付き合いするだけでなく、一度ピースワンコの犬をもらってそれを愛情を持って育てていただいて、最後には笑って見送っていただいて、そしてまたピースワンコの犬をもらおう、と思ってもらいたいんです。
dpm:
おっしゃることはとてもよく分かります。でも早くそういう状況がなくなるのが一番いいですけどね……。
大西氏:
保護施設なんかないほうがいいですからね(笑)。
以下、次回(2)へ
ーー2015年2月9日収録