全国93店舗(2015年10月28日時点)の生体販売専門であるペッツファーストが行っている、「保護犬譲渡活動」について聞くインタビューの2回目。1時間半を超えたインタビューを文字に起こしたらとても長くなってしまったので2分割して掲載しているが、本記事はその後編にあたる。
犬を取り巻く諸々の環境の中で、真っ先に非難されがちなポジションにいる生体販売ショップは、何を考えて、何を目指して、保護犬譲渡活動をしているのだろうか。
前回の繰り返しとなるが、ペッツファーストの主軸事業である「生体販売」の是否や手法を巡る論争は、ペット業界にとって解決の糸口のつかみづらい“深く打ち込まれたくさび”のような問題であるわけだが、今回のインタビューではそこにはフォーカスしていない。
生体販売に関わる議論と保護犬譲渡活動は、本質的には一気通貫でつながった問題ではあるが、解決を目指すのであれば切り分けて議論されるべき問題だし、そもそも問題はそこだけではない(飼い主側にも問題があるのは明白だ)。今回は、営利目的の株式会社が行っている保護犬譲渡活動という視点に絞った話題を展開しているので、そのあたりはどうかご了承いただきたい。
生体販売ショップが行う「保護犬譲渡活動」の形(1)ーーペッツファーストの保護犬譲渡プロジェクトについて、根掘り葉掘り聞いてみよう
ペッツファースト公式サイト
「そんなことをするなら、子犬の一頭でも入れてさっさと売るべきだ」
dogplus.me編集部(以下、dpm)
譲渡活動についてお聞きする前に……繰り返しになりますが、事実上生体販売のみでビジネスをしている会社が保護犬の譲渡活動をするというのは、やはりどういう意味合いであっても「とても変わったこと」だと思うんです。
立岩直子氏(以下、立岩氏):
“変わったこと”というか、ここまでやっているのは今までなかったと思います。取り組みの結果として売り場のスペースを1つ潰すことになるので、「そんなことをするなら、子犬の一頭でも入れてさっさと売るべきだ」というのが一般的な解釈になろうかと思います。
dpm:
生体販売で重要なのはスペース効率でしょうしね。なので素直に不思議です。
立岩氏:
動愛法もこれだけ移り変わっていく中で、捨て犬を減らす/殺処分をなくすという意味において、自分達が出来ることはなんだろう、というのは常に考えていました。最終的には、保健所から殺処分されてしまうであろう犬を引き出してきて、キチンとケアをして自分達のお店ーーーそこには、犬を欲しがっているたくさんのお客様がいらっしゃるわけですーーーに並べてあげれば、いいんじゃないだろうか、と。
dpm:
発想はとてもシンプルですね。
立岩氏:
実はお客様にとってもこれは割と重要で、いままでどおり子犬の飼い主になるというパターンと、ある程度年齢を重ねた保護犬の飼い主になるというパターンと、“犬を飼う”という部分において二通りのアプローチができます。
dpm:
実際に始める前に懸念などはなかったんでしょうか。
立岩氏:
もちろんありました。おそらくご想像のとおりかと思いますが、保護犬を置くことによって子犬の売り上げが下がるんじゃないだろうか、と考えなかったといったら嘘になります。しかし実際には、子犬の売り上げは下がりませんでした。
dpm:
それはちょっと意外です。単純に経済効率だけを考えたら、一頭分の機会損失がありそうですけど。
立岩氏:
確かにそうですよね。でも実際に落ちてないんです。あとは、こんなこと言うのもちょっとおこがましいですが、この活動によって、お客様から信頼であったり信用であったり、そういうものを得られたとも思うんです。つまり保護犬譲渡活動は、単に保護犬のためになるだけでなく、私達自身のためにもなっているわけです。
dpm:
売れ残った犬が保護犬と称して並べられてるんじゃないのか、みたいなこと言われませんか?
