パンや酒類の醗酵に欠かせない酵母(英名イースト、Yeast)は単細胞の微生物(真菌類=キノコやカビの仲間)で、出芽(しゅつが)という細胞分裂によってその数を増やしていく。酵母が周囲からエネルギーを吸収して代謝することで発生する二酸化炭素ガスによってパン生地は柔らかく膨らみ、また酒類の醗酵段階においては、原料に含まれる糖分を酵母が吸収代謝してアルコールを作り出す。パンやビールの製造に使われる酵母の代表サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は、古くから食品製造に使われてきた酵母である。
酵母抽出物とは、酵母自身が持つ消化酵素により自己融解して液状になったもの。酵母に約50-60%ほど含まれるタンパク質は消化酵素によりアミノ酸レベルにまで分解される。その中にはグルタミン酸も含まれ、肉のような旨味をもたらす。
酵母に含まれるタンパク質のうちの5-10%は核酸(ヌクレオチド)を含み、その中で最も価値のあるのはリボ核酸(リボヌクレオチド)だ。その含有量により、酵母抽出物の取引価格が異なると言われるほどである。核酸は活発に細胞分裂するが、ダルメシアンのような、遺伝的に尿酸結晶を作りやすい犬種に、核酸を多く含む酵母抽出物を与えることは、あまり勧められない。
酵母は、代謝産物のビタミンB群(ただしB12を除く)や抗酸化作用のあるグルタチオンを豊富に含み、合成のビタミン剤に代わって自然なビタミンB源として用いられるほか、多くのアミノ酸や微量元素の合成菌などとして、犬に有用な食品素材である。