私たちが日常的に食べている卵とは、特に鳥の種類が明記されていない限り、一般的にはキジ科ヤケイ属セキショクヤケイの家畜化された鳥(=鶏 学名:Gallus gallus domesticus)の卵のこと。卵(あるいは全卵)といわれるものは、殻を除いたすべての卵、つまり
卵黄(黄身)と
卵白(白身)の両方が合わさったもののことをいう。
卵はほかのほ乳類家畜とは異なり、宗教や文化によって制限されることなく文字通り世界中で食べられている動物性タンパク質である。生で食べたり調理したりするだけでなく、焼き菓子やマヨネーズなど多くの加工食品の原料としても広く使われるため、バタリー飼育など大型の養鶏方法によって大量生産されているものが市場のほとんどを占める。大型養鶏の採卵用の繁殖ラインから生まれたヒヨコは卵からかえってすぐに雌雄の選別がなされ、雌は採卵用に育てられ、雄はただちに二酸化炭素ガスなどを用いて屠畜され、
チキンミールなどに加工される。
バタリー飼育以外の養鶏法では平飼いと自然放牧がある。平飼いでは、ケージをなくし鶏が地面をつつけるような環境で飼養されているものの、屋内飼養であることも多く、必ずしも戸外の自然環境の中で飼養されていることを指すものではない。一方自然放牧では、鶏は必ず戸外の自然環境の中で飼養され、自然放牧で作られる卵はオーガニックか、あるいは日本では名古屋コーチンなど地鶏の卵だけであり、全市場規模からするとほんの一部に過ぎない。なお「こめたま」という卵がフードに使われていることがあるが、これは「後藤もみじ」という品種の国産鶏に国産米を飼料に混ぜて与えて採れる卵のこと。
生後21週齢を過ぎると、雌鶏の体は成熟し産卵が可能になる。雌鶏の体の中で卵子が育ち、卵黄と卵白が作られてひとつの卵として産み落とされるまで24時間かかるので、鶏は1日に最高1個の卵しか生めない。しかし日照時間によって鶏の体内活動時間が変わり産卵数が増えることから、養鶏場では採卵数を上げるために、夜間も人工的に鶏に照明を当てる。
大型養鶏により大量に流通する卵は通常無精卵(交尾なしで生まれ受精していない)卵である。卵の殻の色は品種によって異なり、遺伝的に決まっているものなので、イメージとして誤解されることも多いが、茶色いから自然放牧である、あるいは白いから大型養鶏であるなど、飼育状態によって色が変わることはなく、茶色いから栄養価が高い、白いから低いなど、色によって栄養価が変わることもない。
卵は、その約75%が水分である。次いで約13%がタンパク質、約11%が脂肪(
リノール酸やコレステロールなどを含む)で構成され、このほか
ナトリウムや
カリウム、
カルシウムなど合わせて約1%のミネラル分を含む。ビタミン類は、
Aや
Eなど脂溶性ビタミンと
パントテン酸や
B群などの水溶性ビタミンを含む。
ニンジンや
トウモロコシ、緑黄色野菜や草花を多く含む飼料を食べた鶏から生まれた卵は
カロチンを多めに含み、黄身がオレンジ色をしている。また
オメガ3系と呼ばれる
DHAなどの不飽和脂肪酸類やヨウ素も、飼料に混ぜて雌鶏に与えると、体に摂り込まれたあとに卵へと移行し、「DHA含有卵」や「ヨード卵」などが作られる。同じように、ダイオキシンのような環境汚染物質なども雌鶏の体を通じて卵に移行しやすいので、良質の卵選びに環境条件は欠かせない。
加工食品の原料として加工しやすいように、スプレードライ(噴霧乾燥)法などによって水分を飛ばして粉末にされた状態のものもあり、これらは全卵粉や乾燥全卵、卵パウダーなどと呼ばれる。