立岩氏:
言われます。同業の人にも、冗談半分で言われたりもします。でもここで明言しておきますが、一切そんなことはありません。
dpm:
実は私は最初にこの試みを聞いたとき、「自家繁殖でもう使えない犬を保護犬と称して並べてるんじゃないか」と邪推をしていたんですが、調べてみたら、御社は自家繁殖してないんですね。
立岩氏:
その視点はなかったですね(笑)。おっしゃるとおり、弊社は自家繁殖をしてないです。
dpm:
今日は先ほど下北沢店を拝見してからこちらに来たんですが、保護犬のスペースが割と大きく取られていて、ちょっとびっくりしました。
立岩氏:
ありがとうございます。お気付きかどうか分かりませんが、扱うレベルは同じなんですよ。
dpm:
レベル……というと?
立岩氏:
これは各店舗に徹底して伝えているんですが、保護犬だからといって、利益にならないからといって、絶対に違う扱いをするな、と。販売している生体と同じ健康管理をするように伝えています。
dpm:
なるほど、言われてみれば確かに同レベルでの扱いでしたね。
立岩氏:
そうです。「同じ扱いをちゃんとしなさい」と。また、保護犬用スペースに関しては、常にそこに保護犬がいるようにしなさい、とも伝えています。空いたからといって子犬を入れるようなことはするなと。
dpm:
保護犬がいない時期はどうするんですか?
立岩氏:
空き犬舎にしています。
dpm:
割と徹底してますね。
立岩氏:
それくらいの気持ちでやらせていただいてます。
dpm:
そこまでする理由はなんでしょう?
立岩氏:
単に、捨て犬をなくしたいその一心です。殺処分をゼロにしたいと言ってもいいですが。弊社のやり方でそれを実践しているのがこの試みです。
dpm:
しかし、御社のような生体販売の会社が捨てられる犬を増やしている、不幸な犬を増やしているという見方もできませんか?
立岩氏:
確かにそういうコメントもたくさんいただきます。しかし私達は、私達のやり方が、不幸な犬を一番減らせていると思っています。
dpm:
少なくとも信念を持って取り組んでいるわけですね。
立岩氏:
この問題って、相互理解が難しい問題だと思っているんですが、私達は現時点ではこのやり方を信じて、信念を持ってやっています。ほかの愛護団体さんを邪魔するつもりもないですしーーー実際していませんがーーー例えば可哀想なアピールを強く打ち出して、来店するお客様に保護犬が欲しくなるように仕向けて、数字を伸ばすようなこともいたしません。
dpm:
ともあれ、キチンと“プロジェクト”として動かしている感じは伝わってきます。
立岩氏:
もちろんやり方は暗中模索で、例えばこの譲渡条件でいいのかとか、譲渡後に様子をちゃんと見て、場合によっては譲渡した犬を再度回収することまで含めて考えたほうがよいのかとか、そういうこともキチンと考えていかないといけないとは思っています。
dpm:
再回収までやりますか。
立岩氏:
再飼育放棄は、私どもが一番避けたいので、譲渡契約をした弊社の責任でもあると考えています。
dpm:
でもさっき下北沢店でお話を聞いた感じだと、割と譲渡条件が「ぬるい」ですよね。あまり厳しくしない方針といいますか。そこはやはり「ハードルを上げて譲渡できない」よりも「まずは譲渡して殺処分に結びつく数を減らしたい」という、そういうことなんでしょうか。
立岩氏:
はい、そのとおりです。
dpm:
保護犬って多くの場合は子犬ではないので、スタッフも慣れてなくて大変そうですね。
立岩氏:
やはり、まだ新しい一般のスタッフなんかですと、「保護犬を置くと子犬の売り上げが下がりませんか」とか「鳴くのであまり心証がよくないと思う」とか心配しますね。なによりお客様に「症状の説明が難しい」というのもよく聞こえてきます。
dpm:
なるほど。健康状態が万全の保護犬はほとんどいないでしょうしね……。
しかし改めて説明するまでもありませんが、問題の根源は、売り上げとか鳴くことではありません。保護犬であっても、スタッフがちゃんとその犬を理解して、お客様にキチンと説明して、それを分かってくれる人であれば引き受けてくれるはずです。
繰り返しになりますが、私達は保護犬譲渡を真剣に取り組んでいますので、譲渡頭数もキチンと管理していますし、譲渡の伸びてない店舗に対してはキチンと怒ります。
dpm:
いまどれくらいの譲渡実績があるんでしたっけ。
立岩氏:
総数はどんどん変わるのでとっさに思い出せませんが、最近では平均して月に45〜50頭くらいの譲渡でしょうか(2015年10月28日時点での累計譲渡数は334頭となっていた)。譲渡活動は16店舗(インタビュー時点での数字。10月28日時点では20店舗)で展開しています。
dpm:
その16店舗は路面店ですよね?
