食物栄養素としてはあまり馴染みがないけれど、銅は体に必要な微量元素の一つである。その3分の1が肝臓に存在し、色素合成や鉄分運搬/造血、エネルギー代謝、結合組織形成に必要な酵素の合成などに関与する。
銅の吸収は小腸で行われ、腸粘膜にある特別な運搬経路を通して細胞を通過して血液中へと運ばれるが、硫酸銅などの銅化合物はあまり吸収が良くないとされ、また高濃度のカルシウムや亜鉛、モリブデン、硫黄などと同時に摂取すると、銅の吸収は影響を受ける。
犬の1日の銅所要量は体重1kg当たり0.1mgと推測され、消化不良時や多量のミネラル類(カルシウムや鉄、亜鉛)との同時摂取、長毛犬種の換毛期、妊娠後期および授乳中の母犬ではその所要量は増す。銅が不足すると、鼻や目の周辺の退色が見られたり、貧血や軟骨形成が影響を受け、O脚あるいはX脚など骨格の歪みが現れることがある。
銅は本来胆汁中に排泄されるが、この代謝が滞ることで有名な銅代謝異常疾患に、銅起因性(蓄積性)肝炎がある。この疾患は年齢と共に肝臓に銅が蓄積され過ぎて肝臓組織が萎縮していく疾患で、ベドリントン・テリアやウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、スカイ・テリアなどに代表的に見られる遺伝疾患だが、ダルメシアンやドーベルマン、ラブラドール・レトリーバー、キースホンドなどでも報告されている。この疾患の遺伝子を持たない犬では、銅の過剰摂取・蓄積による肝臓組織への影響はほとんど考えられない。