ピースワンコ・ジャパンという日本最大級の犬の保護団体が、何を考えて何を目指して活動しているのかを隅々まで聞くことができたので、ぜひともお読みいただきたい。
犬を救うということ。犬を譲渡するということ(1)ーーーピースワンコ・ジャパンが語る、犬の保護譲渡活動
犬を救うということ。犬を譲渡するということ(2)ーーーピースワンコ・ジャパンが語る、犬の保護譲渡活動
ピースワンコ・ジャパン公式サイト
ピースウィンズ・ジャパン公式サイト
GREEN DOG湘南 店舗公式サイト
「どうせ犬だろ?」という考えの人には譲れない
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dogplus.me(以下、dpm):
ではちょっと変な質問ですが「こういう人にだけは絶対に犬を渡せない」というものって何かありますか? 「これだけは譲れない」みたいなポイントといいますか。
ピースワンコ・ジャパン プロジェクトリーダー 大西純子氏(以下、大西氏):
「これだけは」ですか。……難しいですね。
dpm:
いままでのお話を聞いてる限り、少なくとも条件的な部分ではそういうものはなさそうではありますが。
大西氏:
そうですね。条件のようなもので「これだけは譲れない」というものはないんですが、お話をさせていただく中で、「どうせ犬だし」みたいな雰囲気を感じ取ったら、それはもう絶対にダメですね。
dpm:
……いやちょっと待ってください。そんな人がわざわざここに保護犬を引き取りにくるんですか?
大西氏:
いるんですよ、それが。ごくまれに。その「どうせ犬だし」みたいなものがまだ根強く残っているから、日本という国においては犬の扱いの問題がーー猫でもそうですが動物全般ですねーーなかなか解決しないんだろうなぁ、というのは実感します。
dpm:
では一般論の話ですが、例えばよく言われる「外飼いはNG」とかはどうでしょう。
大西氏:
絶対にNGというわけじゃないですよ。もちろん昔ながらの小さい犬小屋を置いて鎖でつないで、雨の日も風の日も一人でそこに……みたいな飼い方は絶対にNGですけど、例えば広島なんかみたいな田舎のほうですと、広い庭があって納屋があって、すごく長いワイヤーにつながった犬がそこで自由に動き回って遊べて、雨風をしのげる屋根や納屋があるという感じですし。そういう場合は、外飼いに向いている犬をお勧めします。
dpm:
まぁでもさすがに、このへんじゃちょっと厳しそうではありますね。
大西氏:
結局大事なのは「人と接する時間」なんですよね。外飼いとはいっても、毎日畑に連れていってそのへん自由にさせておくとか、仕事場が自分の敷地の中にあって犬もいつも一緒にいられるとか、そういう場合であれば外飼いでもなんら問題ないと思います。
dpm:
ともあれ、一概に杓子定規に「外飼いNG」というわけではない、と。
大西氏:
はい。いくら外飼いじゃないとはいっても、一日中家の中に閉じ込められて散歩もロクに行かず、運動不足なうえにストレスを溜めて……とかでは、まったく犬にとってよくない状況なわけですし。
dpm:
そりゃそうですよね。外が見えて匂いがかげて日なたぼっこできるだけ、犬小屋のほうがまだマシじゃないかとさえ思えてきます。
大西氏:
例えば昼間はずっと外だけど、家の人が帰ってきたら一緒に家の中に……とかでもいいと思うんです。その人のライフスタイルに合った形で、犬にとっても人にとってもいい環境を保てるのであれば、私達はそれに合わせてアドバイスさせていただきます。
dpm:
多頭飼いになる場合とかってどうなんでしょうか。なんか質問ばっかりですみません。
大西氏:
私自身が5頭の多頭飼いで、4頭の先住犬のところに1頭の保護犬を迎えたわけなんですが、やはり犬は犬に学ぶところが大きいんです。なのでそこは「善し悪しです」としか言いようがなくて、(犬同士の)相性が合えば最高の環境になりますし、合わなかったときはどちらにもストレスになってしまいます。
dpm:
先住犬とお見合いとかもさせるわけですよね。
はい。先住犬がいる場合は、まず先住犬をここに連れてきて、このリビングの中で会わせます。この部屋は、先住犬にとってもここにいる保護犬の子達にとっても「自分のテリトリー」ではない場所なので、お互いがアウェーな状況で会ってもらうわけです。ここで遊んで、一緒に散歩に行って、ドッグランに行って……。
dpm:
それで問題がなさそうな場合は?
大西氏:
次は、先住犬のホームグラウンドーーつまり飼い主さんの家ですねーーに、保護犬を連れていきます。先住犬のテリトリーの中にお邪魔するわけです。その場所でお互いがどういう反応をするかを観察します。それも問題なければ次はトライアルで、1週間くらい一緒に生活してもらって、そこで最後の相性チェックをします。
dpm:
ちゃんと段階を追ってくれるんですね。その段階を経て決まった子っていますか?