立岩氏:
路面店と、一部の商業施設店舗でもやっています。本当は全店舗でやりたいんですけど……。いま弊社は年間2万頭の生体販売をしているのですが、それと同じくらいの保護犬を出せるようにがんばりなさい、と代表からも言われております。
dpm:
年間2万頭の譲渡というのはかなりのインパクトですねえ。
立岩氏:
2015年の年始に、今年の目標として社員に対して3つのことを挙げられたんですが、そのうち1つが「保護犬を月に100頭譲渡しなさい」でした。年始はまだ保健所から引き出すことができなかったんですけど。
dpm:
引き出せなかったのは、単に手続き的な問題ですか?
立岩氏:
それもありますが、“ご理解いただけていなかった”というのが一番の理由でしょうか。
dpm:
あぁなるほど……。というか、直接保健所から引き出してるんですね。
立岩氏:
はい。NPO法人「捨て犬ゼロ」という団体がありまして、これは実は社員の有志で立ち上げたものなんですね。
dpm:
それで御社のことを調べたときに、NPO法人の住所と御社の住所が同じだったんですね。
立岩氏:
ええ。捨て犬ゼロが引き出して、弊社の店舗に置かれます。それはもちろん保健所の方にはご説明差し上げてあるので、隠すようなことではないです。
dpm:
いろいろな諸問題をいったん脇に置いておくとして、それが「ご理解いただけなかった」理由もちょっと分からないですね……。引き出しておいて虐待したりするわけじゃないのに。もしかして「販売目的」とか「自家繁殖のタネにする」とか思われてるのかな?
立岩氏:
みなさんいろいろお考えなんだと思います。私達としては、着実に成果を積み重ねていって、信用してもらうよりほかありません。
dpm:
放っておいたら100%殺処分されてしまう保護犬を、確かに営利目的の株式会社かもしれませんが引き出して新しい飼い主を探してくれるというのに拒否するというのは、やはり相互理解の問題なのかもしれませんね。
立岩氏:
結局のところ「犬にとって何が幸せなのか」ということが最も大事なのであって、そこの部分で分かり合えないことがあるのは、想定の範囲内でした。私達の考えが「絶対に正しい」と言い張るつもりはないですし、他社さんや他のNPOさんのやり方を非難するわけでもありません。
dpm:
御社としては、たくさんの犬を引き出して、一頭でも多く新しい飼い主の元に譲渡するということを正しいと思ってやっている、とそういうことですね。
立岩氏:
まったくそのとおりです。
dpm:
個人的には生体販売ショップに言いたいことはいくらでもあるんですが、「保護犬譲渡します」と口だけで言うのではなく実践している部分については素直にすごいと思います。さっき聞いたんですが、下北沢店だけで、1か月で4頭の保護犬を譲渡したとか。
立岩氏:
はい、それくらいは出ると思います。
ありがたいことにたくさんのお客様にご来店いただくわけですが、この仕事は、お客様と生体の“接触回数”で、ある程度の販売頭数というのは読めてくるんですね。
dpm:
子犬が売れない店はお客が少ない、ということですか?
立岩氏:
そうなります。つまり、同じことが保護犬に対しても言えるんですよね。少なくとも私達はそう思っています。とはいえなにせ保護犬ですので、もしかしたら噛みやすい個体なんかもいるかもしれません。せっかく引き受けてくださったお客様を不幸な目に遭わせるわけにはいきませんので、そのあたりのリスク回避については今後の検討課題になると思います。
dpm:
今後の検討課題になる……ということは、いまのところ「事故」はないわけですね。
立岩氏:
はい、幸運にもいまのところありません。でも今後順調に譲渡頭数が増えていったら、そこは真剣に考慮して対応していくべき部分でしょうね。
dpm:
東京近郊というか、東日本はその「捨て犬ゼロ」さんがやっているようですが、関西方面では引き出しをしないんですか?
