魚油にはオレイン酸(オメガ9系脂肪酸、オリーブ油の構成脂肪酸)のほか、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を代表とするオメガ3系不飽和脂肪酸が多く含まれる1)。EPAとDHAは、体内において細胞膜の構造の一部であり、DHAは特に神経細胞や網膜に多く存在し、本来EPAとDHAは体内に取り込まれたα-リノレン酸から酵素反応によって作られる。しかし加齢や疾患、ストレス、過剰なオメガ6系脂肪酸の摂取などにより影響を受けて減少しやすいため、食物と一緒に摂ることでそれを補うことができる。
オメガ3系不飽和脂肪酸は、血管壁を柔軟に保って血行をよくし、アレルギーなどへの抗炎症作用があることなどから、健康増進サプリメントとして近年注目を浴びている。特にヒトでは、魚油を多く含む魚食習慣によって心臓・循環器系の疾患リスクが低くなること、脳の正常な機能を保ち認知症予防に役立つことなどが確認されている。
犬では高齢の柴犬(とその雑種)に現れやすい痴呆(ボケ)症状の際、魚油を与えることで症状が改善されることが報告されており2)、日本土着の犬である柴犬(とその雑種)は古来からヒトと同じく魚中心の食生活がなされていたことが伺える。しかし、主食が昨今の肉類中心のフードに変わり、高齢化した犬の体内に魚油由来のオメガ3系不飽和脂肪酸が不足して脳機能が低下し、それによって痴呆症状が現れるのではないかと推測されている。
ほかの犬種であっても、アレルギーを含む皮膚疾患や関節炎、心疾患、腎疾患の治療などで魚油の摂取を勧められることが多い。しかし、疾患の治療の補助とするには通常ある程度の量を摂取する必要があるため、フードに加えられている量でそれが賄われるかは疑問である。
通常、搾取された魚油はその約30%をEPAとDHAが占めるが、不飽和脂肪酸の濃度は原料となる魚の種類により異なり、また濃縮加工を通して変わるため、フードに加工された魚油に含まれる不飽和脂肪酸の量は、メーカーが表示しない限り推測はできない。
なお不飽和脂肪酸は酸化し易い性質を持つことから、魚油中の不飽和脂肪酸濃度に関わらず、品質を保つために抗酸化物質(BHT、エトキシキン、ビタミンEなど使用目的と品質によって異なる)の添加が不可欠である。
ちなみに、魚油を噴霧乾燥(スプレードライ)加工したものは、フィッシュオイルパウダーと呼ばれる。魚油を粉状にするためには、魚油にデキストリンなどの加工デンプンと水を加えて混濁させた液を、高温乾燥機内で噴霧するという加工工程を経る。粉とはいえ厳密には小さな油滴の周辺を加工デンプンが取り巻いた状態にあり、いわゆる「マイクロカプセル」構造となっている。
1)五訂増補 日本食品標準成分表 脂肪酸組成表編 第1表「魚介類」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031801/003/009.pdf
2)内野富弥、平林美紀、福島隆治、良井朗子、石井克美、桐生啓治、松村浩明、澤田一彦(2000):エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)の痴呆犬に対する改善効果。MVM, 9(7),41-50.