2016年1月13〜15日まで、東京のビッグサイトで行われていた第2回ウェアラブルEXPO。これは「ウェアラブル端末の総合展」で、文字どおりITの最先端の技術がてんこ盛りで展示されているエキスポだ。
“ウェアラブル端末”と言われても……と思うかもしれないが、一般の人でも聞いたことがありそうなあたりでは「Apple Watch(アップル)」(腕時計型)、「Google Glass(グーグル)」「MOVERIO(セイコーエプソン)」(メガネ型)など、いわゆる近未来を感じられる、身に付けるデジタルデバイスの総称だ。
そしてこの会場では、前回に引き続き、犬猫用のウェアラブルデバイスを展示している会社が1社だけある。SF的近未来感漂う会場で、唯一犬と猫が鎮座していて、来場者(と報道陣)の憩いの場と化していたAnicallのブースだ(前回のレポートは「こちら」を参照)。前回に引き続き会場をくまなく回ったが、動物に特化したウェアラブル端末に手をつけているのは、今回もAnicallただ一社。ぜひともこのまま頑張っていただきたい。
Anicall公式サイト
なんと1000名に無料配布決定! Anicallの「つながるコル」で、愛犬を通じたコミュニケーションを
↑会場で流れていた説明用ムービー。これを見れば、どんな製品なのかがなんとなく理解できる
前回の記事を読んでいただけるとなんとなく分かるが、Anicallの開発している犬猫用のウェアラブル製品群は3種に分けられる。
まず最初が、動物SNS機能/迷子探索機能を主軸とした「つながるコル」。首輪タイプで装着する小さな機械で、スマホとリンクすることによって、動物SNS機能やすれ違い探索、迷子通知などが出来るようになる。
そして今回登場するのが、真打ち第一弾の「しらせるアム」。運動センサーによって犬のカラダの動きを微細なところまで解析して、そのときの“愛犬の気持ち”を伝えてくれるというものだ。これこそが、大昔に一世を風靡した“バウリンガル”の超ハイテク進化版だ(バウリンガルはなんと今でも売っているところがある)。
その次に予定されているのが、動物の体調を管理するための「みまもるヴォル」。これはまだちょっと先になりそうだが、今回すでに展示されていた(余談だが、これらのちょっと変わったネーミングは、すべて関係者のペットの名前が由来だ)。
今回のエキスポでメイン展示となっていたのは、第2弾製品である「しらせるアム」。昨年のウェアラブルEXPOのときに話を聞いて「まだかな、まだかな」と思っていたのだが、ようやく陽の目を見ることになったらしい。
「しらせるアム」が、猫にも対応してついに登場
この製品、実は昨年の時点での発売予定が「2015年6月」とのことだったので、軽く半年以上の遅れになっているわけだが、この点についてAnicallの代表取締役である塙 章(はなわ あきら)氏に聞いたところ
「いやあ、昨年発表させていただいたときに『こんな楽しそうな製品は、ぜひとも猫にも対応してほしい』という声がとても多くて。皆さんからそんなに求められているのであればじゃあやるか、ということで、新たに猫の行動データをひたすらに集めてました。それでこんなに遅れちゃったんです……」
とのこと。
ちょっとややこしい話になるが、この「しらせるアム」は、運動量センサーで動物の微弱な動きをキャッチし、それを行動パターンに当てはめることによって動物の気持ちを(スマホ上で)表現するという製品だ。「座った状態で」「ちょっと息づかいが荒くて」「尻尾を振っている」のであれば「ご機嫌!」「遊ぼう!」という意味になる、とかそういう感じだ。
このセンサーは、たぶん皆さんが想像しているより遥かに微細な動きをキャッチできる。昨今のスマホに搭載されている6軸センサーが搭載されているようで、移動方向、その向き、回転の方向、移動距離、移動の速度などが検出できるという優れものだ。
そしてセンサーでキャッチしたこれらの“動き”を犬の行動に結びつけることによって、それを「気持ち」という形に変換して飼い主に見せてくれる楽しいツールなわけだが、つまりこれ、「カラダの動き」を「動物の気持ち」に結びつけるという膨大な作業が必要になる。
尻尾の振り方はどうなのか、座った状態で振っているのか、立った状態で振っているのか、歩いているときは早足なのか、ゆっくりなのかなど、行動をすべて分解してその組み合わせと動物の気持ちを結びつけていく。
犬でやるだけでも「非常に大変で終わる気がしない」(2015年の塙社長談)とのことだったが、それの猫版を作っていたのであれば、半年の遅れは致し方ないこと。なにしろ、犬と猫は行動様式があまりにも違う。ゼロからのデータ収集になったわけだ。しかも、当初は「遊びたい」「散歩に行きたい」「トイレに行きたい」など20種類ほどの行動を検知できるだけだったが、いざ現物を見てみたら51種類もの行動がキャッチできるようになっていた。
昨年時点では「座っている」「立っている」などの単一行動だけを検知していたようだが、そこに大幅な改良を加えて、前述のように「座った状態で尻尾を振っている」などの複合的動きがキャッチできるようになった。それに伴って、表示できる“気持ち”も大幅に増えたということだ。
しかもこれらのデータはクラウド保存(=インターネット上のサーバーに保存)してくれるので、仮にスマホを買い換えても、例えば水濡れで壊して新しいものにしても、それまで保存したデータがなくなることはない。
超高機能だが、重さはわずか6g!