立岩氏:
いえ、ラブファイブさんという関西のNPOさんと一緒にやらせていただいております。
dpm:
あ、そうだったんですね。知らずに失礼しました。関西ということは、そちらはとくに御社の関係団体というわけではない?
立岩氏:
はい、一般のNPOさんです。弊社の考え方にご賛同いただけて、同じ方向を向いているということで、協力させていただいております。
保護犬専門の店舗の可能性も……?
dpm:
しかし保護犬譲渡を実際に店頭でやるにあたっては、いろんな苦労があるのでは。
立岩氏:
そうですね、なにしろいろんな犬がいますから……。引き出してみたら瀕死の重傷だったり、引き出してみたら妊娠してたりとか。
dpm:
妊娠してると、確かにちょっと困っちゃいますね……。
立岩氏:
コンディションがあまりにもさまざまなんです。
でもそこは、今後もっと勉強していかなくてはいけない部分です。私達は仕事柄、子犬の扱いにはとても慣れている自負があるんですが、保護犬は年齢も不詳ですし、病歴なども分からないことがほとんどなので。
dpm:
確かにそうですね。
立岩氏:
弊社の獣医師だけではなくて、近隣の獣医師さんにもいろいろとご協力いただいておりまして、引き出してきた保護犬が何かの病気なんだけどちょっと確定診断がくだせないような場合は、セカンドオピニオンを求めたりもしています。
dpm:
オペが必要だったりした場合はどうするんですか?
立岩氏:
もちろんしますよ。場合によってはそれを譲渡費用に乗せていますが、もちろんその場合は明細書のコピーを一緒にお見せして、ご納得いただくようにしています。
dpm:
さすがに利益は乗せないんですよね。
立岩氏:
もちろんそんなことはしません。お客様にご納得いただけることが重要ですから。
dpm:
「こんな犬だと譲渡しやすい」という傾向みたいなものってありますか?
立岩氏:
やはり小型で年齢の若い犬ですね。
dpm:
そこは同じなんですね。しかしこれ御社のサイトを見ていて思ったんですが、ほとんどが小型の純血種ばかりですよね。保護犬って私もよく各地の保健所のサイトなどを見ますが、中型で雑種とか大型犬とか結構多いと思うんです。ここには何か意図があるんではないかと勘ぐってしまうんですが。
立岩氏:
そこはちゃんと理由があるんです。大型犬ともなると犬舎を飛び越えてしまうので、まだ引き出しができないんです……。ですので、いまはまだ小型から中型くらいに限定せざるを得ないんです。中型も柴くらいが限界ですね。
dpm:
なるほど。純粋に物理的問題だったんですね。
立岩氏:
はい。大型犬とか超大型犬になると、店頭に置いておく場所がないんです。しようと思えば引き出しはできるんですが、お客様や犬に万が一のことがあってはいけませんから。
dpm:
では現時点では選んで引き出さざるを得ないわけですね。
立岩氏:
捨て犬ゼロが保健所に提出する譲渡条件の部分にも、そこはちゃんと書いてあります。個人的には、一刻も早く大型犬も引き出したいんですけどね……。
dpm:
予定はあるんですか?
立岩氏:
もちろんです。いずれは、中型から大型、超大型なんかも引き出して譲渡したいと思っています。しかし全店舗に大型犬用のケージを作るのはなかなか大変ですので、保護犬の専門店ーーー専門「店」っていうのもなんか変ですがーーーを作ることによって、引き出せるようにしようと思っています。
dpm:
保護犬専門! ……それは記事に書いてもいいものですか?
