とろろうどんやとろろそば、麦とろ飯などとして食べられる「とろろ」は、ナガイモ(学名Dioscorea opposita)をすり下ろして粘りを出したもの。ナガイモは中国原産のヤマノイモ科の植物で、イモの名の通り、地下で根茎が太く長く育ったものである。別名チャイニーズ・ヤム、コリアン・ヤムとも呼ばれる熱帯地域で食べられるヤムイモの一種で、おなじくとろろに使われる日本原産の自然薯(じねんじょ、学名:Dioscorea japonica)とは同属別種の植物である。ナガイモと自然薯を一般的に「山芋」と呼び、それぞれ別な植物だ(写真はナガイモ)。
皮表面にはひげのような細い根が生え、切ると白い肉質が現れる。長いものでは数mもの長さにまで育つ。ナガイモは、約870種あるヤマノイモ科の植物の中で食用が可能な約60種のうちの一種で、ほかのヤマノイモがアルカロイドを含むために食べる前には加熱が必要なのに対し、ナガイモは自然薯とともに生で食べても毒性のない希な種である。約13%のデンプンを含むほか、約2%のタンパク質、カルシウム等を含み、自然薯はナガイモに比べ水分が少なく、ナガイモのほぼ2倍の栄養素を含む。すり下ろすと出てくる粘りの元はムチンという成分で、胃腸の粘膜や気管粘膜を保護する作用を持つ。
ナガイモの根茎は漢方では「山薬」という生薬としても用いられ、下痢止めや食欲増進、滋養強壮に効果がある。またナガイモに含まれる黄体ホルモンに似た植物性ホルモンのディオスゲニン(Diosgenin)は女性ホルモン製剤の原料にも使われている。