鹿は、ヨーロッパなどでは古くから食用肉として狩猟によって捕獲されている野生動物の一種であり、その種類も、アカシカやノロジカ、ダマジカなどいろいろである。日本の鹿(学名:Cervus nippon)は生息地域によって、エゾシカ(学名:Cervus nippon yesoensis)やホンシュウジカ(学名:Cervus nippon centralis)など日本固有の亜種が生息し、また亜種同士の交雑も進んでいるため、これら亜種を明確に分類するのは困難とされる。
日本の鹿は明治時代に乱獲により絶滅の危機に瀕したが、その後の保護と猟師の減少により今度はその数が増えすぎている。農地開墾などによる餌場の減少も相まって、里や畑にエサを求めて出没するようになったり、林業に被害を及ぼしたり、現在は害獣として駆除の対象になっている。狩人により銃で撃たれた鹿の解体は、食肉の衛生を確保するために行政の指定する食肉解体場で行われる。野生の鹿は家畜とは異なり薬物投与による残留薬物の心配はまずないが、一方で生息する環境の汚染が鹿に影響することも考慮しておくのがよいだろう。
鹿肉の栄養価は、牛肉や鶏肉に比べてタンパク質含有量が22%と高く、また脂肪分も1-3%と肉類の中では極めて低い(しかもその半分は不飽和脂肪酸)。なによりも、鹿肉に含まれる鉄分の多さは6mg/100g(エゾシカ生肉)と肉類の中ではダントツで、牛レバーに含まれる鉄分4mg/100gよりも多く、鹿肉230gで体重10kgの犬の鉄分所要量14mg/日を補うことができる。また亜鉛も約4.2mg/100g(牛レバー:3.8mg/100g)と豊富である。
鹿肉は牛肉などにアレルギーを持つ犬への代替肉類として提供されることが多いが、鹿肉は牛肉と交差反応を起こす傾向があることが知られており、必ずしも牛肉などへのアレルギー対策になるとは言えない。1)しかしそのアレルギー性の程度は反応試験では分からないので、実際に鹿肉を食べてアレルギーを引き起こさないことも、またよくある事例である。
1)S. Spitzauer et al.: Characterization of allergens from deer: cross-reactivity with allergens from cow dander, Clinical & Experimental Allergy
Volume 27, Issue 2, pages 196?200, February 1997
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2222.1997.tb00693.x/abstract