立岩氏:
はい。本当に検討していますし。ただ、開店まではいろいろな障壁もあるので、あくまでも検討段階であって実現されない可能性もあるということは明記しておいてください。
dpm:
了解です。しかし保護犬専門店、いいですねえ。
立岩氏:
その候補場所もすでに当たりをつけています。保護犬譲渡プロジェクト専任でスタッフを2名採用しているくらいには本気です。
dpm:
理由はどうあれ人が集まる場所に保護犬がいて、選択肢に加えてもらえるというのはとても理想的ですよね。譲渡会なんかはもちろんすごく大事なんですが、「そのために」人が来るのを待っているだけではないアプローチも必要だと思います。
立岩氏:
そうですね。譲渡会にもメリットはたくさんあるので、両方やっていくべきなんでしょうね。譲渡会なんかも、弊社が年に何回か企画して、顧客のみなさんにダイレクトメールなどでお知らせして、お店を場所貸ししてほかのNPOさんの犬も置いてもらって……みたいなことも考えているんですが。
dpm:
そうはいっても御社は生体販売の会社ですから、そういう部分でNPOさんの気持ちと相容れない部分も多いのでは。
立岩氏:
もちろんそういう部分はあるでしょうね。そこは否定いたしません。でもだからといって声高に主張してケンカするようなことはしませんし、意地でも説得してやろうと思って説明するようなこともしていません。……まぁこれは個人的な見解であって、会社の見解はもしかしたら違うかもしれませんが。
dpm:
行動を重ねていけば理解される?
立岩氏:
そこはどうなんでしょう。こればっかりは直接聞いてみないと分かりません。
dpm:
私も一人の愛犬家として、NPOの皆さんの気持ちはよく理解できるのですが、だからといってずっとお互いに敵認定して、行き来もやり取りもなく、結果として本来救われる犬が救われなくなってしまうということだけは避けたいと思っています。
立岩氏:
おっしゃることは分かります。
dpm:
同じ犬が同じ保護団体にずっといるとか、長いこといたあとで違う保護団体に移されていたりですとか、情が移った1頭を救うための努力をしている最中にほかの5頭が“処分”されてしまったりですとか、そういうのを見ていると、NPOの皆さんが大きな犠牲を払いながらとてもがんばっていることは理解しつつも、少しだけ切ない気持ちになることもあります。
立岩氏:
むろん私達は“生体販売会社”ではありますが、幸いにも弊社にはいろいろな新規事業があって、私としてはそこに絡めるようになったことで、いろいろな考え方を学んでいるところです。
保護犬譲渡で利益をあげて、それによってもっと多くの保護犬を
dpm:
御社は株式会社なので通常のNPOさんとは違う動き方もできるでしょうし、いっそ考え方を逆にして、保護犬譲渡でキチンと“売り上げ”を上げて、それによってもっと多くの保護犬を引き出して譲渡する……という方向はどうですか。
立岩氏:
ありだと思いますよ。保護犬譲渡によって収益が上がれば、もっと多くの保護犬を引き出しできますし、もっといい環境で展示して、いまより多くの新しい飼い主さんを見つけることはできると思います。
dpm:
ですよね。
立岩氏:
例えばこれを本当に赤字でやったりすると続けられないですし、結果として頭数も出せません。すなわち、救われる犬も減らないわけです。ですので弊社としては、そういう道は採りたくないと思っています。
dpm:
個人的には“保護犬譲渡活動は収益を上げるべき”だと思っているので、同意いただけて嬉しいのですが、とはいえその収益の上げ方は、正直難しいとも思っています。
立岩氏:
そうですね……。お客様に対して、やってもいない手術の代金を取ったり、「ワクチン代5万円です」とか言うわけにはいきませんからね。引き受けてくれる新しい飼い主さんがご納得いただける料金設定をしなくてはいけません。
dpm:
生体販売のみですから、ケージやフードなどで底上げを計るわけにもいかず、収益を上げる手段もなかなか難しそうです。
それにしても、調査によれば犬の数自体は年々微減しているわけですが、そんな中で御社は生体販売に特化させたこの路線を崩さないんでしょうか。ほかのショップみたいに、フードを売って、ケージを売って、リードを売って、ワンストップソリューションの商品展開をするとか。
立岩氏:
しないですね。なぜなら、まだまだ生体販売には改善の余地があると思っているからです。
dpm:
改善の余地……とは“ビジネス的な”意味ですか? まだまだ売り上げは伸ばせるんじゃないか、と。
立岩氏:
