いま現存するほとんどの犬種は、人間が、猟や牧畜など自分たちの生活により有益な性能にするために、あるいは自分たちの好みに合う容姿にするために、長い年月をかけて、何代も考えたうえで交配させて血統管理し、作り上げられてきた。かたや、FCI(国際畜犬連盟)やJKC(ジャパンケネルクラブ)の分類で、「スピッツ&プリミティブ」タイプというのがある。
さて、「スピッツ&プリミティブ」タイプのもうひとつ、「primitive」(プリミティブ)とは、「原始的な」「太古の」「初期の」「素朴な」という意味。人間が犬種改良したわけでなくて、大昔からその姿で存在している古いタイプの犬である。
たとえば、紀元前からいるとされるファラオ・ハウンドやイビザン・ハウンド。個性的な面構えと美しい肉体が魅惑的な犬だ。はたまたメキシカン・ヘアレス・ドッグ、ペルービアン・ヘアレス・ドッグといった毛のない犬はどういった起源で発生したのか、謎である。ペルービアン・ヘアレス・ドッグは中国から渡った説(よく似た小型の無毛犬、チャーニーズ・クレステッド・ドッグがいる)とアフリカ説もあるが、明らかになってはいない。タイ・リッジバック・ドッグもプリミティブに分類される。背中にリッジ(逆毛)があるのは、タイ原産のこの犬と、アフリカ原産のローデシアン・リッジバックしかいない。ローデシアン・リッジバックはFCIではセント・ハウンドに分類されているが、タイ・リッジバック・ドッグとは血縁関係がまったくないのか、いろいろ想像を膨らませたくなる。
とにかく、人間の欲望や都合に関係なく、誕生し、今なお昔の姿をとどめているプリミティブな犬達は、それぞれが個性的でユニーク。外貌はさまざまだが、共通点として言えることは、本来のイヌ科の哺乳類として、犬らしい性質を留めているということではないかと思う。人間と共生する道は選んだけれど、人間に迎合するつもりはない。一癖もふた癖もある犬達なので、トレーニングは容易ではない。また肉体的な性能も古典的。野性味あふれる動きをするし、タフである。一緒に過ごしてきた長い歴史の中においても、人間に飼いやすく改良された犬ではないので、それなりの覚悟と前知識の準備を持って選ぶことが必要。ほかの犬種にはない魅力と苦労がつまっている犬達だ。