リンは犬の体を構成するミネラルの中でも2番目に多いミネラルである。その約80%は骨中に蓄積されており、そのほかは細胞膜のリン脂質やエネルギーを作り出すATPの構成元素であるなど、リンなくして生命の維持活動は出来ないとも言える大事な主要ミネラルである。
食物中に含まれて体に摂り込まれたリンは、エネルギーを作り出す、あるいは骨格を構成する大事なミネラルだが、吸収や代謝についてはまだ解明されていない部分が多い。また、犬の食餌の中心となる肉類や穀類を通して体に必要な量を摂取することが出来るため、通常の食餌内容であれば特にその不足を気にすることはない。
リンの不足は骨中の貯蓄を放出することで回避されることから、犬においては欠乏症は希ではあるが、食餌中のリン量が少ないと食いつきに影響し、さらに長期で極度のリン不足が続くと成長阻害やクル病、骨軟化症など骨の形成に異常が現れる。一方、体内のリンの量はカルシウムに比べ制御がゆるく、過剰に摂取されて利用されなかったリンは尿中に排出される。しかし、長期にわたってリンの過剰摂取が続くと尿中のリン濃度が高くなり、犬によっては腎障害や結石の原因になる可能性がある。またリンの過剰摂取はハイパーアクティビティに繋がるのではないかと懸念されているが、これはまだ明らかではない。
ドッグフードは、フード中のリン含有量が分析値で示されているのでそこだけを見ると適量に思えるが、もしもおやつにジャーキーなどを与えるのであれば、合計してリンの摂取が過剰になりやすいので、リンがカルシウムの摂取量を超えぬよう注意が必要である。
添加物や非精白穀類(玄米や全粒小麦)の果皮に含まれるリン酸はカルシウムやマグネシウム、亜鉛、鉄、重金属などほかのミネラルと結合しやすく、これらのミネラルはリン酸と結合することで小腸からの吸収が妨げられ、一部は吸収されるが、その多くは便と一緒に排泄される。また、添加されたリン酸塩によりリンの過剰摂取に繋がることはその添加量からして考えにくく、犬の場合のリンの過剰はむしろ肉類の摂り過ぎから、そしてカルシウムとのアンバランスはカルシウム摂取量の少なさからによるところが大きい。