そうです。例えば、仕入れのときに今以上にもっと犬を検品して、よりよい子犬を提供できるようにならなくてはいけないとか、そのためにはもっと獣医師が必要だとか、お店に立って直接お客様と接するスタッフの教育はもっとレベルの高いものにしなくてはいけないとか、売ったあとのフォローについても、無償/有償を揃えていま以上に深いお付き合いをしたいですし……そういう諸々の部分が、改善の余地です。
dpm:
まだまだ発展途上である、と。
立岩氏:
いつも「これでいいのか」と考えてます。まだまだそのあたり含めて未成熟ですから、日々いつも自問自答ですね。売り方も質も、どちらも上げていかないといけません。
dpm:
御社が仕入れているブリーダーさんもそこは重要ですよね。
立岩氏:
もちろんです。私達も、ワクチン接種などでブリーダーさんを巡回してますが、健康で良い犬を作るために、ブリーダーさんと一緒になっていろいろ考えていきたいですね。管理方法や飼育方法、仕入れ内容など、いろいろ一緒に考えるべきことはあります。
dpm:
おや、巡回してるんですね。知らなかったです。
立岩氏:
しています。弊社の獣医師がワクチンを打ったり、ノミ/ダニの薬を処方したり……。もちろんそれによってブリーダーさんとの関係性をよくしたいという部分もありますが、最も重要なのは、それによって子犬の健康状態がよくなるということですね。私達のビジネスに直結する話なんです。
dpm:
直接メリットのあるアクションなわけですね。犬を仕入れてからの運用システムも特徴的だと聞いたことがあります。食品衛生管理と同じ手法を使ってるとかなんとか。
立岩氏:
HACCP(ハサップ:食品衛生管理の手法)ですね。もちろんHACCPの資格を取っているわけではないんですが、同じ手法と概念を採り入れて、(子犬の)品質管理センターを設計しています。
dpm:
具体的にはどんな部分が特徴的なんですか?
立岩氏:
子犬が一方通行でチェックされていくですとか、強制換気システムですとか、温度/湿度の管理ですとか。
dpm:
確かに食品っぽいですね……。
立岩氏:
まだまだ改善の余地はあるんですが、どんなお客様が来ても、見たいのであれば開放してお見せしています。恥ずべきところや、隠さないとならないようなところはありませんので。
dpm:
お,そうなんですね。ぜひあとで見せてください。
立岩氏:
よりよい子犬を販売するためのシステムは、何を基準にするのがいいんだろう、何が一番いいんだろうと考えたときに、HACCPが一番よいのではなかろうか、と判断しました。2008年の話ですね。
dpm:
保護犬も同じようにチェックされてるんですか?
立岩氏:
はい。とはいえ保護犬を優先することもありませんし、子犬を優先することもありません。もちろん、そのチェックに携わるのは、基本的に獣医師とVT(動物看護師)だけで、かつ子犬棟と保護犬棟のスタッフが相互に行き来することもありません。
dpm:
徹底してますね。
立岩氏:
でも多大なコストだけを払えばいいというものではないですよね。かといって、雑なチェックで譲渡スピードを上げて、受け入れてくれたお客様のところでトラブルを起こしてもダメですし。
dpm:
誰もハッピーにならないのが一番良くないですね。
立岩氏:
私達は私達なりに、捨て犬と殺処分の問題については真剣に考えているんです。
dpm:
私がここで言うまでもないですが、その問題については完全に「渦中の人」ですしね。
立岩氏:
そうですね。生体販売会社として、ペットビジネスのど真ん中にいるわけですし、私達のお店から犬を買っていただくことが、ペットライフのスタートになるわけです。ですので、捨てられてしまう犬の問題は、他人事ではなくて私達も考えるべきテーマですし、もっともっと真剣に向き合っていきたいな、と思うわけです。
dpm:
保護犬譲渡活動を法人組織がやるというのは、個人的には“かなりいい話”だと思ってるんです。企業の本質は営利目的ですから、継続性という意味ではやや信頼性に欠ける部分もありますが、でもまぁそういう部分を含めて、もっとペット業界は横にリンクすればいいのになぁ、と思ってやみません。
立岩氏:
ペッツファーストでは、そこを今後もがんばっていきたいと思っています。もっともっとたくさんのお客様に来ていただいて、もっと多くの保護犬を目にしてもらって、もっと多くの新しい飼い主さんを見つけたいですね。
dpm:
“株式会社”が行う保護犬譲渡活動として、キチンとした体制で長く続いていくことに期待しています。本日はありがとうございました。
ーーー2015年8月4日収録