鉄は、人と同様、赤血球に含まれるヘモグロビンを構成する大事な元素だ。鉄は赤血球の中で、ポルフィリン環と呼ばれる有機化合物の真ん中に結合されることでヘモグロビンを作り、酸素を運ぶ。犬の体内に存在する鉄の3分の2はヘモグロビンとして赤血球中に、10分の1はミオグロビンとして筋肉中に存在する。酸素と結びついた鉄は酸化鉄になり赤色を示すことが、血の赤さ/筋肉の赤さの元になっている。
鉄の吸収は小腸で行われるが、その吸収性には鉄がどのような形の化合物であるかが大きく関与している。鉄元素単体では腸壁を通過することが難しいため、サプリメントやドッグフードなど鉄供給源にはタンパク質やアミノ酸と結合させたものなどが現在多く持ちいられている。鉄は、食材ではレバーや赤身肉など動物由来のもののほか、小麦糠など無精白穀類の果皮にも水溶性のリン酸鉄という形で多く含まれ、動物由来の鉄化合物と同じくらい有用である。
体に摂り込まれた過剰な鉄分は、肝臓やリンパ腺、脾臓、骨髄などに蓄積される。成犬の1日の鉄所要量は、多量の失血等がない限り体重1kg当たり1.4mg(鶏レバー約15gまたはオートミール約35gに相当)とされる。健康な犬では、その食性から鉄不足になることは希であるが、長毛で濃い毛色の犬では、毛に多く鉄分が含まれることから、換毛期には鉄分需要が上がる。
妊娠後期の母犬では、胎児の造血に鉄分を多く取られることから通常の約5倍量が必要とされ、母犬に十分な鉄供給がなされずまた体内の蓄積が少ないと生まれてくる子犬も鉄不足で貧血状態となる。鉄不足で生まれた子犬が母乳などから十分量の鉄を摂るのは難しく、さらに鉄不足が続くと、貧血や心臓肥大のほか感染症にかかりやすくなり虚弱になる。多量の失血のほか、寄生虫感染でも鉄不足に陥ることがある。
鉄の過剰摂取は腸壁に刺激を与えるほか、マンガンやリンなどほかのミネラル吸収に影響する。