亜鉛(化学記号:Zn)は、犬の体重1kg当たり約85mg存在する元素である。そのほとんどが骨の中に存在するほか、眼球に入ってきた光を反射する輝板(タペタム:Tapetum、網膜に平行して存在)の色素、タンパク質の四次構造や生体膜の安定などさまざまな代謝に関与する金属酵素などの構成元素であり、細胞の活発な分裂は欠かせない。それだけに、この元素の供給が不足することにより、創傷の治癒に遅延が見られたり、ふけや痒みなどの皮膚変化のほか、コラーゲン合成や脂肪酸代謝、核酸代謝、抗体産生、精子形成などに障害をきたすことが知られている。
亜鉛を多く含む食物には、赤身肉や小麦胚芽、キノコ類、貝類などがあり、ドッグフードにおいては、亜鉛をキレート結合させたものが多く使われている。
健康な成犬の1日の亜鉛所要量は体重1kg当たり0.9mgとされ、長毛犬種の換毛期ではこれより多くの亜鉛が必要とされる。食物と共に体に摂り込まれた亜鉛は、同時に銅やカルシウムなどが摂取されると競合し、吸収に影響を受ける。また膵臓機能の低下によって亜鉛の体内代謝が低下するため、膵臓機能に障害がある場合にも亜鉛不足の症状が見られる。一方、犬の食物中の亜鉛の過剰摂取についてはこれまで報告がなく、むしろ亜鉛を含むコインや軟膏などの誤飲により、溶血や元気消失などの中毒症状を起こすことが知られている。