大西氏:
いますよ。先住犬がいるご家庭に行けた子もちゃんといます。
dpm:
そこまでちゃんとやってくれるのはいいですね。ビフォーもアフターも万全。やはり先住犬がいる場合は、それがすごく気になりますし。
保護犬をもらってくれる人の「キャパシティ」を広げるということ
大西氏:
でも、例えば私のところに来た保護犬はすごくビビりの子なんですが、先住犬達と一緒にいるときは、ごく普通の元気のいい犬ですよ。ボーダーコリーを追っかけ回すような。
dpm:
……それでビビりなんですか?
大西氏:
はい、すごく(笑)。最初は泡吹いてたくらいですから。時間をかけて私にだけはなついてくれましたけど。元々、兄弟犬3頭とダンボールに入れられてテープでしっかり梱包されて、私達の町(広島の神石高原町)に箱ごと遺棄されてたんです。
dpm:
なんという……。それはどういう経緯でピースワンコに?
実は、たまたま私がその横を車で通りがかったんです。「あぁまた誰か箱捨てたのね」と思って気にもしないで通り過ぎて、通り過ぎたあとでなんの気なしにバックミラーを見たら、子犬が箱の隙間から頭を出したんです。ぴょこんって。
「うわっ」と思って慌てて引き返して箱をしげしげ見たら、自分達でガジガジしたであろう穴があいてて、たまたまそこから顔を出したようなんですね。もちろん、そのままシェルターに連れて帰りました。
dpm:
大変な運の良さですね。しかし、まだそんなことってあるんですね。
大西氏:
はい。当時3か月くらいだったんですけど、そんな経験をしてるせいかみんなビビりの性格で、部屋に入れても3匹で集まってうずくまってお互いの体に顔をうずめて、絶対に顔を見せてくれませんでした。ご飯も、人が見ていると絶対に食べなかったですし、すごく手がかかった子達です。
dpm:
3匹とも同じような性格だったんですか?
大西氏:
2匹はまだちょっとだけ状態が良くて、人の手からご飯をもらったりできるようになったんですが、私のところに来た一匹だけはどうしてもそれが出来なくて。おやつは絶対手からもらわないし、部屋の中では一番隅っこで動かずにうずくまるだけで「構わないで」というオーラを出してるし……。これはダメだと思って、3匹を引き離して1匹だけウチに連れて帰ってきました。
dpm:
「先住犬のいる環境」ですね。
大西氏:
ええ。この先住犬というのがまたみんながみんな「犬が大好き」で、群れのルールもちゃんと分かっているので、そのビビりの子が来たときも、みんなでいたわってくれたんです。その子が隅っこで丸まってうずくまってたら、その横に寄り添って寝てあげたり、その子がご飯とかを食べているときは絶対に邪魔しないとか、外に出したらみんな遊ぼう遊ぼう誘ってくれたりとか……。
dpm:
犬にはやっぱりちゃんと何かが分かるんですね。
大西氏:
犬が犬に何かを教えるということは偉大で効果も高く、私達人間がどんなに頑張ってもやはり限界はあるんだな、ということを思い知りましたね。彼ら先住犬のおかげで、いまではパッと見では「普通の飼い犬」に見えるようになりました(笑)。ですので、先住犬がいても、相性が合うならむしろ嬉しいですね。きっと犬にとっても幸せな日々になるはずです。
dpm:
なるほど。ともあれ、ピースワンコはあまり厳格な選定基準はないということですね。
大西氏:
そういう表現が正しいと思います。もちろんあるにはありますが、それよりは、飼い主さんがちゃんと犬を飼えるように、私達も協力させていただきたい、という気持ちのほうが大きいです。
dpm:
誤解を招く表現かもしれませんが、「犬の飼い方を指導する」ことまでしてくれる、ということですね。
大西氏:
「これこれこういう理由でダメです」ではなくて「こういう風にすればもっと楽しい犬との生活が送れますよ」ということをお伝えしていきたいんです。保護犬というのは日本全国で相当な数がいるわけで、やはりもらってくれる方の“キャパシティ”を広げていかないと、問題が解決できないだろうと思うわけです。
dpm:
いやまったく同意です。門を狭くしてどうするのだろう、という。
大西氏:
そうやって厳しい条件を課されて、せっかく気持ちがあったのに断られたような人がペットショップに駆け込んで年端のいかない小犬を買ってるようでは、一体なんのために活動しているのかさえ分からなくなってきてしまうわけで。
dpm:
ではその気持ちがある人は、ピースワンコから犬を譲り受けようとした場合には、何かシートを書いたり申し込み書を書いたり予約票を書いたりーー言葉がちょっと分からないんですがーーをする必要はありますか?
