ドッグフードに使われているタンパク質源は、大なり小なりの違いはあるが、大体においては「チキン」「魚類(サーモンなど)」「ビーフ」「ラム」「鹿(ベニソン)」「馬」というあたりが有名どころだろうか。ポークなどもまれに見かけるが数は少なく、だいたい上記のもので収まると思う。凝ったフードともなると、カモやイノシシなどを使っていることもあるが、それはごく一部だし、希有なタンパク質源は、そのまま価格の上昇となってハネ返ってくる。
かつてアボリジニ(オーストラリアの先住民)の食料としてよく使われていたカンガルー肉は、現在では政府から許可を受けたハンターによって商業的なハンティングが行われている(誤解なきように追記しておくが、カンガルー科の動物は一般的には法令によって保護されており、種として増加していることが判明している一部のカンガルーのみ狩猟が行われている)。
ルー肉(カンガルーは「ルー」と呼ばれる)は、日本ではまだマイナーであまり知られていないが、ヨーロッパには大量に輸出されていて、人間の食用肉にもなっている。なにしろすべて野生で生きている個体を食用にしているわけで、残留農薬や成長促進剤などの影響なども考えられず、とても安全な肉だといえるだろう。さらに、その食用にもなっているレベルの肉をドッグフードとして転用しているわけで、つまりそれはとても良いクオリティが保証されているようなものだ。
そのルー肉を使ったフードとして一番大がかりに展開しているのが、ビィ・ナチュラルの「ルート」シリーズだ。パッケージを見れば分かるように数学の√(ルート)がデザインなわけだが、これは「ルーと」(ルーand)という意味であるようで、大きく4種類に分かれているフードは全部「ルー肉と何か」という組み合わせになっている。なるほどそういう意味なのかとちょっと感心(デザインもカンガルーのジャンプになっていて、地味に凝っている)。
ルートシリーズ公式サイト
4種のフードはどれもそれぞれ特徴的だが、中でも目を引くのが、基本フードだと思われる「ルート・ブレンド」と、野生のヤギ肉を使っている「ルート・ゴート」だ。
ルート・ブレンドは、使われている動物性タンパク質が「カンガルー」「ヤギ」「ターキー」「チキン」という組み合わせ。安心感のあるチキンに新奇タンパク質であるカンガルーとヤギの組み合わせとなっており、まずこれを基本としてローテーションを組み立てるのが良いかもしれない。
ルート・ゴートは、その名のとおりヤギ(ゴート)の肉を使っている。ヤギといっても「野生ヤギ」で、生きたまま捕獲されて食用肉として処理されるとのことだ(イスラム圏の人も食べられる肉なので、ハラールミートとしても大量に輸出されているらしい)。
カンガルー共々「野生」なので、農薬や成長剤などは一切使われていない安全な肉で、かつまずどこにも存在しないであろう、ドッグフードとしてレアな新奇タンパク質でもある。有名どころの動物性タンパク質にアレルギーを持っている犬でも、これなら安心かもしれない。ヤギ肉にはカルニチンがとても多く含まれているようなので、ウェイトコントロールをしたい犬にも良いかも?
……とここまで書けば、このフードの最も重要なポイントであるタンパク質について説明できたが、原材料表や成分表をしげしげ見ると、実は見えづらいところまでとても気を遣ってあることが分かる。「合成保存料/着色料/香料不使用」「ヒューマングレードの原材料使用」などのお約束といえる特徴以外にも、本製品ならではの特徴として「脂質」と「酸化防止」がある。
まず脂質。ルートシリーズは、ちゃんとした「亜麻仁油」を使っているのだ。
「亜麻仁なら一般的なフードでも使ってるじゃないか」と思うかもしれないが、「亜麻仁油」を使っているフードはそう多くないはずだ。おそらく一般的なフードで見かけるのは「亜麻仁」「亜麻種子」「亜麻仁粉」「亜麻仁ミール」などだと思う。
それら亜麻仁をそのまま使ったものよりも良いレベルのオメガ3脂肪酸を使えるばかりか(オメガ3脂肪酸は加熱で破壊されて酸化するので、超高圧をかけて作るドッグフードにおいては、オイルをそのまま使わないと事実上有効成分はほとんど残らない)、オイルの状態で使っているのでオメガ3脂肪酸含有量も必然的に増える傾向になる。含有量はルート・ブレンドで1.5%となっており、このレベルで入っているフードはそうそうない。普通は入っていても0.5%程度であることが多いはずだ。
なお脂質について触れたついでに書いておくと、「ルート・ターキー・ライト」の「脂質6.0%以上」は相当すごい。このレベルの少なさはまずないはずだ。これこそが“ライト”と呼ぶにふさわしいし、そもそも脂質がここまで低いと、胃腸がとても弱くてすぐおなかを壊す犬でも受け入れられるかもしれないので、困っている飼い主さんは1度試してみては。
そしてこれは言われないとまったく気づかないことだが、徹底した酸化防止がなされているのも大きな特徴だ。
普通のフードは、犬の嗜好性を高めるために(=食いつきをよくするために)匂いの強い油脂を製造過程の最後に大量に吹き付けてある。油脂が大量に吹き付けてあるということは、それだけ酸化も早いということで、それを防ぐために酸化防止剤も多く使う必要がある。
ルートシリーズは、それらを適量しか使っておらず(そもそもキャノーラ油や亜麻仁油、アボカドオイルなど高品質のオイルしか使っていないようだが)、それでいて新奇タンパク質が犬の嗜好性をそそるため、香り付けの油脂をほとんど吹き付けておらず、合成の酸化防止剤も使っていない。
普通こういうパッケージは窒素を充填させて、パッケージをアルミ袋にして酸素量を減らして酸化を防ぐというのが一般的だ。それなりの値段がするドッグフードのほとんどはそうしてるはずだ(そうしてないフードは、酸化防止剤がふんだんに使われているかもしれない)。
でも実は、この方法では半分程度の酸素しか追い出せないうえに、ひとたび封を切れば酸素は遠慮なく入り込んでくる。つまりその瞬間から酸化が始まる。
ルートシリーズは、アルミ袋で窒素を充填するだけでなく、脱酸素剤がパッケージ内に入っているのだ(お菓子の袋によく入っているあれだ)。人間の食品と同レベルの酸化防止策をとっているフードはほとんどなく、そういう見えづらいところにも気を遣っているのがなかなかすごい。
カンガルーとヤギという、単に「珍しいだけのタンパク質」ではない肉を中心に使っているばかりか(珍しいだけでさほど意味のない肉を、値段を上げるために使っているフードも多い)、パッケージングにも油脂にも徹底して気を遣っているフードが、このルートシリーズだ。
超大手メーカーの製品……というわけではないのであまり目立たないが、実は創業から15年以上が経っている老舗の会社で、フード作りもお手の物だ。老舗らしいこの製品の隠れた特徴として、1種の製品につき「小粒」「中粒」「パウダー」という3種類が揃っているということが挙げられる。どんな大きさの犬でも、どんなライフステージでも、キチンと対応できるというわけだ。
社長自らが常に新しい原材料を探し回っているという(ヤギも社長が見つけてきたものらしい)会社が作った「ルート」シリーズを、ぜひ一度手にとってみよう。公式サイトにはもっと細かい特徴が書いてあるので、そちらもぜひ一度読んでおくことをお勧めしたい。