成犬の体には体重1kg当たり1.21g(子犬では1.9g)のナトリウムが存在し、ほかのイオン(カリウム)と共に細胞内外の電位差を保つのに重要な役割を果たす。ナトリウムやカリウムにより生じる細胞内外の電位差は、神経伝達や心拍リズム、筋肉運動における活動の基盤であり、これなくして生命活動は存続できないと言ってよい。
健康な成犬の1日の所要量は、理想的には体重1kg当たり50mgのナトリウム(0.127gの食塩に相当、体重10kgの犬で1.27gの食塩)、最低でも体重1kg当たり30-40mgのナトリウム(食塩0.076gに相当、体重10kgの犬で0.7gの食塩)とされる。1)
ナトリウムの過剰摂取に関しては、新鮮な水がいつでも飲める状況であれば、犬は体重1kg当たり約1000mgのナトリウム(2.5gの食塩に相当)を許容することが出来る一方で、上記の必要最低量を極度に下回る塩分供給量が長く続くと体を維持することが難しくなり、多尿に伴う皮膚の乾燥や血量減少あるいはヘマトクリット値(血液中に占める血球の体積の割合を示す数値)の上昇などの脱水症状、体重減少、嚥下困難、神経過敏、舐め癖、スタミナ低下、心悸・呼吸数上昇といった欠乏症状が現れる。1)とくに下痢や嘔吐が続く状況では、体内のナトリウムが流出し不足するため、必ず水分や塩素などと一緒に電解質として補給しなければならない。
1)H. Meyer, J. Zentek: Ernährung des Hundes, 4., durchgesehene Auflage, Parey Buchverlag Berlin, 2001