大西氏:
ないですよ。何もないです。普通にふらっと立ち寄っていただければ大丈夫です。いろいろ私達とお話をしている中で、思うところがあれば決めていただければ。単に「犬が触りたい」「犬を見たい」だけでも全然問題ありません。それはそれで、この犬達にとってとてもいい社会化の経験になりますし。子供さんでもお年寄りでも大丈夫です。
dpm:
事前準備がいらないのはいいですね。あれって結構精神的ハードルになると思うんです。
犬を救ったつもりが、実は犬に救われる
大西氏:
そうやってふらっと来た人の中で、女の子が一人います。いままで犬を飼ったことがなくて、お父さんにずっと飼いたい飼いたいとお願いしてたけどずっと許してもらえなくて。「じゃあお散歩ボランティアにおいでよ」ってボランティア登録をさせたんですね。飼うのは難しいかもしれないけど、犬が好きならお散歩ボランティアで接することができるし、と思って。
dpm:
ええ。
大西氏:
そうやってお散歩したり遊んだりしているうちに、一頭の犬をとても気にいって。ちょうど冬休みだったこともあって、本当に文字どおり毎日彼女はその犬を迎えに来て散歩に行って遊んで。ある日なんか気が付いたら犬舎の中で二人で寝てました(笑)。それほどまでに“近い距離”になってたんですね。
dpm:
犬はちゃんと分かりますからねえ。
大西氏:
これはあとからお父さんに聞いたんですけど、その女の子はちょうど思春期に差し掛かってて難しい年齢だったので、親子関係がギクシャクしたり不登校になったり、いろいろな問題があったらしいんですね。私達にとっては、すごく素直でいい子だったんですけど。それである日「やっぱりお父さんにもう1回頼んでみます」って言って頼んだらしいんですが、犬を飼う、しかも保護犬を飼う、となって、親子の会話がすごく増えた、と。昔の仲が良かったころに戻った、と。
dpm:
なんか素直にいい話ですね。犬がかすがいに。
大西氏:
その犬がその子にもらわれていってずいぶん経ってから、ある日お父さんだけが来て「ずっとお礼が言いたかったんです」と言って、ひとしきり教えてくれました。もらわれていってからずっと、毎週末はその犬とお父さんと娘で、毎回出かけてると言ってました。
dpm:
犬を通じてそういうことが起こると、自分のことじゃなくても嬉しいですねえ。
大西氏:
保護犬ーーに限らないですけどーーを通じて、やっぱり人間も救われるんだなぁ、って。表向きは「犬を救った」はずなんですが、結局救われたのは人間だったという。
dpm:
それはなんかすごく分かります……。犬に何かを「与えてる」と思ったことはありませんが、犬からは実にいろんなものを与えられてますよね、自分達が。
大西氏:
そうなんですよね。
ピースワンコが解散するのが最終目標
dpm:
そんな立派な活動を大規模にしてしているピースワンコ・ジャパンですが、究極の理想から言うならば、保護犬がゼロになってピースワンコが解散するのがベストですよね。
大西氏:
そうです。そこはまったくそのとおりです。我々のやることがもう何もなくなった、という状態が、一刻も早く来てほしいです。
dpm:
そこに向けて、このあとはどんなステップで活動を進めていこうと思ってますか。
大西氏:
とりあえず……私達のもっとも身近な問題は「広島県の殺処分をゼロにする」、すなわち広島県の処分機を“止める”ということです。処分機を動かさないように、私達の収容キャパを上げて犬を引き出して、その引き出した子達を譲渡するという部分の強化が、まず一番身近な目標としてあります。
dpm:
長期的目標としては?
大西氏:
もちろん保護犬問題は広島だけの問題ではないので、広島で成功した事例を、全国に伝播させていくということでしょうか。私達は、単独で活動しているわけではなく、広島県という自治体、神石高原町という自治体を巻き込んで活動を進めているわけです。この問題を解決するのは、個々の団体だけが自力で頑張るのではなくて、行政の協力も絶対に必要ですし、一般市民の皆さんの協力も必要です。その“三位一体”のモデルを全国に伝播させて、ほかの地域でも、同じように殺処分ゼロを実現してほしいと思っています。
dpm:
その伝播のためにはどんなアクションを考えているんでしょうか。
大西氏:
あらゆる協力をします。自分達がいままで失敗しながら積み上げてきたノウハウはすべてをお教えしたいと思っていますし、例えば資金援助といった形での“後方支援”であるとか、技術支援であるとか、そういう部分まで広げていくつもりです。
dpm:
そこまでやってくれるのは結構すごいですね……。
大西氏:
例えば今、三重県からオファーが来ていまして、2017年には三重県にピースワンコの支部ができる予定です。
dpm:
なんと! “三重支店”ですね。それは行政側からオファーが来たんですか?