さらにこのツール、繰り返しになるが「とても微細な動き」をキャッチできるので、それを応用して「フードの好き嫌い」のようなものも判別できるようになっていた。食べている最中の口の動きなどから、「すごく好き」「そうでもない」「あんまり好きじゃない」みたいなものが(そんなにシンプルではないが)判断できるようになっているというわけだ。
食に“こだわり”のある小型犬や、食べ物にうるさい猫などと暮らす飼い主にとって、割と実用的な機能なのではないだろうか。会場で流れていた説明ムービーを見る限り、解析には20〜30秒かかるとのことで、我が家の黒ラブのように“一瞬”で食事が終わる犬だと解析が難しいかもしれないが……。
これほどまでのハイテクな装置だが、現物は長さ11cm×幅8.5mm×厚さ6mmで、重量はわずか6g。ここに、センサーと電池、充電用の端子(microUSB)が備えられている。前回の「つながるコル」は装置自体がやや大ぶりで、小型犬や猫に付けるのはちょっと抵抗があるな……と思っていたが、これならまったく問題なし。しかも首輪のように丸くして装着できるように、装置自体がケーブルでつながって5分割された構造になっている。写真にも載せたが、猫の首でもなんら問題はないので、一般的な犬であれば、ほぼ間違いなく付けられるだろう。
我々一般ユーザーがこれを購入できるようになるのは、現時点では2016年3月あたりが予定されている。予定価格は9000円(税別)程度とのことなので、普通に手が届く(筆者は買う気満々)。
なお余談だが、犬の行動パターンは、おそらく年齢によって変わってくるし、季節によっても変わるだろう。真夏にカラダが震えているのと、真冬にカラダが震えているのでは、おそらくはその示す意味は違う。そういう部分も含めて「今後どんどんデータを蓄積して、より正しい“気持ち”が表示できるようにしていきたいですね」(塙氏談)とのことなので、さらなる発展に期待したい。
みまもるヴォル
参考展示(とはいえほとんど製品版と同じ機能で仕上がっていた)かと思われるが、第3弾である「みまもるヴォル」も塙氏に見せてもらうことができた。“ウェアラブル”とは違うが、これもまた超ハイテクを動物用に使っているという、ワクワクする機械だ。
「そのへんの箱に無理矢理詰め込んだだけなので、あんまり写さないでください(笑)」と言って塙氏が出してきたのは、ヴォルの本体ともいえるバイタルセンサーユニット。マイクロ波を使って、動物の体に装着したり密着させたりする必要なく、離れた場所から心拍数と呼吸数を計れるという素晴らしい逸品だ。ちなみにこれ、体に向けてマイクロ波を照射して(無害です)、心臓や肺の動きでほんのわずかだけ振動する体の表面で反射するマイクロ波の変化から、心拍数や呼吸数を読み取るというシロモノだ。聞いてるだけでハイテク。マイクロ波なので、ドアや壁などの障害物越しの検知もできる。
本体は、製品版ではタバコの箱よりやや大きめの箱に収められるようで、それを部屋などに置いておけば、近くにいる動物の心拍数と呼吸数をずっと計測し続けられる。しかも、この本体から3mくらい離れても誤差10%ほどとのことで、たいがいの場合、部屋に置いておけばまったく問題なく計測し続けられる。これはすごい(おそらくは性能的にシャープ製のセンサモジュールかな?)。災害時に生存者探索で使われたり(これはいい用途)、戦争時に敵兵の捜索に使われたりするようになるらしい(これは悪い用途)“ハートビートセンサー”も、似たような構造だ。
高齢で健康に不安を抱える動物の見守りに、その名の通り使えるのはもちろんのこと、例えば人にまったく慣れていない保護犬や、病院に来ると攻撃的になる動物などの健康管理にも大変有効に使えるだろう(犬でも猫でも問題はない)。もっというと、人間のお年寄りなどの介護や見守りなどにもそのまま転用できると思う。
これもまたぜひとも早く製品化してほしい製品だ。可能であれば、犬猫の保護団体や動物病院などには割引き販売などしてくれたりすると、有効に使ってもらえていいかなぁ……と思ったり。