大西氏:
そうです。
dpm:
どうやって……うまく“巻き込んだ”んでしょうか。なんか言葉が悪いですが(笑)。
大西氏:
ええと……(笑)。すごく端的に言うと、ハッキリとまず申し上げるんです。「そこは行政には無理ですよね?」と。実際無理なんです。無理なんだから、民間に委託しちゃうのが一番楽ですよ? と。委託してくれれば、私達はこれだけのことをやりますよ、と。
dpm:
なんというか、すごくシンプルなネゴなんですね。
大西氏:
はい、とてもシンプルです。腹の探り合いをしても仕方ないですし(笑)。例えば神石高原町の場合は、もちろん自治体の規模が小さいというのもあるんですが、今までは県の愛護センターの「定時定点回収」の車が来たら、シルバー人材センターで雇われたおじいちゃん達が、犬猫を受け取って荷物として積んで去っていくという……そういうことをやっていたわけです。あと行政に「犬引き取ってよ」と電話が来たら、はいはいと言って引き取りに行って……。
dpm:
なんか聞いてるだけで切ないです。
和犬やミックスの飼育放棄は多い。お年寄りが飼っていた個体が持ち込まれたのか、逃げてしまったものを放置したのか、吠える声がうるさいから捨てられてしまったのか……(写真提供:アルシャー京子氏) |
それでその引き取り希望の犬猫は、たいがいお年寄りが飼っていた動物で、飼い主が入院しなきゃいけないとか、施設に入らなきゃいけないとか、または亡くなってしまったとか。
「このままじゃこういう動物の引き取り案件はどんどん増えていくんだろうなぁ」と行政サイドもぼんやりと考えて悩んでいたところに、私達が「それは全部こっちでやりますよ」と。それと、引き取るだけでなく、再び誰かに譲渡できるのであればそうしましょうよ、と。
dpm:
それだけで動いてくれるものなんでしょうか。
大西氏:
「この街から殺処分ゼロを目指そう」っていうスローガン的な意味合いも大きいですね。人口1万人の過疎地で、高齢化率44%。これといって目を見張る産業もなく、これからこの街はどうなっていくんだろう……という状態ですから。だったら、犬連れの人が遊びに来たいと思える場所にしましょうとか、犬と生活したい人が移住したいと思える場所にしようとか、観光政策と移住政策の両方が、犬を通じて絡んでいるんですね。
dpm:
単に保護施設を作ろう、っていうだけの話だったら通るのはきっと難しいですもんね。
大西氏:
ええ。単に「とにかく保護したい」という話ではなく、行政にとってのメリットをちゃんと提示しているわけです。例えば小さいことかもしれませんが、私達の保護施設を作るにあたって、若い子達が20人くらい移住してきたりとか、ドッグランがあるので犬連れの人が遊びに来てお金を落としてくれるとか。または私達が犬とのライフスタイルを提案することによって、犬連れの方が移住してくる……そういう提案も込みなんですね。
dpm:
双方理想的でいいですね。作れ作れ、やらせろやらせろ言うだけじゃ……ね。
大西氏:
そうですね。行政にとっても魅力的な政策を提案しないと、うまく進まないと思うんです。三重県の場合も小さな自治体がオファー主なんですが、そこも神石高原町と同じような問題を抱えているんです。これから、地域再生というものを考えていくにあたって、過疎地ーー限界集落といってもいいですがーーになってしまっているところは、日本全国に山のようにあるので、そこに広島のような保護施設を作って政策を打って、犬連れの人が楽しく遊べるような場所を構築するというのは、まだまだ必要とされていて、実行可能性も高いんじゃないかな、と思うんです。
dpm:
そういう場所だと施設コストも安く済むのがいいですしね。行政も企業も、メリットがあれば動いてくれると思うんですよね。その魅力的なメリットを提示できるかどうか、という部分が重要なのであって、単に「やってやって」「作って作って」「お金ちょうだい」じゃ、動くものも動かないといいますか。
大西氏:
そうなんです。このGREEN DOGの場合でも、私達が犬を外から見える位置に置くことで、なんとなくふらりと入りやすくなったりですとか、ここの卒業犬達が、この店の顧客に変わるですとか、そういうメリットもあると思うんですよね。
dpm:
なるほど、確かにそうですね。GREEN DOG的にも、息の長いお客さんが増えやすくなるのかもしれませんね。
……長いことお時間をいただきありがとうございました。ポリシーなどを含め、いろいろなことを聞くことができました。行政をも巻き込んで活動をしているピースワンコ・ジャパンですが、今後も良い意味での“ビジネス的視点”を持って、犬のために、ひいては犬を取り巻く環境のために、ますますのご活躍を期待しています。ありがとうございました。
ーー2015年2月9日収録